映画 「12日の殺人」 2024(令和6)年3月15日公開 ★★★★★

(フランス語; 字幕翻訳 宮坂 愛)

 

 

「フランス警察が捜査する殺人事件は年間800件以上」

「そのうち未解決事件は約20%」の字幕

 

夜の自転車競技場のトラックをひた走る男性の姿。

(すらりとした脚なので、競輪選手ではなさそうです)

 

場面かわって、10月12日、グルノーブル警察署内では

定年退職する班長刑事の送別会が和やかに行われています。

いい雰囲気です。

班長を引きつぐ若手の主任刑事ヨアン(バスティアン・ブイヨン)は

先ほどの自転車の男性でした。

 

 

そのころ、山あいのサン=ジャン=ド=モーリエンヌの町で

友人宅から徒歩で自宅に帰るクララをひとりの人物が呼び止め、

いきなりガソリンをかけ、ライターの火をつけられます。

火だるまで走っていくクララ・・・・

 

翌朝、事件現場に向かうヨアンたち。

上半身黒焦げの痛ましい遺体を目にします。

下半身は膝のすり傷だけで、おしりのポケットに入っていたスマホも無事でした。

 

 

スマホからすぐに身元が割れ、

被害者は近所に住むクララという21歳の女性。

親友のナニーの家で遊んだ帰り道に襲われたようです。

 

クララの実家に彼女の死を伝えに行くヨアンとマルソー。

「クララはナニーの家に泊ってるはずだ」と聞く耳持たない母は

娘の死を知って半狂乱になります。

 

① ウェズリー(クララが今夢中になっている彼氏)

 

クララの父とナニーから、今付き合っているウェズリーという男の存在を知り

勤務先のボーリング場に会いにいきます。

ウェズリーは事件のことはまだ知らず、

クララが何か不都合なことを警察にチクったのかと思っていたようです。

 

「クララはかわいいけど、押しが強くてタイプじゃない」

ウェズリーはクララの存在(二股)が本命彼女に知られるのを恐れており、

彼にはアリバイもありました。

 

 

② ジュール (クララのボルタリング仲間)

 

事件の日にもいっしょにボルダリングをしていて

体の関係もあったというチャラ男のジュール。

「クララはものわかりのいいセフレだった」

事件のことを聞いて、嗚咽しているのかと思ったら

不気味に笑っているのでした。

 

 

③ ギャビ (ラップの男)

 

以前クララに冷たくされた腹いせに

「火をつけて燃やしてやる」というラップを

YouTubeに公開しており、怪しまれると思って

自分から出頭してきました。

 

 

 

④ ドニ (ライターを送った男)

 

警察に「事件現場で拾った」というライターが送られてきて

送り主をたどると、現場のすぐそばの納屋に住んでいて

過去にクララと関係のあった男が浮かび上がりました。

「怪しまれても仕方ないのに、誰も聞き込みにこないから

自分から行動を起こした」

ライターは15日に拾ったというのですが・・・・

 

 

ヨアンはクララの親友のナニーに会いに行き、

「現場近くに住んでいてクララと過去に関係のあった男のことを知らなかったのか?」

「知っててなぜ教えなかった?」

と聞くと

「クララは惚れっぽくていろんな男と関係があったけれど、

それだけで判断しないで!」

「クララが殺されたのは女の子だったからよ」

            (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

楽しみにしていたドミニク・モル監督の新作。

前作「悪なき殺人」は、とにかく「練り上げた」作品で

前の人の頭で半分くらいしか字幕が見えない武蔵野館の劣悪な状況で

かなり集中して観てきました。

 

 

 

ブログの内容は、多分あちこち間違っていると思うんですが、

(自分でいうのもなんですが)一度みただけにしてはちゃんと書けてると思います(笑)

 

 

今回は、武蔵野館はやめてヒューマントラスト有楽町で観ましたが、

シアター2は見づらいんですよね。(段差がつく4列目で観たので武蔵野館よりはマシ)

しかも平日の昼間なのに、ほぼ満席でした。

「悪なき殺人」の人気だと思ったら、ちょっとうれしい・・・・

 

さて、今回も「殺人犯さがし」ではなく、それを取り巻く人間ドラマが主題。

ただ、視点がころころ変わることはなく、

今回は基本主任刑事のヨアンの目線で、かなりシンプル。

ヨアン役のバスティアン・ブイヨンって、「悪なき殺人」でも警察官でしたね。

 

 

彼が競技ウエアを着て、無人のバンクを疾走するシーンは冒頭だけでなく

何度も挿入されます。

 

 

ヨアンがクララの実家で、クロネコを抱いた少女時代のクララの写真を見て

目の前が真っ暗になった・・と告白するシーンも印象的でした。

 

悪なき・・・では、当初感じた違和感が

すべて伏線となって最終章につながりましたが

本作ではストーリー的には伏線ではないけれど、サブリミナル効果のように

観終わった時にいろいろ効いてくる感じ。

前作よりさらにステージをアップさせてる!

 

続きです(ネタバレ

 

 

 

ヨアンのグループはこのメンバー。

刑事の仕事が深夜まで続いても残業扱いにならなかったり

コピー機が常に紙詰まりなのを嘆く者、

結婚報告したのに、みんなに「やめとけ」と言われる若い刑事、

さまざまですが、それぞれ仕事はきっちりこなし、

丁寧に報告書をあげています。

 

そんななか、ヨアンは相棒のベテラン刑事マルソーが

最近、署に泊まり込んでいるのが気になります。

 

 

実は、マルソーは妻との関係悪化で、家に居づらいのでした。

なかなか子どもが授からず不妊治療していたマルソーと妻。

妻の浮気も黙認していましたが、

別の男とはつきあってすぐに妊娠。

妊娠と離婚を同時に告げられていたのでした。

 

独身のヨアンは、自分の部屋にマルソーを呼んで、寝泊まりさせます。

 

 ヴァンサン (筋金入りのDV男)

 

事件現場に血の付いたTシャツが置かれていたのを

クララの父が発見、警察に届けます。

血痕は犯罪歴のあるヴァンサンのものでした。

元妻に暴力をふるって重傷を与えた前科あり。

今は別の女性の部屋に転がり込んでいるところを取り押さえると、

以前つきあっていたクララの事件を知って、自分の血の付いたシャツを供えた、と。

 

 

部屋からは容器に入ったガソリンも見つかりますが

「それは私が染み抜きのために使う」と

同居女性ナタリーは庇います。

事件の時も、彼はこの部屋で寝ていたと。

 

ヴァンサンを同行させることもできず、この日は帰りますが

どうしても我慢できないマルソーは別の日に単独でここを訪れ

「君が夜中に彼はいなかったと証言してくれれば事件は解決する」

とナタリーに頼みにいくのですが、思い通りにはならず、

帰宅したヴァンサンをなぐるマルソー。

女性の名前が自分の妻と同じナタリーだったことが

マルソーの怒りに火をつけたようです。

 

マルソーの異変に気付いたヨアンが追いかけて行って

大きな問題にはなりませんでしたが、

このことが原因か、マルソーは別の地域に配置換えさせられます。

 

 

事件未解決のまま3年がたち、

ヨアンは予審判事のベルトランに呼び出されます。

 

 

「21歳の女性が焼かれて終わりなんて許せない」

「世間が興味を失っても、私たちがあきらめてはダメ」

「被害者の男性関係に絞らず、ちがうアプローチをしてみたら?」

 

3年後の2019年10月12日。

事件現場の張り込みと墓の隠しカメラによる捜査が再開します。

 

ヨアンの新しい相棒は

大学を首席で卒業して現場を希望したという女性刑事ナディア。

 

 

「罪を犯すのも捜査するのも男性ばかり」

「ここは「男の世界」ね」

 

すると、墓に設置したビデオカメラから、

今まで捜査線上にあがらなかった男の画像が。

 

 

上半身裸になって、歌を歌いはじめ、墓の前でひれ伏しています。

歌っていた『Angel in the Night』から男の身元をつきとめ、

声をかけると一目散に逃げだす男。

総がかりで取り押さえます。

ところが、彼は事件当日精神病院に入っており、

退院後事件を知ってクララに心酔したというのです。

 

捜査はまたふりだし。

ただ、ヨアンは以前よりすっきりした表情をしています。

「なぜ自転車で公道を走らない?」といっていたマルソーに手紙を書き、

傾斜11%の険しい山道を登るヨアンの姿がありました。 

                      (あらすじここまで)

 

 

刑事もので、最後まで迷宮入りとか、

絶対にない!

というのが常識。

 

「仏警察の殺人事件の2割が未解決で、これもそう」

というような字幕が最初に出ましたが、

「未解決だけど、観客には犯人が分かるようになってるんだよね~」

とか、ついつい思ってしまいます。

 

で、1時間半くらいたった時に、有能そうな女性判事と女性刑事登場で、

これは大きなヤマが動くぞ~!と誰もが思ってしまいますが、

残念ながら大ハズレ(笑)

 

警察の仕事は犯人逮捕がゴールかもしれないけれど

私生活と折り合いをつけながら、いくつもの事件を裁いていかなかればならない・・

深い同情や憎悪や人間としての感情を制御しつつ、

「正しい職務」を全うしなければならないのです。

 

公式サイトではこの3人の女性たちが

捜査の核心をつく、とあり、

あらすじでは、彼女たちの発言を太字にしてあります。

 

 

全然関係ないけど、ナディアが「マンダム」と言ったとき

「男の世界ね」と字幕がついていました。

フランス語わからないけど、マンダムって、「男の世界」なの?

突如脳内をチャールズ・ブロンソンのシブいお顔と

「う~ん、マンダム」が「男の世界」の音楽にあわせて登場してしまって

なかなか消えなくて参りました。

 

たしかにこの3人以外、ほとんど登場人物は男性で、

「刺殺や絞殺とちがって火をつけるのは男」

「焼き殺されるのはジャンヌ・ダルクの時代から女」

と決めつけ、

男性関係の派手だったクララは男女間のもつれで殺されたに違いない

さらには

そういうアバズレ女は、まあ殺されても自業自得だよね

といった気持ちが捜査員のなかにも多少なりともあるのは事実。

 

そもそも、

午前3時と言うあの時間帯にクララがあそこを通ることを知っている人物は

かなり限られ・・・というより皆無のような気がするけど。

母親もあの日はナニーの家に泊ると思っていたし

クララ限定で狙える人物はスマホのハッキングとかしてないと無理ですよね。

 

映画には出て来なかったけれど、

メディアからの雑音とかも、きっと捜査の進展を邪魔してそうだし。

 

男女関係なく「通り魔」も視野に入れなきゃいけなかったのに

「男女関係のもつれ」に限定した初動捜査ミスといわれてもしょうがないです。

 

ま、この映画の本質とは関係ないですが・・・

 

娯楽性はないけれど、最後の最後まで自分のなかの思い込みや偏見が試されて

それはそれは満足できる作品でした。

「落下の解剖学」が楽しめた方にはぜひオススメしたい映画です。

 

 

フランスの地理は全くわからないので一応地図で調べたら

スイスやイタリアとの国境に近いこんな位置でした。

「落下の解剖学」の舞台は「雪深い人里離れた山荘」で地名はなかったけれど

このあたりでロケをしたそうです。

「悪なき殺人」の舞台も南フランスだったし、もう

フランス映画にパリは出て来なくてOKの時代になったんですね~

 

またまた関係ないけど、「マンダム」同様

「グルノーブル」という地名が出るたびに

脳内をクロード・ルルーシュの「白い恋人たち」が流れて困りました。

ほんと、昭和脳なもので・・・・(笑)