映画 「母へ捧げる僕たちのアリア」 2022(令和4)年6月24日公開 ★★★☆☆

(フランス語 字幕翻訳 手束紀子 )

 

 

南フランスの海辺の街。

14歳のヌールは、3人の兄たちと昏睡状態の母の介護をしながら

夏休み中もバイトにあけくれています。

父親の姿はなく、家は古い公営団地で、生活は苦しそう。

 

3人の兄たちは顔も性格も全然似ていなくて個性的。(よく見るとみんなタイプの違うイケメンです)

 

 

左から

① 長兄のアベル (元サッカー選手で、今はスポーツ用品の仲介業?)

② 次兄のマニュ(モー) (人当たりはいいけれど、バイセクシャルで体を売ってる?)

③ 末兄のエディ (警察にいつも追われているチンピラ)

④ ヌール (歌の好きな中学生)

 

 

オペラ好きの母のために、ヌールは時間になるとスピーカーを母の部屋の前まで引っ張って

曲をかけるのですが、兄たち(特にエディ)にはやめろといわれます。

 

 

入院させろという伯父に反対して

「ママは家にいたいはず」といいはり、兄弟で在宅介護しているのですが、

母の薬代や巡回診療にはお金がかかるようで

兄弟はそれぞれに働いてお金を集めています。

 

ヌールも中学生ながら、TIGという奉仕活動(教育的措置で修繕や掃除)で

夏休み中の学校の壁塗りをしています。

すると、教室のなかからパバロッティの歌う「誰も寝てはならぬ」が聞こえてきます。

ヌールが我慢できずに梯子をかけて教室のなかをのぞいていると

親方に見つかり、お仕置きされますが、

講師のサラ先生は

「歌いたくなったら来ていいのよ」と好意的。

 

ヌールが、母にいつも聞かせている

ドニゼッティの「人知れぬ涙」を歌うと、

女子生徒たちにもけっこう好評。

 

「楽譜なんて、パバロッティだって読めなかった」

「上手い人のまねができればいい」

「自分の体をいい楽器に仕上げて!」

「好きなもの美味しいものを想像して息を吸うのよ」

 

こんどは「乾杯の唄」を練習してくるようにいわれ、

ヌールに楽譜を貸してくれますが、

エディにページを破かれ、タバコの葉を巻かれてしまいます。

また、ママの薬を買うために預かった金も奪われてしまいます。

 

ヌールは仕事をさぼって歌のレッスンに行こうとしますが

TIGの監視役には怒られ、サラ先生にも

「遅刻厳禁よ」といわれ、ショックを受けます。

                           (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

今年はまだ何本も映画をみていないのに、

「ガガーリン」「パリ13区」「オートクチュール」と

低所得層の団地がでてくるフランス映画ばかり見てる気がします。

 

 

「ヤングケアラー」要素までいれたら、「オートクチュール」が一番近いかもしれないです。

・・・というより、途中から、だんだん「コーダ あいのうた」に似てきて

あれとおなじ結末になるのかと思ってしまった。

 

「コーダ」はフランス映画「エール」の完全パクリなので、

この映画もそのうちアメリカ版にリメイクされるかもしれないけどね。

 

 

ここのオチは(コーダとはちがって)こんな感じ。ネタバレです。

 

おじさんに通報されて、母が部屋から連れ去られ入院させられたことを知った兄弟は

一致団結して病院から母をさらってきます。

 

練習にやってこなくなったヌールを心配して、サラ先生が自宅にやってきますが

ちょうどその時、エディの違法薬物を押収するために警察がやってきて

それに抵抗するサラ先生まで連行されてしまいます。

 

ヌールは母にオペラを聞かせると反応があると信じていたのだけれど

ある日、モニターの警告音が鳴り響き、

結局、一度も意識を戻すことなく、母は死んでしまいます。

 

母の葬儀。

「ママの左のほほに涙のあとがあった」と最後に看取ったアベルがいいます。

 

ヌールはピザ屋の配達のバイトをはじめ、

大量のビザを団地の屋上に運びます。

そこにいたのは兄弟や友人たち。

アベルはサラ先生から預かっていた手紙を渡します。

 

それはオペラ歌手でもある先生のコンサートチケットでした。

はじめて生の舞台をみて感動するヌール。

 

そして、夏休みがおわります。

「ママのいない日々。ママはエディも愛していた」

「あした僕は出発する」                (あらすじ  ここまで)

 

 

ラスト、ヌールは学校には戻らずに街を出る・・・みたいな感じでしたが

歌う喜びは知ったものの(先生は才能があるといってくれたけれど)

その道に進むほど上手ではないから、どうするんだろ?

 

そもそもフランスの教育制度や学費負担のことがわからないから何ともいえません。

14歳のヌールが中学を中退する、とかありなの?

(エディは中退したといっていたけれど)

 

AITでの作業も、

問題を起こした子どもに課せられる罰則(というか作業療法)と思って観ていたのですが

多少の報酬はでるみたいで、ちょっとこれもわかりません。

(薬の売人やギャングの手下にならないように監視しながら最低限のお金を与える、ということかな?)

 

母の兄(弟?)が親権者のようなので、父親は死んでしまったのか?

母の埋葬のとき、それらしきお墓もなかったし、離婚したとしても

未成年のヌールへの義務はあると思うけど・・・・

でも父に対する不満は特になくて

「パパは歌でママを落とした」・・・ということは、歌手だった??

 

食べるシーンが多いのですが、同じものしか食べません。

スイカか、具なしパスタか、変なソースつきのポテト。

最後にピザが出てきたときは、ちょっとほっとしました。

 

病院から取り戻すくらい在宅介護にこだわるわりには

「音楽を聞かせる」以外、世話をするシーンもなく・・・・

わからないこと多すぎるんですが、

音楽レッスンについては、もう「コーダ」をはるかにしのぐ説得力でした。

 

くちびるをブルブル震わせる「リップロール」は安定した息を供給するための

ボイストレーニングの基本だし、

「美味しいものを想像して鼻から息を吸う」

というのも理にかなっています。

 

 

サラ先生を演じるジュディット・シュムラは、本当に弾けて歌える人だったんですね。

「セラヴィ」も「サマーフィーリング」も若い美女の役だったけれど、

はっきりものの言える女性教師の役、とても適役だったと思います。

 

それから、出てくる曲が全部超有名曲で、日本語歌詞もあるんですよね

(「誰も寝てはならぬ」はなかったかな?)

 

「乾杯のうた」 ♪ いざ、いざうたえ 高らかに・・・・

「人知れず涙」 ♪ ひそかなるなみだ ほおを伝えり・・・・

「ハバネラ」  ♪ 恋はジプシーの子よ 法も理屈もなしよ・・・

「楽に寄す」  ♪ 楽(がく)の音(ね) わがなやむとき・・・

 

もうこれらは鑑賞曲ではなく、自分で歌う歌ですよ。

とっとと家に帰って歌いたくなりました(笑)

 

「ヌールは街を出て、音楽の世界に一歩足を踏み出した」

とは、現実的に考えづらいと思ったんですが

(彼はそこまで上達はしてないし、声変わりのこの時期にトレーニングする?と思ったので)

ただ、歌うことの楽しさに目覚め、みんなの前で褒められる経験は

彼のこの夏の宝となったことでしょう。

 

「コーダ」みたいなわかりやすいラストより、こういうちょっとモヤる話の方が

個人的に好みではあります。