映画「パリのどこかで、あなたと」 令和2年12月11日公開 ★★★★☆

(フランス語; 字幕翻訳 埜畑みづき)

 

 

パリで暮らすメラニー(アナ・ジラルド)とレミー(フランソワ・シヴィル)は、

隣り合うアパートに住んでいたが、それ以外の接点はなかった。

別れた恋人のことが忘れられないメラニーは、

がんの免疫治療の研究者として多忙な日々を送る一方で、

一夜限りの関係を繰り返していた。

一方、倉庫で働くレミーは同僚が解雇される中、

自分だけが昇進することに後ろめたさとストレスを感じていた。   (シネマ・トゥデイ)

 

免疫治療の研究室で働くメラニーは、14時間寝てもまだ眠く、

出資者へのプレゼンという大役を任されて不安が募ります。

 

となりあうアパートの部屋に住むレミーの倉庫会社は

合理化で人減らしをしており、同僚は次々に解雇。

レミーは配置転換で済んだものの、

メラニーとは逆に不眠症で、一睡もできないまま朝を迎えます。

 

ある日、地下鉄のなかで失神してしまったレミーは病院に搬送され

体に異常はないものの、パニック症状があるから、セラピーを受けろといわれます。

精神科医の待合室はどんよりとした雰囲気。

年配のカウンセラーの男性はひたすらレミーが話すのを待っており

簡潔に話すのが苦手なレミーにとっては苦痛でしかありません。

 

「苦悩をことばにすることができれば、問題は解決できる」

「睡眠薬よりはるかに効果てきめんだ」

といわれるのですが・・・・

 

同じころ、メラニーも女性のカウンセラーの前で

心の内を告白していました。

5歳の時両親が離婚し、父が出て行ったこと。

3年同棲した恋人から1年前に別れを告げられたこと。

恋人のギョームにすべて委ねる生活をしていたから、

彼を失って以来メラニーの心の中は空っぽなのです。

カウンセラーは

「あなたは愛も幸せも手に入れる権利があるのよ」

というのですが・・・・

 

 

ふたりは同じ薬局で同時に薬を買っていたり

いつものエスニック食材店で買い物をしたり

何度も道ですれ違ったりしており、ニアミスは数知れず。

 

 

ふたりの住むアパートの部屋もすぐとなりで、

同時にバルコニーに出てタバコ吸ったり、リンゴかじったりしているんですが

下を走る列車の音がふたりの気配を消してしまいます。

 

レミーはSNSにアカウント登録して、ネットで知り合いを探し

メラニーも友人の勧めでマッチングアプリをはじめ、

「いいね」しあった男性とデートをしまくるのですが、運命の人には出会えず。

レミーも異動先の職場で声をかけてくれた女性を、勇気を振り絞って家に誘うのですが

彼女はレミーの草食系のところが気に入っていたみたいで

キスしようとしたとたんに逃げられてしまいます。

 

レミーが雪山のふもとにある実家に帰ると

兄弟や甥姪たちがにぎやかに集まってきますが

ひとり溶け込めないレミー。

「もしかしたら鬱病かもしれない」というと

「うちは全員マトモだと思ったのに・・」と言われてしまいます。

家の近所には「行ってはいけない禁断の場所」もあるようで・・・

 

パリに戻ったレミーのところに、近所のおばさんがきて

白い子猫をむりやり押し付けられてしまいます。

困ったものの、あんまり子猫がかわいいので、ナゲットと名前をつけて

かわいがりますが、少しすると子猫は姿を消してしまいます。

 

メラニーはプレゼンの前夜、羽目をはずして最悪の体調で当日を迎えますが

なんとかプレゼンは成功し、

いつもの食品店で魚沼産コシヒカリを買うと

店主から義弟がやっているというコンパ(ハイチのダンス)をおすすめされます。

 

レミーはセラピーで、はじめて亡くなった妹の話をします。

「妹のセシルはぼくが10歳のとき、ガンにかかり、3カ月で死んでしまった」

たった7歳で死ぬなんて・・・。親から口止めされていたから、さよならもいえなかった」

感情をあらわにするレミーに

「妹が死んで自分が生きていることも、

同僚が解雇されて自分が働いていることも

みんな許せない?」

「君は罪悪感を捨てなくてはだめだ」

 

カウンセラーにそういわれたレミーは再び実家に戻り

「ぼくは絶対にセシルのことを忘れない」

と、放置されていたセシルの墓を訪れ、きれいにして祈りをささげます。

墓石には 『1991年~1998年』 と、短い生涯が記されていました。

 

メラニーも女性のカウンセラーから

「あなたはたいくつな女なんかじゃない、自信をもって」

「人生を信じてこそ人とつながれる」

「まずは自分を愛すること。 自分を愛せなきゃ、誰も愛せない」

 

レミーも半年のカウンセリングで、自分の話をしっかりできるようになっていました。

「行動が大事だ。人や物事に触れなさい」

会社はやめて仕事をさがすというレミーに

「私はこれで引退するので、同業者を紹介しよう」と名刺を渡します。

 

趣味のボルダリングの調子も上々のレミー。

食料品店の店主に紹介されたコンパにやってくると

みんな楽し気にリズムをとっています

「ここはハイチだ。曲に身をまかせて」

「うら拍が大事。さあ、ペアを組んで」

「レミーはうしろの新顔の子と・・!」               (あらすじ おしまい)

 

 

クラピッシュ監督の新作ですから、ちょっとクセ強めのパリの若者の群像劇とかだろうと

勝手に思っていました。

いわゆるラブコメを楽しむ年齢はとうに過ぎているのですが

大好きな恵比寿ガーデンシネマが2月で休館になってしまうので

とりあえずやってるものは全部見ようということで・・・・

 

そしたらびっくり!ぜんぜんラブコメではありませんでした。

主役のふたりのすれ違い、というのは予告編で知っていましたが

まさか最後まですれ違い続けるとは思いませんでした。

 

ラブストーリーの要素はほとんどなくて、セラピー映画というか、

現代社会につかれた私たちが

ストレスや孤独感や罪悪感に打ち克ち

人生をどうやって前向きに生きていくか、

そのヒントを与えてくれるような作品でした。

 

3年前の失恋をひきずって前に進めないメラニー

何でも自分のせいだと自分を責めてしまうレミー

映画の世界では、何かをきっかけに急展開するんですけど

ここでは少しずつ少しずつ自分の力で乗り越えていくんですね。

なのであらすじが書きづらい。脚本書くのも難しかったと思います。

 

「癌は敵ではなく、不均衡の結果なのです」

というメラニーのプレゼンのなかの言葉とか

レミーが大好きなエンジンを語るなかで

「最初の引き金は小さな火花なんだ」

という、それぞれ自分から発したことばが

実は解決への大きなヒントになっているところも面白いです。

 

もちろん、カウンセラーのアドバイスも有益だったといえるんでしょうけど

手術や薬の処方とちがって、患者の心の中を治療するのって

改善の基準もあいまいで、なかなか難しいですよね。

ふたりのカウンセラーは実は夫婦(親子?)だったんですが、

男性のカウンセラーが定年を前に 患者たちの言葉を思い出しながら

「自分は彼らの役にたったんだろうか」

と妻(娘?)につぶやく姿が一番心にささりました。

 

最後の日に紹介された「同業者」というのは

きっとメラニーのカウンセラーでしょうね。

 

それから、あらすじには書き忘れたんですが、

行方不明になった猫のナゲットは、下にいるところをメラニーに拾われたんでした。

普通はこの時点で、「猫がふたりの愛のキューピッドになる」

というのが王道なんですけど、今回は見事に外れました。

 

事情通のあの店のオヤジさんがキューピッドだったとは!!

だけどこのあとふたりがつきあうことになったら、

ナゲットの話とか同じカウンセラーの話とかで、運命を感じるんだろうなあ・・・

と、エンドロール後の話のつづきを観客に想像させるなんて

かつてない脚本の妙なんでしょうね。

 

パリが舞台ですけど、いわゆる名所は登場せず、

はるかかなたにサクレクール寺院のシルエットが見える程度。

(エッフェル塔も映ったかな?)

オシャレなカフェとかブティックとかも登場せず、

ほんとにそこで生活するリアルなパリ市民の日常、って感じでした。

タイトルにはパリとありましたが、都会ならどこの国でも共通する話です。

控えめな性格のふたりは、むしろ日本人のほうが共感度たかいかもしれません。

 

 

メラニーの妹が駅から電車に乗ってバルコニーのメラニーと手を振りあうの、

実は子どものころ、私はこういうのにすごく憧れていて

絶対に線路際に窓のある家に住みたいと思ってたのを思い出しました。

大人になってからは、どうしても、騒音とかプライバシーとか考えてしまいますが・・・

 

 

 

初日鑑賞だったので、ステッカーのプレゼントがありました。

これは一番最初のシーンで、隣の席に座っていますけど、ふたりは知り合いではありません。

主人公のふたりが最後の最後まで知り合いじゃない、という筋書きなので

たしかにステッカーになる場面が少ないですね。

冒頭はとにかくたくさんの人がマスクもしないでごちゃごちゃしてるので

なんか心配になってしまいます。

もちろんコロナ前の撮影だから当然でしょうけど、派手にキスしたりハグしたりするのをみると、

今はちょっとドキドキしてしまいますね。

 

もうひとつ、ストーリーには関係ないことを書きますけど、

お風呂のなかで、メラニーが大声で歌っていたフランス語の歌、

前に日本語で歌った記憶があって、ずっとそのタイトルを思い出そうとしていて

更新が遅れました。

まる一日以上、そればっかり考えていました。

有名なシャンソンの楽譜を片っ端からチェックしてたんですがわからず。

実はこれ、シャンソンではなく、

ラテンの名曲で、「ある恋の物語」という邦題がついています。

メラニーはこれをフランス語で歌っていたんですね。

 

 

「シチリアーノ」でブシェッタが歌っていた時はすぐわかったのに

シャンソンという思い込みで思い出せませんでした。

ああ、情けない・・・