映画「コール・ジェーン ー 女性たちの秘密の電話 ー」 2024(令和6)年3月22日公開 ★★☆☆☆

原作本 「ジェーンの物語 伝説のフェミニスト中絶サービス地下組織」ローラ・カプラン 書肆侃々房(4月発刊予定)

 

 

1968年8月、シカゴ

ドレスアップした女性の後ろ姿。

パーティ会場のまわりをベトナム反対の群衆が取り囲み

暴徒がガラスを割って入ってきそうな状況に

ジョイ(エリザベス・バンクス)は夫ウィルに車を裏口にまわしてもらって

そこを脱出します。

 

夫ウィルは刑事弁護士で、娘のシャーロットは15歳。

そしてジョイのお腹には新しい命が宿っています。

隣に住むラナの夫、ロイが心筋梗塞で急死してしまい、

シャーロット同じ年頃の娘のいる彼女とは

一緒にお茶したりテレビを見たり家族のように接しています。

 

 

ジョイには心臓病の持病があり、妊娠により悪化したのか

出産で命を落とす確率は50%といわれているのですが、

中絶を希望するも、病院理事会に前例が少ないと反対されます。

 

当時シカゴでは中絶は違法なので、

ジョイはウィルの小切手を偽造して1000㌦の現金を手にし

場末の闇医者を訪れるものの、こわくて逃げ帰りますが、

帰りにバス停のところに貼ってあった

「妊娠?助けが必要?ジェーンに電話を」のチラシをみて電話をかけてみます。

 

 

指定された場所で待っていると黒人女性の車が止まり

目隠しをされてビルの一室へ。

600ドルを払うと、処置室に案内されます。

「ディーンは金の亡者だけど、腕はいいから安心して」

 

 

医師は若い男性で、不安を和らげるよう声をかけながら、20分で終了。

別室で女性たちが食事と飲み物を用意してくれて

おしゃべりしながら和やかな時を過ごします。

リーダーはバージニア(シガニー・ウィーバー)、

「ジェーン」というのは人名ではなく、中絶を支援する女性団体だといわれます。

 

夫と娘には

「腹痛があって病院にいったら、

出血して赤ちゃんはダメになった」と報告。

 

翌日も「ジェーン」から体調を心配する電話がかかりますが、

「人出が足りないから、運転手のしごとを頼む」といわれ、

次第にジョイは「ジェーン」のメンバーになっていきます。

               (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

タイトルとこのピンクの電話をみると、

「夫に内緒で風俗電話にハマっちゃった人妻の話」

みたいに思えますが、内容はバリバリの社会派映画。

ジェンダー案件です。

 

深刻なことをかなりお気楽に処理していて

コメディみたいに観てて楽しいんですよ。

 

「中絶」を映画のなかで真正面から扱おうとすると・・・
こんな壮絶なやつになっちゃう。

本作ではライトな感じではありますが、けっこうそのシーンは多いです。

そもそも「中絶」の処置シーンを映画のなかで扱うこと自体が珍しいから

多分こういうことに無縁の男性にとってはショックだったかもしれません。

 

自分らの性欲の後始末でこういう事態になること、

むしろ若い男性に観てほしいな、と思いました。

 

個人的にはいろいろ言いたいことばかりなんですが、

ここまで、かなりガマンして書きました。

 

とりあえず、あらすじを書いてしまいますね(ネタバレ

 

ジョイは運転手のピンチヒッターをするだけのつもりが、

その次には、ディーンから

処置中に動転している女性を介助する役を頼まれます。

 

女性の手を握って話しかけ、

器具の入るときはいっしょに呼吸したり数をかぞえたり・・・

ジョイの介助は完璧で、処置も上手くいき、

ディーンにも感謝されます。

そのうちに麻酔の注射を打ったり、助手みたいになっていきます。

 

「君は勘がいい。看護婦になれるかも」といわれ

「私は医師になれたかもしれなかった」とジョイ。

 

 

ディーンから器具の使い方も教えてもらい、

ほぼやり方をマスターしたジョイ。

図書館にいって医学書を盗んで勉強します。

その後、

実は、ディーンも(腕はいいけれど)無資格なことがわかります。

 

「医学を習ってない男性が20分でできること、

かぼちゃの種を掻き出すようなものよ。

私ならタダでできる!」

 

 

ジョイはジェーンの活動で毎日家を空け、

ウィルとシャーロットには

「美術の講座が忙しい」といっていましたが、

食事は毎日冷凍食品ばかりで、

見かねた隣のラナが差し入れするようになります。

 

毎日遅くまで帰ってこない母を怪しむシャーロットは

手帳の住所から場所を突き止め

違法で無資格の医療行為に手を染めていたことがバレてしまいます。

 

「浮気かと疑っていたけど、浮気のほうがマシだった」

とショックを隠し切れないシャーロット。

家に帰るとウィルにも

「君は違法な手術を手配していたのか?」

 

「誰にもできる簡単な施術よ。医師は私なの」

 

 

「ジェーン」の活動を離れて家に戻ったジョイのところへ

バージニアが説得にやって来ます。

 

「中絶してもらえなくて、自分でやろうとして死にかけた女性がいる」

「あなたの見捨てた女性のリストよ」

留守電のテープは、中絶を望む女性たちの悲痛な声であふれていました。

 

「ママ、戻るべきよ!」

シャーロットの言葉に押されて、ジョイは戻ります。

 

この集団は、その後も12,000件もの施術を行い、死者はゼロ。

夫の弁護士ウィルも支援にまわり

ついに1973年春、最高裁は中絶禁止は違憲であると認め、

女性が堕胎する権利を認める判決を出しました。 (おしまい)

 

 

 

裕福な専業主婦だったジョイが、新しい世界に目覚め、違う自分を手に入れる・・・

か弱い女性たちが連帯して自分たちの権利を守った、というラスト・・・

とりあえず、カタルシスは得られます。

 

いいたいことはあるけれど、

今日のところは、映画の内容だけに絞りますね。

 

① ハイリスク妊婦のジョイの設定

 

ジョイは持病の心臓病のために50%の確率で出産時(妊娠中?)に死ぬこと、

危険を回避するためには「中絶しかない」と言われるものの

同じ病院の理事の承認が得られずに

「5割の確率で死ぬ運命」を受け入れなくてはいけないジョイ・・

という、なんか雑な設定(笑)

 

だいたい、中絶が禁止されている州なのに

「中絶しか方法がない」とかいう医者がいる?

当時は帝王切開もあったでしょうし、

大事をとって早めに入院させるとか、対策はなにもないのでしょうか?

 

それ以上に愛妻家っぽいウィルが、妻が死ぬことに全く無頓着なのが

信じられないんですけど・・・・

まずはよく話し合って、

本人が中絶を希望するのなら、禁止されてない州にいけば可能なのにね。

それにそんな重い心臓病の妊婦にドレス着せて高いヒール履かせて

パーティに連れていくか?って思いました。

(ウィルを責めてるんじゃなくて、テキトーな設定の脚本を責めてます)

 

あと、シャーロットを出産した15年前には

まだ「持病」はなかったんでしょうかね?

 

② 無資格の中絶のほうがハイリスクでは?

 

これ、多分観た人全員が思ったでしょうね。

「かぼちゃの種を掻き出すようなものよ」

・・・って、ちがうでしょ!

たしかに、正規の産婦人科医のなかにも、

絶望的に下手くそな人もいるでしょうし、

「腕の良い無資格医」もいるかもしれませんが、

機械の修理とはちがうんですから・・・

12,000件やって誰も死んでない、と胸をはってましたが、

二度と妊娠できなくなった人、後遺症で死んだ人はいたでしょうね、きっと。

 

③ 違法行為に無頓着すぎる脚本

 

わざわざあらすじにも書いてしまいましたが、

夫の小切手を偽造したり、医学書を盗んだり

セレブ妻のわりに、法令遵守の意識の低いジョイ。

ウィルに相談するという選択肢はなかったんでしょうか?

「図書館の本を盗む」って私が一番いやな犯罪なので

イラっとしました。

 

 胎児の命に対する言及なし

 

「望まない妊娠」のなかには、幼い少女へのレイプとかも含まれるので

一概にはいえませんが、

「胎児の命を奪う」ことに対して、なにも感じないのはちょっとどうかと・・・

とりあえずは、まず悩むことから始めようよ!って思いました。

 

⑤ 政治利用?

 

ラストの1973年の判決は「ローvsウェイド判決」というそうで

聞いたことあると思ったら、今回の大統領選の争点にもなってるんですね。

1968年も大統領選の年で、ニクソンが僅差で民主党のハンフリーに勝った年です。

本編中にも両方の名前が登場していました。

 

裁判シーンもいれちゃうと、あまりに政治的になるから、

なんとなくふわっとした感じに収めたのかな?とか思っちゃいました。

(アメリカでの公開はずいぶん前のようです)

でもこの時期に日本公開したのは、明らかに政治的な意図もあるでしょうね。

 

 

映画として★2つつけたのは、とりあえずエンタメ作品になっていること、

普通の生活であまり話題にならないような「中絶」について

若い人たちが関心持つきっかけになればいいかな?と思ったことからです。

 

ただ、ハイリスク出産経験者のババア(←私)からすると、

正直、鑑賞には堪えなかったです。

まだまだいいたいことはあるので、

もしかしたら「コール・ジェーン(つづき)」で

またお目にかかるかも・・・・(笑)