映画「TOVE/トーベ」 2021(令和3)年10月1日公開 ★★☆☆☆

(スウェーデン語・英語ほか; 字幕翻訳 井原奈津子、字幕監修 森下圭子)

 

 

1944年、第2次世界大戦末期のフィンランド。

トーベ・ヤンソンは防空壕で子供たちに語った物語から、ムーミンの世界を創り出していく。

ヘルシンキにあるアトリエで暮らし始めた彼女は、

自身の芸術性と美術界の潮流にギャップを感じていたが、

恋をしたり、パーティーを楽しんだりしていた。

ある日、彼女は舞台監督のヴィヴィカ・バンドレルに出会う。       (シネマ・トゥデイ)

 

1944年、ヘルシンキ。

大きな爆音に耳をふさぐトーベ。

防空壕の暗がりのなかで不思議な妖精のイラストを描いていきます。

「8月のおわり、ムーミントロールとママは森の奥にやってきました。

そこにはランプのようにぼうーっと光るものが・・・」

 

戦争が終わり、彫刻家の父は

「こんなのは芸術じゃない」と、トーベの書く不思議なイラストをバカにしますが、

戦争で窓ガラスも壁も破壊され廃墟となった、水もでない部屋を借りて独立。

がれきを片付け壁を補修し、電気もつなぎ、

みるみる素敵なアートな部屋にリノベーションして、新しい生活が始まります。

 

あるパーティで意気投合した男性とそこを抜け出してサウナデート。

どんどん服を脱いでいくトーベに驚きながらも

「お父様の彫像みたいに肉体的じゃないけど・・」といいながら

キスをする彼はアトス・ヴィルタネンという左翼の議員で、妻帯者でした。

それを知りながら

「結婚するならあなたみたいな人がいい」と無邪気にいうトーベ・・・

トーベの部屋のベッドにいるときに電話をかけてくる妻・・・

という典型的不倫の構図。

 

アトスは経済的な支援はしていないようで

大家が家賃の取り立てにきても、トーベには払うお金もありません。

「この絵を家賃代わりにして。私がパリで有名になったら高く売れるわ」

 

「父の誕生会の招待状を書いてほしいの」

と、パーティで声をかけてきた長身の女性は、市長の娘のヴィヴィカ・バントレル。

その70歳の誕生会に招待されていくと

彼女の書いたカードは父の市長にも「独創的だ」と好評でした。

 

ヴィヴィカからバルコニーに呼び出され

「あなたの絵が好き」

「女と寝たことは?」

と熱い視線を送られ、

「お部屋の準備ができました」

なんとヴィヴィカはトーベを一泊させ、翌日、ふたりはそういう関係に。

彼女には次期市長となるクルト・バンドレルという長身イケメンの夫がいるんですけどね、

 

ふたりはセフレでありながらも

お互いを「トフスラン(トーベ)」「ヴィフスラン(ヴィヴィカ)」と呼び合い

ちょっとおかしな言葉で会話する無邪気な仲間でもありました。

 

「私は心のなかに秘密の部屋をみつけた。女性と寝たわ」

「息をのむほど華麗な龍に奪われた気持ち」

とアトスに告白しますが、寛容な彼は、なんとこれを許してくれます。

 

「うちの新聞に君の作品を載せたいんだけど・・・」

「週一くらいで、子供向けで、階級闘争とか制約もないけれど、

左翼紙に君の作品が載ったら父上はどういうかな?」

トーベは「考えさせて」と即答はなし。

 

金に困っているトーベに仕事を与えたい、彼女の作品を世に出したい・・・

という思いはヴィヴィカも同じで、おそらく彼女の後押しで

市会議場のフレスコ画の壁画の仕事が入ります。

舞台演出家でもあるヴィヴィカは、ムーミンを題材に芝居やミュージカルを企画しており

トーベに舞台美術と衣装の仕事を与えます。

 

トーベはその後もふたりとバイセクシャルの関係を続けており

「男はあなただけ、女はヴィヴィカだけ」とアトスに言っていました。

ある日アトスは妻との離婚届を出し、ふたりは正式な夫婦となります。

 

1954年、「ムーミン」はイギリスのイヴニングニュースへの連載が決まります。

7年間週に6回の掲載が約束され、人気は世界的なものに・・・

 

トーベは(トゥーティッキのモデルとなる)トゥーリッキという女性と出会い

その後の人生のパートナーとなります。

ヴィヴィカはトーベを追いかけますが、

「華麗な龍が住む大自然に返してあげないと・・・お別れよ」

 

1958年、父が亡くなります。

「これをあなたに渡したがっていた」

母が持ってきたノートには、トーベの描いた

イブニングニュースの切り抜きが丁寧におさめられていました。   (おしまい)

 

 

 

ムーミンの作者の半生なんですが、ムーミンの原画とか、登場キャラクターとかはあまり登場せず。

あの時代にバイセクシャルを貫いたトーベの「LGBT」のパートが圧倒的に多かったです。

タバコ、酒、パーティ、ダンス、女性とセックス、男性とセックス、時々アート・・・って感じかな?

まあね、予告編でもそのへんはある程度予測できるし、

タイトルにも「ムーミン」の単語をいれてないのは良心的といえますが、

R指定もされていないから、うっかり小学生とか連れて行ってしまったら、

めちゃくちゃ気まずいです。    くりかえしますが

めちゃくちゃ気まずいです!

 

「ムーミンの誕生秘話」的な場面はいくつかありますが、

そんなに丁寧に説明されないので、ムーミンのことに詳しい人にはたぶんピンとくるんでしょうね。

私は「ねえムーミン、こっちむいて♪」の歌と岸田今日子さんのムーミンはよく知っていますけど

これ、作画も歌もメイドインジャパンなんですよね。

なのでトーベの原画を見ると、

アンパンマンのアニメで育った子が、やなせたかしさんの原画を見たときみたいになっちゃいます(笑))

 

ほぼ時系列で 年代は頻繁に表示されますが、

トーベが何年くらいに生まれた人かを知らないで観たので、いつもの年齢計算もできず、

そもそも見た目で若いのかおばさんなのか年齢不詳の風貌なので、

ちょっとモヤモヤしました。

(あとで知ったことですが)

彼女は1914年生まれなので、終戦の時にはもう30すぎだったんですよ。

(図書館に予約した関連本をまだ取りにいってないので)ネットで調べた情報だと

もうそのずいぶん前からムーミンのアイディアはあったし

そもそも父が彫刻家の芸術一家だから、すでに画家として評価もされていました。

なので、この映画は

「ムーミンのキャラクター設定にも影響を与えた(かもしれない)トーベの愛の遍歴」

というほうが正確かもしれません。

この映画の中での彼女の年齢は、31歳から44歳くらいまで。(けっこう 歳いってますね!)

 

戦後、ソ連との敵対関係が解除されて、フィンランドには明るさが戻ったそうですが、

それにしてもトーベたち、羽目を外しすぎ!

北欧は性の先進国の印象がありますが、さすがにこの時代、同性愛は「違法」だったそうです。

ヴィヴィカに至っては、市長夫人なのに、レズビアンの相手はトーベだけでなく、

踊り子とかアーティストとかいろいろ・・・

そういえば、自宅のベッドで女性同士でいちゃついていても、

屋敷のメイドたちは、全然動揺もせずに黙々と働いていましたね。

 

かわいそうなのはアトスで、トーベの気持ちを思って妻と離婚したのに

あまりの反応の悪さに、2度もプロポーズさせられて、

結婚はしたものの長続きしませんでした。

 

アトスはスナフキンのモデルだそうですが、

彼のことばはダイレクトに自分の気持ちをぶつけることなく、いつも優しいです。

 

トーベが女性と寝たことを(華麗な龍にたとえて)告白しても

「その龍はまだ腹をすかせているの?」と返し、

「それは興味深い経験をしたね。君は自由を試したんだ!」

 

そして結婚後、トーベが自分よりもヴィヴィカに夢中なのを知って

「ぼくは鈍感になりきれない。許して」

と別れを切り出します。

 

彼はトーベが自由でいることを誰よりも尊重してくれた男性ですが

それにしても気の毒で・・・・

誰かが自由であるためには、その陰で辛い思いをする人がいるのは仕方ないことなのか。

 

一番楽しみにしていたのはムーミンの原画だったんですが、

期待ほどじゃなかったけれど、紙の隅っこにイラストを描くところとか

偶然映った影絵にインスピレーションを得るところとかが印象的でした。

 

 

私は絵本オタクで民話オタクですが、

日本製のテレビアニメのムーミンは知っていても、

絵本は手に取ることなく大人になってしまいました。

(たぶん当時、学校の図書室にムーミン絵本はなかったと思います)

「ムーミントロール」なのに、北欧のいわゆる「トロール伝説」とはほとんど共通点がなく、

ちょっと不思議に思っていたんですが、

実在の人間がモデルならそれもそのはずですね、納得。

 

トーベのアトリエをリノベーションしていくシーンはワクワクしたけれど、

あの素敵な部屋のまま保っていけそうにはとうてい思えなくて・・・・

間違いなく汚部屋になってるはずです!

彼女は常に酒とたばこは欠かせない人だったから、吸い殻やグラスをいつ片付けるわけ?

とか、思ってしまうほど、やさぐれた生活なんですよね。

 

ラストの父のスクラップブックのシーンは感動ポイントでしたが、

私には、そこまで厳格で封建的な父とは思えなかったので、

親不孝の娘のほうにむしろ歩み寄ってほしかったな。

 

 

10月1日は緊急事態宣言解除初日で、1200円で観られる映画の日で、

「トーベ」も公開初日、しかも先着プレゼントもあるというから

混むのを予想して避けていたんですが、まさかの台風襲来!

開映の3時間前にお気に入りの席がまだ空いていたので、即予約して

急遽ヒューマントラスト有楽町へ!

 

 

フィンランド産の白樺のソープをいただきました。

映画の日の1200円で、定価1800円の石鹸くれちゃっていいのか??