取調室らしい部屋の中で、如月は似顔絵担当者とテーブルをはさんで向かい合う形になった。テーブルの横には石川がむすっと立って居る。原因はこの部屋に入ってから彼が開口一番にした質問のせいらしい。

「絵描さん? 僕の似顔絵、書いてみて」

 似顔絵担当者が逆に質問する。

「高木です。それって事件に関係する?」

「別に、目撃者だから関係するといえば関係するし、しないかもしれない。絵描さんに描いてもらったのを持って帰れば記念になるかなぁって」

 石川が口を挟む。

「事件と関係ないことはしないで下さい」

 ここで如月は石川にニタリと笑いかけ、カマをかけた。傍から見たら相当に憎たらしい顔であることに気付くだろう。

「描いてくれなければ協力しないといったらどうする」

 石川はしかめっ面になった。

「さっき貴方は取り調べみたいと言ったが、貴方こそ憎たらしい容疑者みたいだ」

「ひどい言い方………。まぁ冗談はよしましょう。時は金なり、金時は豆なり。時間の無駄だ」

 さらにひどい顔をした石川は少し大きめの声で問うた。頬が紅潮している。警察関係は体育系なのか大きな声が多い。

「顔が解らなかったら車の特徴でもいいんです」

 如月は石川のことをそっちのけで高木に話しかけた。

「車の特徴と言ってもなぁ。絵描さん、車のパンフレットでもあれば解るかもしれない」

 今度は高木を怒らせたらしい。絵描さん、と呼ばれるのが不満らしい。

「高木です。そう言うだろうと思って集められる限りのパンフレットを持ってきましたよ」

 でん、と高木は青く分厚いリングファイルをテーブルに置いた。どこから出てきたのか、その上にどんどんっと同じく分厚いファイルを三冊置いた。気付かなかったが足元には紙の手提げバックが二つあった。

「十冊持ってきました。足りなければ、もっと持ってきますよ。キャビネットに入れたら三つくらい有ります」

 はははと如月はあきれ顔でひとつのファイルを手に取った。

「さすが国家警察。でもファイルを見なくても心当たりがありますよ」

 石川が今度は怒った顔で半ば怒鳴り声でテーブルをばんっと叩いて如月を睨む。

「だったら、なぜそれを早く言わない」

「車の特徴と言われて思い出したんですよ。絵描さんがファイルを積んだので思い出したんだよ」

「高木です。だから何です。貴方がスケッチするのですか」

 高木まで大声だ。

「警察を敵に回してしまったかな。まっいいや」

 如月はパンレットと言うかファイルを一つ取り、ぺらぺらとめくりもって高木にふふっと笑いかける。

「ライトをつけるとテールランプもつきますよね」

「当たり前だっ。それがどうしたって言うんだ、おいっ」

 高木ではなく石川が応えた。彼は完全に取り調べモードだ。それに比べて如月はへらへらしている。

「赤い四ツ目。」

「………スカイラインか………」

「ガンメタだった気がする。もしかしてR32かもね」

  R32と第八台目のスカイライン。GTRは別名バイクキラー。当時の九百ニンジャGPz900rでもリミッターカットした車には追いつけない。軽量の為、現行のスカイラインより人気がある。ノーマルでも280psと言う化け物車だ。

「四ツ目は内側小さかったですか」

 如月の突然の発言に納得して怒りが静まったのか、高木は落ち着いた声になっている。

「いや、同じ大きさだったと思う」

32の可能性が高いな」

 石川がそれを聞いて考える。まだ物証は上がってない。此奴の証言だけが今のところ事件の鍵だ。この憎たらしい奴を煽てた方が賢いな。物証………。対向車は事故らなかったのか。

「相手の車がぶつかった気配はなかったですか」 

 方針を変えた。ドラマの取り調べもあながち嘘ではないらしい。如月は警察を半分からかった態度をやめない。

「僕は見てませんよ。物証あがるのまだでしょう。僕から得られる証言なんて今、話したくらいです。ねぇ石川さん。もういいでしょ。解放してくれないかなぁ」

 本当にふてぶてしい。石川はいいかげんに腹が立ってきた。この辺で打ち切ろう。

「もう昼です。今の情報は貴重なものです。ご協力感謝します。連絡先はこの住所でいいですね」

 先程、警官がメモした情報をわざわざタイピングし直している。

「合ってますよ。一泊して警察の内情を観察するもの捨てたもんじゃないですね」

「では、これにて」

「かつ丼は?」

………全くもって、ふてぶてしい奴だ