映画 「バーナデット ママは行方不明」 2023(令和5)年9月22日公開 ★★★★☆

原作本 「バーナデットを探せ!」マリア・センプル 彩流社

(英語:字幕翻訳 石田泰子)

 

 

明るい南極の海。グループから離れて浮かぶカヤック。

それを漕いでいるのが、この映画の主人公バーナデットです。

 

その5週間前。

シアトル在住のバーナデット・フォックス(ケイト・ブランシェット)は

家族3人で元教護院の古い屋敷に住んでいます。

夫のエルジーはマイクロソフト社のエリートエンジニアで

娘の中学生ビーも超優等生。

「オールS」のご褒美にビーは「南極に家族旅行」を希望しますが

極度の人間嫌いのバーナデッドは

バーチャル秘書にいろいろ手続きを代行させるものの

他の観光客と一緒になるのが憂鬱でなりません。


特に隣に住むオードリーとは犬猿の仲で、

境界を超えてはびこるブラックベリーの茂みを勝手に伐採しようとしてるのを目撃。

「私有地につき立入禁止。毒女は刑務所へ」と看板をたてます。

ブラックベリー伐採にはしぶしぶ許可を与えますが、

大雨の日、オードリーの家でのパーティの最中に裏山が崩れ

大量の土砂が家のなかになだれ込んでパーティはめちゃくちゃ。

(ブラックベリーの根が斜面を支えていたのでした)

 

バーナデットはかつてマッカーサー賞を受賞、

環境に配慮した斬新な建築をつくる新進気鋭の天才建築家として

脚光を浴びていた時代がありました。

地産地消の「20マイルの家」は特に有名で、今でも時々は

建築家を夢見る若者に道で声をかけられることも。

 

ところが、結婚後、トラブルで仕事をやめ

シアトルに移住して専業主婦となります。

やっと授かったビーは立派に成長しましたが、

建築家の家とは思えないボロ家に住み、「変わり者」の人生を歩むことに。

 

 

バーナデットは昔の同僚の建築家ポールに街でばったり再会。

「君は創造するために生まれた。それをしなければただの厄介者」

「さっさと仕事に戻れ!」

とはっぱをかけられます。

 

不眠症のバーナデットが薬局で爆睡してるのを目撃したり、

大きな瓶にため込んでいる大量の薬が気になり

夫のエルジーはおなじころ、

精神科医の女医、カーツに相談をもちかけていました。

「隣人に強くあたりちらすのは、極度の不安と優越意識。

自殺願望もあるかも」と。

 

ある日突然、FBIの捜査官がやってきて、

バーナデットのバーチャル秘書のマンジェラというのはいかさまで

バーナデットがカードの番号もパスワードもその他個人情報も

すべて託していたため、資産を乗っ取られようとしている・・・

といわれます。

 

帰宅したバーナデットにもこのことが伝えられ

「南極にはエルジーとビーが行き、バーナデットは治療に専念」

と聞かされた彼女は、トイレにいくふりをして逃亡します。

                 (あらすじ とりあえずここまで)

 

                

リンクレーター監督の家族ドラマは、

子どもから思春期を経て大人になるまでの成長と

親子の関係を丹念に描いているものが多く、

軽やかな語り口なのに

大河ドラマのような重厚さがあり、共感度も高いです。

これにケイト・ブランシェットがどう絡むのか?すごく楽しみだったんですが、

これ、新作じゃなかったんですね。

 

なんと2019年の作品!

ケイト・ブランシェットは翌年のGG賞の主演女優賞にノミネートされていました。

(オークワフィナが「フェアウェル」で獲った回です)

 

 

その時のブログを見たら、5月に公開予定になってましたが、

なんで流れちゃったのかなぁ??

 

それはともかく、予告編も

「ママは行方不明」という副題も、完全に娯楽作モードですが、

いやいや、そんなことはなかったです。

 

つづきです(ネタバレ

 

アンジェラがインド人のバーチャル秘書と信じて、すべてをまかせていたのは

実はロシアの犯罪グループでした。

幸い空港で出国直前にFBIが確保したため、

実害はなくてすみました。

 

しかし、家から消えたバーナデットはいくら待っても姿をあらわしません。

南極行きをあきらめたエルジーとビーでしたが、

出発予定日になって、隣のオードリーから、

「私が空港まで送っていった」

と聞いてびっくり。

 

なんとトイレから逃げ出したバーナデットは

一番嫌っていたオードリーの家に逃げ込んで

今まで匿ってもらっていたのでした。

 

あわててバーナデットを南極までおいかけるふたりですが

なかなか遭遇できず。

 

一方、バーナデットは、すでにパーマー基地にやってきており

観測拠点にする新しい基地建築の計画を聞くと、

どうしてもその設計をやりたくなりました。

「設計するまえにその土地に自分で済むのが私の流儀なの」

(密航者だけど)なんでもするからここに置いて!」

 

そして電話を借りて、自宅の留守電にメッセージを残します。

「風力発電でカニ歩きするドーム型の基地をつくるの」

「私は前に進む」

「5週間留守にするけど、了解をとりたいの」

 

それを後ろで聞いていたエルジーとビー。

「もちろんOKよ!」             (あらすじ ここまで)

 

 

観測隊でもない人が観光で南極に行くとか、ハードル高そうですが、

上陸しないのであれば、わりと簡単に行けるそうです。

 

それにしても全く準備なしで基地まで行っちゃうなんて・・・

この辺はあんまりリアリティないけど、

「おはなし」ということで片付けていいのかな?

 

ただ、天才建築家でありながら

あんな雨漏りする家を直す気力もなかった彼女が

まさに自分の出番を見つけてキラキラを目を輝かせるのですよ。

 

今まで冬眠状態だったクリエイターの血がたぎったのでしょうね。

 

専業主婦になって家事と子育てをする道を選んだのは本人なのに

それまでは、ずっと鬱屈とした日々を送っていたわけです。

エリートの夫と学業優秀でみんなに好かれる娘がいたら

もうそれで充分!と私なんかは思っちゃいますが

彼女のメンタルはいい状態を保てず

常に敵をつくって攻撃的になってしまう・・・・

 

 

それにしても、お隣のオードリーとの喧嘩には

国民性を感じてしまいました。

日本人だったらここまで派手にはやらないでしょう。

 

オードリーの方も息子との関係に悩んでおり

いきなり「助けて~」とやってきたバーナデットと

本音で話をするうちに、和解してしまいます。(ほんとに?)

 

シアトルといえば、スタバ、アマゾン、マイクロソフトを連想しますが、

「シアトルフリーズ」ということばがあって、

よそ者とは壁をつくって、距離を置き、

ごく親しい人だけで打ち解ける傾向にあるそうです。

バーナデットは、早い時期から「変な人」の烙印をおされちゃったのかもね。

 

 

一番印象に残る曲は

シンディー・ローパーの「タイム・アフター・タイム」なんですけど

ビーが企画した1年生用の出し物「ぞうさん」が

ほんとにあの まどみちおと團伊玖磨の「ぞうさん」で

泣きそうになるほど感激しました。

これ、どこかでもう一度聞きたいです。

 

 

原作は、

Eメールや請求書や診断書や調書や書簡といった文書資料が

(画像ではないけれど)いろんなフォントで次々に登場し

それで話が進んでいくものです。

 

最初はビーの「オールS」の成績表、

バーナデットが車を急発進させてオードリーにケガをさせたときの

診断書や治療費の請求書・・・から始まります。

 

そのちょっと「とっちらかった」感じ。

映画にも生かされていたように思いました。