映画 「アメリカン・フィクション」 2024(令和6)年2月27日 amazonプライム配信 ★★★☆☆

原作本 「イレイジャー」 Pエヴェレット (邦訳なし)

(英語: 字幕翻訳 小林伊吹)

 

 

大学の文学の授業。

人造黒人(THE ARTIFICIAL NIGGER) フラナリー・オコナー

と板書した文字に

白人の女子学生が不快感をあらわにします。

「差別用語は使うべきじゃないです!」

 

「50年代の南部の文学だから、当時の時代背景からこういう言葉もでてくる」

と講師のモンク・エリソン(ジェフリー・ライト)が説得しても、

女学生は席を立って、教室から去ってしまいます。

 

モンクは以前から発言が問題になることが多く、

「しばらく休暇をとったら?」ということで故郷のボストンに帰り、

地元のブックフェスに参加することにします。

 

モンクは純文学の作家でもあるのですが、新作は今回もボツになったと

出版エージェントのアーサーから電話が入ります。

ブックフェスでは数名の登壇者と共にファンの前に立ちますが、

質問もほとんどなく、盛り上がりません。

 


同じ黒人でも

「ゲットーに生きて」がベストセラーになったシンタラ・ゴールデンのイベントは超満席。

「白人男性が書いた離婚話ばかりで、私たちの代弁者がいない」

「私が書くしかないと思った」

というシンタラの言葉に熱狂するのは、ほとんどが白人ばかりです。

モンクは、産婦人科医をしている妹リサの病院へ。

リサの車で実家に帰ると、メイドのロレインと母アグネスが迎えてくれます。

母は元気に見えますが、リサによると最近ボケてきており、

リサが離婚したことも忘れてしまっているようです。

 

モンクが家を出た後もずっと母の世話をしてくれていたリサが、

モンクの目の前で急に苦しみだし

あっというまに心筋梗塞で亡くなってしまいます。

母と、家をでている弟のクリフも帰ってきて、葬儀を終え

海辺でリサの散骨をします。

 


字幕では「兄」となっていましたが、

ジェフリー・ライトより10歳下なので

「弟」ということで・・・

 

弟のクリフは整形外科医なんですが、ゲイがバレて離婚、

財産も子どももとられて、今は放蕩生活をしている様子。

実家でクリフと話していると、2階から水がしたたり落ち、

急いで様子を見に行くと、風呂のお湯を溢れさせて

そのそばに我を失って呆然としてる母の姿がありました。

 

モンクはたまたま知り合った向かいの家に住むコララインが

父の拳銃自殺を知っているのにショックを受けますが

彼女は公選弁護士で、モンクの本を読んでくれていることを知り

一気に距離が近づきました。

 

 

MRIの検査で母のアルツハイマーが確定。

施設に入れるにはそれなりの金額が必要ですが

リサはおらず、クリフも当てにならず、

モンクも、教員の職は休業状態で、本も売れません。

 

家の電気代もリサが契約していたので、電灯すら切られてしまいました。

 

ヤケクソになったモンクは、面白半分で

スタッグ・R・リーという名前で、思い切りステレオタイプな黒人小説を書くことに。

                  (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

アカデミー賞に5部門ノミネートされ、「脚色賞」受賞の本作。

そのうちに日本での公開日が決まるかと思っていたら、

先月末からアマプラで配信されていました。

 

「黒人のステレオタイプ」って、日本人でもなんとなくわかるところもあるけれど

そんな「にやり」とできるレベルではないので

配信スルーで良かったんでしょうかね?

 

感想は最後にまとめて書きますが、最初のほうで気になったことを少し。

 

「モンク」というのはニックネームのようで、母はさらに「モンキー」と言ってましたが、

本名はセロニアスですよね。

これって、ジャズピアニストのセロニアス・モンクがいるから?

(文句ばかり言ってるから日本語的にはぴったりですが)

清水くんが みんなから「ジロチョー」って呼ばれるようなものでしょうかね。

 

ブックフェスの名札が「Thelonious」のOが抜けているのを

モンクが自分で直すシーンがありましたが

この名前は「いかにも黒人」なのか「小難しい名前」なのか

それとも単純に作家としてのモンクが無名なのか、

その辺からしてわからないから、私には無理なのかな~とか思ってしまいます。

 

それから冒頭で

人造黒人」という字幕が出て

それに女子学生が過剰に反応するシーンがあったんですけど、

「人造黒人って何?」

と、頭がバグってしまいました。

 

「THE ARTIFICIAL NIGGER」って、私は英語ができないけど

「つくりもののくろんぼ人形?」みたいな意味ですよね?これ差別用語になっちゃってますね?)

 

タイトルで検索したら、オコナーが1955年に出版した短編集のなかのひとつで

南部に住むプアホワイトの男が、孫にはじめて黒人を見せて差別意識を植え付ける・・・

庭に放置されていた色褪せた「THE ARTIFICIAL NIGGER」が

まさに白人から見た黒人のステレオタイプ・・・・

みたいな話で、 NIGGERということばを使わずして授業は進められないし

「人造黒人」の字幕じゃ、この映画も進まない気がしたんですが・・・

 

続きです(ネタバレ

 

2人の黒人のチンピラが銃を向けながらしょーもない会話をつづける

「出版社の好きなゴミ」ばかりを集めた小説を

精いっぱいの皮肉を込めて一気に書き上げ

「マイ・パフォロジー」というタイトルで代理人のアーサーに送ります。

 

一方で、ある文学賞の審査員を打診する電話がかかり、

モンクは全く乗り気ではなかったのですが

「ほかの作家をこき下ろせる」と聞いて、即、承諾。

「ゲットーに生きて」のシンタラと共に黒人枠で審査員に。

 

エージェントのアーサーから電話がかかり、

なんと、あの原稿に75万ドルの値がついた!と。

スタッグ・R・リー名義で、モンクは表には出られないので、

「逃亡犯で正体は明かせない」という設定にすると、それが面白がられ、

出版を阻止するためにタイトルを「ファック」に変更するというと、

なんとそれにもOKが出てしまいます。

 

映画化の話まで進んで、監督がどうしても原作者に会うというので

(どうせ彼は本を読まないからモンクの顔もわからないということで)

変装もせずに出かけていくと、救急車のサイレンが聞こえます。

実はこのとき、モンクは母を見てもらっていたので、

母に異変があったと思い、店から飛び出してしまいます。

 

幸い母ではなかったのですが、これで映画化の話は消えたと思ったら

「サイレンで血相変えて飛び出したのは本物だ!」と逆に好印象。

 

文学賞の審査でも、白人の3人が「ファック」を絶賛して、

モンクとシンタラの反対を押し切って、最優秀になってしまいます。

 

困惑するモンク。

ただ、印税前払い金で母の施設の高額な費用は賄うことができました。

 

文学賞の授賞式で、モンクは審査員席にいるのですが、

「ファック」の受賞が告げられると、つかつかとステージに上がり

「実はこの作者は私です」と告白するところで・・・・

 

そのラストじゃダメだ!

と映画監督が反対。

そのあともいくつかのパターンを提案するのですが、

結局は

「FBIに取り囲まれて射殺される」というラストが「完璧!」といわれます。

                        (おしまい)

 

 

アフリカ系アメリカ人のエリソン家は、かなり裕福。

プール付きの別荘もあるし、

全員高学歴でモンク以外は全員医師です。

 

(あらすじには書かなかったけれど)

父は浮気して家を出て、最後には自殺。

そのあとを母が取り仕切り、今は認知症。

妹は母の世話をしながら結婚に敗れ、若くして急逝、

弟はゲイを隠して結婚し、父の死後にカムアウト。

 

家族ではないけれど、コララインだっていろいろあっての

今の立場だろうし、

メイドのロレインがずっと密かに憧れていた人に再会して

プロポーズを受け、結婚なんて、

最高にロマンティックじゃないですか!

 

モンクのまわりには小説になりそうなネタがごろごろ転がっているけど

こういうのは多分「求められてはいない」んでしょうね。

 

 

 

 

ところで、映画「カラーパープル」の公開前に

同名の原作本を図書館で見つけて読んだのですが、

シンタラの「ゲットーに生きて」の(稚拙な文章の)朗読を聞いていて、

この本のことを思い出しました。

(人種差別以外にも男たちに虐待される黒人女性の話)

 

 

 

14歳で父親にレイプされて出産したりする話を

書簡形式で綴っているのですが、

ちゃんとした教育を受けなかった黒人女性が書いたことに意義があり、

「無教養文体」というそうで、賞もたくさん受けています。

映画のほうはかなりいじったのか、やたらと楽しそうなんですけど、

なんか見る気にならなくて・・・

でもこういうのこそが、求められる「黒人文学」なんでしょうかね。

 

「白人が求めているのは、真実ではなくて免罪符だ」

 

「差別をしないリベラルな私」であらねばならぬ、

という教育を受けている大人になった人が

自分では「意識高い」と思いながら無意識に差別しているのが

多分、モンクには一番こたえるのかな、と思ったりしました。

 

私なんかが考えてもどうにもならないので、今日はここまで。