案山子エッセイ

  「公開講演会に参加」

 過日、東京・世田谷にある成城大学で「日常学としての民俗学の゙提唱」と題する公開講演会があるのを知ったので参加した。副題は「柳田国男の世相編をどう読むか」というもので我が国民俗学の先達とも言うべき柳田国男の民俗学を中心にした講演であった。講師は東京大学名誉教授の岩本通弥氏である。会場にはおよそ80名ほどの聴講者があった。そのうち学生が約半数ほどで吾人を含めた後期高齢者が数名いた。あとは研究者と思われる聴講者が席を占めた。女性は8名ほどであった。
 
 聴講する気になったのは以前に柳田国男の「根の国の話」とか宮本常一の「土佐源氏」などを斜め読みしたことが背景にあった。しかし、それよりも齢80にして学生さんなど若い人たちと同じ空気を吸えることが魅力だった。民俗学を媒介にして学生時代以来の講義という雰囲気を味わうことが主眼であった。従ってレジュメに沿った講演内容にはなかなか理解に及ぶ箇所がない。当然である。吾人を除けばここにきている人の(恐らく)すべてが研究者なのである。だから門外漢の吾人が理解できなくとも何ら不思議ではない。

    それでも「日本における民俗学の定着過程」とか「柳田の日常・平凡・普通への関心」「英和辞典における民俗学の登場」―などの内容にはレジュメと講義に食らいついた。学生時代に授業をエスケープしてバイトや雀荘に通ってないでまじめに講義を受けてればと思った。まさに「後悔先に立たず」である。質疑応答があり学生たちの質問内容の意味さえもよくは理解できなかった。門外漢の悲しさである。岩本教授はそれらのひとつひとつに丁寧かつ的確な解答を示した。質疑応答を含めた約2時間半の講演は終わった。当初は参加を躊躇したのだったが勇気を奮って参加してよかった。

  新たな教養を身につけた(?)気になってひと駅隣の祖師ヶ谷大蔵まで足を延ばした。初夏の蒸し暑さはあるものの気分は爽快である。かき氷の旗を見つけたので頼んだ。ところがシーズン始めのためかなかなか氷小豆がこない。けれども道の際に置かれた椅子で夕涼みすることと講演会を反芻することができたから支障をきたすことはなかった。小一時間経って運ばれた氷小豆は超大盛だった。待ち時間を考慮してサービスをしてくれたらしい。かき氷を運んでくれたこの店の娘さんにジイサンが講演会に参加した話をした。20歳代の娘さんは吾人の顔を凝視した。そして笑うことなく言った。「素晴らしいことですね」。氷小豆はたいへん美味しかった。