映画 「ボイリングポイント 沸騰」 2022(令和4)年7月15日公開 ★★☆☆☆

(英語: 字幕翻訳 石田泰子)

 

 

「もう店の前まできてる」

歩きながら携帯で店に電話を入れる男。

電話を切ると、ケリー(別れた妻?)の留守電に

「行けなくてすまない。 ネイサン(息子?)に謝っておいてくれ」

とメッセージを残します。

 

彼の名前はアンディ。ロンドンの高級レストランの料理長なのですが

仕事は忙しく、プライベートにも問題があって、あまり睡眠もとれていない様子。

 

店に到着すると、保健所の抜き打ち検査が入っており

新入りの厨房スタッフが手洗いしてたのが食材用シンクだったり、

冷蔵庫の温度は規定どおりだが、もうすこし低いのが望ましい、

など、衛生監査員からはめちゃ細かいところを指摘されて

認証ステッカーの数字も

5から3に格下げされてしまいました。

 

忙しい開店前に時間をとられたうえに格下げと聞いて

スタッフにあたりちらすアンディ。

「お前のその仕事が欲しいやつは ごまんといるんだぞ!」

 

それでも気を取り直して仕込みに入りますが

スープ用の牛肉が足りない上に、(アンディがラベルを貼り忘れたため)

高級魚のイシビラメが、監視員に廃棄されてしまっていました。

 

そこへ、ホールの責任者のベスが登場。(ベスはオーナーの娘のようです)

「クリスマス前の金曜日で、今日は100件の予約が入ってる」

「カリスマシェフのアリステア・スカイが来店する」

初めて聞くアンディはまたまた動揺。

 

スーシェフのカーリーは常に冷静でアンディを支えていますが

今の給料に不満で、ほかのレストランへの移籍を考えています。

 

忙しい日なのに、まだ来ないスタッフはいるし、

仕込みも完璧でないまま、とにかく定時に店はオープン。

すぐに満席になります。        (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

全編90分間ノンストップの超長回し撮影が評判になっている本作。

ヒューマントラスト有楽町ではもう2か月以上のロングランが続いています。

気になりつつも、今はもう夜だけしか上映していないので

下高井戸シネマにおりてきたところを鑑賞しました。

 

ワンカット撮影って、

「カメラを止めるな!」みたいに、それ自体が設定になっているものもありますが、

「1917」なんかは、長回ししているうちに次の日になってるし、

「バードマン」もけっこう編集がかかっているみたいですが、

これは正真正銘の90分1本撮り、編集なし・CGなし、がセールスポイントのようです。

 

でも、レストランの薄暗い店内とバックヤードだけですからね、

映ってマズいものがあってもあんまり目立たないような気がして・・・

 

むしろ、三谷さんの「大空港2013」みたいに

「本物の空港を貸切って90分一発撮り!」のほうが、ワクワクするな~!

 

 

あらすじつづきです(ネタバレ

 

遅刻してきたホールスタッフのロビンは、

勤務態度には問題ありでも、客への対応は明るくてきぱきしており

うるさ型の客からも好印象を持たれます。

そのテーブルに今度はアンドレアが料理を運ぶと

いきなり客は不機嫌に。(黒人差別?)

 

別のテーブルでは

ナッツ類のアレルギーがあることを聞いて、メモで厨房に伝えますが

それが徹底されず、客はアナフィラキシーショックを起こして

救急車で搬送されてしまいます。

 

インフルエンサーの客がメニューにないステーキを希望し

ベスがそれを厨房に通したことで

冷静だったカーリーが逆上して、ショックでベスはトイレにこもってしまいます。

 

スカイのテーブルに自分で料理を運ぶアンディ。

スカイは辛口評論家のサラも連れてきていました。

カリスマシェフと呼ばれているスカイですが

サラがトイレにたった隙に

実は破産寸前で、昔アンディに貸した20万ポンドの返済を迫ります。

無理なら、この店の経営権を渡せと・・・・

 

アンディは控室にこもり、コカインを吸い酒を飲みますが

家族との電話で思い直します。

酒を捨てて厨房に向かいますが、そこで意識を失います。   (おしまい)

 

 


開店後のトラブルは、まあ、

「実際にはあんまりないけど、映画の中ではよく起こるやつ」・・・・って感じ。

ワンカット重視なので、そんな、ストーリーにまでは期待しませんが、

こんなトラブルも見事に回避して、さすが一流レストラン!

てところがゼロなんですね。

 

アンディは味見したスプーンをまたクリームのなかにつっこむし、

客に出す料理の皿に顔をつけて大声出したり

コロナでなくても衛生的に気になるレベル。

「食材用シンクで手を洗ってた」スタッフを怒っていましたが

アンディが手を洗うとこ、一度も見たことないです。

 

しかも、彼がいつも持ち歩いているボトルの中身は

コーヒーだろうと思っていたのですが、あれ、お酒だったんですね。

 

アンディに共感できたのは、最初のほんの一瞬で、

よくいえば「不器用な人」、

でも絶対に一流レストランのシェフをやったらダメな人です。

 

客商売の仕事中にプライベートな会話はだめでしょ!

ひとことで終わる件ならともかく

「忙しいから、あとで折り返す」というだけなら、電話切っとけよ!

とか思っちゃいました。

 

一流レストランだったら、末端のスタッフまで採用には気を遣うはずなのに

ゴミ捨てしながらタバコ吸って、ドラッグ買ってる洗い場スタッフまでいて、

これってイギリスのレストランでは「あるある」なのか??

 

あとこれは文句いってもしょうがないけど、

俳優が演じているわけだから、調理や配膳の手元はほとんど映らないです。

カット割りできるんだったら「それらしい動き」はできるでしょうけど

ワンカットではしょせん無理な注文。

 

ドキュメンタリーで映される本物の厨房では、だいたい

調理の工程や盛り付けは静寂の中淡々と進んでいます。

声かけしなくても絶妙のチームプレイ、無駄な動きやためらいは一切なし。

長回しのワンカットで観たいのはこういう映像で、

こんな不潔で怒鳴ってるばかりの店の内側なんて不愉快だし、

こういう店に高いお金を払う人の気がしれません。

(これ見たあとに、たまには高級店でディナーしたいな~とは絶対に思わないでしょうね)

 

タイトルの「ボイリング・ポイント」というのは

平静さを失って怒り出す瞬間・・・のような意味ですが、

これ、見てる私たちに対してかもしれません。

私はこういうサービス関連の映画では沸点低いかも(笑)

 

映画のなかで、あきらかにそういう瞬間があったのは

スーシェフのカーリー。

それまでは厨房スタッフの士気があがるよう、アンディにかわって

冷静なまとめ役に徹していましたが、

忙しい時間帯にあまりにも

客の要望をごり押しされたものだから、

ホールの責任者のベスに激高します。

 

 

厨房とホールの諍いは今までもあって、

多分それにはベスも慣れっこなんでしょうけど、

そのあと

「いわせてもらうけど、あんたのこと大嫌いよむかっ

といわれたのがショックのようで、そのあとトイレにこもって

パパの留守電にメッセージいれて泣き出します。

でも、すぐに立ち直って仕事に戻るのはエライ!

 

ベスは高飛車で嫌な女ではありますが、

「お客は常に正しい」という彼女のスタンスは

けっこう日本人には理解できる気がします。

 

メニューにないものを頼まれても無下に断らず

「厨房にかけあってみますね」ととりあえず受け入れて、

「お時間いただくことになりますが、大丈夫ですか?」

というのは日本人的な段取り、かな?

ベスもそういっとけばよかったのにね。

 

 

ところで、客からの「人種差別」の件、

私はそうは思わなかったので、ちょっと書いておきます。

 

 

そのテーブルのオジサンは、注文を取りに来た女優志望のロビン(右)が気に入って

店で一番高いワインを注文して、名前を聞いたりもしたのに、

運んできたのがアンドレア(左)だったので、機嫌が悪くなります。

黒人だったからというより、仏頂面で、

高いワインを水みたいに無神経に注ぐのがイヤだったんだと思います。

アンドレアはまじめな子だけど、ホール係はそれだけじゃ務まらないんですよね。

(黒人が文句言われると、なんでも人種差別というのはオカシイと思う)

 

こんな指をつっこんで運んでくるのとかもあり?

 

そのあと、「ラムが生焼け」とクレーム出したのも

焼き係のフリーマンのミスではなく、彼女への当てつけでしたよね。

 

 

彼はもうちょっとベテランのホールスタッフみたいですが↑

たしか「このテーブルの飲み物タダにする」とか言ってたような。

そんなこと勝手に言っちゃっていいんですかね?

 

 

洗い場のこのふたりはさらに強力。

何時間も遅刻してきたジェイクにキレて

「私は妊婦なのに~!」と大声で狂ったように叫びまくるソフィー。

ジェイクは

ゴミ捨てに行くといって裏でタバコを吸い、火のついたまま投げ捨て、

元カノ?にあってドラッグを買うという、お国柄関係なくアウトなやつです(笑)

(あのあとボヤになる展開と思ったら、違いましたね)

 

ひとりやふたり、ポンコツなスタッフが混じっているのは仕方ないとして、

ポンコツだらけのなかのマトモな人はつらいよね~(カーリーとか焼き物担当のフリーマンとか)

としみじみ思った90分でした。

 

結局、

アンディが家族と別居して、店に泊まり込むようになってドラッグの常用がはじまり

業務日誌を書かずにいたり、仕事のミスが増えた・・・ということなんでしょうね。

スカイの来訪も申し出も突然ではなく、連絡しても無視されてきたといってたし、

ベスも事前にアンディにはメールしたといってたし、

クルミ油のドレッシングを使ったのも彼の指示だったし、

ほぼ自業自得の結末ではあるんですが、

たいして面白い話には仕上がっていません。

 

画面には登場しない「アンディの家族」が影の登場人物とするなら

電話の向こうからだけでも、もうちょっと生き生きとキャラクターが浮かび上がってこないと。

水泳大会で1位になったといってたけど、

息子のネイサンは小学生なのか思春期の少年なのかもわかりませんでした。

こういうの書かせたらテッパンなのは、

全盛期の三谷幸喜だよね~とか思っちゃいました。

 

料理のお皿は登場するし

「美味しい!」「絶品!」というせりふはありますが

まったく美味しそうにはみえないので、

グルメ料理を見たい人にはおすすめできません。

 

あと、

わたしみたいに沸点が低い人にも・・・(笑)