映画 「クラム」 2022(令和4)年2月18日公開 ★★★☆☆

(英語: 字幕翻訳 松岡葉子)

 

 

「描いていないと気が変になる。⾃殺したくなるんだ。」

「いや、描いていても⾃殺したくなる」

 

牛乳瓶の底みたいなメガネをかけて、膝をかかえてゆらゆらしている

ニットベストの痩せた男。

彼は60年代のアングラコミックス運動の寵児といわれた漫画家のロバート・クラムです。

 

「絵をかいてメッセージを伝えようとは思っていない」

「自分をさらけだしているだけ」

「書くことは体にしみついた習性だ」

 

話しながらもペンの動きは止まらず、繊細で正確なキャラクターがつぎつぎに生まれていきます。

 

 

彼は実家の自室にひきこもっている兄のチャールズを紹介します。

(チャールズがメディアの前に顔を出すのは初めてで

どうやら、彼が登場することがこのドキュメンタリーの目玉だったようです)

 

チャールズは子どものころから本好きで、絵もうまくて、弟のロバートの憧れの存在。

下には末弟のマクソンや妹たちもいて、

子どもの時から兄弟5人で「アニマルタウン社」という会社ごっこをしたり、

「宝島」を見てコスプレして小物もつくって、

かなりクオリティ高い海賊ごっこをして遊んでいました。

 

高校生になったチャールズは、ハンサムで頭も良かったので人気者だったのですが

男子のグループに目をつけられ、苛められ暴力をふるわれるうちに不登校になり

部屋に引きこもり、安定剤や抗うつ剤が手放せなくなります。

                             (あらすじ とりあえずここまで)

 

ロバート・クラムなる人物は全く知らないのですが、

2月にシネマカリテで公開したときのロビー展示がめちゃくちゃ楽しそうで

なんとなく気になっていた作品でした。

 

楽しそうでしょ?

 

 


 

 

今月、4か月遅れで名画座に下りて、初日鑑賞のプレゼントのステッカーももらってたのに、

しばらく映画と関係ないことばかり書いていて、すっかり更新が遅れました。

 

・・・というか、実は(正直にいいますと)

映画の途中に熟睡してしまって、30分以上記憶がなく、

ちゃんと感想が書けないのです(笑)

 

ストーリーがあるわけじゃないので、致命的なことはないのですが、

なんで寝ちゃったんだか・・・・?

 

少なくとも「退屈な話」ではなくて、ロバートの自虐話は面白いし

とにかく出てくる人が全員、かなりクセが強い!

 

再婚した2番目の妻も(一見フツーの人に見えますが)かなり攻撃的だし、

兄は年季の入った引きこもりだし、弟はさらにメンヘラ度アップ!

(巨大剣山みたいな釘の山に2時間正座して瞑想とかしてるんですよ~ 引くわ!)

 

 

あと、取材の最中にいろいろ文句をいってくる母親の圧がまたすごくて

妹たちはきっぱりと「取材拒否」・・・

 

全員キャラ強くて驚きました。

でも、一番問題があったのは、どうやら高圧的な父親の存在だったらしい。

もう故人なんですけど、みんな口をそろえて父の悪口ばかり。

 

外づらは良くても家に帰れば暴力的で

「強い男」「優しい女」を子どもたちに強要してくる・・・

まあ、日本でもこの世代だとごく普通にいますけどね。

 

この兄弟は頭いいのに、オタク気質なのが父の「理想像」とかけ離れているものだから

いつも家庭内暴力が絶えず、夫婦仲も最悪、

母もアンフェタミン中毒になってしまいます。

 

アートに出会って作品のなかに自分をさらけ出すことで開放されたロバートに比べ

兄や弟はまだ生き方を模索している感じでした。

 

昔の家族写真はどこからみても「理想的な家族」に思え

三兄弟もハンサムでスタイルも良くて、ちょっと今の姿と結びつかなくて・・・

なんだか、

美形の俳優が、特殊メイクやへんなメガネをかけて役作りしてるようにしか思えませんでした。

 

それにしても驚かされたのが、彼の人間観察やデッサン能力。

 

 

これは付き合った「歴代の彼女」だったような・・・

もっとデフォルメして書くのかと思ったら、これ以上ないくらい写実的!

 

シネマカリテの展示の中央にあった「ロバートクラムBEST」の本を

図書館で借りたのですが、

 

「猫のフリッツ」でさえ、けっこう風刺がどぎついし、

女性の下半身メインの作品に至っては、とてもじゃない、画像を載せられません。

 

「エロさ」よりもずっと「気味悪さ」が上回って、ちょっと勘弁してほしかったです。

「女性の下半身には人格がない」とでも思っているのかな?

黒人の描き方とかも、あれだけのデッサン力あるのに、

偏見に満ちた失礼な書き方をしているから、

今だったらたたかれて当然かもしれません。

 

でもそれは他者への攻撃というより、彼の強い劣等感の表れなのでしょう。

チャールズがいろいろ分析していましたが、話が難しすぎて・・・(それで寝たのかもね)

 

 

チャールズはほとんどお風呂にはいらないそうで、

この部屋も閉めっきりだから、たぶん匂うんだろうな。

女性にモテないと嘆く前に、まずお風呂に入ろうよ!

 

 

ただこの兄弟、生活習慣めちゃくちゃなのに、

本やSPレコードはきちんと分類してきれいに並べられています。

(ちょっと親近感・・・)

 

この映画、撮影されたのは30年近く前で、当時ロバートは50歳。

古い映画が劇場公開されるときは、たいてい「4Kリマスター版」とかなんですが

これはそういう感じでもなかったです。

 

現在ロバート・クラムは78歳。

撮影時は南フランスへの引っ越しの直前だったんですが、

その後フランスで定住、娘ソフィーもその後漫画家になったそうです。

(前妻の息子もソフィーもすごく絵が上手かったですね)

 

そして、兄のチャールズは撮影の1年後に自殺したとか。

世間の目に触れることで、兄が立ち直るきっかけが作れれば・・・

というロバートの思いはかないませんでした。

 

寝てたので、ぐだぐだの感想ですみませんです。