映画 「秘密の森の、その向こう」 2022(令和4)年9月23日公開 ★★★★★

(フランス語:字幕翻訳 横井和子)

 

 

 

おばあちゃんとクロスワードを解いて遊ぶ少女ネリー。

「さよなら」といって部屋を出ると、別のへやのおばあちゃんたちにも挨拶をします。

 

老人ホームのほかの部屋ではママがベッド周りの片づけをしています。

「この杖、もらっていい?」

「いいわよ」

ママは自分の母親(少女の祖母)が亡くなったため

部屋を引き払いに来ていたのでした。

 

片づけを終えるとおばあちゃんがそれまで住んでいたママの実家へ。

森のなかにたたずむ家にはママの幼い頃の思い出が詰まっています。

パパが食器棚を動かすと、その下から古い壁紙がでてきて

懐かしさと一緒にいろんな記憶が噴出してきて

ママはだんだん辛そうな顔になります。

 

夜になり、ママが子どものころに書いた絵やノートを

ママといっしょにみるネリー。

ママがあまり笑っていないのをみて

「この家が嫌い?」と聞くと

「この部屋は好きよ。

でも夜になると壁の隅にクロヒョウがあらわれるの」


夜中、ネリーはリビングのソファーで寝ているママのとなりに潜り込み

「私もさびしい。だっておばあちゃんにちゃんとさよならが言えなかったから」

翌朝、ママの姿は消えていました。

ママはここにいるのがつらくなって出て行った、とパパはいい

ひとりで家の片づけをしています。

 

ネリーはママのおもちゃ箱からひものついたバドルボールを見つけ

それをもって家の前で遊んでいると

紐がキレて、ボールは森のなかに転がって行ってしまいました。

 

森の中では、ネリーと同じくらいの年頃の少女が木を運んでいて

ネリーをみつけて手を振っています。

たくさんの枝を束ねて秘密基地のようなものを作っていて

ネリーも木を運ぶのを手伝います。

 

そのうちに雷がなり、雨が降り出します。

ネリーは少女に名前を聞くと

「マリオン」と答えました。

それはネリーのママと同じ名前でした。   (あらすじ とりあえずここまで)

 

楽しみにしていたセリーヌ・シアマ作品。

彼女の映画はレズビアン率高いので、

今回のは少女だし親子設定だし、

それがちょっと心配でしたが、まさかのタイムトラベルものでした。

いや、ここまでの流れではそんな雰囲気ですね。

 

タイムスリップした先で、いきなりモノクロ画面になったり

衣装が昔風になったりするものは多いですが、

ここではそういうことはなく、

ネリーと(母の)マリオンは、

ここでは、見分けがつかないくらいよく似たふたりの少女です。

 

ネリーは髪をひとつに結んでいることが多いんですが

髪をおろすと、一瞬どちらかわからなくなります。

 

ネリーは8歳、ママのマリオンは31歳なので、

23年前にさかのぼることになりますが、

すくなくともSF(タイムマシンとか)ではないので

ネリーの想像力が不思議な現象を起こした?とか

森のどこかに別の世界への「ゲート」があった?とか

いろいろ余計なことを考えてしまいがちですが

何も考えずに、目の前のものを受け入れましょう。

 

あらすじ、つづきです(ネタバレ

 

そのうち、雨が激しくなり、

「ついてきて」といわれるままにマリオンの家へ。

そこはおばあちゃんの家とよく似ていました。

洗面の青いタイル、廊下の突き当りのトイレ、

キッチンの壁紙は、きのう戸棚の後ろから出てきた古い壁紙とおなじでした。
ネリーはおばあちゃんの家に急いで戻ると

ちゃんとパパがいて片付け作業をしていました。

翌日も小屋づくりを手伝い、父にもらった麻ひもで、木をしっかりと結わえます。

そのあとマリオンの家で遊んでいると

マリオンの母親が杖をついて現れ

「もうすぐ(3日後?)手術なのだから、あまり外であそんだらダメ」といいます。

パパのところへ戻っても、ネリーは落ち着きません。

ママから「子どもの時手術の前に森で小屋を作った」

ということは聞かされていましたが、パパは全く覚えておらず。

 

「友だちができたの。誘われたら泊まってもいい?」とパパに聞くと

「招待されたのならね」とパパ。

 

翌日は劇ごっこをして遊び、

「女優になりたいの」というマリオンの夢を知ります。

そしてネリーは

「実はわたしはあなたの娘なの」と秘密をうちあけます。

「未来から来たの?」

「ううん、うしろの道から来た」

 

その次の日はネリーのおばあちゃんの家にマリオンが来て

ネリーのおばあちゃん(マリオンの母)が亡くなったことを告げます。

ネリーがもらった形見の杖は、マリオンの母の手の匂いがしました。

 

「今晩うちに泊まってほしい」というマリオンに

ちょっと渋い顔のパパ。

「でも、この次はないの」とネリーも説得して、その晩はマリオンの家で

マリオンの9歳の誕生日を祝いました。

 

翌日はいよいよ手術の日。

別れの時になると、2人はしっかりとハグをして
ネリーはマリオンの母、おばあちゃんにも

ちゃんと「さよなら」を言って別れました。

 

ネリーが家に戻ると、ママが床にすわっていました。

「ごめんね、置いていって」

「あやまらないで。いい時間だったよ」

ふたりは

「マリオン」

「ネリー」

と呼び合って抱きしめあいました。       (おしまい)

 

 

わずか73分の小品。

もうちょっと見たかったな~というところで終わります。

 

ネリーがほんとにいい子で、彼女をみているだけで

「癒し」でした。

老人ホームで、ほかのおばあちゃんの相手をしたり

杖やお菓子も欲しいものは、ちゃんとママに聞いてからだし、

運転するママにお菓子や飲み物をあげたり・・・

 

ママとは一心同体なんだけど、パパとはちょっと距離があるみたい。

パパは優しくて好きだけど、何をいっても反応が薄いんですよね。

多分マリオンは

「パパにいってもどうせわからないよね」って思っていたのかも。

 

だから森のなかでのこと、何もかもはパパに話さないんですよ。

「お泊りしてもいい?」ってそれだけ。

 

わかるなぁ~

大昔、私もそんな子どもで、完全に大人を選別していました。

 

ママには「なにもかも話して共有したい」というより

「ことばにしなくてもわかりえる」ということなんですよね。

 

 

そんな濃密な母子の関係なのに、

母が姿を消しても、ネリーはそれを受け入れます。

ママが森に小屋を作っていたことはネリーも前に聞いていて

森でマリオンにあった時、すぐに「この子はママだ」と思っても

べつにびっくりしないんですね。

それより、手術のこととか、おばあちゃんのこととか、

ママから聞いて知っていることとどんどん符合していて

「やっぱりね」って感じ。

そして

「私、あなたの娘みたい」というと、マリオンも

これがまた驚かない・・・・

 

「未来から来たの?」

「うしろの道から来た」とか

すごいセリフだなぁ~

 

「秘密って、内緒にすることじゃなくて

きっと話せる人がいないから」

これもしみじみかみしめたい名言ですね。

 

私は、死んじゃったおばあちゃんが年齢的には一番近いはずですが、

私の母も今年亡くなったので、

老人ホームの母の部屋を片付けにいったときのこととか

納骨に間に合うように、母の昔の写真を冊子にしたこととか思い出して

胸がいっぱいになり、

まだまだ喪失感のなかにあるんだな、と思いました。

 

(以下は備忘録なので、スルーしておいてください)

 

もう一度映画館で見られるかわからないんですが、

その時に確認したいことがひとつ。

 

マリオンは、亡くなったおばあちゃんに

「ちゃんとさよならが言えなかった」と悔やんでいて、

23年前に戻ってやっと言えたんですけど、

冒頭のシーンでは、「さよなら」を言ってましたよね。

いっしょにクロスワードをやってた人が

マリオンのおばあちゃんだとストーリー的にすっきりするんですが

あのときはもしかしたら

「アデュー(永遠の別れ)」じゃなくて「オヴォワー」とか「サリュー」とかだったのかな?

それにもし彼女がおばあちゃんだったら、あの杖をきっと持ってるはずだし。

とか、思ったりしています。