映画「午前4時にパリの夜は明ける」 2023(令和5)年4月21日公開 ★★★★★

(フランス語; 字幕翻訳 高部義之)

 

 


1981年5月10日、

フランソワ・ミッテランが大統領選挙に勝利したことを祝って

夜のパリは若者たちで大賑わい。
エリザベートの家族の車が通りかかり、喜びを分かち合います。

 

この日、15歳の家出少女がパリにやってきます。(のちのタルラ)

1984年

エリザベートの息子、高校生のマチアスが友人のカルロスと自転車で暴走する場面。

家にはエリザベートの父が来ていて、孫たちに小遣いをくれながら

「完全に別れるのか?」

「家を出て、もう女とアパートを借りてる・・・」

 

どうやら、浮気をした夫が家をでて、離婚話が進んでいるようです。

 

「私も早く仕事を見つけないと!」

 

ずっと専業主婦だったエリザベートが職につくのは、なかなかハードルが高く、

最初の仕事は一日でクビになり、落ち込むも、

好きで良く聴いている深夜放送のラジオ番組に手紙を書き、面接。

 

「あなたの手紙、感動したわ」

「電話の取次業務ならすぐにもやってほしい」

カリスマDJのヴァンダ(エマニュエル・ベアール)からOKが出て

深夜のラジオ局で働くことになります。

 

 

「夜の乗客たち」という深夜放送は、

リスナーたちが電話してきて自身の境遇を語り、悩みを相談するという番組で、
エリザベートの仕事は

視聴者からの電話を生放送のなかでヴァンダに取り次ぐというものです。

電話ではなく、リスナーが直接スタジオにやってきて

別室から(ヴァンダには顔を隠して)会話するというコーナーもあり

その日やってきたのは、タルラという18歳の少女で

家出して、ホームレスのように外で寝泊まりしているといいます。

 

エリザベートが午前4時の放送終了後、外にでると

カフェの開店をまつタルラの姿が・・・・

「ここは凍える。うちに来なさい!」

 

 

エリザベートの夫はアパートの部屋のほかに

階上?に予備の部屋を購入しており、

タルラをそこに寝泊まりさせることにしました。

シャワーを使うときなどは家族と顔をあわせることになりますが

息子のマチアスもマチアスの姉のジュディットも

彼女を快く受け入れます。

 

「ママと3人で話したんだけど、

ずっといたってかまわないんだよ」

とマチアス。

 

 

ふたりは、アパートの屋上に登って、

パリの夜景を眺めながら一服します。(麻薬とか?)

 

マチアスは詩を書くことに夢中で

ほかの勉強に身がはいりません。

学校もさぼりがちで、タルラのことも気になっています。

 

橋の欄干で話をしていて、マチアスがセーヌ川に落ちてしまうとタルラも飛び込み

びしょぬれのまま

「ムチャしたね~」と笑いあうふたり。

その夜ふたりは結ばれます。

マチアスはタルラに夢中になりますが、

ある日、部屋がきれいに片付けられ、タルラは姿を消します。

                (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

 

「サマーフィーリング」と「アマンダと僕」

ミカエル・アース監督作品はまだ2作しかみていないのですが

(日本で見られるのは多分これだけ)

間違いなく「大好きな監督」であることを実感していました。

 

誰にもわかりやすく楽しさを追求するハリウッド映画にくらべたら

一般的にフランス映画は説明的じゃないですが、

特にアース監督作品は

観客にゆだねる部分がかなり多くて、

「多分、彼のファンの人とは話があうだろうな」

とは思うけれど、強くオススメすることは控えておきます。

 

 

後半は3年の月日が流れますが

一見、あまりかわらない日常が続いています(ネタバレ?)

 

1987年

 

少し大人っぽくなったマチアス。

大学には進まなかったようで、バイトをしながら

ひたすら書いて出版社に送る日々ですが、とどくのは不採用の通知ばかり。

 

母のエリザベートは、ラジオ局の仕事にも慣れ、

昼間は図書館で働くようにもなっていました。

 

そこにエリザベート目当て?にいつも通ってくる

本好きのユーゴという男性。

「会った瞬間、前から知ってる気がした」

「きっと前世で知り合ったんだよ」

 

 

ジュディットは家を出て、政治家をめざしています。

エリザベートはマチアスを連れて、ジュディットの部屋へ。

何人もの仲間がシェアする賑やかな場所。

「あなたが家を出た実感がないわ」と母。

 

「パパとはなにも話が通じないのに

よく一緒に住んでたな、と私は思ってたのよ」

とジュディットは言いますが、

「乳がんになった時は支えてくれた」

「私もアパートを探し始めてるの、今の家は売る」と母。

 

ある日、アパートの前にタルラが倒れているのを見つけます。

どうやら、また薬物に手をだしたようです。

「立ち直っても何度も繰り返すのは、

もう入院させるしかないわね」という母に

「精神科なんて、絶対にダメだ」と、マチアスは反対します。

「うちで保護するんだ、病院じゃ廃人にされてしまう」

 

再びタルラを家に迎え入れ、4人の生活がはじまります。

「仕事をみつけるべきよ」とエリザベートにいわれ

映画好きのタルラは、映画館で働きながら

オーディションを受けるようになります。

 

 

エキストラながら映画にも出られるようになりますが、

マチアスは、

「あいつは君をナンパしたいだけで、その気になったらダメだ」

「不健全な業界なんだから」

と、まるで父親のように釘をさします。

 

「心配してくれるのはうれしいけど、私はそんなに弱くない」

というタルラに

「僕は君の友人や弟じゃなくて、特別な存在になりたいんだ」

 

でも、タルラは再びマチアスのもとを去ります。

「私が触れたものは穢れる」

「あなたはあなたのままでいて」

「あの大切な瞬間を私はずっと忘れたくない」 (あらすじ ここまで)

 

 

 

一生懸命思い出しながらけっこう時間をかけて

あらすじを書いたんですけど・・・あんまりおもしろくないですよね(笑)

 

起承転結のある話じゃないし、過去2作同様、

クライマックスというか、大きなイベントを省略してしまうのが

この監督作品の特徴。

(今回は大女優2人をキャスティングしたのと、

ベッドシーン多くて、R15になっているのが過去作との大きな違いかな?)

 

「大きなイベント」は、本作でいうと、

① 夫との不仲からの離婚騒動

② エリザベートの乳がん手術

のシーンは(回想ふくめ)全く登場しません。

 

最初の1981年のころは、

多分夫婦関係に行き詰った辛い時期だったんでしょうが

全くスルー!

 

1984年になっても、

「もう無理なのか?」

という実父のさりげないことばで伝わる程度。

 

どんなやりとりがあったかは、私たちが自分の感性で想像するわけです。

 

エリザベートはずっと専業主婦だったわりには、

家事が苦手そうで、どうも何やっても不器用そう。

料理するときも 常にたばこを指に挟んでるのとか無理!

と、最初私は思ってたんですが、

少しずつ彼女の素敵さが伝わってきました。

 

 

乳がんで乳房全摘したことも、なにも語られず、

ベッドシーンで、「あ、ない!」と気づかせるという・・・・

 

ジュディットが元夫をディスるシーンがあるんですが、

(だいたい子どもはママの味方!)

一緒になって悪口をいうこともなく、

「でも、乳がんの時は支えてくれた」と遠い目をするところで

思わず泣きそうになっちゃいました。

子どもたちにとっては「仲の悪い両親」だったかもしれないけれど、

当人たちにしかわからないいい思い出も

ちゃんとこの人は大事にしているんだなあと・・・・・

 

 

 

「夜の乗客たち」というラジオ番組のタイトルは

この映画の「原題」でもあるんですが、

「眠ってはいけない」夜を過ごすトラック運転手とか

エリザベートのように「眠れない」夜を過ごす不眠症のリスナーたちが

たまたま同じ電車に乗り合わせた乗客のように

顔の見えない相手と会話をかわしたり

束の間の時間を共有する番組です。

 

恋人でも家族でも、人はそれぞれ別個の人間で

そこまで深く立ち入らずに通り過ぎていく関係だということを

覚悟したうえで、生きていきましょう!

 

(元夫も、タルラも、深くかかわりあった時期もあったけれど)

いい思い出も消し去りたい記憶もありつつ

すれ違ったあとは、振り返らずに自分の道を行くことにしましょう!

 

ラストのエリザベートの言葉からは、そんな

「よき他人であれ」みたいなニュアンスを感じました。

 

 

「午前4時・・・」という邦題も、けっして嫌いじゃないです。

(私は不眠症というより、典型的なショートスリーパーで、午前3時~6時半が寝ている時間)

午前4時というのは、だいたい、レム睡眠に入っている時間帯なので

未知というか、神秘的な時間帯なのですよ。

駅だったら、もうすぐ列車の始発が出発する時間帯でしょうか?

映画のなかでは、キオスクが店のシャッターを開け、

開店準備をしていました。

 

 

それにしても、

こういう映画のあらすじや感想を

「わかりやすく」書くのは難しく、支離滅裂ですみません。

 

 

そうそう、

ナイキの「AIRエアー」は1984年が舞台、

「帰れない山」の子ども時代も1984年、

そして本作も大部分が1984年のこと。

邦画ですけど、「雑魚どもよ、大志を抱け!」もこのころです。

 

どした??

この年が最近映画の舞台になることが多いのは

監督や脚本家の年齢とか関係あるのか?

それはわかりませんけど、

昭和でいうと、昭和59年。

 

最近、私はこのあたりの地図や写真ばかり見ているので

東京だったら、一瞬でタイムスリップできる気がしています。

(80年代のパリなんて行ったこともないんですが)

40年前の空気感が一番伝わるのが本作だったような気がします。

 

ミカエル・アースにハズレはないですね。

ただ、あくまでも個人的趣味なので、けっして積極的に

オススメはしないことにします。