映画「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング」2021(令和3)年6月18日公開 ★★★★☆

原作本「ケリー・ギャングの真実の歴史」 ピーター・ケアリー 早川書房

(英語; 字幕翻訳 田沼令子)

 

 

19世紀のオーストラリア。

ネッド・ケリーはアイルランド移民の家庭に生まれるが、幼くして父を亡くし、

貧しい生活のため母エレン(エシー・デイヴィス)はケリーを山賊のハリー・パワー(ラッセル・クロウ)に売る。

やがて成長したネッド(ジョージ・マッケイ)は家族の元に帰るが、

横暴な警察などが言い掛かりをつけて挑発し、彼や家族を投獄しようとする。

家族や仲間への理不尽な仕打ち、権力者の横暴な振る舞いを目の当たりにしたネッドは、

弟や仲間たちと共に「ケリー・ギャング」を結成し、国中にその名を知られる反逆者となっていく。

                                                      (シネマ・トゥデイ)

 

「少年」

アイルランド移民の13歳のネッドはボロ家に親と弟妹たちと住んでいますが、

父の稼ぎが当てにならず、母エレンが家で体を売って生活しています。

ネッドはどこからか牛をつかまえて家に帰ると、家族は大喜び。

また父が赤いドレスを着て馬に乗っていたことを知り、父を軽蔑するようになります。

 

またある時、ネッドは川でおぼれている少年を助けるのですが

その子の家は金持ちで緑のサッシュで勇敢な行為をたたえてくれ、母親がやってきて

ネッドの母に「この子には可能性があるから、セイモアの学校にいれてやりたい」と申し出ます。

ところが母エレンは

「寄宿舎に入ったらわが子に会えなくなる。息子には家族への忠誠心を持たせることの方が大事だ」

とけんもほろろにマダムを追い返します。

 

やがて父が死んでしまうのですが、母は相変わらず男たちにはモテて、

頼りになりそうな男を選んでいます。

ブッシュレンジャーのハリーもその一人。

♪警官のクソ野郎~!♪

ギターを弾いてネッドの家族たちと楽しく歌います。

「ハリーに教えてもらって立派な男になりな」

母に送り出されてネッドはハリーと馬にのって家をでます。

 

途中ネッドが男に襲われると、すぐハリーが助けてくれるんですが

彼は男を殺して持っていた金品を奪います。

殺人を目の当たりにして真っ赤な返り血を浴びて

ネッドはたいへんなショックを受けますが

「これがおれたちの仕事だ」と。

「家に帰りたい」とネッドがいうと

「何をいってる!お前の母親はお前を15ポンドで売ったんだぞ!」

 

ケリー家をずっと監視していたオニール巡査部長が女といるところを探し当てたケリーは

全裸の彼を拘束し、ネッドに撃つように命じます。

ネッドは脚にむかって発砲しますが殺すことはできず。

ハリーにも銃を向けますが、結局誰も殺すことはできず、家に帰ります。

母に不満をもらしながらもハグして一緒に寝ますが、

この後、ハリーの共犯として逮捕され、投獄されることになります。

 

「男」

出所後のネッド(ここからジョージ・マッケイ)は体を鍛え、

素手でのボクシングの試合で敵なしの格闘家に。

家に帰ると弟のダンがかつての自分のように盗みの修行をさせられていて

(父のように)女装して馬にのるのがカッコいいと思っているのにショックを受けます。

ドレスは盗んだものと知り、ヴェラの経営する売春宿に返却にいきますが

彼女に激怒され、そこにいた警官のフィッツバトリックがなんとか収めてくれました。

 

母エレンは年下のアメリカ人ジョージに夢中でしたが、ケンカして逃げられてしまいます。

ネッドも売春宿のメアリーと親しくなりますが、彼女はシングルマザーでした。

 

ネッドに好意を持つフィッツパトリックは、弟のダンの馬泥棒が無罪になるよう

上と掛け合ってくれるといいますが、結局ダメで、ダンは4か月の投獄が決まります。

怒り狂った家族はフィッツパトリックをボコボコにして逃げますが、エレンは捕まり、

ネッドとダンは友人のスティーブやジョーらとともにアイリッシュの民族の誇りについて話すうちに

自分たちが理不尽に虐げられていること、権力者たちの横暴さがゆるせなくなり、

ギャング集団を組織し、メンバーを拡大していきます。 

「シーヴの息子だ!」

「おれはモニター艦!」

と叫び、手製の鎧を身に着けて飛び出していきます         (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

ネッド・ケリーはオーストラリアでは半ば伝説化した実在の義賊で

鼠小僧とか石川五右衛門とか、ロビン・フッドみたいな・・・?

最後のほうのシーンで出てきたバケツの隙間からやっとこさ見てるような

この着用感悪そうな鎧(というか、防弾チョッキ)が彼の象徴だそうです。

 

「1967年オーストラリア

ここには真実はふくまれていない」

というキャプションから始まるので、

名前だけ借りて全くのオリジナルキャラになってるのかと思いきや

むしろ今までの映像作品よりは真実に近いと思われ、

エンタメ作品というよりは人間ドラマでした。

 

銀行や金持ちを襲撃して貧乏人に分け与える・・・エピソードを割愛しているので、

義賊と言うよりただの反逆者というか活動家みたいに見え、

本作ではその原点ともいえる

少年時代の彼を取り巻く家庭環境に時間を割いていました。

 

イギリスからこの地に流刑された父と 犯罪者一族出身の母。

結婚してからも、生きるためとはいえ、盗賊や淫売だったわけで

こういう家の長男として生まれてしまったら、自ずと人生は決まってしまいます。

 

「アイルランド移民であることを理由に警官から理不尽な差別をされて

無実なのに投獄されている」

と言う設定のようですが、

悪者は警官だけかな?

オニール巡査部長も特別この家を目の敵にしてたというより、

母エレンの売春の上得意、って感じでしたよね。

 

あれだけ子どもを産みながら、男たちをメロメロにして売春婦としてのスキル?高そうで

男たちにけっしてこびへつらわないエレンの魅力には興味ありますが、

子どもから見たら、こんな毒親勘弁してほしいですよね。

「りっぱな男になりな!(一人前の追いはぎになりな!)」

といって息子を売り飛ばすような母親にはどんな弁解も空しいです。

 

一度、金持ちのイギリス人の子どもを助けたお礼に「ネッドをいい学校に入れたい」と言われたとき

母は「寄宿舎に入れたら離れ離れになって淋しい」といって断りながら

その直後に15ポンドでネッドを売り飛ばすとか、最低!

ネッドは母親に絶対口答えしないけど、本心はどうだったんでしょう?

本当は学びたかったんじゃないかと思うと、胸が痛みます。

 

ネッド(子役)と母、ネッド(大人)と母の画像ですが

私は息子を育てたことないからわからないですが、

罵りあったり抱き合ったり・・・

愛と憎の気持ちが共存する複雑な関係なんだろうなあ・・・

 

出所後、格闘家として名をあげたネッド。

このまま自分のスキルを磨いたらいいのに・・

でも、やっぱり家のことが気になって、帰っちゃいます。

 

「愛する家族がひどい目にあっている。自分が助けなければ」

という気持ちがだんだん「仲間たちを・・・」「貧しい人たちみんなを・・・」

となっていくんでしょうか。

 

女装したりバケツかぶったり、なんかやってることは痛いのに

このアウトローというかアナーキーな感じが妙にかっこよく見え、

パンクロックの音楽によく合います。

(演出上そうみえるだけと思いつつも・・・・)

 

で、最後には反逆者たちが必ずたどる運命。

仲間は殺されたり捕えられたり・・・

ネッド自身に待っていたものも絞首刑でした。

何万人もの死刑回避の嘆願書も空しく・・・・

母を釈放して欲しい、家族の墓に入れて欲しい、というささやかな願いも聞き遂げられず・・・

 

本作は、ネッドのモノローグではじまりますが、

原作本によれば、銀行の便せんに書かれたケリー自筆の原稿の束が大量に残っていて

それはメルボルン公立図書館に保管されているとか。

父親からまだ見ぬ娘への手紙だったのですね。

(この部分は事実か設定か判断できかねますが)

 

彼の妻は売春婦のメアリー。

連れ子の父親は売春婦時代の客(しかも母エレンの元カレ)というのが哀しいですが

ネッドとの間にも女の子を産んでいて、これだけが

辛いことだらけの25年の人生の中の一筋の光だったんでしょうか。

 

見て楽しくなる作品ではけっしてないですが、

役者がすべてすばらしい。

少年時代のネッドを演じた子役はじめ、警官のチャーリー・ハナムとニコラス・ホルト、

ならず者ハリーのラッセル・クロウ、

そして何といっても「赤毛のボンクラ青年」のイメージだったジョージ・マッケイの怪演です。

これだけでも見る価値あると思います!

 

 

先着プレゼントのポストカード(4種のなかの1枚)

私はラッセル・クロウのをいただきました。

嬉しいけど、公開後1週間以上たってるのにまだ残ってるとか、

ちょっと心配。