映画 「香川1区」 2021(令和3)年12月24日公開
ようやく体調も回復したので、ペンディングになっていた12月24日公開の3作品を観ることができました。
3本目は、◎をつけていた「香川1区」。
前作の「君はなぜ総理大臣になれないのか」は
国政に挑戦した20年近くまえからの取材の積み重ねもあり、彼の人柄や温かい家族を賞賛し
「こういう人物が総理大臣になれるような世の中になって欲しい」との思いをもちつつも、
政治家として未熟な部分もちゃんと映して、単なるPR映画ではけっしてなく、
ドキュメンタリー映画としてすごくよくできてたと思いました。
本作も途中までは前作の「続編」だったのですが、後半ガラッと色がかわり、
作り手が冷静さを失ってしまったように思えます。
小川氏の人柄やまっすぐな闘志はかわらず大好きですが(★は敢えてつけなかったけれど)
(政治信条と関係なく)全国の映画館で一般公開される映画としては評価できません。
というわけで、
政権交代を強く願ってこの記事に興味を持ってくださった方は、ここから先は
絶対に読まないでくださいね。
とりあえず、時系列に2021年10月31日の総選挙へと続く流れを書いておきます。
4月18日 小川淳也50歳の誕生日
赤坂の衆議院宿舎を大島監督が訪れます。
「大島さん、いっしょにメシ食いましょう!」
この日小川は、妻と次女とともに宿舎でお誕生日の祝い膳を囲んでいました。
窓際には料理につかったあとの大根の葉を水耕栽培していて、
その成長する姿に癒されるといいます。
実は小川は当初から、「50歳過ぎたら身をひく」ということを言っており、
ライブ配信で、今日なにか表明しなければ、とずっと悩んでいたといいます。
「べつに配信しなくてもいいんじゃない?」と妻
「(なんなら)政治家辞めてもいいんだし・・・」と娘。
それでも、なんらかのけじめをつけようと、
自室のライブカメラの前に向かう小川。
「次期総選挙に出馬する」ことを宣言します。
(ここでタイトル)
6月25日
菅総理がオリンピック開催後に衆議院を解散することを表明したことを受けて
選挙事務所の準備が進められます。
この時事務所の壁には
「選挙まであと95日」という張り紙が。
(・・・ということは、9月末に総選挙がある、とこの時は考えていたんですね)
この時点で「なぜ君は総理大臣になれないのか」が公開されてちょうど1年ほど。
映画の効果もあってか、地元の反応の良さは驚くほどでした。
支持者でなくても、ちょっとでも興味を持ってくれた人のところへは
名刺にぎっしり書き込みをして本人が自宅をまわってポストに投函します。
セキュリティの高いオートロックのマンションでは
集合ポストを見つけるだけでひと苦労ですが、それでも執念で見つけます!!
8月24日 平井議員の議員宿舎
大島監督による対立候補への直接取材
映画はみていないといいながらも
「タイトルがキャッチーだし、映画を見てくれた人が政治に関心を持ってくれたらうれしい」
と余裕の対応。
NECに対しての発言(「死んでも発注しない」「ぐちぐち言ったら完全に干す」など)が流出した件についても
ことばは過ぎたが税金の無駄遣いはご法度、
こっちの本気度を知って欲しかったのが「恫喝」ととられた、と。
「殿様体質で自分のことばは全部通ると思ってるのでは?」という意地悪な球を投げても
大人の対応でかわしていました。
9月21日 小豆島の小川淳也選挙事務所
前回選挙、高松市ではほぼ互角の戦いだったんですが、小豆島でははっきり負けていました。
保守的な島しょ地域で、どう支持者をふやすのか?
今回送り込まれたのがベテラン選挙参謀の坂本。
政策秘書の定年は65歳ですが、彼はすでに62歳。
小川の人柄にほれ込んだ彼はこれが最後の仕事と思っています。
10月4日 岸田内閣発足
平井氏はデジタル大臣に再任されず、新大臣は牧島かれん氏になります。
10月10日 高松
自民党に勝つために野党は統一候補を出すということだったのに
維新は香川一区に町川順子氏の出馬を決めたと聞いて、焦る小川。
本人や実家におしかけて出馬断念を迫ったことや
維新の会議に乱入した時の動画がネットに流れて大騒ぎになります。
もちろん四国新聞にも批判記事が。
10月14日 衆議院解散
19日公示、10月31日投開票の日程が発表されました。
議員宿舎に政治評論家の田﨑史郎氏登場。
「維新候補への出馬断念要請」について、田﨑さんから
「あんなことやっても、小川さんの得なことはなんにもないよ」といわれると
「あんな酷い切り取り方をされるとは思わなかった。
世間の悪意に対して無防備だった」と小川。
「いや、あなたが(町川さんのところに)行ったこと自体が間違ってるよ」
「彼女は小川票を食うかもしれないけど、それ以上に平井票を食ってくれるかも」
すると小川は声高に激昂し、
「食おうが食うまいが関係ない。
そんなだからいつまでたっても自民党の政権なんだ。
どうせまた適当な記事を書いたりするんでしょ!?」
あまりに失礼な小川の態度に、居合わせた人みんなが凍り付きます。
「謝っといた方がいいですよ」と大島監督にいわれた小川は、
その後、車のなかから田﨑さんの携帯に電話をします。
「あの・・・小川と申しますが・・・・ごめんなさい」
町川順子選挙事務所へ
「立候補は10月4日に決めていました」
「私は玉木さんの秘書をしていたから、2区からはでられず、
一番人口の多い1区で手をあげることにしました」
「小川さんからは『いっしょにがんばりましょう!』と言われると思ったから
あの電話にはすごく驚きました」
「実は自民党の県議さんからも同じような電話がかかってきましたけどね」
「当選は無理でも、ここの人たちにもう一つの選択肢を与えるのは意味のあることだと思う」
小川の実家へ
玄関には32歳で初出馬したときのポスターが・・・
母 「あの維新の事件で眠れない夜をすごしています」
父 「ほんとに、あのバカタレが!のひとことです。
きれいごとが通ると思ってる。利用されて当然。それがわからんのです。
素晴らしいと思うけど、アホですね」
小川選挙事務所
「オガココ」(小川淳也さんを心から応援する会)という若い女性ボランティアにより
選挙事務所にありがちな大物議員からの推薦状とか、必勝祈願のお守りとか、だるまとかのかわりに
鳥の形に切った色画用紙を壁や窓に貼ったり、
一般人からの応援メッセージをカラフルな紙に印刷して貼ったり、
事務所はすっかり明るく若い感じになりました。
ボランティアも日本中から集まっています。
10月19日(公示日) 高松の小川選挙事務所
今回もまた井出英策教授の力強いスピーチで出陣式となります。 (あらすじ とりあえずここまで)
選挙公示日までは、ホントに前作の「続編」という感じで
撮影期間は短いですけど、ホントに緩急つけた上手な編集で、集中して観られました。
ノートにメモしたのは日付だけなんですけど、けっこう憶えてるでしょ?(笑)
特に田﨑さんとのシーンは、もうすごいのが撮れちゃいましたね!
日本の政治を知り尽くした政治評論家の田﨑さんが
小川を訪問してアドバイスしてくれてるのに、マジギレして怒鳴るとか正気ですか?
言ってることは誰の目から見ても田﨑さんが正論。
すぐに電話して謝って、和解。
田﨑さんは許してくれたけど、世の中すべてこうはいかないし、
こういう人がトップになって国民を守れるのか??って思ってしまいます。
「かわいいから許す」が通用すればいいんですけどね。
前作では、平井氏は、お祖父さんの代からの政治家で四国のメディア王で、
とにかく最強の難攻不落のラスボス・・・で、実像は出てこなかったんですが、
今回は取材依頼を受けてもらって本人を直撃。
「ボクはあんまり警戒心をもつタイプじゃないし、誰とでも会いますよ」
って、この時はまだ余裕をかましていました。
町川さんに直撃したのも良かったです。
あのインタビューの感じだと、平井氏のスキャンダルとかが出る中で、
「今回平井に入れるのはちょっと迷うけど、共産党と選挙協力してる小川はムリ」
という票が自分に流れると思ってたようで、
「自民党から文句いわれるのは想定内だけど、小川に怒られるなんて
こっちのほうが予想外」だったようです。
前回選挙では「自民vs希望」で革新系政党支持者の受け皿がなくなり、
5000票を超える「抗議の白票」があったそうですから
とにかく1対1にすればいいってものじゃないというのが、私の個人的意見です。
町川さんの生の声を聞く機会、今までなかったのですが、
芯のしっかりした(小川よりむしろ)政治家向きの人だと思いました。
本人直撃は良かったんですが、街頭演説の時、
* 平井 → 聴衆にはスーツをきた男性が多い
* 町川 → 聴衆ほとんどいない
* 小川 → 聴衆は若い人が多く、盛り上がってる
観れば誰の目からも一目瞭然なんだから、こういうのをただ映しとけばいいのに
選挙ウォッチャーみたいな人に
「平井さんのところは動員や応援要請をかけられた人ばかりで
小川さんのところは自分からやってきた人がほとんど」
とかわざわざ言わせるのって、なんかしつこい感じ。
で、選挙戦が始まるわけですが、ここからは冷静にあらすじだけを書けなそうなので
感想といっしょに書いていきます。
この映画は、とにかくスタッフが少なくて、カメラマンもひとりだから、
選挙戦が始まると、いろんな陣営をまわるために、
プロデューサーの前田亜紀さんもカメラを持ったりするんですね。
彼女が平井陣営の街頭演説を撮影していると、
「一般人」だという男性が近づいてきて、迷惑行為だと警察に通報。
前田Pは警察の事情聴取を受けることになります。
「選挙活動を撮影するのは問題なし」といわれますが、
その後もこの「一般人」の妨害行為は続くのです。
この男性が平井陣営でどんな役回りなのか、ただの支持者なのかははわかりませんが
まあこれをみた大部分の人が
「平井はヤクザを雇って邪魔者を排除してるのか!」
って思いますよね。
カメラ持ってた前田Pが女性だったから
「女性蔑視のクソジジイ」と思う人もいるでしょうし、
もうカメラもってる時点でこっちの勝ちです。
とにかく、選挙が始まって、平井陣営に「焦りが出てきた」というのは間違いないでしょう。
平井氏本人が演説のなかで
「あんなPR映画を撮られてはフェアな投票にならない」
と言っているのを聞いて、大島監督は
「PR映画っていういい方はないんじゃないですか?」と食い下がるも無回答。
私が思うに、
「なぜ君は・・・」はPR映画としては撮ってないと思います(だから大島監督は正解)
でも、これを観た人たちの投票行動に実際大きな影響を与えてると思います(だから平井さんも正解)
それより「映画はまだ観ていない」っていってたのに「観てるんじゃない!」と言ってほしかったです(笑)
「なぜ君は・・」では平井陣営を「ただただ大きくて高い壁」のような表現で、
小川はそこに果敢に向かっていくドン・キホーテみたいな描かれ方をしていたんですが
今回はがっちりネガティブキャンペーンに走っています。
岸田首相が応援にはいった演説会を撮ろうとしたら
「報道じゃないから映画はダメ」と追い出されたことや
顔や声をかくして政治資金パーティで10口買って3人しか入れないのはおかしいだとか、
期日前選挙のあとに平井への投票の確認作業が行われている噂を聞いて
大島監督本人が身分を偽って「はじめてなもんでやり方教えてください」といって
そこにいた人に聞きこんだりとか・・・・
もうこれは商業映画じゃなくて、単なる告発ですね。
なんだろう?
警察に通報された前田Pがブチ切れて、映像の力を見せつけちゃったんですかね?
あの脅しをかけてきた「一般人」も、投票の確認作業を善意で教えてくれた人も
多分身元はすぐに割れると思います。絶対に怒られてるよね~
「映画は報道じゃないからダメ」と追い返した受付の人たちはバッチリ顔も映っていました。
ドキュメンタリー映画を撮る、というのはこっちから撮りにいってるんだから
批判や妨害は覚悟はするべき。こんなことでキレてはダメです。
そしてついに10月31日、午後8時。
「自民党が単独過半数割れ」のテレビからの音声にかぶせて、
小川選挙事務所は、バンザイと涙で溢れます。
たしか、8時直後に、開票率0%で当確が出たんですよね。
でもその瞬間の画面が映らないから、
「自民党過半数割れ」を喜んでいるような映像になってしまいました。
しかも、結果として自民党大勝してるし・・・・
そういえば、当初予想で自民党は単独では勝てないといってたテレビ局、いくつかあった気がしますが
こんな予想も外す局が0%で出した「当確」を信じていいのか?
とか、ちょっと思ってしまいました。
「なぜ君は・・」が選挙戦の大きな追い風となり、投票行動に影響を及ぼしたのは多分事実なんでしょう。
私はいい映画だと思ったし、彼や家族の人柄や明るさも大好き。
でも半面、政治家としてまだ未熟なところもちゃんと描いているし、
「良い人みたいだから投票しよう」とはならないと(私は)思ったんですが、
でもそうじゃない人が大半なら、やっぱりフェアじゃなかったんだろうな。
それでは本作「香川1区」がさらに小川の背中を押し、政権交代の風を吹かせるのか?
どうなんでしょうね?
ただちょっと心配になったのは、
映画を見て全国から集まる有象無象のボランティアたちとかメディアを称する人たちとか
終始小川本人が、周りに寄ってくる「若い人たち」をすごく持ち上げてる印象があるんですが、
すり寄ってくる人たちの善意の中の「悪意」を嗅ぎ分けられなそうで
危うさを感じます。
感じの悪い「妄言」ばかり書いてしまったので、最後に
本作でもまたまた胸が熱くなったことを・・・・・
ふたりの娘たちは社会人の1年生と3年生になりましたが、
今回も父を全力で応援します。
前回選挙の時のたすきは「娘です。」でしたが、今回は自分の名前もいれて
「父の従属物じゃなくて、ひとりの人間として応援している」
といってました。
妻は娘たちが選挙応援に来てくれることについて
「来ないほうが、(娘を)巻き込ませなくてよかった!と思うんだけど
来たら来たでマックスうれしい!」
うーん、母の心ですね。
次女は、街中で父のことを呼びかけても
「今までは片思いだったけど、最近両想いになってきたみたい」
といい、
「(父のことを嫌いな人もいるけれど)
どんな悪口をいう人に対しても
うちのおとうさんは ちゃんと話をしにいくよ!」
↑
こういうことを娘がいってくれる父親って・・・・すごいなあ。
また思い出し泣きをしてしまいそうです。(当確がでたときの「正直者がバカをみる・・・」発言は、レビューで絶賛されてるけど、あんまり響きませんでした)
今回はドキュメンタリー映画を撮る難しさ、
そして、観る難しさを考えさせられた156分でした。