映画「キングスマン ファースト・エージェント」 2021(令和3)年12月24日公開 ★★★☆☆

(英語: 字幕翻訳 松崎広幸)

 

 

 

1902年、南アフリカ。

オーランド・オックスフォード公爵は、妻エミリーと幼いコンラッドを連れて、

英国赤十字の代表としてボーア戦争を戦う指揮官キッチナー将軍を訪れますが

彼の目には戦局のゆくえよりも、飢えた現地人の貧しさが気になります。

「この世界の人たちがみな平等になるよう努めるのが裕福な者の義務だ」

と幼いコンラッドに言い聞かせます。

副官のモートンは迷惑顔でしたが、キッチナー将軍は大歓迎。

 

ところが、将軍が外にでたとたん、草むらからボーア人(オランダ系アフリカーナー)たちの銃口が

一斉に火を噴き、キッチナーを狙った銃弾が妻エミリーに命中。

オックスフォードも負傷しますが、車のなかでコンラッドはショーラに守られて無事でした。

「どうかコンラッドを守って。そしてもう二度と戦争をみせないで」

といってエミリーは絶命し、オーランドは妻を自分の上着で覆います。

上着には「kingsman」というタグが・・・

 

 

 

12年後、(1914年)

コンラッドは18歳となり、複葉機を操縦し、父をのせて自宅に降り立ちます。

教育係のポリーと執事のショーラに武術を仕込まれ、立派な青年に育った彼は

志願して戦場で闘いたいといいますが、父は絶対に許してくれません。

 

父は息子をサヴィルロウ11番地の高級紳士服店キングスマンに連れていき、スーツを新調しますが

そこで待っていたのはキッチナーとモートン。

フェルナンド大公の招待を受け入れ、彼を守るようにと依頼されます。

 

 

そのころ、天空にそそり立った岩山の上の謎のアジトでは

「羊飼い」と呼ばれる謎の組織のメンバーが秘密裏に集まっていました。

何頭かのヤギが生息するだけで、地上との行き来は1台のゴンドラのみ。

そして剛腕な守衛たちに守られていました。

構成メンバーはラスプーチン、マタハリ、プリンツィプ、エリック、など・・・・?

動物をかたどった指輪が配られ、失敗したときに使う青酸カリが仕込まれています。

 

オープンカーでのパレードの途中、

羊飼いチームの一員プリンツィプがフェルナンド大公を爆発物で狙いますが

オックスフォード親子がとっさに爆弾をはじいて大公を守ると、うしろの車が炎上します。

 

 

しくじったプリンツィプは指輪の青酸カリを飲もうとしますが、

その時、また大公夫妻の車を見つけ、今度は夫妻を撃ち殺します。

この街はサラエボ、彼らはオーストリア皇太子夫妻。

そして第一次世界大戦の火ぶたが切られます。

 

 

オックスフォート公の屋敷の書斎の本棚の後ろには隠し部屋があって、

ポリーとショーラとそこでやっていた諜報活動に息子のコンラッドも加えることに。

 

情報網から、(「チーム羊飼い」の)ラスプーチンが宗教やアヘンを使って皇帝をあやつり

戦争でイギリスを破滅させようとしていることがわかり

4人はロシアに向かいます。

 

 

パーティの主賓として現れたラスプーチンの異形に圧倒されながらも

ポリーの作った青酸カリ入りのケーキを食べさせることに成功したものの

毒に耐性のある彼には効かず、ここでダンス込みの大立ち回り。

最後はポリーが銃で仕留めてくれました。      (あらすじ とりあえずここまで)

 

 


人気シリーズの「前日譚」もので、監督もマシュー・ヴォーンだから、

「いつものやつ」を予想していたら、あんまり違ってびっくり。

 

最後の最後で聞き覚えのあるコードネーム(アーサー王の円卓の騎士)が出てきたから

なんとなく「つながった感」ありましたが、

逆にいったら、過去作の予習しなくても全くOKです。

 

とにかく実在の人物がやたらと登場します。

ラスプーチンは予告編で知っていましたが、やっぱりキャラの濃さはダントツで

ちょっとほかのメンバーがかすんでいました。

「カリンカ」にあわせてダンス(というかバレエ)しながら戦うのとか

ゲイでオッサン好きとか、スイーツ好きとか、青酸カリくらいへいちゃらとか

ガチで病気治したりとか、嘘っぽいけど、そういう風に伝わっているのも事実。

リス・エバンス、グッドジョブでした!

 

 

プリンツィプの名前を聞いて「あの人かな?」とは思ったんですが自信なし。(日本史選択なもので・・)

フェルナンド大公も、「オーストリア皇太子」とか「サラエボ」とかいってくれればすぐにわかるのにね。

それから「(1902年の)12年後」というだけで、絶対に「1914年」といわないのも

それだけではピンとこないような仕様になっています。

 

ダニエル・ブリュールが演じている人物も「エリック」というだけで、最後まで誰だ?

と思っていました。ハヌッセンのファーストネームはエリックなんですね。

でもこの人物はヒトラーの参謀だったから、次の「チーム羊飼い」でも活躍しそうですよ。

 

まあ、嘘ですけど、

ほぼ実在の人物で構成された「ヴィランのチーム」ってすごいですよね。

 

あらすじ続き。いまさらですが、さらにネタバレです。

これからごらんになる方はご遠慮ください

 

 

イギリスに協力して参戦するはずのアメリカがなんらかの妨害を受けている

という情報が入ってきます。

盟友キッチナーも船でアメリカに向かう途中、

チーム羊飼いの潜水艦からの魚雷で沈没させられます。

 

父たちと諜報活動に専念しながらも

コンラッドは兵士として国のために戦いたいという思いは固く、

父の反対を押し切って戦地へ。

ロンドンに帰還命令がでても、下士官のアーチ・リードと入れ替わって前線の塹壕戦を選び

見事りっぱに特殊任務を果たすも(名前を偽っていたから)

味方からスパイ容疑をかけられ射殺されてしまいます。 ガーン!

 

息子を失い、酒におぼれていた父オーランドでしたが、

ポリーに説得され、モットーにしていた平和主義を捨て、戦う道を選びます。

 

アメリカ大使館で「チーム羊飼い」のマタハリに会うと

彼女がラスプーチンと同じ指輪をしており、

もっていた高級カシミアのスカーフから、

カマリロヤギの唯一の生息地であるあの岩山のアジトが特定されました。

マタハリはアメリカ大統領を誘惑し、その時の盗撮テープで脅迫していたのでした。

この原本が手に入れば、アメリカは参戦するというのです。

 

高所恐怖症のショーラが「パラシュートは無理」というので

オーランドは自ら操縦する飛行機から岩山に向かってなんとか飛び降り、

ゴンドラであがってきたショーラと敵を倒していきます。

 

羊飼いの正体はキッチナーの側近だったモートンでした。

アイルランドの先祖をもつ彼はイギリス貴族から財産を搾取され苦しめられたことから

イギリスと強く憎んでいたのでした。

モートンを崖下に落とし、盗撮フィルムの原本も回収できました。

(「イギリスにもモグラを送り込んでおいた」というセリフが前にあり

当然「モグラ→モートン」と思っていたんだけど、自分がモグラだったわけ?

正体がわかっても全然面白くなかったな)

 

オーランドは戦後、高級テーラー「キングスマン」の店舗を買い取り、

ここをプライベートな諜報活動のアジトとします。

オーランドがアーサー、ショーラがマーリン、ポーラがガラハット、

そのほかにランスロット、ペディヴィア、パーシヴィルのコードネームを名乗るものもいました。

 

       < エンドロール >


新たな「チーム羊飼い」

ロシア担当はレーニンになっていましたが、バランス的に極右が必要と、

やってきた男に名を聞くと、彼は

「アドルフ・ヒトラー」と答えました。            (あらすじ おしまい)

 

 

 

ランスロットが無名の戦士として志願して、前線の塹壕を飛び出し

ノーマンズランドを駆け抜けるところ・・・・

まるで「1917 命をかけた伝令」のジョージ・マッケイでした。

 

 

 

 

コンラッドはいかにもいいとこのおっとりとしたボンボンなんだけど

最初からずっと「お国のために志願したい」と言い続けていました。

父から「意気込みは誇らしいがまだ若い」と言われても決意は変わらず。

 

「戦争の功績でビクトリア十字勲章をもらったが

土地や金を奪い殺すことは自分の体の一部が死ぬ思いだ」

父は敵兵を殺すことよりも、赤十字の人道支援とか

私的な諜報活動とかの道を選んだ「平和主義者」でした。

兵に志願するのは最大の親不孝だと思うんですけど、

彼をそこまで駆り立てたものは何なのかな? (←この辺、理解できず)

それにしても、「息子が先に死んじゃう」というのはかなり想定外でしたね。

 

「キングスマン」の過去作では

「殺し合い」のアクションシーンは多くても、スタイリッシュで、美しくて

見ててあんまり辛いシーンはなかったんですが、

本作は世界史を下敷きにしたからかもしれませんが

泥臭くて暗くて重いんですよ。ヒヤヒヤしたり、見ていて痛みを感じたり・・・・

 

楽しかったのはラスプーチンのバレエくらいですね。

あと、チャイコフスキーの「1812序曲」の壮大なテーマがバックに流れるところも良かったです。

そういえば、キングスマン第一作でも、

エルガーの「威風堂々」にあわせた爆破シーンが美しかったのを思い出しました。

 

オックスフォード邸の書斎の本棚の後ろに隠し階段があって

それを下りていったところが(キングスマンより前の)秘密の諜報基地だというところ、

各国の要人のハウスメイドから日々情報が入ってくるとか、暗号解読とか

この辺、個人的にめちゃそそられるんですが、

その辺は全然掘り下げられることはありません。

 

その分、父のオーランドが自ら危険を冒して戦うシーンがひたすら長くて

もうしわけないけど、早送りしたい気分でした。

もうお年なんだから、指示をだすだけでいいと思うんですけど、

コンラッドが死んじゃったのでメンバーはあと2人ですからね。

最低5人は欲しいですよね。

 

最後はたしかオーランドのほかに5人くらい揃いましたが、

あとの3人はイギリス王のジョージ5世と大使と

アーチ・リード(コンラッドと入れ替わった人)でしたから

ちゃんと戦力になるんだろうか??

 

それぞれのシーンはすべてクオリティ高くてよくできてるんですが、

なんだか「尺をとる場所間違えてない?」という気分です。

 

最後に知識不足でもやもやするところを備忘録としてメモしておきます。

 

おばあちゃんと3人の孫が登場し、彼らはイギリスとドイツとロシアを治めたけれど

それぞれの運命を歩む・・・みたいなシーンがあって、トム・ホランダーがひとり三役をやっていました。

① イギリスのジョージ  → これは間違いなく国王ジョージ5世

② ロシアのニコライ   → これは間違いなく皇帝ニコライ2世

③ ドイツのカイザー  → 障害があるといっていたので皇帝ヴィルヘルム2世?

 

ロマノフ家とウィンザー家が血縁関係にありこの二人は「そっくり」なそうなので

①と②は多分いとこ同士なんでしょう。

①と③もヴィクトリア女王の孫なのでいとこみたいです。

でもだからといって②と③がいとこだとは言えないと思うんですけど・・・・

あとで調べてみますね。