映画「今はちょっと、ついてないだけ」 2022(令和4)年4月8日公開 ★★☆☆☆
原作本「今はちょっと、ついてないだけ」 伊吹有喜 光文社
ちょっと人生に行き詰った30~50代くらいの男女が
シェアハウスで出会って、新たな人生を切り開くっていう、話なんですけど・・・
登場人物は↑に映ってる4人です。
①立花浩樹 (玉山鉄二)
かつて世界の秘境を旅する人気番組でブレイクした「ネイチャリング・フォトグラファ」の立花。
誰もが知る有名写真家でしたが、ブームが過ぎ、バブル崩壊から社長の借金を負うことになり
それだけのために働いて、ようやく完済した彼はすでに40代。
施設にいる母を見舞うと、
同室(?)の友人の写真をとってあげて!といわれます。
②宮川良和 (音尾琢真)
バブル時代のテレビプロデューサー
華やかな世界をまだ引きずっている彼は、職場の人間関係に苦しんで
辞表を出してしまいますが、
そのことに妻(奥山佳恵)は激怒、年頃の娘にも嫌われて、家には居場所がありません。
ある日、宮川が母のいる施設に行くと、ちょうど母のシズエが写真をとってもらっているところでした。
プロのカメラマンと聞いていたのに、スマホで撮っているのに腹をたてる宮川、
ところが撮れた写真は母のいい表情を捕えたものでした。
立花の母は息子が昔使っていたカメラを探し出してきましたが、
レンズには一面のカビが生えていて不機嫌に。
それでも(息子が苦労してきたことを思い出し)
「今はちょっとうまくいってないだけだから・・・」
「そのうちいい運がまわってくるよ」
と慰めるのでした。
ある日、宮川は娘が立花と会って話をしているのを見かけます。
問い詰めると、
「おばあちゃまの推薦で、立花さんに劇団の写真を撮ってもらうのよ」
娘はダンサー(バレリーナ)で、劇団に所属しているのですが
立花に失礼だと、娘は父親に怒っています。
母の死後、宮川は家を出て酒におぼれ、安ホテルを転々とする生活になるも
娘の公演は気になって観に行きますが、
気分が悪くなってトイレで吐いて倒れてしまいます。
偶然通りかかった立花に背負われて、
気が付くと立花の部屋に寝かされていました。
③瀬戸寛子(深川麻衣)
美容の仕事でいろいろな資格を持ちながらも、接客が苦手で
経営が苦しくなるといつも一番にリストラされてしまう瀬戸。
女性だけのシェアハウスに住んでいるのですが、ルームメイトはひとりふたりと
生活の基盤をみつけて去っていき、ひとりになってしまいました。
新たにシェアハウスの住民(管理人?)となったのが立花で
彼が介抱した宮川もここの空き部屋に住むことになります。
④会田健 (団長安田)
落ち目の芸人の会田は、心機一転を図り、
肉体派をアピールできる写真を立花に依頼。
やがて、アウトドアの動画が注目されるようになります。
その動画をきっかけに、
かつて立花をブレイクさせ、そしてどん底に追いやった巻島(高橋和也)と対峙することに・・・・
ざっくりこんな話なんですが、もともとシンプルな話を複雑に見せようとするのか
時系列にみせないので、非常にわかりづらい。
たとえばカメラひとつにしても、
「処分せずに持っていたたった1台のカメラのレンズにカビが生えていたから
しかたなくスマホで撮った」のか
「立花はカメラの存在を忘れていたのに、勝手に母が見つけてきた」のか?
そして新しいカメラも、どのタイミングで買ったのかもわかりづらい。
それからバブル時代の回想シーンがなんども挿入されるのですが
立花の若い時の俳優と顔がつながらず、誰?って感じ。
見ていて一番気分があがるのは
*プロの写真家の立花
*美容のオールラウンドプレイヤーの瀬戸
*マネージメントのプロの宮川
たまたまシェアハウスで出会ったこの3人のユニットで、
クオリティ高い仕事が実現できること。
婚活写真や家族写真の依頼が殺到・・・という設定なんでしょうが
画面上では全然「殺到」してないので、これでやっていけるのか心配になります。
ロケ地の
①千葉県茂原市、②長野県千曲市、③愛知県幸田町、④長崎県島原市
の扱いも中途半端で、地域活性、観光客誘導に効果あったのかな?
時系列もですが、いらない雑音みたいなエピソードは編集でカットすべきでした。
唯一心に残ったのが、
「瀬戸が騙されそうになった開運グッズの勧誘」
一番心が弱っているときに、道で若い女性に声をかけられて喫茶店に入り
悩みを聞きつつ、高価なものを売りつけようとされるんですね。
この流れだと間違いなく騙されるんですが、瀬戸は意外と踏みとどまります。
ただ、セールスレディ(大友花恋)があまりにピュアで、
これで癒されるのなら、騙されるのもアリかとも思いました。
左上から
いつもヘンテコな役の音尾琢真が「穏やかに笑ってるふつうの中年」と言うのが気になったんですが
やっぱり彼はおかしな役のほうが観たいな~
お笑いの人って、初出演の映画で爪痕を残す人が多いですが、団長安田はちょっとイマイチ。
彼はリアルに運動能力高く、地でやればいい役なのに。
肉体派芸人役なら、もうちょっと体を作ってくればいいのにね。私なんかが言えた義理じゃないですが(笑)
巻島の高橋和也はさすが!の演技。
無茶苦茶な人格にリアリティを吹きこんでくれました。
かとうかず子やひょうきんアナの山村美智がおばあさん役とは!
世代の移りかわりにため息がでそうでした。
立花が淹れてくれる「こだわりの天使のコーヒー」の味と香りが
本作の「見どころ」なはずなんですが、そもそも
いかにもおいしそうなコーヒーの映像も
おいしそうにコーヒーを飲む表情も、難し~い!
ご飯とかスープとかなら難易度低いけど、
そもそも「誰が飲んでも感動的においしいコーヒー」と
「とことんこだわって淹れたスペシャルなコーヒー」は
かなり違うと思いますよ。
ところで、本作の「現代シーン」は確か2008年で、「過去シーン」はその15年前。
15年前は1993年だから、ちょうどバブル崩壊といわれた時期とかぶります。
(2008年はここまでスマホやSNSが普及してなかったと思いますけどね)
バブル崩壊からもう30年、バブルといわれた時期から35年もたつので
若い人はどんなものなのか、知らないんでしょうね。
当時の人たちがみんな浮かれていたわけでもないですが、
ただ、ものすごくいい思いをした人の転落の角度は確かにすごかったかも。
バブル崩壊がネタになってる映画って、最近なかったので、それはちょっと新鮮でしたが、
コロナもあと30年くらい経ったら
「コロナ禍」「三密」「PCR」・・・なにそれ?
って若い人に言われるようになるのかもね。
最後に、
「今はちょっと、ついてないだけ」
っていうことばに慰められる人も、反発する人もいるんでしょうが、
ラストで立花は母のチョコを投函しようとして
「ありがとう、ついてない時期は抜けたようです」と追伸を書くところ。
終わりよければすべてよし。
気もち良く映画館を出られましたが、編集であと30分くらい、短くしてほしかったな。