映画 「フェイブルマンズ」 2023(令和5)年3月3日公開 ★★★★★

(英語: 字幕翻訳 戸田奈津子)

 

 

1952年、ニュージャージー州。

幼いサミーは両親に連れられて初めて映画を見に行くことになりました。

 

「カメラで写した映像を1秒間に24枚映し出す。

人間の脳の働きより早いスピードだから、動いてるように見えるんだ」

と、エンジニアの父は説明し

「映画はこわくなんかない、楽しい夢よ。

きっと忘れられないすてきな思い出になるわ」

ピアニストの母は夢見がちな瞳でサミーに話しかけます。

 

家族で見た映画は「地上最大のショウ」

帰りに無口になってしまったサミーをみて

「怖がり屋の子どもに映画は無理だったか・・・」

ところが両親の心配をよそに

サミーは映画の魅力に取りつかれていたのでした。

 

(「地上最大のショウ」はサーカスの映画なんですけど)

サミーの記憶に強く残ったのは列車の追突脱線シーン。

ハヌカのプレゼントに列車のおもちゃをねだり

部屋のなかには、父の組み立てた精巧なジオラマが完成します。

サミーがわざと衝突させるたびに

その都度父が修理したり組み立てなおさなければならないので

「それならパパのカメラで衝突の場面を撮れば?」

とママが提案。

 

サミーは今度はカメラに夢中になり

妹たちを怖がらせて喜んだり

血まみれ演技をさせたり、

トイレットペーパーを濡らして体中にまきつけ

ミイラになったり・・・・

 

翌年また母は女の子を生み、

サミーは3人の妹の兄になりました。

父は優秀なエンジニアでしたが、趣味の出費を賄うために

テレビ修理のアルバイトをしたりしていたんですが

父の仕事が評価を受け、アリゾナのGE社に転職することに。

 

家族同様に家にいりびたっている

父のアシスタントの「ベニーおじさん」も伴って

アリゾナに転居することになります。 (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

長い上映時間にビビっているうちに見逃してしまいそうになったけれど

とにかく観てよかった!  珠玉の151分でした。

 

冒頭部分は1952~3年だからサミーが6~7歳くらいのときでしょうか。

なんでも理詰めで解決していく父と、芸術肌で美しいものを愛する母、

この両極端な両親からいろんなものを受け継いだサミーでしたが、

母のほうが近い存在だったのかも。

 

次のシーンからは(サミー役もチェンジし)

10年後、アリゾナ州フェニックスの高校生となりますが、

この調子で書いていくと長くなるので

覚えていることだけを箇条書きで・・・・

もちろん ネタバレです。

 

① ボーイスカウトの仲間たちと映画館に繰り出し

「リバティ・バランスを射った男」を見ると

今度は自分たちでも西部劇を撮影することにします。

特殊効果も工夫してリアルな銃撃戦が再現でき

完成した戦争映画「エスケープ・トゥ・ノーウエア」は大好評!

父は高いカメラや編集機を買ってはくれますが

「趣味の範囲でやるように」とくぎを刺されます。

 

② 母方の祖母がなくなり、落ち込んでいる母を元気づけるために

キャンプのときに撮影したビデオの編集を父から命令されます。

すると、母とベニーの親密なシーンが偶然映りこんでおり、愕然!

そこはカットして、楽しいファミリームービーとして披露して、母にも喜ばれます。

 

③ 亡くなった祖母の兄であるボリスおじさん(大叔父)が突然訪ねてきます。

 

 

 

彼は亡き祖母が最後まで嫌っていた人物。

昔ライオンの調教師で、ハリウッドでも仕事をしていたボリスおじさんは

「お前のママはプロのピアニストになるべきだったのに

おれの妹が反対して結婚させられた」

「お前にも芸術の血が流れているが、芸術の道は痛みを伴う。

映画をとりつづけると家族との間で辛い思いをするのを覚悟しとけ」

 

④ 母と衝突した日、あのカットしたテープをつないで

クロゼットのなかで母に見せ、「秘密は守る」と告げます。

 

⑤ 父はまたヘッドハンティングされてカリフォルニアのIBMに移ることに。

今度はベニーはアリゾナに残ることになります。

ベニーは高価なビデオカメラをプレゼントしてくれ

「お前はママのためにも映画作りだけはやめるなよ」

 

⑥ 転向したカリフォルニアの高校ではユダヤ人差別がひどく

クラスのボス格のローガンとその下っ端のチャドから目をつけられます。

ある日、ローガンが赤毛の女の子とキスしているのを目撃し

それを恋人のクラウディアにチクって、ローガンからボコられます。

ウソだと言えと強要されますが、クラウディアは信じず

なぜかサミーは彼女の親友モニカと付き合うことになります。

 

モニカは自分の父の最新のビデオカメラを持ってきて、

サミーはそれで「シニア・ディッチ・デー」のカメラマンをするように言われます。

 

 

⑦ プロムパーティではモニカを同伴して参加。

結婚を前提に真剣に告白するサミーに

モニカは動揺して、あっさりフラれますが、

「シニア・ディッチ・デー」の上映会は大好評でした。

チャドのカッコ悪い場面ばかりつなぎ、

一方、ローガンをヒーローのように編集したことで

ローガンはみんなから讃美されますが、

本当の自分との差にローガンは逆に辛くなり、涙を流します。

「おれが泣いたことはだれにもいうなよ」

 

⑧ 両親は離婚、母はベニーのところへ。

大学になじめないサミーは、父から映画の世界にはいることを許され

CBSでテレビの仕事を得ますが、その時上司から

「仕事にはつながらないが、向こうの部屋の人物を紹介しよう」と。

 

秘書から待つようにいわれると、壁に貼ってあったのは

「駅馬車」・・・「黄色いリボン」・・「怒りの葡萄」・・・

そして、「リバティ・バランスを射った男」!

入ってきたのは・・・・あの人でした!     (あらすじ ここまで)

 

 

本作はスピルバーグ監督の自伝的作品ときいていたので

「引退を前に自分へのご褒美映画かな?」

「そんなの3時間近く見せられるのキツイな」

と思っていたのは事実。

 

でも、そうではありませんでした。

これだけの監督になると、

映画オタクみたいな人や評論家たちから 作品を詳細に分析されて

出自との関連性をあれこれ想像で書かれたりするじゃないですか。

それを、逆に自ら手の内を明かしてネタバレさせた一作、

という印象を持ちました。

 

そして映画作品としては、

自分がすっかり忘れていたような子どものころの感情もふくめ

喜怒哀楽、悲喜交々、全方向に様々な思いを引っ張り出された感じ。

手を変え品を変え、和洋中華のフルコースのお皿が次々に出てくるような・・・

 

脚本としては、正直、あんまりまとまりないし、伏線の回収もほとんどなし。

(「リバティ・バランス・・・」は数少ない伏線かも)

 

これはこの世界で大成功を収めた、とんでもないセレブの自伝なんですが、

似たような経験は(私なんかでも)

長いこと生きていると思い当たることがいくつもあります。

描かれる時代が昔のこともあるけれど、

(若い人より)シニア世代が

「自分の話」としてみるのもアリかと思いました。

スピルバーグ作品に詳しい人たちの「薀蓄合戦」についていけなくっても

だいじょうぶですよ~!

 

その中で、さすがに私でも経験ないし、よくわかんない・・というのが

唯一、「母親の浮気」ですね。(まずはこれから片付けましょう)

 

母が父の親友と浮気とか、父にも子どもたちにも耐えがたいことですけど

ベニーのことはみんな大好きで、陽気で楽しい彼の存在が

性格の違う両親の緩衝材となっていたのも事実。

 

 

全くひどい話なんですけど、

3人の説得力ある繊細な演技には引き込まれるしかないです。

この奇行の多いメンヘラ母さんを 愛すべき存在に思わせられるのは

ミシェル・ウィリアムズの力ですよね。

ポール・ダノもセス・ローゲンもぴったりハマっていました。

 

ところで、両親の隙間を埋める、ベニーおじさんの役回りをするべきなのは

本来はサミーなんでしょうけど。

彼は母とボリスおじさんから

「私たちと同じ芸術家グループ」の印をうたれてしまったから、

「ちゃんと大学いって人の役にたつ仕事をする」という

父の勧めるまっとうな道でなく、「芸術のいばらの道」を行くことが

運命づけられちゃったのですね。

いや、それは言い訳で、ホントは勉強も運動も苦手で

唯一存在感を示せる「映画の道」に逃げているだけかもしれないけど。

 

全体的に楽しい懐かしい思い出より、

イヤな話、恥をさらすような話のほうが多いのに

さらっとライトな描き方で、見てる人に辛い思いをさせないのはさすが。

ただ「ユダヤ人差別」は容赦なくて、ここだけはマジでした。

 

 

「映画愛」が題材だと、だいたい「観る側」の立場で

映画のおかげで救われたとか、いいことしか書かないんですが

これは「撮り手」サイドからの話。

映画は撮り方や編集作業で人を傷つけることもあるし

本作ではむしろ「有害性」「卑劣さ」のほうがメインでした。

 

で、最後どうやって収拾するのかと思ったら・・・そう来ましたか!

 

 

壁に貼られたポスターが1枚ずつ映し出され、

この部屋の住人はまさか・・・・・

ジョン・フォード監督?

 

と、まずびっくりさせられて、やったきた人の顔をみたら・・・・

なんとデヴィッド・リンチ監督で、またまたびっくり。

 

しかも、めちゃくちゃ寄せてきてるし・・・

 

 

俳優リンチは、この映画でもそうでしたが↑

最後にちょろっと出演して、全部もってっちゃう強力キャラですよね。

 

「映画作るのは心がズタズタになる仕事だぞ」

と、ボリスおじさんと同じことをいったあと、

「いいことを教えてやろう」

「地平線が上や下にある映画は面白いが

まんなかにあるのはつまらない」

「わかったら出ていけ!」

 

そしてサミーが外にでると、地平線の位置が・・・・!!!

 

 

1個くらい残念なことを書きたいんですが、

あえていえば、字幕翻訳かな?

わたしは「トップガン・・」を、観てないので、

多分「グリーンブック」以来なんですが、

あのときも警官がゲイを差別するときのことばを

「おばさん」と訳していて驚きましたが、

今回もおばあちゃんの意味に「ばあば」の字幕を当てていました。

(いつの話だよ!)

 

「シニア・スキップ(ディッチ)・デイ」というのは

卒業する直前にみんなで1日だけ休んでいい日のことですが

それが「おさぼりデー」だって! え?

 

松浦美奈さんだったら、どう訳してたでしょうね。