映画「メネンデス兄弟」 2024(令和6)年10月7日配信開始 ★★★★☆
(英語: 字幕翻訳 髙橋百合子)
1989年8月20日(日曜日) ビバリーヒルズ
帰宅した2人の息子から、両親が殺されていると警察に通報がはいります。
(実際の音声)
被害者は実業家のホセ・メネンデス55歳と妻のメアリ51歳。
至近距離からショットガンで何発も撃たれ、後頭部はふきとんでおり、
事件現場は凄惨そのもの。
凶器は見つからず、薬莢もすべて犯人が持ち去っていました。
第一発見者は息子の22歳のライルと19歳のエリック。
犯人が特定できないうちに半年が過ぎますが、
両親の保険金65万ドルを受け取ったライルは、大学をやめてテニスのコーチを雇い、
高級車や高級時計など湯水のように金を浪費しました。
金めあての2人の息子の犯行だったのか??
警察は、彼が凶器のショットガンを買った場所を突き止め
翌年3月にライルを、そして弟のエリックも逮捕しました。
ビバリーヒルズの富豪の家での実の息子たちによる両親殺害事件。
兄弟は最初からメディアのえじきでした。(あらすじ とりあえずここまで)
35年前の殺人事件。
自宅室内での殺人は、ほとんどの場合、親族が犯人なのに
当初からこの息子たちを最初から容疑者からはずし、
アリバイや硝煙反応も調べないのは警察が間抜けすぎる!
ビバリーヒルズの警察は住民に奉仕する「サービス業」で
住民をお客様扱いしてしまう・・・
と、ズケズケと話すのは、検察官のパメラ・ボザニッチ。
35年前のパメラ
検察官も女性なら、ふたりについた弁護士も女性たちでした。
エリックの弁護士は
レスリー・エイブランソン
レスリーの弁護士は
ジル・ランシング(右側)
殺された父のホセは 1944年、キューバの裕福な家に生まれますが、
革命で財産を失い、アメリカへ難民として入国した移民1世。
実業家として成功し、40代でハーツ社のトップになり、OJシンプソンをCMに使い
RCAの幹部でもあったので、芸能界とのつながりもありました。
母キティは中流家庭にそだったアメリカ人で、華やかな外見をもつ女性。
芸能界に願望がありましたが、家庭では夫に支配され、専業主婦となっていました。
上昇志向の高い父は上院議員になることも目指していたようで、
息子たちにも常にきびしく接してきました。
息子たちはイケメンだし、絵にかいたような幸せそうな富豪のファミリーでしたが、
兄レスリーは父に似て攻撃的で支配的な性格
弟エリックは感情的でヒステリックな性格でした。
つづきです(ネタバレ)
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エリックは罪の呵責に耐えかねて、かかりつけの精神科医
ジェローム・オジェル博士に相談しますが、
彼は父ホセと「息子の行動はすべて報告する」という契約を結んでいて
全く信用ならない医師に最初に自白してしまったのです。
「心のすき間を埋めるため」とはいい、犯行後のふたりの行動は
完全犯罪をめざす犯罪者とは真逆です。
オジェルに裏切られたことからも、ふたりは口をつぐみ、何を聞かれても
スーパースターの成功者の父の偉大さを語り、あこがれの存在であったことを強調。
ただ、次第に裁判を通じて知り合ったヴィカリーとバージェス、
ふたりの医師(カウンセラー?)は信用に足る人物だと思うようになり、
ようやく重い口を開きはじめます。
それは幼少期から受けていた父からの性的虐待。
幼い息子たちに対する尋常でない「厳しさ」は、周囲も認識していましたが、
ライルに対しては6~8歳くらいまで、
エリックは6歳から犯行の直前まで、オーラルセックスやレイプも含む
おぞましい性的虐待がくりかえされていたのです。
「その時だけは父は優しかった」
「一度やめてほしいと言ったら、ナイフを持ってきて首にあて
次は必ず殺すといった」
エリックが「父に殺される」とライルに泣きつくと、
はじめて兄は父に抗議にいき、警察に行って話すというと
それ以上に父から脅され、母もすべてを知っていて父に従っていました。
「両親から自分たちは殺されるかもしれない」
これが直接の動機で、犯行は「不完全な正当防衛」である・・・・
陪審員は迷いました。
男性たちは「第一級殺人」だといいましたが、女性の陪審員たちはそれを否定。
悪意のない故殺を主張し、まったく評決はそろわず。
審理無効となって、時間がたつうちに
ふたりのことは世間から忘れられていきました。
そのころ世間を騒がせていたのは、父ホセが自社のCMにもつかっていた
OJシンプソンが起こした殺人事件。
住居も近く、息子たちとも面識がありました。
1994年6月に逮捕された彼は、翌年10月、刑事裁判では無罪が確定しました。
そんななかで始まった「メネンデス事件」の第二審。
今回はテレビ放送がなくなり、証言は陪審員だけに向けてのもの。
前回はいくつもあった選択肢が、
①第1級殺人と ②無罪 かの二者択一となり、(殺害の事実は明白なので)
陪審員は全員一致で①を選び、彼らには仮釈放なしの終身刑が下されました。
2000年代に入り、男性への性的虐待、父から息子への性的虐待が注目されるようになり
2023年5月に嘆願書がだされ、量刑の見直しが検討されています。
(あらすじここまで)
ほんの数日前、この事件に関するニュースが流れました。
「新しい証拠」として、
RCAの重役だったホセは、この子たちにも手を出していたことがわかったんだって。
(あの人と同じじゃないですか!)
もし、今起きた事件だったら、第1級殺人には絶対になりえないケースですけど、
それにしても、
35年も前にビバリーヒルズの豪邸で、父が実の息子たちにたいしてそんなことが!
ちょっと想像がつきません。
この事件が世間を騒然とさせた事情を時系列にまとめてみると・・・
① 80年代のビバリーヒルズ、ジップコード90210は
アメリカでもっとも安全が保障された場所だったのに、そこで凶行が起こったこと。
② 残忍さからいって、当初は仕事関係で恨みをもつマフィアの犯行と思われたが
それが実の息子たちの犯行だったこと
③ ケーブルテレビが普及し、裁判が(エンタメとして)専用チャンネルで見られたこと
④ そのため、イケメンの兄弟には、犯罪者なのに、熱狂的なファンがつき
逆に彼らの浪費や(犯行以外の)軽率な行動からアンチもついたこと。
⑤ 父親からの性的虐待が犯行理由だとわかってくると、
陪審員をふくむ多くの女性たちは心を痛め、逆にほとんどの男性たちは
そんなのは罪を軽くするための嘘だといい、世間が二分されたこと。
⑥ ほぼ同時期にOJシンプソン事件が起き、世間の関心がそちらにいってしまい、
またこの事件が刑事事件としては無罪となったことが量刑に影響がでてしまったこと。
Netflixは、この事件を「モンスターシリーズ第2弾」の
『モンスターズ:メネンデス兄弟の物語』(9話完結)のドラマにして
そのあと配信されたのがこの「ドキュメンタリー篇」なわけです。
ドラマのほうもちょっと見ましたが、こちらのほうが真実に近いのは確かですよね。
ドキュメンタリー(本作)では
基になるのは50代になったライルとエリックへのインタビュー音声。
そして次に多く登場するのが、最初の公判での担当検事だったパメラ・ボザニッチです。
職務上とはいえ、彼らに最も同情的でない人物が話してくれるんですよ。
もし当時の弁護士や擁護派の陪審員や一般人ばかりだったら
「ふたりの量刑へのクレーム」だけになってしまいますからね。
パメラの担当した裁判は結局不調になってしまったから
「仮釈放なしの終身刑」の量刑には無関係とはいえ、
よく出演してくれたものです。
「父親からの性虐待」はたしかに気の毒ではあるけれど、
殺さなくても、逃げたらいいのに、通報すればいいのに・・って思いますが、
どうなんだろう?父からは逃げられないと洗脳されていたんでしょうか。
「親以外の信頼できる人物に相談」というのが一番だと思いますが、
エリックのかかりつけ医だった「クセつよ」のこの人物。
ジェローム・オジェル博士
精神科医なのに、すべて父にバラしてたとか、勘弁して欲しい。
母も知っていても味方になってくれないし、
使用人たちも父の息がかかってるだろうし・・・・
そしてなにより
「父にレイプされていたと告白すること」は何より恥ずかしいことだったのです。
いや、そういう特殊な環境で起きた事件を、一般人の陪審員が判断するのって
ちょっと無理があるような気がしました。
このニュースもこのNetflixのドラマやドキュメンタリーが影響しているんでしょうし
地方検事の選挙に向けての「人気取り」とか書かれています。
うーん、そういうことなんですね。