映画 「靴ひものロンド」 2022(令和4)年9月9日公開 ★★★☆☆

原作本 「靴ひも」 ドメニコ・スタルローネ 新潮クレストブックス ★★★★★

(イタリア語; 字幕翻訳 :関口英子)
 

 

 

 

1980年代初頭のナポリ。

地元のカーニバルで、みんなでつながって「ジェンカ」を踊るアルドファミリー。

夫のアルドはラジオ局で人気の朗読番組を作っており、

妻のヴァンダ、小学生くらいのアンナとサンドロの4人家族です。

 

 

仮装して楽しそうな子どもたち。

祭りからひとり浮かない顔をして帰ってきたアルドは

唐突ににヴァンダに こう告白します。

「実は女性と関係をもった」

「いい話ではないが、隠し事はしたくなかった」という夫に

妻はねちねちと食い下がり、

「出て行って!」というヴァンダのことばに、

アルドはほんとうに家を出てしまいます。

 

後日、アルドの職場であるローマの放送局に凸って

同僚もいる前で夫に不満をぶつけるヴァンダ。

アルドの浮気相手はリディアという若い魅力的な女性で、

美人なうえに、声優だけに声もきれい。

 

家に帰ると、子どもたちは父親の番組に夢中で

そのこともヴァンダは気に入りません。

週末、アルドが家に戻って子どもたちの相手をしても

ヴァンダの怒りは増すばかり。

けんかも次第にエスカレートし、ガラスのピッチャーを投げるようになったり

家のなかはめちゃくちゃ。

ヴァンダの精神状態もさらに不安定になって、

窓からラジオを外に放り投げ、自分もそのあと飛び降ります。

 

幸い命は助かったものの、

「私はもう死んだも同然」

それでも、幼い子どもたちは

壮絶なけんかを見せつけられながらも、母に寄り添います。

 

場面かわって、

30年後の老年期のアルドとヴァンダ。

(ふたりとも似てないので、すぐにはそうとはわからず・・・)

玄関のチャイムがなり、代金引換の荷物が届きます。

 

お金をとりにアルドが部屋に戻ると

その若い女性の配達員はいっしょに部屋に入り込んで

いろいろ話しかけ始めます。

「おつりはない」といわれ、「じゃあ、その分はチップで」というアルド。

荷物はヴァンダが頼んだ健康器具でした。

ヴァンダによれば、最初に配達員がいった金額すら

購入金額より高かったようで、不機嫌Maxになります。

 

とはいえ、ふたりはこれから海辺にバカンスにいくところで

猫のラベスを部屋に残して、車で出かけます。

 

 

バカンスから帰ってきたふたりを待っていたのは

泥棒が入ったかのようにめちゃくちゃになった部屋。

そして猫のラベスも消えていました。

ものが壊されている割に金目のものは手つかずで

警察に通報して、後片づけをはじめるふたり。

ネコの餌やりを頼んでおいた子どもたちには連絡せず

ヴァンダは、あの配達員の女を疑っています。  (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

「平穏な家族の暮らしは、夫の浮気の告白で終わりを告げた」

というような作品紹介でしたが、

この夫婦は根本的な相性の悪さで、最初から手におえない感じ。

どこまでも追及しなければ気が済まず、

時にエキセントリックに暴力的になる妻のヴァンダ。

そして、人当たりは良いけれど、思慮に欠け

大事なところで横着を決め込む夫のアルド。

 

金銭的な事でも、収入はかなりありそうなのに

浪費家で金払いのいい夫のことを

生活費を切り詰めて家計を支える妻は許せないようで、

それは30年後も同じ。

美人の配達員にデレデレして余分ににお金を払う夫は許せません。

自分が注文した代引きの荷物があるのなら、おつりのないように

前もって現金を用意していて、夫に任せずに自分が出ればいいのにね・・・

 

あの「浮気の告白」のシーンでも(幸い私はこういう経験ないのですが)

一般的に考えたら

① 浮気はすでに過去の話だけれど、懺悔のつもりで告白したのか

② これから先の結婚生活に影響のあるレベルなのか

③ この言葉で離婚を切り出そうとしているのか・・・

 

妻に思い当たることがあってもなくても、まずはこの辺の確認だと思うんですが、

悪いのは浮気をしたアルドだけど、あまりにヴァンダが取り乱すものだから、

アルドは嫌気がさして家を飛び出し、

浮気相手のリディアのもとへ行ってしまうのです。

 

アルドの職場はローマで、ナポリにある自宅とは200km以上離れているから

おそらくそれまでも毎日は帰宅せず、たまに帰ってくると

本を読むのも上手だし、一緒にお風呂に入っても楽しいし、

子どもたちには「いいパパ」に見えたのでしょう。

(その辺も、たぶん妻の気に入らないブブン)

 

「離婚したいアルドとそれを許さないヴァンダ」っていう構図にみえましたが、

それ以上に意地の張り合いみたいな感じで・・・
80年代といったら、日本でも離婚原因を作ったほうからも離婚が切り出せる

「有責主義から破綻主義へ」が言われるようになったころと思いますが、

イタリアはそうそう簡単に離婚はできないお国柄のようで、

「別居」はしてても、結局「離婚成立」にはなってなかったみたいです。

(そのあと、しれっと元の鞘に収まっているしね)

 

 

 

続きです(ネタバレ

 

ふたりは完全に別居をして、幼い子どもたちが定期便のように行き来する生活に。

 

子どもたちの目の前のガチのけんかも珍しくなく、

多分子どもの心にトラウマが残るレベル。

「リディアは魅力的だから、子どもたちが懐きすぎてヴァンダが気の毒」

とアルドはいうものの、

実際は、自分が預かる番になっても

職場の先輩夫婦の家におしつけて子どもたちを放置していたり

そんなこんなで親権もヴァンダのところに行ってしまいます。

 

 

これは、タイトルにもなっている「靴ひも」のシーン。

アルドの結び方は輪をふたつつくってひねるやり方、

イアンノットとかベルルッティ結びとかいう結び方で

子どもたちはパパのやり方をみて、見よう見まねで覚えたらしいです。

 

このあと、アルドは結局リディアに見切りをつけられ、

ヴァンダのいるナポリの家に戻ることになります。

 

それから、30年後、靴ひもを結びあったその店で、

中年の太った女性と脂ぎった男性が話をしています。

なんとそのふたりは(すっかりオジサンオバサンになった)アンナとサンドロでした!

 

ふたりは、両親の諍いをつぶさに観察していて、

いろんなことを覚えていたし、

父が大事に保管していた工芸品のような箱の中に

リディアのヌード写真がはいっていることも知っていました。

 

「決着をつけましょ」

バカンスにでかけた両親のいない部屋にはいったふたりは

猫に餌をやると、すべての引き出しや戸棚を開け放ち

手当たり次第に家財を引きずり倒し、めちゃくちゃにします。

そして、アンナは母の大切な猫のラベスを抱いて家をでます。    (おしまい)

 

 

中年期と老年期のアルドとヴァンダを演じるのは

イタリアを代表する有名俳優。

顔も体格もあまり似ていないので、最初ちょっととまどいました。

 

それにもまして、あんなに天使のようにかわいかった姉弟が

世俗にまみれた中年男女になってしまったのがショックで・・・!

この変化が「究極のネタバレ」にも思えるのですが、

何気に予告編にも出てくるんですよね。

 

美形の俳優さんが演じていますが、なかなかの俗悪っぷりです

 

映画の方は、そんなに込み入った話ではないですが、

(原作では、それぞれの立場でもっと丁寧なドラマ仕立てになっており、

アンナたちが成長してからの家庭内不和も描かれます)

子どもを育て上げてホッとしている、私たちくらいの年代の夫婦がみると

けっこう刺激のつよいブラックコメディに思えます。

 

子どもたちは親のいいところよりも愚かしい行いを鮮烈に記憶し

自分の性格の中に親と似ている「ダメなところ」を見つけて

それを毛嫌いしているものなんですね。

怖っ!

 

それにもまして、思い出と称して、余計な記録を子どもたちに遺すのはダメなんですね。

ヴァンダが苦しい中やりくりした何十年分もの家計簿とか、アルドの著作の草稿とか・・・

(↑あ、これは原作の情報だったかもしれません)

これも終活のチェック事項ですね。

 

 

本編で一番印象的な音楽はバッハの「バディヌリ」です。

アルドが家を出る、クライマックスでドーン!とかかるのですが、

この曲、「地下室のヘンな穴」の時も何度もかかったし、

ゴルドベルク変奏曲のフレーズを使っていたのも共通。

フランス映画とイタリア映画で映画の内容も全然ちがうのに、

なんでこんなにぴったり合うんでしょ?

バッハにもちゃんと著作権料を払うべき!と思ってしまいました。

 

 

 

実は、これ、初日に鑑賞していたので

来場者プレゼントのステッカーをもらっていました。

 

更新が1週間遅れてしまっていたのです。

最近映画のことを書いても全くアクセス伸びないもので

ちょっとモチベーションが低下しております (笑)