映画「CLOSE /クロース」 2023(令和5)年7月14日公開 ★★★★☆

(フランス語: 字幕翻訳 横井和子)

 

 

暗い納屋に隠れて息をひそめ

「敵から追われてる」設定で身を隠して遊んでいたと思ったら

外に出て思い切り走る・・・・!

ほっそりした体躯の13歳の少年、レオとレミは

幼なじみで、大の親友。

 

 

今日もレミの家に泊って兄弟のようにすごすレオ。

レミのパパもママも家族のように迎えてくれます。

 

新学期のはじまった中学校でも同じクラスになれたふたり。

授業中もとなりの席で体を寄せ合ってるふたりに

クラスの女の子が尋ねます。

 

「ふたりはすごく仲がいいよね。

 もしかしてカップルなの?」

 

レオはちょっとムッとして

「ぼくたちは親友。幼なじみだから兄弟みたいなものだよ」

 

「深い意味で聞いたんじゃない。」

「もし付き合うことになったら教えて!」

 

中性的な風貌のレオを

「おんなおとこ」とからかう悪ガキもクラスにはいて、

レオは少しずつレミを避けるようになってきます。

 

今まではぴったりくっついて眠っていたのに

レミが布団にはいってくると反射的に拒否するようになり

レミはそれがショックで自室にとじこもり、食事もしなくなります。

 

 

レミは楽団でオーボエを吹いており、かなりの腕前。

ソロで演奏するコンサートには、もちろんレオも観にいきますが、

一方で、「男っぽい部活」を求め、クラスメートのバティスタにも誘われて

アイスホッケー部に入部を決めます。

 

練習場にレミが見にきているのを知ると

気になってよそ見をしてしまうレオ。

「楽しそうだね。ぼくもやろうかな。ダメ?」

というレミに冷たく当たってしまうのでした。

 

兄といっしょに家のファームの収穫の作業を手伝うことも増え

学校では、レミをいつも目で追いながらも

人目を気にして、レミのことを避けるようになります。

 

いつも朝は並んで自転車で登校していたのに

レミを待たずに学校にきてほかの子といっしょにいるレオに

レミは人前で激しい感情をぶつけ

先生に取り押さえられたこともありました。

 

クラスの課外授業の日、レミは欠席していました。

帰りのバスのなか、先生たちの様子がおかしくなり

あちこちに電話をしていて

「学校に保護者が来ているから、体育館に集合するように」

 

レオは胸騒ぎがして、バスから降りられません。

すると、レオのママがバスに乗り込んできて・・・・

            (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

「Girl/ガール」という、トランスジェンダーのバレリーナの映画でデビューした

ルーカス・ドン監督の2作目、

監督自身もゲイを公表しているので、予告編をみるまでもなく、

そういう作品なんだろうと誰もが思いますが、

性自認やそれに対する偏見というものではなく、

もっと普遍的な誰もが経験するような

「孤独」や「いらだち」、「後悔」「懺悔」や「再生」などがテーマでした。

 

「サントメール」は、正直「予告編詐欺」と思いましたが、

本作は逆にそれを超えてきていて、うれしい誤算でした。

 

続きです(ネタバレ

 

「問題が起きたの。レミが・・・」

レオのママは絶望の表情をしています。

「言って!レミは病院にいるの?」

ママは首をふって泣き出し

「もういないの」

 

翌日は兄チャーリーのバイクに乗せてもらって学校へ。

クラスではカウンセリングが行われ

ひとりずつ自分の気持ちを吐き出すようにいわれますが

「話したいことはありません」とレオ。

アイスホッケーの練習にも参加します。

 

 

葬儀のときのやつれ切ったレミの両親の表情。

学校のロッカーのレミの荷物をとりにきた

レミのママ、ソフィと目があって、レオはいたたまれなくなります。

 

「レミはいつも笑顔で楽しそうにしてた」

「ハッピーな子だった」

などとクラスメートがいうのを聞いて

「なんでハッピーだなんてわかるんだよ!」

と声を荒げるレオ。

「感情をもつことは自由よ」

と、先生にたしなめられます。

 

眠れないときはチャーリーのベッドにもぐりこんで

兄の寝息を感じながらやっと眠れたり

何も言わなくてもいつもレオを受け入れてくれる兄でした。

 

 

アイスホッケーで体を鍛えたレオは、

花の苗や重い肥料の袋もらくらく担ぎ、

仕事の後に兄とふざけたり、

クラスメートのバティスタの家に泊まりにいくことも。

 

ようやくレオはレミの家に行こうと思いました。

犬もソフィーもしばらくぶりに会うレオを歓迎してくれます。

「髪切った?似合うね」とレオ。

その後も家族で夕食をごちそうになったり

レミの両親と交流できるまでになりましたが、

チャーリーが卒業後のことを聞かれ

「まずは恋人と1年くらい世界を旅したい」

と嬉しそうにいうのを聞いて、

こんどはレミのパパ、ピーターの涙が止まらなくなります。

 

 

 

レオはアイスホッケーの試合で負傷し、ギプス生活へ。

やがて1年生の終業式。クラスメートと喜び合います。

 

レオはバスにのってソフィーの働く病院へ。

「今は仕事中だから」と、白衣のまま車で送ってくれますが

その途中

「ぼくのせいだ。ぼくがレミを突き放したから・・・」

ソフィーは車をとめ

「降りてちょうだい!」

 

我にかえったソフィーは森のなかでレオの名を呼び

ふたりはハグして泣きじゃくります。

 

次にレオがレミの家をたずねたとき、

犬の鳴き声はせず、家はすでに空き家になっていました。

 

レオの家の広い農場にはいろとりどりの花が咲き誇っています。

                   (あらすじ ここまで)


 

レオ役のエデン・ダンブリンは中性的な魅力のバレエダンサーだそうなので

なんとなくトランスジェンダーを匂わせるような予告編でしたが

それは明らかに誤解で、ただ普通に仲のいい親友、

あえていえば「クィア(Queer)」ということになりますが

定義づけする必要があるんだか・・・・?

「怪物」のあのふたりの少年と同じく、学校という集団生活の中で

無邪気なふたりの関係がゆがんでいくんですね。

 

ただ、激しい差別があったというほどでもなく、

「君たちカップルなの?」と聞いてきた女子が

それほど悪いことをしたとも私は思えませんでした。

陰で話をふくらませて噂するより、思ったことは直接ぶつけるのがいいと思う!

 

「レミの自死」という最大の事件について

ほとんど語られないのもすごいですね。

「レミのママが自宅で発見した」

最初に家を訪ねたときのドアノブがこわれていたことから

だいたいは想像できるけれど、この部分をくわしく語らないのも

事件そのものの衝撃よりも

人はつらいことをどうやって克服するか、

絶望の淵からどうやって立ち直るか

のほうが大事なことだから。

 

レオにはこの無口な兄チャーリーの存在が大きかったですよね。

せめてレミにも兄弟がいればよかったのか・・・・

 

 

レオの家は公式サイトでは「花卉農家」ということなので

鑑賞用のいろとりどりの花を栽培しているようでしたが、

花束にするような収穫方法じゃなかったですよね。

なにかいろいろ気になりますが

ともかく、女性的で美しい花の栽培は全くの肉体労働で

レオのことを暗喩しているような気もします。

ギプスも時間経過を表すとともに

心の傷の治療の暗喩になっているのでしょう。

 

ところで、

レオ自身の身のこなしはどう考えてもバレエのほうがしっくりきますが

アイスホッケーもかなり入れ込んでいますよね。

こころなしか体もがっちりしてきて、

最後のほうでは格闘技の選手みたいに耳がつぶれていてびっくり。

 

アイスホッケーのシーンではまぶしいライトに照らされ、大きな金属音。

農場では鮮やかな花の色や香り

自転車を走らせるときの風の音や息遣い

犬をなでたときの手触り、後ろからハグされたときの体温・・・

 

セリフを極限まで削って、五感で入り込める作品でした。

「泣き映画」のようなプロモーションをしているのだけが

ちょっと残念です。

いい意味で予告編に裏切られました。