映画「グリード ファストファッション帝国の真実」 2021(令和3)年6月18日公開 ★★☆☆☆

(英語;字幕翻訳 北村広子、 字幕監修 西井奨)

 

 

ファストファッションブランドの経営で成功したリチャード・マクリディ卿(スティーヴ・クーガン)は

還暦を祝うため、元妻サマンサ(アイラ・フィッシャー)や息子フィン(エイサ・バターフィールド)、

母マーガレット(シャーリー・ヘンダーソン)らと共にギリシャ・ミコノス島を訪れる。

一方、イギリス当局から脱税疑惑や縫製工場の労働問題を問いただされた彼は、

セレブたちを招いたド派手な宴で自らの評判を取り繕うことをもくろむ。

しかし金に物を言わせるように振る舞うリチャードと、周囲との間に溝が広がっていく。

                                                     (シネマ・トゥデイ)

 

 

 

リチャード・マクリディは一代で財を成し、

イギリスのファストファッション界の帝王とまでいわれるようになったビジネスの天才。

 

「モンダ(ブランド)は金の卵を産むガチョウだ」

と、功績のあった社員に気前よく高額の報奨金をふるまい、喝采を受けるリチャードでしたが

一方で公聴会では彼の脱税や私的流用などが追及されていました。・・・・・①

 

彼は自分の還暦祝いをギリシャ・ミコノス島で盛大に開き

各界の豪華ゲストを呼んで名誉回復をもくろんでいました・・‥②

 

また、作家のニックに(好感度アップしそうな)自分の伝記を書くように依頼していました‥‥③

 

本作はメインになるのは②のパーティーの準備~本番ですが、

それに3か月前の①の公聴会のシーン、

それにニックが親族や知人にインタビューしたときの彼の若かりし頃の映像③が

たびたび挿入されます。

 

とりあえず、時系列に③から書きますと・・・

 

ニックのインタビューに答える母のマーガレット

「あの子は、ああみえて繊細でシャイな子なのよ」

 

でも(映像を見るに)学生時代からシャイと言うよりはクズでした。

名門校で移民の彼はまわりから下に見られるのが嫌で

得意の手品やトリックで友人をだまして得意になったり、先生にも生意気な態度をとるから

そのたびに校長室で鞭で打たれたりするから、学校は大嫌い。

 

母はどうしてもリチャードにオックスフォードとかに進学させたくて

父が亡くなって家計が苦しくなっても、家を売ってでも学校をやめさせなかったのですが

ある日、呼び出しをくらって校長室で見下された発言をされると、いきなりブチ切れます。

「あんた(みたいな差別者)は必要悪よ!」

「『アイルランド人と黒人と犬はお断り』とか張り紙を出すタイプね」

とか言い放って自分から退学してしまいます。

(まあこの母にしてこの子あり・・・)

 

社会人になってからも、へんなトリックや強引な話術で相手に有無をいわせず、

常に自分のペースにもっていってしまいます。

アパレル業界に入ってからも

「安く仕入れて高く売る」のが商売の王道ながら、リチャードのは常軌を逸しています。

 

スリランカの縫製工場で値段の交渉をするときもとんでもない安値をふっかけ、

現地のタクシー料金まで値切りに値切って、けっきょく払わずに逃げてしまいます。

コスパの良さを売りに客を吊っては買収と倒産を繰り返し、

ブランドのコンセプトも気分次第。まじめな部下はメンタルをやられてしまいます。

 

①の公聴会でも、不正を追及されてはのらりくらいとかわします。

「欲張り卿」「インチキ卿」「爵位剥奪されるべき」とか言われてもへいちゃら。

最後には怒りの女性から、いきなり顔にパイをぶつけられます。

 

②のパーティの5日前

ミコノス島に「グラディエーター」みたいな円形闘技場を再現して

ライオンと奴隷たちを戦わせ、それをゲストたちとシャンパン飲みながら見物しよう・・・

という品のない趣向で、その準備が進められています。

書き割りみたいなお粗末なベニヤ板の闘技場ですが、

不法就労のブルガリア人たちは仕事が遅いと、ギリシャ人の工事責任者はイライラしています。

 

そばのビーチにシリア難民たちがいるのをみて

「せっかくの景観が台無しだ」とリチャードは追い払おうとします。

 

本物のライオン(名前はクラレンス)も到着しましたが、環境は違うし

工事の音もうるさくて、なんか元気がないです。

 

タレント活動をしている、リチャードの長女のリリーは

同じビーチでリアリティ番組のロケをしています。

リアリティ番組なのにしっかり台本があって、せりふが憶えられなかったり

うまく涙がでなかったりで四苦八苦。

 

そのうち、(やらせ企画で)ビーチのシリア難民に食事を届けようということになり、

食事を受け取って難民の子どもたちは喜びますが

「テレビ的に喜び方が足りない」ということでNG.

食事を回収しようとして反撃にあいます。

なんとかやり直すも、「笑い方がわざとらしい」とか、なかなかOKがでません。

 

イベントスタッフたちはパーティゲストの人選をしていますが

「エルトンジョンは100万ポンド+自家用ジェット+音響スタッフ代」とか

みんなけっこうお高めですが、

リチャードはこういうことにはお金を惜しまないみたい。

エド・シーランとか、ハリー・スタイルズとかセレブの名前がどんどん出てきますが、

結局みんなからいい返事がもらえず、

「暗いからバレないし・・・」ということでそっくりさんを集めることになりました。

 

でもお祝いメッセージはコリン・ファースとかキーラ・ナイトレイとか本物のセレブから届いていました。

海外の契約工場からも従業員たちの笑顔のメッセージが届きました。

スリランカ出身のアマンダは「このなかに私のおばさんがいるかも」といいます。

そして亡くなった母のことを想って泣きます。

(アマンダの母は、リチャードの会社の契約工場で働いていたのですが、

効率重視でクビになり、その後より劣悪な工場で働いていて、そこの火事で窒息死したのです)

 

パーティ当日は奴隷の衣装を着ろといわれ、また

パーティー会場で食器を盗んだ難民の子どもたちを説得しながら

アマンダはすっかり疲弊してしまいます。

 

父に冷たくあしらわれたフィンもむしゃくしゃして

思わずライオンの餌に麻薬を入れてしまいます。           (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

 

 

リチャード・マクリディ卿には実在のモデルがいるようですが、

それにしても強欲で人を人とも思わない彼はクズすぎて萎えました。

「バカは死ななきゃ治らない」と部下にいってましたが、そっくりお返ししたい・・・・

ひとつくらい褒めるところがあってもいいと思うんですけどね。

 

でも、ほかの登場人物も、よく考えたら全員お金で動いていましたね。

工事の親方と労働者たちも仕事そっちのけで賃金闘争していたし、

妻のソフィアも莫大な配当金をもらってホクホク顔。

リチャードが若い黒人女性のナオミをいちゃついていてもスルーしていたのは

慰謝料がわりの配当金をもらって「別れてやる」ってことなんでしょうか。

 

かなりマシな人物として描かれていたアマンダだって、お金で母国を捨てて

ライバル会社からお金で引き抜かれたんでしょうし、

作家のニックも、取材のなかでリチャードに反感を持ちながらも、

結局は提灯記事を書くことになるのでしょう。

 

「お金で人は動く」というのは当然で、恥ずかしいことではないと思うんですが、

それでも、どこかで「お金にならなくてもやり続ける」こととか

「損得勘定なしで動く」ってことが必ずあるはずなのに、

本作のなかでは1回も出てこないから、なんだが心がすさんでしまいました。

 

あらすじの続き、というか、結末です。

 

リチャードは酔っ払ってライオンの檻の前にたち、ライオンを挑発します。

それを見ていたアマンダは檻のカギを開けるボタンを押すと

興奮したクラレンスは檻を出て、リチャードを食い殺します。(CGお粗末!)

救急車が呼ばれますが手遅れ。

翌日のニュースでは、これは不幸な「事故」で、ライオンは殺処分されたと報道されます。

 

ニックの記事は遺族からも推されて引っ張りだこ。

「リチャード・マクリディ卿は移民のルーツに誇りをもち

勝つことへの強い気持ちを持ち続けた」・・・・

と彼は綴ります。

 

ニックはアマンダがボタンを押したのを目撃していましたが

そのことには触れませんでした。

ニックがアマンダを探すと、彼女は縫製工場で働いていて、

「ボタンを押したとき自分じゃない気がした」という告白に

「運命がそうさせたんだ」

そして

「お金を稼ぐためには嘘も書かなくちゃ」とニックはいいます。

 

エンドロールで、開発途上国の労働者が終日働いて得る賃金と

世界の富豪の資産とを対比させた数字とか男女差が繰り返されて表示されます     (おしまい)

 

 

最後はなんか告発もののドキュメンタリーの終わり方でしたが

趣味の悪いブラックジョークに終始していたので、あまり心に届きませんでした。

 

スティーブ・クーガン目当てで観に行ったのですが

彼のファンの人にもあんまりおすすめは出来ないなぁ・・・

 

リチャードは救いようのないような人物なので、

正直ライオンにくわれても「いい気味」なんですが

かといって、これは事故ではないし、完全犯罪でもないから、

アマンダが何のおとがめもなしなのは納得いきません。

調教師が責任を問われたのなら、それこそ濡れ衣ですよね。

 

唯一面白かったのは、母マーガレットのキャラクター

画像が全然見つからないんですが、公聴会の画像で右端に座っているのが彼女かな?

 

 

実年齢55歳のシャーリー・ヘンダーソンは、いつもはもっと

若くて不器用な女性を演じることが多いんですが

今回は60歳のリチャードの母だから80代くらいですよね?

もう最高にはまり役でした。こんな小柄な婆さんがどんな相手でも一発でかますんですよ!

彼女の登場シーンだけは何度も観たいな。

 

あと、アバの「マネーマネーマネー」がかかるタイミングが絶妙で、この映画のための音楽みたいでした。

 

あとは・・・・・

うーん、吸い込まれるような青い瞳のエイサ君が、クズ父のクズ息子をやっていて

「陰毛みたいなヒゲ」といわれてたのが、思い出し笑いしそうです。

 

リアリティ番組の台本とか、やらせ演出とか、

工場従業員にむりやりお祝いを強要したり・・・・こういうのあるあるですよね。

そういえば、本物セレブのお祝い動画も、けっこう棒読みで笑えました。

 

がんばって絞り出して、面白いのはそれくらいでした。 おススメはできません。