映画 「オールド・フォックス 11歳の選択」 2024(令和6)年6月14日公開 ★★★★☆

(中国語: 字幕翻訳 小坂史子)

 

 

1990年 台湾のニュース

株式が一時6倍にまで暴騰するも

8か月後には元値に戻った・・・

 

1989年秋

レストランで働くリャオタイライは、

仕事を終えると立ったまま食事をかきこみ、

店の隅で待っていた11歳の息子のリヤオジェを自転車の後ろに乗せて帰宅。

 

一方、真っ赤なジャケットを着て家賃の集金にまわるリン。

リンはリャオジェから「美人のおねえさん」とよばれていて

今日も集金の時に、リャオジェにお菓子を持ってきてくれました。

 

リャオジェの母は病気で亡くなっており、父子のアパート暮らしですが、

部屋はきれいに片付いており、料理も家事も手早く、

息子のサイズにあわせて、洋服も仕立てられる父。

レコードを聞き、サックスを吹く趣味人でもあります。

 

 

リャオジェの母は理髪店を開く夢をかなえる前に亡くなってしまったので

ふたりは節約して貯金し、店を開こうとしています。

それに今の風呂場は家の外に湯沸かしのスイッチがあり

そのたびに外に行くのも面倒で・・・

 

そのころ、階下の食堂の店主、リーの家では、株価のストップ高に夫婦で大喜び。

「少佐」と呼ぶ株式ブローカーが来るたびに札束が増えていきます。

 

父の弟の結婚式。

リャオジェも父の仕立てた白いジャケットで参列。

株で儲けたおじが開店資金を貸してくれることになり

「3年後」といっていた理髪店の夢がぐっと現実味を増してきました。

 

 

学校には3人組のいじめっこがいて、リャオジェは辛い思いをしています。

大雨の日も、彼らにいじめられ、傘のないリャオジェが呆然としていると

「そこの子、乗るんだ!」

 

突然高級車が止まって、なかに乗っていたのは

このエリアの大地主であるシャ、通称「オールド・フォックス」でした。

 

 

             (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

 

引退を発表したホウ・シャオシェン監督が最後にプロデュースした作品

という情報だけで鑑賞。

 

本作の監督のことは知らないのですが、冒頭 数分のうちにこの世界に引き込まれました。

説明的なのは1990年という字幕と、最初のニュース音声だけなのに

一瞬でその時代のその場に居合わせた人になりきれるところ、

「悲情城市」をはじめて観たときを思い出しました。

 

台北のどこなのか?それとも別の市なのか?

ごちゃごちゃした街並みではあるけれど、

「NYのスラムにすむシングルファザーの親子」とはずいぶん違います。

 

父が仕事をしている間、息子は宿題をしながら待ってるんですが

ほかの店員はこの子を気にして声をかけたり食べ物をくれたり・・・

 

夜の街に真っ赤な上着に派手な化粧の女性が登場しても、

彼女はみんなに好かれてる家賃集金人で、

居留守使われたり、強引な取り立てをすることもなく

みんなちゃんとお金を用意していて待ってるとか、

まあ実社会では普通はそうなんですけど、

映画の中ではいつも違うよね~と思ったりして(笑)

 

 

父は上手に鍋を振っていたから料理人かと思いきや

高級レストランのホール担当の責任者のようで、金持ち相手の接客は完璧。

信頼も篤いので、チップやプレゼントも多いと思うんですけど

所詮「持たざる者」なので、息子とふたり、切り詰めた生活をしていて

それが全くの日常になっています。

 

息子のほうも、父にいわれるままにしてきたのが、

だんだんほかの大人、とくにシャと話をするようになって

いろいろ疑問が湧いてきちゃったりするのです。

 

つづきです(ネタバレ

 

 

シャは、地元では恐れられているのに、自分に全く動じないリャオジェを気に入って

それからも度々声をかけて家まで送ってくれるようになります。

 

「私はこわくないのに、いじめっ子は怖いのか?」

「世の中はフェアじゃない」

「腕力で戦う必要はない」

「まず相手を知ること」

「弱者とつるむと自分まで下に落ちていく」

 

何でもできて優しい父はそれまでのリャオジェのすべてだったのに

シャからは「優しすぎて弱い」といわれ、

さらに自分の風邪がうつって寝込んでしまった父をみて

「父親に従ったら弱者になってしまう」と思うようになります。

 

店を買う話も、不動産の高騰でまた先延ばしになり

「これではじめの予定通りだ」という父を見限り

「ぼくに家を売って!」

とシャに直接交渉をはじめます。

 

シャから、いじめっ子の母の悪事を監視カメラで知っていることを聞いて

リャオジェはいじめっ子より優位に立つことができました。

「おじさんに情報あげる」

今度はお返しに、部下の裏切り行為をシャに流します。

 

株で儲けた食堂店主は、有り金すべてを「少佐」に託して

一攫千金を狙いますが、それ以来、「少佐」からの連絡は絶えてしまいます。

(株価が暴落したか?少佐の持ち逃げか?)

そして、家の梁で首をつってしまいます。

 

(事故物件になったんだから)ぼくに安く売ってよ」

「あきらめない子だな」といって、シェは了承します。

「お前は私とそっくりだな」

 

 

ゴミ拾いでガラスの破片を踏んだのが原因で死んだというシャの母。

母は誰を傷つけることもない優しい人で、

亡くなった日に、同じ病院で生まれたのがリャオジェだというのです。

 

「お前の父親とエレベーターで乗り合わせた」

「私が母を亡くして悲しみの中にいることに気づいて

お前を笑顔であやすお前の母を制した」

「お前の父は人の心のわかる人だ」

「下の店はお前の父親に(格安で)売ろう」

 

店主のリーの家の祭壇にシェがお参りにいくと

「家の価値をさげてしまって申し訳ない」

「父の店を継ぎたいので、相場でいいから私に売ってください」

と、リーの息子にいわれます。

「いや、もうここは他の人に売ってしまった」

「約束は約束だ(日本語)」

 

シャオジェはもう家を手に入れた気でいましたが

「そこはリーさんに売ってあげてください」

案の定、父が申し出を受けることはありませんでした。

 

「シャは春節前に私をクビにした」

「まったく他人の生活なんて考えてくれちゃいない」

と、いじめっ子の母がリャオジェに話しかけます。

「でも、カメラの内容を息子にいわなかった君は、善人よ」

 

2022年冬

そこには、建築家になった44歳のリャオジェがいました。

                 (あらすじ ここまで)

 

 

なにか書き忘れたと思ったら、

門脇麦が出演していたことでした。

 

 

彼女は、資産家に嫁いだヤンジュンメイという台湾人女性で

このふたり、高校の同級生(初恋の相手?)という設定。

 

日台合作作品で、日本語のセリフも何度か出てくるんですけど、

彼女の役は完全な台湾人なんですよね。

(別キャストだけど、高校生のときの回想シーンもあり)

門脇麦のルーツは中国なのか?中国語ぺらぺらじゃない!

と思ったら、セリフはどうやら吹き替えだったらしい。

 

そうまでしても門脇麦をキャスティングしたかったんですね。

(結果的には納得したけど)

 

 

ほかにも書き洩らしたことがきっとたくさんあるはず。

本作は、起承転結でストーリーが進んでいく話ではないので

あらすじ書くのも無理なんですよね。

 

11歳という多感な時期。

さらにバブル到来で経済状態が不安定になり

そんな折にシェみたいな人物と知り合ったら

それはもう、大きな意識変革になりますよね。

 

シェのような人物は他人の都合など意に介さない一面的な脇役の立ち位置ながら、

本作では、相手を思いやる気持ちもあわせもつ人物として描かれます。

リャオジェの父の心配りに気づくってことは、優しい人ってことだし、

そもそも人の上に立つ人が、ただただ自分の利益しか頭にないってこと、あるのかな?

 

「まず氷水を飲んで、目を閉じて

『(人のことなんて)知ったことじゃない』と唱えて決断しろ」

というようなことを言ってたと思うんですが、

人情に流されずに決めることだって時には必要だ

ということを伝えたかったのでしょう。

 

 

リャオジェの父は、裏表なく優しいひとで、ある意味カンペキ。

裕福ではないけれど、欲しかった任天堂ファミコンや自転車を買ってくれるし

父を大好きな気持ちも捨てられません。

 

ラスト、大人になったリャオジェが、

顧客に対してはけっこう強い物言いをしながらも、

カッターの刃を捨てるときに

かつて父がやっていたように(他の人がケガをしないように)

ていねいにダンボールに巻いて捨てる・・・というシーンが映りましたが、

これがけっこう「これみよがし」で、ちょっと全体のバランスを損ねてる気がしたのですが・・・

まあ、「優しい成功者」になったということがわかって、嬉しかったけど。

 

 

映画とは関係ないんですが

リャオジェの父のように、いつも身だしなみがきちんとしていて

細やかに気配りができて、立ち振る舞いの完璧な人、

私の人生のなかでも数人くらいしか出会っていないんですが、

そういう人が、たまたま、立ったままご飯をかきこんでたり

飲み過ぎて吐いているのを見たりすると

見てはいけないものを見たような気がして、ドキドキしてしまうのです。

 

実生活ではそういうこと何度かあったんですが、

映画の中でそう思ったのは、もしかして初めてかも??

 

 

この俳優さんはとってもイケメンですけど、

そこまでイケメンでなくても、「仕草がハンサムな人」っているじゃないですか!

なんかもう、エモさでいっぱいになってしまいました。

(映画とは関係なくて申し訳ない)

 

 

「美人のおねえさん」がいつもお土産にもってきてくれるの、

「蛋黃酥(タンファンス)」ですよね。

こんなの見てしまったら、台湾、また行きたくなりました。