映画 「アイアンクロー」 2024(令和6)年4月5日公開 ★★★★☆

(英語; 字幕翻訳 稲田嵯裕里)

 

 

父フリッツ・フォン・エリックの現役時代。

「こいつの首をへし折ってやる!」

リングで反則すれすれの技を執拗にくりひろげ、相手レスラーをマットに沈め

会場はブーイングの嵐。

 

まだ借家暮らし(トレーラー暮らし?)なのに高級車キャデラックをレンタルし

妻のドリスはため息をつきます。

「こんなことじゃ、いつになったら家を買えるのかしら」

 

フリッツは引退後もプロモーターとして息子たちをしごき上げ、

年かさのケビンとデビッドはタッグを組んで

父譲りのアイアンクローを武器に活躍するようになります。

 

ケリーは陸上選手となり円盤投げで新記録を樹立し

末のマイクはバンドを組んでミュージシャンになりたいのに

やはり父は練習を強要します。

 

 

「親父はマイクに厳しすぎる」

ケビンは母に相談しますが、聞いてもらえず。

 

ケビンはヘビー級王者のハリー・レイスに勝利しますが

タイトル戦ではなかったので、王者にはなれません。

マイクパフォーマンスの上手いデビッドが兄を称えますが

相手の反則負けということもあり、喜べないケビン。

(その後、リック・フレアがタイトル戦でレイスを破ってしまいます)

 

ソ連のアフガン侵攻に抗議して1980年のモスクワオリンピック不参加の声明が

カーター大統領から発表されると、ケリーもレスリングに戻ってきて

ケビン、デビッド、ケリーの「フォン・エリック三兄弟」が誕生し

1983年、6人タッグの世界王者となります。

 

 

 

「あなたの家族好きよ」

恋人のパムはケビンの苦しい胸の内を聞いてくれる大事な存在。

やがてふたりは結婚します。

 

 

ケビンはトイレで吐血しているデビッドを心配しますが

「誰にもいうな」と口止めされます。

 

デビッドは日本での参戦中、「腸が破裂」して

ホテルのベッドでわずか25歳で急死してしまいます。(あらすじ とりあえずここまで)

 

 

更新が遅れましたが、上北沢図書館の帰り、

下高井戸シネマで2か月遅れでみてきました。

 

私は子どもの時、父のフリッツのことは白黒テレビで見ていました。

「鉄の爪」も知ってますよ~!(笑)

 

子ども心にプロレスが「虚構の世界」なことは理解していたし、

「ロープに飛ばしてフライング・ラリアット」とか、

チャンバラの殺陣みたいなものだと思っていました。

パンツから凶器を取り出したり

反則をレフェリーが「見てないアピール」するのとか、どうなんでしょ?

実際にリングサイドでみたら、迫力あるんでしょうけど

プロレスファンになることなく大人になったので

ケビンたち兄弟のことはほとんど知りません。

 

本作はケビン目線の「家族ドラマ」がメインではありますが、

格闘シーンは、もう俳優の演じるレベルじゃないです。

 

ケビンの飛び蹴り

シューズも履いていませんね

 

 

本人画像とも遜色なし

 

 

デヴィッド役のハリス・ディキンソンなんて、超売れっ子だから

肉体改造する時間あったんでしょうか。

ザック・エフロンはもう本人以上にパンパンですね。

 

つづきです(ネタバレ

 

「デビッドは25年で75年を生きた」

と葬儀で弔辞を述べる父。

ケビンのもとへ日本から絵葉書が届きます。

「(新居の住所がわからないから)実家に送るね」

「日本でケビンと間違われてサインをしてしまった」

「このハガキがつくころにはもう家に帰ってると思うけどね」

 

 

 

そしてまたフレアと闘うチャンスが巡ってきます。

今度こそチャンスをつかみたいケビン。

自分も挑戦したいというケリー。

コイントスで決めることにして・・・

 

フレアを破って家にチャンピオンベルトを持ち帰ったのは

弟のケリーでした。

 

 

ところがケリーもバイクの事故で片足を失ってしまいます。

 

末の弟のマイクもレスリングの世界にはいってきますが、

肩の脱臼の手術中に昏睡状態になってしまいます。

 

「なんでウチの家族ばかりに不幸がやってくる!」

「あなたのせいじゃない。責めるならお父さんよ」

と、パム。

 

ケリーは義足をつけて練習をはじめ

マイクの意識も戻りますが、まだリングには立てません。

そしてマイクは痛み止めの過剰摂取で命を落とします。

 

「また喪服を着たくない」と母も取り乱し

家族に取りつく呪いを恐れるケビンは

自分のふたりの幼い息子たちにも寄り付かなくなります。

 

1986年、ケビンはリック・フレアとのタイトルマッチの挑戦権を得て

有利に試合を進めますが、フレアがロープに逃れても攻撃をやめず

ボコボコに痛めつけます。

結果、反則負け。

 

そのころ、痛みと闘いながらリングに復帰したケリーも苦しんでいました。

心配したケビンは父に相談しますが、いつものように

「兄弟で解決しろ」

ケリーは拳銃で自ら胸を打ち抜いてしまいます。

 

すべての兄弟を失ったケビンでしたが、彼には家族がありました。

 

そして亡くなった兄弟たちも天国で再会を果たしていました。

デビッド、マイク、ケリー、

そして6歳で事故死したケビンの兄のジャックJRもいました。(あらすじここまで)

 

 

うぇーん、最後はボロ泣きしてしまいました。

昔のこういう幸せな時を思いながら

「もう誰もいない」と、涙ぐんでいると

幼い息子たちがやってきて、

「ぼくらが(パパの)兄弟になる」って言ってくれるんですよ~

 

私も友だちがいなくて(←これは事実)いつも家族にいじられてるんですが

孫が3歳くらいの時に

「だいじょうぶ、(私が)おともだちになってあげる」

っていってくれたのを思い出しました。

子どもって(ひどいことも言うけど)こういうこと、言ってくれるんですよね。

 

 

そして、ケビンのふたりの息子たち、

ロスとマーシャルも一流のプロレスラーになったそうです。

 

息子たち、俳優かと思いました。

 

 

こういう「事実に基づいた」映画は、2割くらい「盛る」ことが多いですが、

本作ではむしろ削ってるのに驚きました。

 

実は、マイクの下にもうひとり、プロレスラーになった

クリスという弟がいるんですが

彼の存在はカットしてしまっているそうです。

体が小さくて、兄たちのように戦えずにピストル自殺してしまったとか。

彼だけでもドラマが1本書けそうです。

 

Wikipediaの「フォン・エリック・ファミリー」の家系図を貼っておきます。

 

 

 

「うちの家族は呪われている」

とケビンはいうけれど、3人は自殺だし、

デビッドの病気だって、把握していれば死なせずに済んだはず。

 

アングラ格闘技なんかじゃなくて、超有名な一流レスラーなのに

心や体のケアは本人任せだったとは!ちょっと信じがたい。

 

まあ、この人の責任でしょうけど。

 

最後のほうで、今まで父に逆らったことのないケビンが

父の首をぐいぐい締め上げるシーンは実話?

父殺しのさらなる悲劇が回避されてよかったですけど・・・

 

「男は人前で泣くな」

「男は弱音を吐くな」

とかいうだけで、今だったら

「トキシック・マスキュリニティ」だと批判にさらされるでしょうけど、

ほんの30年前は、父親の偏った価値観に縛られる息子はたくさんいたのでしょう。

 

そもそもフリッツもクラリネットの名手で、母は絵を描くのが好きで

バンド組んでる弟もいたし、ほかのスポーツもできたし

プロレスじゃなくても、何やっても生きられたのにね。

 

チャンピオンになることよりも、

家族でいっしょにいることが幸せだったのに

「父や家族を喜ばせたい」と無理をしてしまうのかな?

なまじ規格外の才能があると、期待に応えようと、

結局、自分を追い込んでしまう結果になるのでしょうかね。