映画「パストライブス/再会」 2024(令和6)年4月5日公開 ★★★☆☆

(韓国語 英語: 字幕翻訳 松浦美奈)

 

 

夜明けのバーで、アジア系の男女と白人男性の3人が一緒の席にいるのを見て

ささやく声が聞こえます。

 

「あの3人、どんな関係だと思う?」

「どっちかがカップルだと思うけど・・・アジア人の夫婦かな?」

「白人は友人かも」

「白人はあまり話してないから観光ガイドかもね」

 

 

画面がかわり、24年前の韓国ソウル市。

 

12歳のナヨンの家では移住を前に引っ越し準備に追われています。

映画監督の父と画家の母は、幼い娘二人も連れて

家族でカナダに移住を決めました。

このまま韓国にいるよりも、将来の可能性が試せるだろうと・・・

 

ナヨンは同じクラスのヘソンのことが気になっていることをいうと、

どうやらヘソンもナヨンが好きみたい。

母も気をつかって、最後にいっしょに遊べるように計らってくれます。

 

 

カナダで使う英語名を考えていると、父が

「レオノーラはどう? 愛称はノラだ」

ナヨンはノラ、妹はミシェルとなり、英語であいさつの練習をします。

 

トロント・ピアソン国際空港に降り立つナヨン。

トロントの学校では最初は孤独でしたが、12年がたち・・・・・

 

 

24歳になったノラ(ナヨン)は、ある日、

映画監督の父のサイトにヘソンがアクセスしていることに気づきます。

彼が自分を探していることを知ると、フェイスブックで友だちリクエストをかけ、

スカイプを通じて、12年ぶりに、大人になったヘソンと再会します。

 

 

ヘソンは大学を出て兵役を終え、実家暮らしをしていましたが、

ノラはすでに自立してNYでひとりぐらし、

作家へのキャリアを築いていました。

(ノーベル賞を獲るといって移住したけど)今はピューリッツァ賞が欲しいわ」

 

 

昼夜逆転の時差を越えて、ふたりは度々ネットでの会話を楽しみますが、

ある日、ノラは

「モントークでの合宿に専念したいから、スカイプをいったん休みたい」

「気が付くとソウル便をしらべたりしてる自分をリセットしたい」

しぶしぶヘソンも同意します。

 

スーツケースを引いて、ゲストハウスに到着したノラ。

壁に「ムン(ノラの姓) 2012年」と書き入れ、ベッドでうたた寝していると

誰かがタクシーで到着します。

やってきたのは白人の男性。

「アーサーだ。よろしく」       (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

予告編を見たかぎりは、さほど魅力を感じなかったのですが

A24だし、脚本が優れているらしいので鑑賞。

 

24年前、12歳のときに家族でカナダに移住した韓国人の少女が

その12年後に韓国にいる初恋の相手とスカイプで話すも、

その関係も途切れ・・・までが前半。

 

この12年後、36歳の時、ふたりはニューヨークで再会するんですが、

予告編で流れる映像は、ほとんどがこっちです。

とりあえずあらすじを最後まで…(ネタバレ

 

その後、ノラはユダヤ系アメリカ人の作家アーサーと結婚。

ヘソンにも恋人ができますが、破局したようです。

 

12年後、36歳の会社員となったヘソンは、休暇を使って

ニューヨークに行くことを、友人たちに話しています。

「初恋の彼女に会いに行くんだね」

「告白しにいくのかい?」

「いや、彼女は7年前にもう結婚してる」

 

 

「初恋の男子が会いに来る」ことはアーサーにも伝え、

ふたりは24年ぶりに再会。

迷いなくハグしてくるノラにヘソンはちょっと驚きます。

 

「あなたの恋人とも会いたかったわ」

 

「彼女とは結婚の話が出たとたんに気まずくなって

今は距離を置いている」

「(韓国じゃ)稼げないとなかなか結婚まで行かない」

 

家で待っているアーサーにも、ヘソンのことを話します。

 

「韓国系アメリカ人とは違って、親と同居している

韓国的男性よ」

「記憶の中の子ども時代やパソコンのなかの人じゃなくて

実体があるのが不思議な感じ」

 

 

翌日もフェリーでニューヨーク湾を観光。

自由の女神をいっしょに眺めます。

 

夜にはイーストビレッジのノラの家へ。

夫のアーサーにヘソンを紹介し、

3人で食事にでかけることに。

そのあとのバーで、冒頭のシーンにつながります。

(ノラとヘソンがお酒の勢いもあり、韓国語で話がはずみ

アーサーが寂しそうな表情をすることも)

 

家に戻り、ウーバー乗り場までヘソンを送るノラ。

家の階段ではアーサーが待っていて、涙をみせるノラに手をさしのべます。

                   (あらすじ ここまで)

 

 

最後の方、端折ってしまいましたが、

ふたりが会ったのは2日間。

ちらしには「NYで再会の7日間」とありましたが、

服装から考えても、2日間(最後の夜はアーサーもいっしょ)で間違いなさそうです。

 

 

同級生の男女の12歳、24歳、36歳をほぼピンポイントに追っていくドラマ。

アーサーとの結婚のいきさつや、ヘソンの恋人との顛末は直接出てきません。

セリフででてきただけ。

だから、けっこう、なんでもかんでも「セリフで説明」してましたね。

(松浦美奈さんの上手な字幕で不自然には思わなかったけど)

 

カナダにやってきた当初は、言葉の問題とか人種差別とか、苦労も多かったでしょうけど

そういうのはまるっと省略。

ふたりの人生と愛の軌跡、そしてその間に流れる24年間(12年x2)を

際立たせる脚本となっているようです。

 

登場人物も、ノラとヘソンとアーサーの3人だけで

いろいろそぎ落としてシンプルにしているのはわかったけれど

肝心の時間の経過がビジュアル的にちょっと・・・(特にノラ)

 

12歳

 

24歳

 

36歳

 

ノラの24歳のときの画像がこれしかないんですけど、

12歳の少女時代とはつながらないし、36歳とどこが違うの?って思ってしまう。

 

実はノラって、うちの娘と同世代なので、

12歳のときとか24歳のときの時代背景がすぐ浮かぶんですけど、

画面からはあまり感じられませんでした。

(引っ越しのときの父の部屋のCDのタワーラックとかは、たしかに24年前でしたが)

 

映画のなかの「時代を表す小物」に興奮したりツッコミいれたりするのも

楽しみなんですが、(日本と韓国の違いはあるにしろ・・)

それをテーマにしているわりに、期待外れでしたね。

 

そして最後の方で端折ってしまったことを書きますと・・

 

ふたりの会話はそれほど面白くもなく、

「なんで私に会おうとしたの?」

とか、それは言わせるなよ!ってことを

平然と口にするノラにちょっといらっとしました。

 

アーサーとの今の生活を捨てるつもりはないものの、

初恋の人が会いにきてくれたことはそんなに悪い気はしないし、

ヘソンにしても、まさか「ワンチャンあるかも」と思ってはいないでしょうが

向かい合って目をあわせているうちに、ドキドキしてしまう・・・

 

これがハリウッド映画だったら、いきなりベッドインしたりするかもですが

そこはイニョン(えにし.因縁.運命)の言葉を出して、うまく煙に巻いてしまう・・・

前世や来世の話が自然に出るあたりが東洋的で、欧米人には受ける要因なのかもしれません。

日本でいうと

「袖触れ合うも他生(多生)の縁」みたいなことですね。

 

ノラとヘソンに関しては、反感ももたないかわりに共感もなく

うすぼんやりと眺めていたんですが、一番切なかったのは、夫のアーサーのことば。

 

アーサー、影の主役だったかも

 

 

彼はいつも正直で誠実です。

 

ヘソンがくることについても

「13時間かけて君に会いに来る初恋の彼に

『会うな』とはいえない」

と、妻を送り出し、帰ってきて話を聞くと

 

「ぼくには勝ち目はない」

「ぼくは運命をはばむ邪悪なアメリカ人夫だね(笑)」

 

「君とぼくとはアーティスト招聘で知り合って、家賃節約で同居して

グリーンカードのために結婚しただけ」

「だから君の横にいるのは、ぼくじゃなかったかもしれなかった」

 

「君の寝言はいつも韓国語なんだよ」

 

「12歳のときに思い描いた君の未来は

本を書くユダヤ人の男といることだった?」

 

ノラは「イニョン」を引き合いにだして、

上手に説明するんですけどね。

 

文字に起こすと、アーサーが嫌味なやつに思えるかもしれないけど、

自虐的なこといいながらも愛にあふれていて、

これは俳優(ジョン・マガロ)の力量だったのかも。

2人のふだんの生活のシーンが自然で、

愛されてるってこういうことよね!って思いました。

 

 

レビューをざっと見たら、

「アーサーが良い人すぎる!」

「アメリカ人夫の気持ちがぐいぐいきた」

みたいな感想が多くて、やっぱりね、と思いましたが、

前にも同じことを感じた記憶が・・・・!

 

「ミナリ」だ!

 

これも韓国人の登場する映画で、アカデミー賞では高評価でしたが、

夫婦とキャラ濃いおばあちゃんが主役と思って観ていると

最後、地元の労働者のポールにいいところを持っていかれた感じ。

 

 

これも、「A24」作品だし、

そういえば、アメリカ移民の韓国人の話ながら

ここでも、人種差別を匂わせるシーンは皆無でした。

 

「アジアの映画がハリウッドで高評価を受けるための鉄則」でもあるのか?

とちょっと思ってしまいましたが。