映画 「コンペティション」 2023(令和5)年3月17日公開 ★★★★☆

(スペイン語: 字幕翻訳 稲田嵯裕里)

 

 

お高そうな誕生日プレゼントの山をまえに

80歳になったウンベルト・スアレスは大きなため息をつきます。

 

彼は製薬会社で財を成した億万長者なんですけど

「大富豪なだけで尊敬はされていない」

「違う目でみられたい」

と部下につぶやき

「後世に残るもの・・・橋を作って名前をつけるとか・・」

 

「いや、映画だ!」

「私が制作資金を出して、偉大な作品にする」

 

「どんな映画ですか?」と部下が聞いても

「そんなこと、私にわかるか!」

 

結局、96年デビューの新進気鋭のローラ・クエバスという女性監督を起用。

ローラは、取材拒否を貫く変わり者ながら、受賞歴はピカイチです。

 

ノーベル賞作家の原作の版権をとるのにも大枚をはたき、

主演のふたりには、ハリウッドの大スター、フェリックス・リベロと

演劇界の大ベテラン、イバン・トレスを起用することに決まり

もう大傑作はできたも同然です!(と、ウンベルトは確信)

 

なんと大富豪は原作のノーベル賞受賞作「ライバル」を読みもせずに

映画化の版権をとったようで(笑)

ストーリーはローラが説明します。

 

マヌエルとペドロの兄弟。

70年代の田舎町。

マヌエルは両親を乗せた車で事故をおこし

両親は死亡、自分は助かります。

怒ったペドロは弟を告訴して、マヌエルは服役し・・・

出所後マヌエルは兄の家をたずね、和解。

ペドロの妻ルーシーは赤ちゃんを抱いているが・・・

 

「この話にはつづきがあるの」とローラ。

 

 

ローラ(ペネロペ・クルス)は原作を読み込んで、

分厚いコラージュ感満載の絵コンテのファイルを持参します。

 

イバン(オスカル・マルティネス)は

兄弟のものの考え方やメタファーについて自分の分析を語るも

フェリックス(アントニオ・バンデラス)は

演技の前に何も考えないのが流儀のようです。

 

さっそく「本読み」をはじめますが

この段階で、ささいなセリフのニュアンスが違うと

何度も何度もダメ出しをするローラに

スター俳優もベテラン俳優も驚きます。

 

 

はりつめた空気をだすために

クレーンで釣り上げた5トンの大岩のまえでセリフをいわせたり・・・・

(ほんとはハリボテだったんですけどね)

 

 

 

体中ぐるぐる巻きにされたふたりの目の前で

家から持参させた過去のトロフィーやメダルを

巨大なプレス機で粉砕するという暴挙まで! 

            (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

 

予告編からはアルモドバル監督作品かな、と勘違いしていました。

その中でも、アントニオ・バンデラスもペネロペ・クルスも出演している

「ペイン・アンド・グロリー」のイメージですよね!

 

 
映画作りの話だし、監督と主演俳優の確執とかも近いです。
 
綿密すぎる脚本だと、注意深く観てないとダメなんですが、
こっちはわかりやすいエンタメ系で、割とハードル低めです。
 
 
冒頭、80歳の誕生日プレゼントの山が映るのですが
単に高価なだけじゃなくて、ピエロの絵や聖母像など
心のこもったセンスのいいものなんですよ!
 
趣味もなく、金儲けしか考えてこなかった人生だったのか?
ともかく、この富豪は
富と名声だけじゃなくて、なにかを残したいと考えたわけです。
 
映画だ!
と思いついた割には、映画なんて見たことないし
ノーベル文学賞受賞の原作小説さえ読んでないという・・・
でも、口出ししないでお金だけ気前よくだしてくれるのが
監督にとっては最高のスポンサーかもしれませんね。
 
(上に書くの忘れましたが)
ローラは主要キャストである「ペドロの妻」役に
富豪の孫娘、ディアナをキャスティング。
 
集音マイクに囲まれる中、ラブシーンのお手本と言って
ローラはディアナに激しいキスの嵐をふらせます。
 
 
孫娘と女性監督のラブシーンを見せられてた富豪も
気まずくなって退散・・・・
 
 
この ぐるぐる巻きの時も「自我のエクササイズ」とのことだったんだけど
動けない状態にされた状態で、目の前で大事なメダルが粉砕されるという・・・
この暴挙には、ふたりとも「訴えてやる!」と怒っていましたが
ローラは自分のパルムドールも銀獅子賞も粉砕していて
こっちのほうが格は上なんですよね~
 
もう前半は、
「なめられたらおしまい」といった
マウントの取り合いというか、
パワハラ合戦を見せつけられたかんじでした。
 
つづき (ネタバレです)
 
「実は健康診断の結果がよくなかった」
「すい臓がんで長くても1年と言われた」
突然のフェリックスのことばに、ローラもイバンもびっくり。
 
「最後は自分らしく生きたい」
「すばらしい遺作をつくりたい」
といっていたフェリックスでしたが
次の日約束の時間に来ず、携帯もOFF.
 
フェリックスは以前から遅刻が多く、
ローラもイバンも迷惑していたんですが
この日はさすがに、病院へ行っているのかと心配になります。
 
イバンがローラの耳元で
「こんなことは考えたくないが、万一彼が芝居できなくなったら
私がひとり二役で、ひげあり、ひげなしでできると思う」
 
そこへひょっこりフェリックスがあらわれ
「ガンのこと?あれ、嘘だから」
「名演技だったろう?!」
 
「冗談じゃすまんぞ!クズ!」
と激怒していたイバンでしたが、
「君は天才的役者だ。私のキャリアは勘違いだったかもしれない」
「君は偉大な名優以上のすばらしい人だ」
ところが
「今のは全部嘘だ。しかえしだ!」
ということで、なんか和解するふたり。
 
すると今度はローラが時間にやって来ず
「今日のテーマは『無駄』よ」
 
 
寄り道しながらも、なんとか製作発表。
パーティにはハリウッドのセレブたちが彩を添えますが
屋上でフェリックスとイバンが口論するうちに
つい手をだしたフェリックスのパンチを避けられずに落下。
頭を打ったイバンは意識不明になってしまいます。
 
 
パニック状態でトイレに駆け込んだフェリックスは
「落ち着け!バレないから」と自分に言い聞かせ、
共演者を心配する俳優のていを貫きます。
うすうす勘付いてると思われるローラも
フェリックスの二役で撮影を再開します。
 
イバンは植物状態のまま。
完成した映画は好評で、
映画祭に出品されるまでになります。
 
病院のベッドでイバンは息を吹き返し
点滴を引きちぎり、フェリックスを罵ります。
 
「映画はいつ終わるの?」
「ENDの文字で終わるの?」
「でもなかには終わらない映画もあるのよ」(あらすじここまで)
 
これは劇中のシーンで↑
ローラが最初に言っていた「話のつづき」
出所した弟は、兄と和解のハグと思わせて
兄の体にナイフを突き立てるのです。
 
そして現実でも、意図的ではないにせよ
同じような結果となってしまうのですね。
 
もちろん、フィクションの世界の話ですけど
細かなエピソードはありそうな話で笑えますね。
 
人間としては3人とも大いに問題ありですが
「映画を愛している」ことにかわりないのにはホッとします。
 
フェリックスは女性関係も派手で、時間にもルーズですが
空き時間には「合氣道」と書かれた道場で殺陣の稽古をしているし
自己流の発声練習もしています。
イバンは大学でも演技論の講義をしているし
家に帰れば児童文学者の地味な妻と芸術ひとすじの人生。
 
ローラのプライベートはあまり明かされませんでしたが
同性愛者、でいいのかな?
 
あのおかしな「エクササイズ」は受け入れがたいですが
自信家の大物俳優を従えるには必要なんでしょうか?
「女性らしいしなやかな感性」だか何だかでは
もう女流監督は通用しない時代なのですね。
 
 
 
「結末は観客にゆだねる」というタイプの映画は
私はけっこう好みなんですが、受け入れがたい人も多いと思います。
ジャンルもアート系寄りのコメディ?でしょうか。
上映館も少なめです。(23区で3館)
 
でもこういう作品こそ、シネコンとかで上映してほしいです。
(アルモドバル監督に比べたら)親切でわかりやすいし
笑えるし、ペネロペはかっこいいし・・・
広い層におすすめです!