映画 「Winter boy」 2023(令和5)年12月8日公開 ★★★☆☆

(フランス語: 字幕翻訳 横井和子)

 

 

アルプス山麓の村・・道路の脇に十字架と花・・・

高校生のリュカがひとり語りをはじめます。

 

「今の気持ちはいったんリセットしなければ」

「ぼくに何が起きたのか、整理しておきたい」

 

ぼくは平凡な17歳。全寮制の高校に行っている。

親友は寮の友だち、オスカー。

 

2週間前、父の車で学校に戻るとき、急に

「今は勉強しろよ。あとあと後悔しないように」

父は歯科技工士になった自分の人生を悔いているようだった。

直後に、後ろの車に無理な追い越しを掛けられて大きくハンドルを切ると

道端の茂みのなかに落ちてしまい

ふたりとも無事だったが

「母さんにはこのことはいうなよ」

 

今にしてみれば、それは「予兆」だったのかも。

夜中、寮のロワゾン先生に起こされ、父が事故にあったと・・・

パリに住んでいる兄のカンタンもいて、なぜかぼくから目をそらしている。

車で連れていかれたのは病院ではなく、自宅。親戚が大勢集まっている。

「父さんは死んだの?」

泣いているおばさんやおじさんを見て、それは確信に変わった。

 

母さんが二階から降りてきて

「カンタンは夜のうちにパリから戻った。リュカには私から直接言いたかった」

「迎えにいけなくてごめん」

「反対車線のトラックにつっこんで即死だった。まだ病院から戻ってこない」

 

ぼくは

「母さんは若いからやり直せるよ」

としか言えなかった。

しばらくは涙もでなかったが、急に悲しみや怒りが沸き上がり

大声で泣き叫ぶと、みんなが心配してかけつけ、

ぼくは取り押さえられ、鎮静剤を注射された。

 

 

3人で葬儀で流す音楽を選んでいると

「思い出の曲はOMDよ」と母さん。

「これ、教会で流したらダメかな?」といいながら

エレクトロポップにあわせて踊り、はじめて母さんに笑顔が戻った。

 

ぼくは埋葬には列席せずに家で待っていた。

無宗教の父さんを教会で送るのもおかしいし、

親戚たちは ぼくの家で政治論争をはじめだす。

一番気に入らないのは、

「キュレーターとの大事な商談があるから、明日パリに戻る」

「リュカ、母さんを頼んだぞ」

兄のカンタンがそそくさと自分の生活に戻ろうとしていることだ。

ぼくたちをほったらかしにして・・・・

 

ぼくは学校をやめて母さんのそばにいようとしたが

「今までどおり、学校からは週末だけに戻ってくれればいい」

「私は大丈夫、みんなが力づけてくれるから」

 

するとカンタンが

「じゃあ、リュカは1週間パリに来てみるか?」

「仕事でかまってはやれないけど、気分転換にはなる」

               (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

ゲイを公表している監督の自伝的作品ということで

まあだいたい想像はつくものの、

ジュリエット・ビノシュと兄役のバンサン・ラコスト目当てで鑑賞。

 

導入部分のあらすじは、まだ覚えているうちにと思って、ちょっと詳し目に書きましたが、

父を突然失った17歳の少年の繊細な気持ちによりそう丁寧な表現。

 

寮で先生に起こされたときは、

「事故にあった」と聞いてもケガくらいだろうと思っていたのが

兄は目をあわさないし、車の中もどんよりしていて、でも自分から聞く勇気もなく、

「死んだ」と聞かされても、すぐに悲しみはやってきません。

道路脇に転落した直前の事故を黙っていた自分に落ち度はなかったか?

父は(不慮の事故ではなく)人生に絶望していたんじゃなかったのか?

 

親戚のおじさんはおばさんたちは

しばらくぶり会うリュカの成長に思わず微笑んでしまいながらも

空気を読んで急に笑顔を封印したり・・・

父の遺体も葬儀場も映らなくても、

「早すぎる死」のリアルが伝わります。

 

 

 

バンサン・ラコスト主演の「アマンダと僕」のときも

「死」がテーマなのに、葬儀のシーンはありませんでした。

 

ほとんどの日本映画だと、

「遺体との対面」とか「花に囲まれた遺影」とか

何かしらイベントをやらないと前へ進まない感じ。
音楽とかでもりあげて、とりあえず観客を「ひと泣きさせる」のがお約束です。

 

私はほんと、こういうの苦手なので、フランス映画いいよね~

と思いながら見ていました。

 

ただ、この後くらいから、突然思いもよらない展開となり

正直私の頭では理解できず、リュカ目線はちょっと無理!

ビノシュお母さんがいたから、なんとか正気を保つことができました。

 

ともかく、あっさりとストーリーだけを書いておきます(ネタバレ

 

パリに出発の前の夜、リュカは親友オスカーの家に泊まり、

オスカーのベッドでセックス。 (えっ!)

 

パリの兄の部屋に着くも、アーティストの兄は仕事で不在のため

ルームメイトのリリオがギターやジョギングで相手をしてくれます。

 

 

リリオは兄の美大の同級生で包容力のある大人の男性。

リュカはすぐに憧れの気持ちを抱きます。

 

美大の恩師と兄とリリオで食事をしたときに

兄がキュレーターに評価されて展示会が決まったこと、

そしてリリオのほうはアーティストとしての仕事はなく

「反ユダヤ」「女嫌い」の烙印をおされ

生活のためにやっている「駅の駐車係」が正業になりかけています。

 

リリオの書く絵は男色を題材にした際どいもの。

そしてリリオ自身もゲイで、部屋に客を呼んで「男娼」のようなことをしているのを

偶然リュカは知ってしまいます。

 

リュカはその中年の客を外で待ち伏せして自分の電話番号を教え

「今度は ぼくと1対1でどう?」

そしてやってきた男と兄のベッドで「行為」の最中に兄が帰宅し

150フランで性を売っていたこともバレて、家に帰されます。

 

何も知らずに迎えにきてくれた母に

「父さんはわざとトラックに突っ込んだのかも」

というと、怒った母にビンタされます。

母が降りた後の車のなかで、リュカはルームミラーをたたき割り

割れた破片で両手首を切り、救急搬送されます。

 

ケガは大したことなかったものの、自宅には戻れず、

精神病棟に隔離、リュカは言葉を失います。

 

そしてある日リリオが面会にやってきます。

「無言でかまわない。まわりがしゃべってくれる」

「カンタンは話したがらないし苦しんでいる」

「余計なことをいって君を裏切りたくない」

「僕に責任はあるのか?僕には君を責める気持ちはない」

 

(リリオがきてくれたことで)言葉の戻ったリュカに母は驚き

「あなたは一体何をしたの?

凍えていた心が少し解けた」

「あなたは息子に自分の力を与えて人生に送り返したのね」

と、亡き夫につぶやきます。      (あらすじ ここまで)

 

 

兄の同居人である年上のアーティスト、リリオと出会う。

優しいリリオに心惹かれるリュカだったが、リリオにはある秘密があった。

 

作品紹介はこんな感じだったので、素直に考えたら

「リリオの秘密 ⇒ 同性愛者だということ」なんですけど、

今の時代、「秘密」というほどでもない気もするし、

「男娼」のほうは強烈で、さすがにこちらは「秘密」だと思いますが、

ルームシェアの身で、同居人の弟も来てるのに、やっちゃうかなぁ?

 

「リュカはリリオを慕っているうちにそういう感情が芽生え・・・」

という流れになりかけはしますが、

「おれは正真正銘のゲイだが、君は親友の弟だ」

とリリオがその流れを止めます。

 

そもそも高校生のリュカは、親友のオスカーと(キスやハグも越えて)

肉体関係がある!シーンの登場で、

それまでの繊細な映像表現が全部すっとんでしまいました。

寮の先生や親は知っているのか?

うすうす気づいてはいるけど黙認しているのか?

 

「父さんは8歳か9歳のときにぼくがゲイだと気づいていた」

というセリフはどこかでありましたが、

母は絶対に知らないと思うけど・・・どういう設定?

 

兄カンタンも弟がゲイだと知りつつ、弟の世話をリリオに頼んだのか?

両親は息子がゲイだと知りつつ全寮制の学校にいかせたのか?

 

本作はR15では足りないくらいの生々しい性描写があって

(予告編にあった匿名の相手とのベッドシーンもあり)

新人の若い俳優、それも大女優の息子にこんなことまでやらせるんだ!

と驚きましたが、それ以上に

パリにいってからの予想外の展開に頭がついていけませんでした。

 

父を亡くしたショックで、「なにかが壊れた」ということで

酒や薬物に依存したり、鬱になったり・・・ではなく、

リュカは、行きずりの知らない男たちに自分を「犯させた」わけですよね?

これは広い意味の「自傷行為」なんでしょうかね?

すみません、頭のなかがまとまりません。

 

 

待っていたら何世紀もかかる」

「物事はすぐ変わる」

「だから待ちたくない

 

これはリュカの若さからくることばなのでしょうか。

若者は待ちたくないんですね(時間はたくさんあるのに)

 

行動を起こして傷ついて振り出しに戻って

それでもまたやり直せるのが「若さ」なんでしょうね。

 

残された時間の少ないはずの母親は

ここで今までどおりの生活をして、お父さんのいない日に慣れるのを待つ

 

いつも話しかける相手は いなくなった亡き夫で

「いない日に慣れる」というより、自分のなかで同化していくんでしょうね。

これも「悲しみの乗り越え方」だと思い、

私はこちらには強く共感することができました。

ビノシュのたしかな演技が心に沁みました。

 

冒頭だけで登場した父親役は、監督自身なんですって!

これも素晴らしい演技でした。

 

リリオがストールを「真知子巻き」してる!

よく似合ってました~

 

 

 

「ウィンターボーイ」というタイトルの意味とか

コロナ禍での「マスク着脱のタイミング」とか、

「反ユダヤ」「移民差別」「人種差別」のパリでの実態・・・

疑問点ばかりが浮かんできて、考えがまとまりません。

 

多分好きなジャンルの作品だと思うんですが、

予備知識がなさすぎて話についていけない、というのが実態。

 

また後日、書き直すかもしれません。

 

 

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