映画 「シチリア・サマー」 2023(令和5)年11月24日公開 ★★★★☆

(シチリア語・英語; 字幕翻訳 高橋 彩)

 

 

1982年シチリア島。

ごつごつした白い岩を登っていく年配の男性と若者と幼いトトの3人。

銃でウサギを狙い、何度か失敗するも、最後には仕留めて意気揚々と凱旋。

 

場面かわり、街なかのカフェの前では

ワールドカップ、対ポーランド戦のテレビ中継に夢中な男たち。

目の前のバイク整備工場で働くジャンニが通りかかると

よってたかってからかいはじめます。

「美人のジャンニちゃ~ん」といいながら

強引に口紅を塗ってしまう男たち。

「何してる?こいつにかまうな」

そこへやってきたボス格のトゥーリのひとことで

男たちはからかうのを止めます。

 

先ほどのウサギ狩りの3人が家に帰ったところで

ようやく3人の関係がわかります。

年配の男性は砕石工場の経営者のピエトロ、

髭もじゃのその弟が花火師のアルフレッド

ニーノはアルフレッドの長男で、トトはその弟・・・ではなく

ニーノの姉のイザベラの息子。

つまり16歳のニーノはトトのおじさん

そして、ニーノのおじさんがピエトロ、という関係でした。

 

 

アルフレッドの妻のカルメラは料理じょうずで、ウサギ料理もお手のもの。

近所の人をあつめて食事することも多いです。

この日、ニーノは卒業祝いにおじいさんの時計をもらい

バイクも買ってもらって大喜びです。

 

 

一方、17歳のジャンニにはこんな暖かい家庭はありません。

食事は缶詰をお皿にあけただけ。

父はおらず、母のリーナは、バイク修理工場のフランコに養われ

息子のジャンニもそこで働かせてもらっています。

フランコはいつもジャンニをやっかいもの扱いしますが

リーナは何も言い返せすことができません。

「矯正施設にいれとけばよかったのに、なんで引き取ったのか!」

と、いつも責められています。

 

その日も近所のチンピラにバイクで追いかけられていると

道の合流地点で、バイクで走っていたニーノとぶつかってしまいます。

「ぼくの不注意だった」

ニーノが名前と住所を書いた紙をジャンニに渡し、

バイク工場を辞めたいジャンニが職探しのために花火工場を訪れたことから

ニーノの家で食事もするまでの関係になります。

 

「父はドイツで働いていて、ぼくの尊敬する人だ」というジャンニに

「お前らも見習え!」とアルフレッド。

ニーノとジャンニはしょっちゅう会うようになり、

親友か兄弟のような親密さとなります。 (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

 

 
2年前のフランス映画「Summer of 85」のプロモーションが
ティモシー・シャラメの「君の名前で僕を呼んで」を意識しすぎ!・・・
と、その時ブログにも書いたのですが、今回はそれ以上に近いかも。
 
美少年がでてくる話は、どこの国のおばさんもおねえさんも(に限らずですが)
大好きですもんね!
 
 
でもバイクに乗っているシーンが多いから
「Summer of 85」にもかなり(ポスタービジュアルは)似ています。
 
 
なので、本作も、そのプロモーションから、
美形の男の子ふたりが登場する
甘く切ないボーイズラブだと思って見にいく人が多いと思いますが
実際はゲイへの差別的描写がえんえん続いて、ちょっと辛くなってしまいます。
 
40年前のシチリアの設定なので、それ以外にも
日本人の感覚ではついていけないことだらけ。
未成年者に平気で銃を撃たせるし、安定のノーヘルだし
事故車のバイクを平気で納品しちゃうし、
花火の横でタバコ吸っちゃうし、
酷い喘息なのにタバコやめられないし、
若者もオジサンも昼間から働きもせずぷらぷらしてるし・・・
 
「それなりに仕事してる」シーンはありましたが、
学校に行ったり勉強したり・・・も一瞬もなかったですね。
(個人的にはけっこうイライラしながら見ていました)
 
 
日本がようやくワールドカップに出場できるようになったのは1998年。
40年前に熱狂したのは、日本では一部のファンでも、
サッカー国イタリアでは国民あげての大イベントだったんでしょうね。
 
ジャンニとニーノがどんどん仲良くなっていく場面は
ボーイズラブの好きな人向けにいろいろサービスショットもあったりで
意識して美しく撮影している感じでした。
 
 
手足が長くてすらっとしたニーノは、誰もに好かれる良い子で、
小柄で筋肉隆々の体育会系のジャンニは
影のある表情を要求されるけっこうな難役。
演じた新星のふたりはそつなくこなしていました。
これからブレイクするんだろうなぁ。
ちなみに、ジャンニ役の人はアスリートではなく、ダンサーだそうです。
 
 
続きです(ネタバレ
 
ジャンニはピエトロの採石場での仕事も決まり、仕事ぶりも評価されますが、

新入りの作業員のなかに、知り合いのチンピラがいるのに気づき

「熱が出たので・・・」といって早退してしまいます。

 

いつものようにバイクで迎えに来たニーノは、早退したことを聞き

心配してジャンニの家に行くのですがまだ帰っておらず。

近所のチンピラたちから、「ヤツは男好きだ。気をつけろ」といわれます。

 

ジャンニから

「勝手にオレの家にくるな!」といわれると

熱もないし、父親もいないんだろ?

ウソをつく友だちはいらない

 

初めて言い争いになりますが

正直にうちあけるジャンニに

きみといっしょにいたい。解決をさぐろう

ということになります。

 

夏の間はお祭りが多く、花火師のアルフレッドはニーノを連れて

連日大忙し。

肺に問題をかかえるアルフレッドはひどい呼吸困難に陥り、

ドクターストップがかかってしまいますが、仕事はキャンセルできず。

そこで、ニーノがジャンニをアシスタントにオート三輪で現場をまわることに。

花火は大成功。

父アルフレッドは、ジャンニに感謝することしきりです。

 

ところが、ひとり、母のカルメラだけが暗い表情をしていました。

ふたりのことが近所のうわさになっているのを知っていたからでした。

 

そのころ、ジャンニの母リーナも苦しんでいました。

ある日ふたりが出ていくのを見送ったリーナは、意を決して電話をかけます。

 

「ジャンニの母です、いつも息子にありがとうございます。

だからこそ、お伝えすべきだと・・・

息子は悪意あるうわさで嘲笑されています。

(おたくの)息子さんは今引き返せれば、明るい未来が待っている・・・」

 

電話の相手はニーノの母。

このことを聞いた父アルフレッドはすぐにバイクを走らせ

花火の打ち上げ現場にいるジャンニを追い払い、

姉のイザベラは

「トトもなにかイタズラをされたかもしれない」

と、半狂乱になります。

 

そして、ニーノにたいする「取り調べ」

ああいうやつには反吐がでる。知っていたら家になんか呼ぶわけない

と躊躇なく答え、その場は収まります。

 

一方、ジャンニは母がなにかいったのかと疑っていました。

私は母親よ。前にもおともだちを破滅させたでしょ?

あの子の人生を狂わせるくらいなら、矯正施設に行きなさい

 

ジャンニの家のまえには

「ゲイに認定」の落書きが・・・

 

ジャンニはまたバイク修理の仕事に戻りますが

突然、見知らぬ男たちに取り囲まれ、暴行を受けます。

 

 

この年のワールドカップ

決勝で西ドイツを下し、イタリアが世界一!

大騒ぎをする人々をあとにバイクで走り出すふたり。

「おれは逃げない」

ふたりは手をつなぎ、お気に入りの水辺に横たわります。

そして銃声が2発・・・   (あらすじ ここまで)

 

 

エンドロールでは

本作の元になった「トニとジョルジョの事件(ジャッレ事件)」のことが。

1980年、ふたりの若者の死をきっかけにイタリアでは同性愛権利運動、

そしてゲイに対する法整備がすすめられたことが伝えられます。

 

事件についての詳しいサイトが見つからないので

とりあえず概要を書きますと・・・

 

1980年10月、シチリア島の東の田舎町ジャッレ。

25歳のジョルジョと15歳のトニが手を取り合ってレモンの木の下で

死んでいるのが発見されました。

ふたりは同性愛者で、地元では差別を受けており、心中と思われたのですが

実は何者かに銃撃された他殺体でした。

 

地元民は沈黙を貫き、捜査は難航。

やがて被害者の13歳の甥が犯人とされますが、

刑事責任を問えない年齢なので、ほかの人物が教唆したのか・・・?

事件は迷宮入りになっているそうです。

 

 

映画のなかでも、終盤、

ピエトロが幼いトトに銃の扱いを教えるシーンがあり

ちょっと匂わせはありましたが、

ラストシーンは銃声だけで、まったく説明はなし。

普通にみたら、「覚悟の心中」に思えましたが、

どちらにしても悲惨な結末です。

 

カフェの前でたむろしている半グレみたいなクズな連中は

どの世界にも一定数はいて、

奴らはゲイに限らず、なんでも嘲笑の対象にするんですが、

怖いのは「その他大勢の良識ある人」たちが

同性愛者への差別にたいして全く無関心な事。

その場でジャンニをかばってくれる女の子がひとりいるだけで

ほかの大人たちもみんな無視を決め込んでいます。

ボス格のトゥーリは彼女の手前、仲間をたしなめてくれますが

気にさわることがあると、即、加害行為へと。

 

そのほかの地域住民たちは、

直接差別行為をすることはなくても、

「かかわりたくない」

「自分の家族を守りたい」という思いを持つ人がほぼ全員で、そのなかには

(家族以上に)自分の会社や地域や社会や、あるいは宗教的理由で

自ら手を下す人がいるかもしれません。

 

映画のなかでも、

チンピラ連中は下劣なやりかたでからかって面白がってるだけでしたが、

アルフレッドは息子を守るために必死で罵り、

チンピラたち以上にジャンニを傷めつけるように命令したのは

良識あるはずのあの人では?と思わせるカットもありました。

 

ここで感心するのは、

同性愛者を否定する人たちをステレオタイプの「悪人」にはしてないんですね。

宗教上の理由で(バチカンのお膝元ですから)

どうしても認められない人もいるでしょうし、

普段は「差別主義者」とも思えないような人が

でも、自分の息子がかかわるとなると、冷静に対処できなくなります。

 

最後の方で、近所に住む年上の男性がニーノに

「まわりの大人たちはオレのことを知った気でいるが、そんなはずはない」

「疑っているとしても確証なければ手出しはできない」

「秘め事にしておけばいいのさ。それなら100年たっても続けられる」

と言っていたことばが印象的でした。

 

40年たった今、

世界は同性愛に対し容認・権利向上の方向へ舵を切っているように思えますが

それは理想に向かっているのか・・・正直わかりかねます。

(今回は個人的な思いは控えさせていただきますね)

 

ところで、この映画と実際の事件を比較して

一番大きく違うのはふたりの年齢です。

もしジャンニが17歳ではなく、実話どおりの25歳だとしたら、

ボーイズラブというより、ニーノは完全に「被害者」となってしまうから、

敢えての「同世代」だったんですね。

ただ、「前にも友だちを破滅させたでしょ?」という母リーナの言葉からすると

ホントは25歳の方がしっくりするんですけどね。

 

ともかく、きれいなだけのプロモーションとは大違いで、

厳しい現実を突きつけられ、考えさせられる作品でした。

 

特にふたりの母親の気持ちが胸に迫ります。

オススメ!