映画「mid90s ミッドナインティーズ」令和2年9月4日公開 ★★★★★

(英語:字幕翻訳 岩辺いずみ)

 

1990年代のロサンゼルスで、13歳のスティーヴィー(サニー・スリッチ)は

母親のダブニー(キャサリン・ウォーターストン)と兄のイアン(ルーカス・ヘッジズ)と暮らしていた。

体格差のある兄にかなわないスティーヴィーは、大きくなったら見返そうと考えていた。

そして街のスケートボードショップで知り合った少年たちの自由でかっこいい姿に憧れを抱く。

                                                (シネマ・トゥデイ)

 

シングルマザーのダブニーと兄のイアンとロスに住む13歳のスティーヴィー。

小柄な彼は、日常的にマッチョなイアンの暴力を受けているのですが

兄のもっているクールなものには興味津々で、

見つかって殴られること覚悟でイアンの部屋に忍び込んでは

きれいにディスプレイされたキャップやラガーシャツやバスケットシューズを眺め

雑誌やビデオのタイトルをチェックし、ダンベルをこっそり触ったりしてわくわくしています。

 

ある日、スティーヴィーはスケボーをするちょっと年上の4人の少年たちを見かけ、

その自由な感じに惹かれた彼は、彼らがたむろするスケートショップで様子をみていると

一番年下のルーベンという少年に声をかけられます。

 

「親をレイプしたらどうなる?」とか、知性のかけらもない話をしている彼らも

スティーヴィーからしてみたら憧れの存在。

ルーベンは年下で一番下っ端なんですが、

「タバコ吸ってスケートやって女とやれば一人前」

「門限なんてお前はガキだな。お袋が寝たあとに帰ればいい」

「お礼をいうなんて、ゲイだと思われるぞ」

なんて、スティーヴィーの前では兄貴風を吹かせます。

 

彼はグループ内では使い走りのポジションのようで、他のメンバーから

「(ボトルに)水を汲んで来い」とか命令されたりしています。

めんどくさそうにしているルーベンにかわって、スティーヴィーが速攻で水を汲んでくると

リーダー格の少年から喜ばれ、スティーヴィーはめちゃくちゃ嬉しそう。

 

スケボー初心者のスティーヴィーがイアンのお下がりのボードを持っていると

「恐竜のスケボーはダサい」

とルーベンにからかわれ、彼のお古を40ドルで買うはめに。

 

 

 

① リーダー格で スケボーの腕もピカイチ、スティーヴィーの憧れのレイ

② 金持ちの息子で女の子のことしか考えてない ファックシット(口癖から命名)

③ いつもビデオを回し続けている無口なフォースグレード(4年生並みの学力から命名)

④ 弟分のルーベン

 

そしてスティーヴィーも、

「黒人も日焼けするの?」という質問が彼らにウケて、

「サンバーン」というあだ名を頂戴します。

 

彼らとつるんで、タバコを吸ったり、酒を飲んだり、立ち入り禁止に忍び込んだり、

親には言えない悪いことをやるのも、初体験のスティーヴィーにはいちいち楽しく、

やっと自分の居場所を見つけられたと目を輝かせます。

 

ある日、屋根の隙間(といっても2メートルくらいある)をスケボーで飛び越えはじめ、

レイとファックシットはなんなくクリア、

ルーベンが躊躇しているうちに、なんとスティーヴィーが果敢に挑戦。

でもスピードがついてなくて落下し、下のコンクリートにたたきつけられます。

驚いてかけよる彼らに、平気なのをアピールするスティーヴィー。

ルーベンはお気に入りのTシャツを血止めにつかわれた上に

自分のポジションを完全にスティーヴィーに取られたと感じて、不機嫌になります。

 

血まみれで家に帰ると母は驚き、息子の交友関係に不安を抱きます。

そのあと、街でファックシットから兄のイアンは挑発されますが、

イアンは弟の仲間だと気づき、殴り合いになるのを避けます。

 

「スラムの仲間といてクールなつもりかよ」

「俺はぶっ飛ばせたが、がまんした」

 

家に帰る前に酒やたばこの臭いを必死で消したり、

極力心配をかけまいとはするスティヴィーでしたが、

このあと年上のエスティーから性の手ほどきも受けて、

今まで一方的に屈服させられていた「兄に勝った!」

という気持ちが芽生えてきます。

「友だちも女もいないくせに!」

「お前なんか怖くない!」

 

スティーヴィーの生活は荒れ、泥酔して夜遅くに帰ったりするようになって、

母からスケボーをすることを禁じられてしまいます。

家を抜け出したスティーヴィーに レイは

「お前の母親はまじめだな」

「俺たちよりずっとましな生活をおくってる」

 

そして仲間たちのことを話し始めます。

「フォースグレードの家は白人だけど貧乏で、靴下さえ買えない」

「ルーベンの母親は薬物中毒のDVで、あいつと妹を殴る」

 

「オレは3年前突然弟が車に轢かれて死んだ」

「沈んでいるオレを、ファックシットがスケートに連れ出して

ずっとそばにいてくれた」

「いいヤツだけど、今は薬漬けでイカれてる」

 

翌日、パークではパーティが開かれ、

プロスケーターと話をしているレイに腹をたてたファックシットが泥酔して乱入して騒動になり、

スティーヴィーも酒を飲んでルーベンと大喧嘩をします。

ファックシットの運転する車が事故を起こし横転し、

意識不明になったスティーヴィーは病院に運ばれます。

病室にはイアンがつきそい、無事だった他のメンバーは全員

病院のロビーで夜を明かします。

 

目を覚ますスティーヴィー。 

母は仲間たちに「あの子に会う?」と病室に誘い、 

いつも無口なフォースグレードがビデオを見せたいといいだして

病室のテレビにつなぎます。

そのビデオのタイトルは『Mid90s』。

そこには音楽に乗せて、彼らの生き生きとした姿がありました。     (あらすじ  ここまで)

 

 

ジョナ・ヒル監督の本名はジョナ・ヒル・フェルドスタインで、「ブックスマート」主演のビーニーの兄です。

そんなこともあって、半券割引をしている劇場もあったりで、

最初に見たときは「ブックスマート」を意識していたのですが、

これを観た直後に「行き止まりの世界に生まれて」を見たら、

スケートボードがでてくる以上に かなり共通点がありました。

 

キャラは違うけれど、フォースグレードなんて、(撮影を始めたころの)ビン・リュー監督だし、

辛い時にそばによりそってくれて、女性にもてるけど酒で人格変わるファックシットは

そのままザックのキャラですよね。

 

時代も地域も違うのだけれど、

スケートボートの小さなコミュニティを具現化しようとすると似てくるんでしょうね。

ただ、さすがにこちらはきちんとした脚本でやってるから、

全てのカットに無駄がなく、90年代のストリートカルチャーにあふれ、テンポよく85分で仕上げ、

(いわゆるハリウッドメジャーではないけれど)いい意味で優れた商業映画だな~と思わされます。

 

1983年生まれのジョナ・ヒル監督が13歳の年は1996年なので、

おそらくmid90sというのはその辺なんでしょう。

同年代の人にはここで使われる音楽や当時のガジェッドを懐かしくみられるんでしょうけど、

私のようなシジジババにとっては90年代なんて、「ほんの最近」なので、残念ながら懐かしさはゼロ。

当時の日本は阪神淡路大震災とか地下鉄サリンに始まるオウムの事件が発覚して

バブルもはじけて、くら~い世紀末の様相でした。

個人的にも子育てに追われて映画もほぼ観られてなかったし・・・・

 

まあ私の話はどーでもいいんですが、

今絶好調のA24の制作配給ときいて納得できるイマドキでオシャレでクールな映像を満喫できます。

全編ヒット曲満載なんですけど、曲が止まって静寂になったときの緊張感のほうが

私は好きでした。 曲がわからないこともありますけど(笑)

 

ただ、スケボー映画としては、その楽しさがあんまり伝わらないような。

主役のサニー・スリッチはじめ、せっかくプロやアマのボーダーをキャスティングしているのに

スティーヴィーとか、転んでるところばかりで、気の毒でした。

商業映画として、保護者世代の目線もいれて、

「スケボ、最高!」と敢えてしなかったのかな?

多分「行き止まり・・・」の疾走感あふれる映像を見てしまったから、

それと比較してしまったからでしょうかね。

 

初日に新宿ピカデリーで見たんですが、

若者ばかりと思いきや、昼間だったこともあって、初老以上の男性が多かったです。

たしかに「90年代に青春を送らなかった世代」が見ても、共感できることも多く、

クールの意味を間違えて粋がってるルーベンに比べて、レイのかっこいいこと!

「礼をいったらゲイかよ、ふつうのマナーだ」

って当たり前のことを当たり前に言ってくれて

年下にもきちんと接してくれるのが最高にクールで

ジジババのハートもわしづかみであります!

 

映画とは関係ないんですが、スケボーとかサーフィンとかの「若者文化」が

正式種目として東京オリンピックで採用される件。

国を背負うアスリートとして持ち上げちゃうのは、

逆に彼らの大事な居場所を取り上げる結果になってしまう気がして、

すこし心配になりました。