大相撲夏場所「藪にらみ」見どころ
 
 大相撲の夏場所(五月場所)がこの12日から26日までの15日間、東京・両国の国技館で行われます。墨田の川風に乗って櫓太鼓の音が聞こえてきます。大相撲観戦歴70年に免じてお許しを頂き今場所も見どころを「藪にらみ」します。あくまで「藪」ですからピント外れがあります。ご寛容に願います。

 この一年余り大相撲は4関脇の群雄割拠時代が続き大関争いが熾烈でした。その結果、霧馬山(霧島)、豊昇龍、琴ノ若(今場所から琴桜)が次々に大関昇進を果し貴景勝とともに4大関時代が到来し大相撲の看板がしっかりしました。あとは新横綱の誕生が待たれます。東西横綱の土俵入りが大相撲の華ですから4人の大関の誰が早く綱取りに名乗りを上げるかこの場所の第一の見どころはそこです。

 場所前に行われた横綱審議委員会による稽古総見から伝えられる4大関の調子は八角理事長が苦言を呈したように総じて覇気が感じられなかったようです。貴景勝は慢性的な故障を抱えており豊昇龍は扁桃腺の具合が悪いとかでいまいちのようでした。今場所カド番の霧島は先場所5番しか勝てなかった後遺症がなければいいのですが大関としてのプライドをかけた奮起を期待します。残るもうひとりの大関・琴桜はまずまずの調子のようですが必ずしも親方衆を唸らせる稽古内容ではなかったようです。「猛牛・横綱」の異名をとったお爺さんの四股名を名乗るこの場所ですから期するものがある筈です。猛牛の血を受け継いで一気に綱とりに突進して欲しいと期待するファンは多いでしょう。

   毎場所のことですが優勝回数二桁を目指す横綱・照ノ富士の膝と腰の状態がどうなのかが気になります。休場明けの照ノ富士は場所前の稽古のあとで「腰をしっかり下ろした状態で力が入るかどうか。どのくらいの痛みがあるかも確認した。春場所前に比べたら全然いい」とコメントしています。爆弾を抱えた膝と腰のスタミナが場所の終盤まで維持されれば横綱ですから優勝して当然です。師匠の伊勢ケ浜親方は序盤5日間の相撲がカギとみています。

 賜杯争奪戦に劣らない見どころのひとつは幕の内3場所で新小結に躍進した大の里と先場所110年ぶりの新入幕力士優勝の大記録を打ち立てた尊富士の相撲です。ただ、残念ながら尊富士は休場となりました。一方、大の里は場所前の申合いでも大関相手に互角の稽古ぶりが伝えられてます。今場所も上を目指して奮迅の活躍をしてくれるでしょう。本当に楽しみです。先場所の取り組みで痛めた怪我が尾を引いて休場した尊富士について師匠の伊勢ケ浜親方は次のコメントを残しています。「番付よりも怪我を治すことを優先して休場を決めた」です。過去に中途半端な状態で出場して失敗した力士の例は少なくありません。全休すれば来場所は十両に落ちますが将来ある尊富士のためにとった親方の決断は正しいのではないでしょうか。また、今場所小結に戻ってきたものの稽古中に右膝を痛めた元大関・朝乃山も休場となりました。悲願の大関復帰に歩を進める場所だっただけに残念です。本人もさぞかし歯がゆいことでしょう。

    幕の内上位で注目したいのは一年以上も勝ち越しを続けて三役をずっと維持してきた大栄翔が平幕に下がってどう巻き返すかです。関脇に戻った若元春とともに再び大関を目指すモチベーションが維持されているかどうかをみたいところです。また、地力がついてきた豪ノ山、王鵬、平戸海、熱海富士がどこまで暴れるか、実力者の高安、阿武咲、明生、さらには変幻自在の宇良、翠富士など目が離せません。きっと見ごたえのある面白い土俵を見せてくれるでしょう。
 
 少し気が早いですが個人的には65年前に彗星のごとく現れて横綱に同時昇進したあの柏戸・大鵬の再来を大の里、尊富士に望みたいです。大相撲観戦歴70年を経た年寄りの夢です。

    話は飛びますが元大関・琴風の尾車親方(本名・中山浩一さん)が70歳の定年を待たず67歳で日本相撲協会を退職し53年の相撲人生に幕を引くことになりました。「尾車」という名跡は本家の佐渡ケ嶽部屋に戻すそうです。相撲協会という組織から離れ部屋付きの親方でもなくなった今は完全にフリーの立場です。全くの個人的要望があります。長くお休みしている北の富士さんのピンチヒッターとしてNHKの相撲解説者として登場して欲しいと思います。本名の中山浩一さんではなく協会と部屋の了承を得て親方名の「尾車」もしくは現役時代の四股名「琴風」としてNHKの正面相撲解説者の席に座って欲しいのです。聞き覚えのある外連味がなく論理的な解説を聞きたいです。現役時代にみせた得意の「がぶり寄り」のように鋭く力士を叱咤・激励するでしょう。そして何よりも現役の力士を愛し擁護する視点での発言をよく覚えています。

  ※(この投稿はコロナ等による休場力士がないことを前提とし休場届が出た力士は除いています