映画 「終わらない週末」 2023(令和5)年12月8日Netflix配信 ★★★★☆

原作本 「終わらない週末」 ルマーン・アラム 早川書房

(英語: 字幕翻訳 玄岩瑛子)

 

 

ある週末の朝、クレイ(イーサン・ホーク)が目をさますと、

妻のアマンダ(ジュリア・ロバーツ)がせっせと荷造りをしています。

「夜眠れなくて、貸別荘を検索してたら素敵な物件があって・・・

これから出かけましょう!」

「webサイトを印刷したのとコーヒーをそこに置いたから見て」

「子どもたちもきっと喜ぶわ」

 

後部座席に子どもたちを乗せて車で出発!

ゲーム好きの16歳のアーチー、ドラマ好きの13歳のローズ。

子どもたちはイヤホンしてタブレットを見ているので、

家族にはあまり会話がありません。

 

目的地の家はプール付きのかなりの豪邸。

アマンダがスーパーで買い出ししていると、

水や保存食料を大量に車に積んでいる男を見かけます。

 

家族でビーチに出かけますが、

はるか海の彼方から近づいてくる石油タンカーが気になるローズ。

タンカーは一気にビーチに乗り上げ座礁します。

 

 

家に帰ってその事件のことを調べようとしますが、

テレビは映らずWi-Fiもつながらず。

ローズは楽しみにしていた『フレンズ』の最終話が見れなくて文句を言っています。

そして、なぜか庭にはたくさんの鹿が現れます。

 

子どもたちが寝た後、夫婦で話をしていると、突然の訪問者。

ドアを開けると、この家の持ち主だという黒人の親子でした。

 

 

男はGHスコットと名乗り、娘はルース。

今朝アマンダとメールで連絡を取り合った話をしますが、

アマンダは全く信用していません。

「街は停電で混乱しており、マンハッタンの自宅は高層階なので

ここに来るのが安全と思い、戻ってきた」

「申し訳ないけど泊めてほしい」

というGHを気の毒に思ったクレイは家に招き入れ、

GHはキャビネットを持っていた鍵で空けて高級酒を振舞います。

 

アマンダはまだこの親子を信用しておらず

ルースのちょっと生意気な態度も気に入らず、

とりあえず地下室で寝ることでしぶしぶ承諾。

テレビからは国家非常事態の字幕が映りますが、詳細はわかりません。

 

 

翌日、GHは近所の友人宅を訪問しますが、誰もおらず

倉庫の衛星電話も(充電されているのに)

なぜか回線がつながりません。

 

なにか情報を得るためにクレイも車ででかけますが、

出会ったのはスペイン語で叫んでいるオバサンだけで

言葉のわからないクレイにはどうすることもできず、その場を立ち去ります。

 

ドローンが大量の赤いビラを撒いていたり、飛行機が何機も墜落したり

プールにたくさんのフラミンゴが舞い降りたり、

耳をつんざくようなノイズがながれたり・・・

おかしな現象はその後も続きます。 (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

 

タイトルには「週末」とありますが、これって

この世の「終末」がテーマ?

 

惑星の衝突とか自然災害ではなく、パンデミックでもなく、

何者かが悪意をもって攻撃しているけど、その正体がわからない、

そういう状況に巻き込まれた2つの家族の視点で描いており、

国や自治体はどう対応しているかとか、世界はどう動いてるかとか

外部の情報は全くのゼロ。

そもそもこの2家族以外の人間はほぼ皆無で、(密室ではないですが)

狭い範囲の世界で、疑心暗鬼でおたおたしているシーンが

延々とつづきます。

 

ただキャストはとても豪華なので

あんまり退屈もしないで楽しめました。

 

ジュリア・ロバーツ演じるアマンダは広告代理店の管理職で、有能なんでしょうね。

ただストレスも多くて、人間嫌いになってるようです。

家庭内では有無を言わせぬ行動力で、完全に夫を牛耳っています。

GH親子への対応は、単に「慎重」「注意深い」というより、(本人は自覚してないだろうけど)

黒人(に限らず他人)への偏見や差別があるように思いました。

 

イーサン・ホーク演じるクレイは優しい性格が取り柄の無防備な夫。

アマンダとはまったく逆の性善説論者のようです。

教授のようですが、大学の予算削減で、妻より収入も少ないのかな?

(ただ、途中でこの家の週末のレンタル料が2000㌦とわかるから

けっこうリッチな家族だったんですね)

 

マハーシャラ・アリ演じるGHは、財産も人脈も多いのに、

こういう状況ではその力を発揮できません。

最初、怪しい人物として登場するも、

上品なタキシード姿は完全に「グリーンブック」のドクター・シャーリーだったから

そういう意味では、ちょっとミスキャストだったかも。

 

 

続きです(ネタバレ

 

アマンダたちはこの家を車で出発したものの、

自動運転のテスラ車が無人のまま何十台も暴走して衝突を繰り返し

道をふさいでしまったため、やむを得ずここに戻ります。

 

アーチーが体調を崩し、熱が収まったと思ったら、

今度は前歯がどんどん抜けはじめ、

病院は頼れないので、こういう時のために常に備蓄している

近所のダニー(スーパーで買いこんでいた男)に頼もうと

クレイとGHはダニーの家を訪れますが、そっけない態度をとられます。

危うく銃で撃ち合いになるところをクレイがおさめ、

なんとか1000ドルで薬を分けてもらいます。

 

家から姿を消したローズをさがしてアマンダとルースは森をさまよいますが

気づくとシカの大群に囲まれて、大声をあげて追い払います。

 

そのころローズは無人のソーンズ家の邸宅に入り込んで

ジュースやお菓子を食べていました。

地下にはシェルターのような分厚い壁の部屋があって

何年もいられるくらいの水や食料や電源が完備しており、

シアタールームの棚のなかから、フレンズの最終回のDVDを探し当てたローズは

それをデッキに入れて嬉しそうに再生ボタンを押すのでした。   (おしまい)

 

 

 

今、なんとなく思い出したんですが

昔の黒電話って、電話線としかつながってなかったから

停電してもつかえたんですよね?

今は停電すると、ほとんどの電化製品が「ただの箱」になってしまう。

石油ストーブだって、最近のは停電になったらうごきません。

 

世の中はどんどん便利になるけれど、ひとつのライフラインが断たれただけで

人間は無力になってしまうのだなあと・・・

 

それにしても、

「困った時に役に立つのは『アナログなもの』!」

配信できなくても、円盤があれば観られるし・・・みたいなのを堂々と

Netflix配信でやっちゃうのって、すごいな~と思いましたけど・・・・

 

 

本作は「この世の終わり」の恐怖をず~っと匂わせながら

伏線を回収することなく、その直前で終わってしまうので、

物足りなさを感じる人もいるかもしれません。

(短編ならともかく、140分もあるのにね)

 

 

 

「サイレント・ナイト」も寸止め感ありましたが、

本作はそれよりも前で終わってしまいます。

 

自分の直感を信じ、シカたちの警告に従ったローズが

希望通り「フレンズ」の最終回を見た後、どうなったのか?

あのシェルターで生き延びたのか?(生き延びるのが幸せとも限りませんが)

それとも、シェルターも結局意味なかったのか?

 

 

ストーリーを楽しんだり、ラストにどんでん返しがあったり、

それまでの「違和感」がどんどん回収されて

なぁ~るほど!って話ではなかったですね。

 

危機に直面した時に、どう受け取ってどう行動するか?

そのサンプルが示された気がしましたが、

でも、サンプルとしたら登場人物少なすぎますね。

もしかしたら「人物」じゃなくて「国家」かな?

 

有り余る財と人脈を持ったGH、これは絶対「アメリカ」ですよね。

日本はきっと優柔不断の「クレイ」のような気がするし、

嫌われ者の陰謀論者のダニーは? あまり深く考えないローズは??

 

 

 

あらすじに書きそびれたのですが、

ローズが「ホワイトハウス」のドラマに出てきた話をするシーンがあって・・・

 

川が氾濫するという警報がでて、みんな避難するも、

ひとりだけ「神に祈るから大丈夫」と家から出ない男がいて、

逃げ遅れた人の家にボートが行くも拒否、

ヘリでの救助を試みるも拒否。

結局男は溺れ死んで、天国で神様に

「なんで私を助けなかったのですか?」というと

「警報だしてボートだしてヘリだして、これ以上何をすればいい?」

と言われたという話。

 

 

それから、GHの話のなかで、国家を一番効率的に転覆させるには

①「隔離」   すべての通信や交通手段を絶って国の動きを麻痺させる。

②「疑心暗鬼」 明らかな敵をみせないことで、他人が信じられなくしてお互いを攻撃させる。

③「内戦・クーデター」

ということを言っていましたが、

最後のほうでは海の向こうの街にミサイルみたいなのが撃ち込まれていたので

すでに③の段階まできてしまいましたね。

 

このあとどうなるのか、それは見た人に託されるわけですが、

こればっかりはあまり考えたくないな~