映画 「ナイアド~その決意は海を越える~」 2023(令和5)年10月20日公開・11月3日Netflix配信開始 ★★★★★

(英語・スペイン語; 字幕翻訳 風間綾平)

 

 

1979年、マラソンスイミングの第一人者、若き日のダイアナ・ナイアドは

バハマからフロリダまでの横断に成功、そのインタビューのなかで

「キューバからフロリダまで泳ぐのが私の最終目標、それができたら引退する」

と言っていました。 (ここまでは当時のアーカイブ画像)

 

 

それから30年後、

還暦のダイアナ(アネット・ベニング)は親友のボニー(ジョディ・フォスター)と買い物をして

ぶつぶついいながら帰りにボニーの家に立ち寄ると

なんとサプライズの誕生日パーティに迎えられます。

 

どうやらボニーの企画で、同性愛者を集めたパーティのようで、

「白いパンツの彼女どう?」

「あなたの大ファンよ」

ボニーはダイアナに新しい「お相手」を紹介するつもりでしたが、

ダイアナはあまり乗り気でないようです。

 

 

ダイアナは母の遺品整理でメリー・オリバーの詩集を見つけるのですが、

「あなたは一度きりの人生で何をするつもりなの?」

と書いてあるページを母が折っていたのは、

自分へのメッセージではないかと思い、

再び泳いでみようと思うようになります。

 

公営プールでほかの人に交じって泳ぎの練習をはじめ、

少しずつ距離を伸ばしていきます。

「キューバは音楽と楽器に満ちた魔法の国」

と言っていた父のことばも思い出され、

30年の間、誰もまだなしえていない(自分自身も若いころ1度失敗している)

フロリダ~キューバ横断への挑戦心がふつふつと再燃してくるのです。

 

ボニーに話をすると当然のことながら、即、却下されます。

「28歳のときにダメだったのに60歳でできるわけない」

「合コンやセラピーをやれとはいったけど、また泳げとはいってないわよ」

とボニー。

「若い頃は体力はあったけど、マインドが欠けていた」

 

結局ボニーが押し切られる形で、ボートでの並走に協力し、練習スタート。

ところが、60時間泳がなきゃいけないのに

寒さのために4時間ちょっとギブアップです。

でもこれであきらめるダイアナではありません。

 

「自分を追い込み、体をピークに持っていく」

人間には無理な挑戦だといわれると、さらに闘志が沸き上がります。

 

ただ、実現するには、まずはスポンサー探し。

優秀な航海士や船長やトレーナー、それに

「サメ用のゲージを使っての参考記録」はイヤ、

ということで、サメ対策も必要になります。

 

さて、ナイアドの無謀な再挑戦はいかに??

               (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

映画館での上映はほんのわずかだったので、

結局Netflix配信で観たのですが、

イオン板橋でこのチラシを見たとき、

最初、誰かわかりませんでした。

ピンクのキャップだから女性?

まさかアネット・ベニング??

 

「ロスト・ドーター」でのオリビア・コールマンのでっぶりした水着姿にも

ひえ~!と思ったんですが、

プールのデッキチェアでくつろぐだけじゃなくて、

今回は、外洋を不眠不休で60時間も泳ぎ続けるのですよ。

 

冒頭、ダイアナ・ナイアド本人が登場していたので、

多分泳ぐところは実際の映像をつかい、

ドラマ部分を女優たちが演じるのかと思っていたのですが

なんと、泳ぐシーンも吹き替えなしでした。

 

ダイアナ・ナイアドのチャレンジも果敢で無謀だけど、

女優オーラをかなぐり捨て、還暦越えの体を晒してこの役に挑戦した

アネット・ベニングもこれに匹敵すると思いました。

(泳ぎのフォームもきれいで、「60歳の元スイマー」の設定が全く違和感なくてびっくり)

 

 

挑戦のスタート台にたつには、なにはともあれ、資金集め。

還暦すぎた元スイマーの30年のブランク後の再挑戦には

そうそうスポンサーになってくれるところはいません。

(以前はベニハナのロッキー青木がお金を出してくれたそうですけど、亡くなっちゃったし・・)

 

それから、航海士の選択も重要です。

前回は航海士の判断がマズくて失敗したとダイアナは思っていて

この海を知り尽くしているジョン・バートレット(リス・エヴァンス)に

力を借りることができました。

 

サメ対策のために参加した若い専門家のお兄ちゃんは、

「あいつらが食べるのはアザラシだから、

(人間に近づくのは)アザラシかどうか確認するため」

といって、棒の先にテニスボールをつけたので突っつくのが撃退法とか。

大丈夫か?

 

このあと、毒クラゲの女性研究者も加わるのですが、

彼らはアドバイスするだけじゃなくて、船に同乗してチームの一員になるわけで

本当に全員が命懸け!

 

ダイアナに惹かれるものがあって、

みんな、無償でチームに加わってくれるんでしょうけど、

ダイアナは常に「自分は人より秀でていたい」「秀でている」と思っていて

いつも上から目線なんですね。

ベテラン航海士のジョンがプロの立場からアドバイスしても

「私がCEOよ」と、譲りません。

人間としては、けっこう難しい面倒なタイプのようです。

 

 

 

実際は、ボニーが間に入ってとりなしてくれてるんですけど

ダイアナはそれに気づいていないのか

気づいていても、それで当然と思っているのか・・・って感じです。

 

そんな唯我独尊の世界をいくダイアナですが、

過去には父親の母親に対する壮絶なDVを日常的に目撃していたり、

家にいたくなくて水泳に打ち込み、かなり上達するものの

そこで熱心に教えてくれるコーチから性的被害をうけたり

なかなか辛い過去も背負っています。

 

延々と外洋を泳いでいくなかで、

過去のトラウマになっていることがフラッシュバックしたり

逆に嫌だった父やコーチとの幸せだった瞬間がよぎったりもします。

 

 

ダイアナ・ナイアドが64歳で前人未到のチャレンジに成功したことを

あらかじめ知ったうえで観る人が多いと思うので、

ネタバレ表示のタイミングが難しいのですが、

とにかく、還暦過ぎのチャレンジもすぐには成功とはなりません。

 

若いライバルの女性スイマーがダイアナたちの計画をそのまま真似して

チャレンジするニュースが流れて動揺する場面もありましたが、

クラゲで途中棄権したことが伝えられると、大人げなくガッツポーズ!(笑)

 

失敗となった回(28歳で一回失敗したのち、60代になっての再チャレンジでも3回失敗)でも

ダイアナは自分から止めるとはいわず、大嵐のなかでも泳ぎ続けてしまうので、

ボニーたちがどう説得するか、これも難しいです。

 

3回目(30年前も含めると4回目)の失敗の後、さすがのボニーもさじを投げ、

ジョンからも、本職がおろそかになって借金で首がまわらなくなってしまったため

もうこの仕事からは降りるといわれます。

 

それでも、ひとりふたりとメンバーが戻ってきて、

ついに4回目のチャレンジが実現するんですね。

 

それまでの苦労が長かっただけに

ラスト、フロリダ、キーウエストの上陸シーンは本当に感動。

ここでようやく、実際の映像も挿入されます。

 

 

長いこと水中にいたから、重力で足もおぼつかず、まるで半魚人みたいなんですが、

アネット・ベニングはこういうのも全部、忠実に再現していました。

 

成功した原因を聞かれ、ダイアナは答えます。

 

① 決してあきらめないこと

② 夢を追いかけるのに年齢は関係ないこと

③ これは孤独なスポーツではなく、チームのスポーツだということ

 

文字に起こすと、なんてことないのですが、

あそこで聞くと、これが感動的!

とくにダイアナの口から③の言葉が出るとは思いませんでした。

 

 

前列中央のサングラスがボニーとジョディ・フォスター、

後列のショートカットがダイアナとアネット・ベニング

 

 

 
 

映画のなかと実際のマラソンスイミングの違いを説明していたサイトもありました。

映画では1台だったサポート船が実際には5台。

というのが大きな違いでしたが、それは別にいいんじゃないの?

ゴールのときメイクばっちりだったり、お肌もつるつるだったりしたら

それはダメですけどね(笑)

 

ダイアナ・ナイアドをすばらしい偉人のように描いてもいないし、

Lgbt設定もごくごく自然だったし、

「実話の映画化」としては、バランスよくできていたと思います。

 

それにしても、

4回目の過酷なチャレンジが(成功する以前に)成立したのも奇跡ですが

こんな過酷な仕事をトップ女優2人が受けたのもありえない奇跡だと思いました。