映画 「ハウス・オブ・グッチ」 2022(令和4)年1月14日公開 ★★★☆☆

原作本 「ザ・ハウス・オブ・グッチ」 サラ・ゲイ・フォーデン 講談社

(英語ほか 字幕翻訳 松浦美奈)

 

 

1978年 ミラノ。

真っ赤な車から降り、埃っぽい駐車場を腰をくねくねしながら歩く色っぽい女性。
トラック野郎たちにヒューヒューいわれながらプレハブの事務所にはいり、タイプを打ちはじめます。
彼女の名はパトリツァ・レッジャーニ。

父の経営するトラックの運送会社で働く事務員でした。

ある日友人に誘われたパーティでバーテンダーと間違えて声をかけた青年が
あのグッチ家の御曹司マウリツィオ(アダム・ドライバー)だったと知ります。
彼になんとしても近づきたいパトリツァはストーカーのように張り付き、

偶然を装って書店で声をかけたり、
彼のスクーターの風防ウィンドウに口紅で電話番号を書いて、デートにこぎつけます。
「人を楽しませるのが特技」というパトリッツァにまんまと嵌められ、

マウリツィオは彼女にすっかり夢中。

結婚する気満々のふたりでしたが、彼女を家に連れて行くと
父ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)は、

彼女は財産目当てだから、付き合ってもいいけど結婚はダメ、と。
父に反対されても、マウリツィオの気持ちは変わらず、

パトリツァの実家に転がり込んで運送会社でトラック洗いながら
弁護士の勉強もしながら、ふたりは結婚します。

ロドルフォには、実質経営トップの兄のアルドがいました。

彼は、自分の息子のパオロ(ジャレド・レト)があんまりバカ息子なものだから、

穏やかで優秀なマウリツィオに期待していて
明るいパトリツァとも気が合って、ふたりの最大の応援団でした。
アルドは自分の70歳の誕生日にふたりを招待し、

結婚祝いだとNYまでの航空券をプレゼントしてくれました。

パトリツァは、「巨万の富を得る」という占いを信じて、夫を説得し、

ふたりはNYに移り住むことに。
マウリツィオは伯父からはオフィスを与えられ、経営にも参加するようになります。

 

そのうち、父ロドルフォの健康状態が悪くなり、ふたりはミラノへ。
病身の父は最後に息子を許すのですが、株券のサインはしないまま亡くなってしまいました。


実権の一部を握ったパトリツァはグッチ家の人たちを支配するようになり、

パオロを応援するようなふりをして裏切り
伯父のアルドの犯罪も告発して実刑をくらわせてしまいます。      (あらすじ とりあえずここまで)

 


 

 

原作本は、マウリツィオの襲撃事件からはじまるスリリングな展開だったので

スキャンダラスな暴露本のようなのを想像していたら、

当時のグッチ家をとりまくファッション業界とか経済界を描いたビジネス小説みたいで、

私にはちょっと難しく、ともかく映画をみることにしました。

 

映画では、パーティで知り合った御曹司に、レディ・ガガのパトリツァが

もうあからさまにグイグイいくので、もう最初の30分でお腹いっぱいになりました。

 

これで彼の父にも上手いことすり寄るのかと思ったら、あっさり拒否されて大笑い!

だって、クリムトの「黄金のアデーレ」を見て

「ピカソですか?」とかおバカ丸出しなことをいうんですよ!

せめてエゴン・シーレ?

いや、あのキンキラを見せられたらクリムト以外に答えようがないですね。

(それより、あの絵はこの映画が正しければ、グッチ家にはなかったと思うけど・・・)

             ↓

 

パトリツァの財産目当てを一発で見破ったロドルフォはさすがに年の功。

一分の隙もない着こなしもさすがでした。

 

それに比べると息子のマウリツィオは、弁護士を目指す素朴な青年で

あまりファッションには興味ないようす。

 


アダム・ドライバーがへんなメガネをかけていたので、

極端な役作りをしてくるのかと思ったら、ほぼいつもの彼でした。

本人と雰囲気も似ているし。

 

 

これがパトリツァの本物↑

出会った頃、マウリツィオは「エリザベス・テーラー」と呼んでいましたが

たしかにそんなお顔立ちだし、

濃いメイクをするとガガにも似ています。

 

 

父親に反対されて、相続人から外す、といわれても結婚しちゃうふたり。

それにしても、パトリツァの両親は、いきなりグッチの御曹司が家に転がり込んでくるなんて

驚いたでしょうね。

結婚式もグッチ側の席には2人くらしかいないんですけど

なんかいい雰囲気の式で、レッジャーニ家の人たちもそこで育ったパトリツァも

実は普通に陽気な善人なんじゃないの?ってちょっと思ったりもしました。

 

前半はそれほど大変な事件は起こらなくて、

ジェットコースタームービーほどじゃないんですが、

音楽の使い方がけたたましくて、もう煽る煽る・・・・

 

主題歌「ハート・オブ・グラス」以外で私がすぐ曲名わかるのはクラシックくらいなんですが、

こんなシーンでベルディの椿姫「乾杯のうた」つかう?

そこでベートーベン「運命」ですか!?   そして

モーツァルト「魔笛」の「夜の女王のアリア」も気の毒な使われ方でした。

 

つづき。実話モードですけど、ネタバレということで・・・

 

ついにマウリツィオは3代目社長へ就任し、

パトリツィアは念願のグッチの社長夫人の座を手に入れ

「女帝」としてふるまうようになります。

 

アルドたちを刑務所に追いやった彼らでしたが、

告発の手はこの夫婦にも向かい、

ロドルフォの株券への署名の偽造など、財務警察に追われ

国境を越えてサンモリッツの別荘に夫婦で逃げ込みます。


親族の争いにつかれたマウリツィオは、妻に対する気持ちは冷め

サンモリッツで再会した元カノのパオラ・フランキに癒しを求めるようになります。

 

やがて離婚が成立。

パトリツァは親しい占い師にマウリツィオを殺す計画をもちかけ、

1995年3月

自転車でオフィスについたところを元妻の雇った殺し屋に銃撃され、

マウリツィオは命を落とします。

 

その数時間後、自宅で悲しみにくれるパオラを見つけると

「ミス・フランキを私の家から追い出して」と言い放つパトリツァでしたが、

「黒い未亡人」は真っ先に疑われ、

犯罪にかかわった占い師やヒットマンとともに法廷へ。

「パトリツァ・レッジャーニさん」と呼ばれると

「グッチ夫人と呼びなさい!」

彼女には26年の実刑が課せられます。

 

グッチの経営者にはすでに創業者グッチ家の人間はいませんが

外部からの資本と経営陣を受け入れて、今も世界的企業として生き残っています。  (おしまい)

 

 

 

ジャレド・レトのこの化けっぷりは論外ですが、

主役のふたりは意外と無理してない役作り。

でも予告編で感じる過剰なあくの強さはなに?

と思ったら、あの「へんな英語」ですね。

 

主要キャストは全員英語のネイティブなのに、

わざとイタリア訛でしゃべっているんですよ。

イタリア系の人がアメリカで英語を使っているのではなく

ミラノでそれをやるのって、おかしくない?

 

じゃあNYに行ったらいい発音の英語になるのかと思ったら同じだし

どういう設定なのか教えて欲しいです。

 

たしかマウリツィオはアルド伯父さんから

「お前は語学も堪能で・・・」とかいわれてましたが、

へんなイタリア訛の英語しか喋ってないんですけど(笑)

 

そういえば、アルドはけっこう日本語しゃべっていましたね。

「こんにちは」

「さいきん、どう?」

とか言ってました。

日本人は「グッチの上客で、忠実で物静かで金持ち」

と言われていたけれど、これ、あんまりうれしくないかも。

「ゴテンバのモールに出店する」といって

弟のロドルフォに即行で却下されていました。(アルドのほうが社長なのにね)

 

予告編でレディ・ガガが着てるドレスはけっこう胸が開いていたり

ちょっとお下品なイメージでしたが、

映画のなかで見ていると、ちゃんとTPOにあった服をきれいに着こなして

許される範囲で個性を出している印象を持ちました。

 

 

勝手に「ハイブランドはエレガントで上品」というイメージをもってしまうけど、

マウリツィオが社長になって経営が傾いたグッチを救った

テキサス出身トム・フォードのデザインなんて

こんなのもありましたけど・・・  これは服といえるのか?!

 

 

ゴールデングローブ賞にはレディ・ガガだけノミネートされていましたが、

アカデミー賞はどうでしょうか?

作品、監督、脚本(脚色)あたりは無理でしょうが、

美術とか衣装とかメイクとかは、ぜひ評価されてほしいです。

 

159分、退屈せずに面白く観られたのは間違いないですが、

マウリツィオやパトリツァの気持ちの変化とかはかなり説明不足で

登場人物の誰にも共感できませんでした。

これは役者のせいじゃなくて、多分脚本が雑なんだと思います。

 

 

グッチ王朝の終焉というわりには(原作にはいた血縁者が)全員登場しないな、と思っていたら

公式サイトの相関図には名前だけがありました。

これってざっくり省略してしまっていい人たちなんでしょうか?

 

笑えるところも多かったけど、いい映画を見たという満足感はありません。

(どうでもいいことですが)

アル・パチーノがエプロンつけてせっせと皿洗いするところと

アダム・ドライバーが(ランボルギーニじゃなくて)

アンクルベルトをきちんとつけて

自転車に乗ってるところが個人的にツボでした。

 

(追記)

 

 

ジャック・ヒューストンのドメニコ・デ・ソーレのことを書き忘れましたが

彼は当初からグッチ家の(ロドルフォの?)税務顧問みたいに登場して

最後にはCEOになってました。

パトリツァがサインの偽造をしたのは彼しか知らないし、

「実はすべて彼の策略」としてしまったら面白いんでしょうけど、

存命者だし、ちょっとそれはダメでしょうね。

ジャック・ヒューストンは知的な役がお似合い!

 

マウリツィオは弁護士を目指す真面目な青年で

「経営で手腕を発揮する」のを期待されていたようでしたが、

結局才能なかったみたいですね。

『ベルサーチやアルマーニにデザインさせたい』といって

他のメンバーに鼻で笑われてましたが、これって

クリムトをみて『ピカソですか?』っていったパトリツァに匹敵する

恥さらしの発言なんでしょうね~