映画「孤狼の血 LEVEL2」 2021(令和3)年8月20日公開 ★★☆☆☆

ノベライズ「小説 孤狼の血 LEVEL2」 原作 柚月裕子、映画脚本 池上純哉、ノベライズ 豊田美加 角川文庫 

 

広島県警呉原東署刑事二課の日岡秀一(松坂桃李)は、

マル暴の刑事・大上章吾に代わり、広島の裏社会を治めていた。

しかし、上林組組長の上林成浩(鈴木亮平)が刑務所から戻ったことをきっかけに、

保たれていた秩序が乱れ始める。

上林の存在と暴力団の抗争や警察組織の闇、

さらにはマスコミのリークによって、日岡は追い詰められていく。(シネマ・トゥデイ)

 

平成3年広島

ナイトクラブの前に停めた車にチンタを残して、3人の組員がショーパブに押し入ります。

「兄貴の出所祝いにオダニ組に痛い目あわしてやる」

そして発砲しながら

「オダニのタチバナはどこじゃ!」

ところが振り返った男は呉原東署のヒオカ(松坂桃李)、客は全員マル暴の刑事たちで

あっという間に取り押さえられてしまいます。

そこへチンタが車から飛び出してヒオカの背中をナイフで刺し、流血、

チンタも現行犯逮捕されます。

 

実はチンタはヒオカのSで、この襲撃は、彼がヒオカに情報を流していたのです。
(打ち合わせでは防弾チョッキを着たヒオカに発砲する予定でした)

 

チンピラたちに「兄貴」と呼ばれていたのは、広島仁正会傘下のカンバヤシ(鈴木亮平)。

彼は出所できたものの、懲罰房でさんざん痛めつけられた看守の神原が許せず、

出所後、手下をつれて神原の実家を訪れ、ピアノ教師の妹を目をくりぬいたあと殺し、死姦。

 

この凄惨な事件の捜査に抜擢されたのが、定年間際の瀬島警部補で、

ヒオカのバディとなります。

動機や目撃情報からカンバヤシはすぐ捜査線上にあがり、本人も訪問したことは認めるものの

犯罪の物証が出てこず、「ピアノ教師殺人事件」は迷宮入りになります。

 

3年前、(前作のラストで)イラコの親分(石橋蓮司)をオダニ組の一ノ瀬(江口洋介)に殺させたのは、

オオガミの遺志を継いだヒオカ本人でした。

ヒオカはこのあと、イラコ会とオダニ組の手打ちを仕切って、

この3年は、とりあえずの抗争は抑えられてきていました、

 

イラコ会は2代目の角谷(寺島進)が継いだものの、ビジネス優先の金儲けに走っているのを

イラコの妻は不満に思っており、出所してきたカンバヤシを焚きつけます。

前作で勢いのあった加古村組も解体されましたが、

残党の吉田だけはなぜかバブル景気に乗って成功し

「パールエンタープライズ」は公共事業も請け負うような会社になっていましたが、

カンバヤシは早速吉田を脅してこの会社を乗っ取ります。

 

また2代目の角谷夫婦もドーベルマンの檻にいれて拷問し、焼いて埋めてしまいます。

その場にいあわせたヒオカのSのチンタはこのことも報告、

ヒオカは韓国のパスポートを餌に、チンタに新たな任務を与えます。

 

前作でヒオカがオオガミとバディを組まされたのは、当時監査官だった嵯峨の差し金で

自分自身がオオガミの身辺捜査のためのスパイだったので、

いったんは瀬島のことも疑ったものの、自宅に招かれ妻の手料理をごちそうになって

やっと腹をわって何でも話せるバディができてホッとしていました。    (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

前作から3年後の広島、呉原市の暴力団の抗争劇。

昭和64年の3年後の平成3年が舞台なんですが、

映画でいうと、前作公開が平成30年で本作が3年後の令和3年という、

まさに元号またがりの同じタイミングで公開するとか・・・すごい!

 

ちなみに柚月裕子原作の「孤狼の血」には2冊の続編がありますが、

本作はそれとは無関係、ホントに全く無関係でした。

(↓3年前の感想を貼っておきますね)

 

万人向きじゃないから★は4つにしましたが、前作は大好きな邦画のひとつで

映画館で2回、今回の予習のために配信で2回観ました。

 

前作も冒頭の養豚場のシーンは観るに堪えないものがありましたが、

LEVEL2のほうは(けっこう耐性ある私が観ても)ちょっとひどすぎます

(パート2じゃなくてレベル2にしたのは、ヤバさ指数がアップしたということなのかな?)

 

ヤクザ映画で「恩人のかたきうち」とかなら納得できますが、

自分を痛めつけた刑務官の妹を目をくりぬくとか、あり?
(あの刑務官は厄介払いしたくて模範囚扱いで早く出所させてくれたんだから、

むしろ感謝しなきゃいけないんじゃない?)

彼は幼少期に「虐待されていた父親を殺し、見てみぬふりの母親の目をくりぬいた」そうですが、

そんな過去の犯罪を持ち出されたって、とうてい腑に落ちるものではありません。

 

ピアノ教室の子どももカンバヤシを目撃しており、昼間の住宅地での惨殺事件、

近隣の住民は生きた心地しないでしょうに、(あらすじに書きそびれましたが)

科捜研でカンバヤシの物証が挙がってるのに、

それをわざわざ握りつぶして迷宮入りにしてるとか・・・

ありえません!

 

「警察上層部がおかしな指示をする」というのは「刑事ドラマあるある」ですけど

それにしても、いろいろめちゃくちゃ。

滝藤賢一演じる嵯峨管理官のクレージーな演技がフィクション感を増長してくれてますが

もうこれはヤクザ映画や刑事映画の領域を(悪い意味で)超えてしまったように感じました。

 

カンバヤシの狂った怪物ぶりが強調されて

「血の気の多いヤクザの兄ちゃん」というより

「史上最凶のヴィラン」って感じで、逆にエロは控えめ。

ヤクザ映画の「お約束ごと」をいろいろ無視していて

「これが令和のニュータイプのヤクザ映画だ」

ということかもしれないけれど、

歴史ある東映のラインナップにのせたくないと思う人、いると思いますよ。

 

鈴木亮平の役作りは完璧で、(演技者としては)けっしてやりすぎとは思えないし、

モブキャラにも今をときめく人気俳優を配していて、とっても贅沢なつくりなんですけどね。

 

公式サイトの相関図はこんな感じ。↓

 

 

参考までに、前作から登場しているキャラクターに丸をつけてみました。

イラコ親分の石橋蓮司は殺されたし、一ノ瀬の江口洋介は服役中で登場しないから、

実質はほんの数人しかカブっていません。

右翼の銀次(ピエール瀧)とか絶対に欲しかったのに、まだお許しがでないのかしら?

彼も含め「白石組」といわれるキャストがほぼいなくなってるのも残念ポイント。

 

そんななか、大活躍だった「白石組」が、吉田役の音尾琢真です。

 

もう、サイコー!

相変わらず学習能力なく、クズでスケベで男気ゼロなのに、

小心者だからこそ、この世界でふらふらと生き残ってる感がいいです。

そして、なんといっても

パール・エンタープライズ」という社名に爆笑!

(これ、前作を見てる人にはわかるはずです)

 

 

 

県警や呉原東署の刑事たち、

3年しかたってないから、実際にはそんなに異動はないと思うんだけど

認識できたのは矢島健一だけでした。

それから、前回監察官役の嵯峨(滝藤賢一)が今回は捜査1課の管理官になって再登場して

あいかわらずの狂った演技は想定内でしたが、

同じ話に狂った人は2人いないほうがいいな、と思った次第。

 

ヒオカがカンバヤシのところに送り込んだSのチンタ(村上虹郎)は新メンバーです。

彼にはクラブを仕切っているマオという姉がいて、これがヒオカの恋人というか・・・

ヤクザからの金を回してるから協力者ということかな?

 

S(エス)とは警察への情報提供者・内通者・・・スパイみたいなもので、

これは実在します。

 

 

↑白石監督のこの映画は、実話ベースでその辺が詳しいのでおススメです。

 

それに比べたら、ヒオカのチンタ頼みは常軌を逸していて、

一番危険なところに素人同然のチンピラを単独で送り込むとか、信じられないです。

拷問されて白状されたらアウトだし、人の目も気にせずにヒオカとチンタは雑に接触しているし、

(案の定、新聞記者にバレバレです)

カンバヤシの舎弟のチンタがオダニ組のシマの姉の店に出入りしているのもどうなの?

(オオガミに比べたら、ヒオカの脇の甘さが気になって気になって・・・・)

 

姉のマオを演じる西野七瀬は前作の真木よう子の立ち位置なので

比べられたら若干ものたりなさはあったけれど、

むしろ安っぽいヤンキー感が良かったと思いますけど・・・・

 

この姉弟は在日で、韓国のパスポートとか死んだときの韓国名から明らかなんですが、

この映画は全体的に、ものすごく韓国を意識してつくられたような気がしました。

 

カンバヤシも焼肉屋のおばあちゃんから韓国名(ソンホ?)で呼ばれていたし、

チンタの家も(よく映画に出てくる)被差別部落のイメージです。

カンバヤシもまたそういう出自で、「ひもじい思い出しかない子供時代」を

チンタと共有していると思って信頼していたのかな?とか。

 

そんなことより

「(堅気の女性の)目玉をくりぬく」行為は、とても日本のやくざ映画とは思えず

韓国バイオレンスでしか、私は見たことないです。

ほんとにこれ、知らないでみたらトラウマになるから、

R15だけでなく「閲覧注意」の断りを入れて欲しいと思っちゃいました。

 

私の観た回はほとんど男性ばかりでしたが、

鈴木亮平や松坂桃李ファンで映画館にやって来た

こういうのに耐性のない女性がみて大丈夫か、ホントに心配です。

 

今さらですが、ここからネタバレ扱いにしておきます。

 

本作の見どころは激しい血みどろの格闘シーンともうひとつ、

それは警察内部の「化かし合い」で、それは前作でもいろいろありましたが、

「瀬島夫婦」がヒオカを騙すための偽物だった、というのには、誰もが驚いたことでしょう。

ただ、一介の巡査相手にあそこまで大芝居を打つ必要があるのかな?

警察はしょせん階級社会だから、どんなはみだし刑事でも

従わせることはできると思うんですけどね。

(滝藤賢一みたいな分かりやすい上司はとっとと左遷して、

相棒の小野田さんみたいな人に鮮やかに懐柔してほしかったです)

 

瀬島警部補は、最後マオに突き飛ばされてトラックに轢かれるんですけど

そのニュースに出た彼の名前は瀬島ではなく、高木でした。

偽名を使ってまでヒオカをだましていたのです。

そうすると、宮崎美子演じる彼の妻も偽物?

公安の優秀な女性警察官だったんでしょうか・・・・

ここはさすがに、ドキドキ,ザワザワしてしまいました。

 

ラストシーンは、「必要ない」というレビューが多いですけど、

ここを入れとかないと、「孤狼の血」から大きく脱線してしまったストーリーが

続編の「狂犬の眼」に繋がらないのです。

(・・・ていうことは、次回作作る気満々なんでしょうか?)

 

本作は私は★★でしたが、前作の続編ではなくスピンオフと考えれば納得できます。

本作はなかったことにして、次でまた柚月裕子原作を踏襲したメインストリームに戻れますように。

 

(追記)

 

 

来場者プレゼントで

鈴木亮平画伯の書いたヒオカ巡査のポストカードをいただきました。(お見事!)

呉市のロケーションマップも。(行きたい!)