映画「ブリット=マリーの幸せなひとりだち」 令和2年7月17日公開 ★★★☆☆

原作本 「ブリット=マリーはここにいた」 フレドリック・バックマン 早川書房

(スウェーデン語、 字幕翻訳;中沢志乃  字幕監修;オスターグレン晴子)
 

 

 

スウェーデンに住む専業主婦ブリット=マリー(ペルニラ・アウグスト)は、40年にわたって夫を支えてきた。

ある日、出張先で夫が倒れたという知らせを受けて病院に駆けつけると、長年の愛人が付き添っていた。

家を出たブリット=マリーは、これまでほとんど働いたことがなかったが、

小さな町でユースセンターの管理人兼子供たちのサッカーチームのコーチの仕事に就く。

                                                     (シネマ・トゥデイ)

 

花柄のメモ用紙にやることを書きこみ、一つずつ片付けていく専業主婦のブリット=マリー。

ビジネスで忙しい夫のケントを支えて40年。

家を整えておいしい食事をつくることに人生をかけてきました。

最高の夕食を作って並べても、サッカーが始まるとすぐに席をたってしまう夫。

 

「なんであんなに夢中になれるの?」

「サッカーなんかより重曹のほうがずっと役にたつわ」

 

「今日は仕事で遅くなるから寝ていて」といって

朝食も食べずにでかけたケント。

「心臓発作で倒れた」という電話をもらい、病院にかけつけると

なんとケントのベッドには、美人で胸の大きいカミラという女性が

奥さんみたいについていました。

 

ブリット=マリーは家に帰り、荷造りをはじめます。

「家具の下が埃だらけでも、お客が気づかなければかまわない」

「でもある日、家具を動かしたとたん、すべてが明るみにでるの」

 

結婚指輪をはずして、スーツケースをもって、家出をしたものの

まずは、職探し。

「63歳で、最後に働いたのは40年前にウエイトレスをしただけ」

という経歴では なかなか仕事はなく、該当するのはひとつだけ。

「ボリという村で期限付きですが、ユースセンター管理人の仕事があります」

「サッカーのコーチも仕事に含まれますが、できそうですか?」

それを聞いて彼女は

「私の人生の半分はサッカーかもしれないわ」と答えます。

(ある意味嘘ではないんですが・・・)

 

ボリ村の落書きだらけの建物、

カギをあけて中にはいると、服や食べ物やいろんなものが散らかり放題。

「カオスだわ」

「文明も文化も届かない場所にきてしまった」

それでも

「一日ずつよ、ブリット=マリー、一日ずつよ」

を自らを励まします。

 

 

翌日、ボールで窓が割れる音で目覚めると、

グラウンドで小学生たちがサッカーをやっているのでした。

 

「私が新しいユースワーカーよ」

「ガラスを片付けなさい」

 

落書きだらけの壁や散らかり放題の部屋にも文句を言うと

ヴェガという女の子に

「落書きとサインは違う」

「落書きは破壊行為だけど、サインは存在の証明よ」

といわれます。

 

「コーチは夢とかないの?」と聞かれ

「パリに行きたいとずっと思っていた」と。

子どもの時パリに住もうといってたのに、車の事故にあい

隣に座っていた姉のイングリッドが死んだことで

この夢は封印されてしまっていたのでした。

(この回想シーンは何度も流れますが、ちょっと要らない気もしました)

 

 

子どもたちは何よりもサッカーが大好き。だけど弱い。

前任者が死んで、この施設も閉鎖予定。

でも早く一勝がしたくて練習に余念のない子どもたち

ブリット=マリーはそれに貢献できるのか?

 

夫のケントが探し当てて迎えにくるが、

年下の警官のスヴェンとのデートも楽しむまでになった彼女のプライベートは

これからどうなるのか?               (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

年齢的にも性格的にも予告編を見てたら自分をみてるみたいだったので、

作品のクオリティーを問わずに、見ることは決めていました。

 

 

冒頭、彼女はこんなおっかない顔をして掃除をしまくっているんですが

別に怒ってるわけじゃなくて、部屋がきれいになることはめちゃ楽しいはずです。

夫が脱ぎ捨てた香水くさいシャツを拾って洗濯する日常。

浮気をしてるっぽいことは気づいていても、騒ぎ立てることもせず、黙っていたんですね。

約束した時間に帰って、稼いできてくれればいいと思っていたんでしょうか。

 

このおばちゃんを演じるのは、スウェーデンの国民的女優ペルニラ・アウグスト。

スターウォーズでアナキンの母を演じた人です。

 

 

ほうれい線とか目の下のたるみカバーとか「アンチエイジングのクリーム」のCMの

「使用前」みたいな感じで登場したので、

①家出して②自分の居場所を見つけて③恋をして・・・・

どんどんきれいになってく「使用後」の展開を想像してたんですが

①②③ともあったのに、あんまりビジュアル変わらなかったのは、意外でした。

もともとは美人の女優さん使ってるのにもったいないな。

 

日本では夫がサラリーマンの専業主婦は、第3号被保険者で、けっこう手厚い扱いしてくれますが

社会保険料高そうなスウェーデンではどうなのかな?

40年もまったく仕事をしてない人なんているのかな? (この辺は解決できず)

 

 

原作では彼女はかなりの変わり者というか、空気読めない感がすごくて

社会不適合者みたいな扱いだったんですが、

映画では、ふつうのおばちゃんだったから、まあ自分のこととして見られました。

ただ、サッカーやったこともないのに、コーチできます!とか、ずいぶんだと思うけど

最初の日にそれはしっかり子どもたちにバレていたので、

そのへんはドキドキしないですみました。

 

 

ボリは小さい村だから、住民も少ないです。

右のふたりはピザ屋で修理工で・・何でも屋の世話好き。

前を歩く女性は前任者の娘で元サッカーの強豪選手だけど、視力を失ってしまったバンク。

一番左はブリット=マリーをデートに誘うスヴェンです。

 

あらすじの続きは一応ネタバレということで・・・・

 

 

まったくかみ合わないブリット=マリーと子どもたちでしたが、

得意の掃除で部屋はみちがえるようになり、

コーチ術もバンクのノートで勉強してなんとかできるようになり

いよいよ施設の使用期限と、強豪チーム カールトゥナとの試合日が迫ります。

試合には資格のあるコーチの付き添いが必須といわれますが

バンクのもっていた免許でなんとかOKとなって試合がはじまります。

実力の差は歴然で、ハーフタイムで9-0。

ところが後半、エースのヴェガがPKを決めて初得点。

結局14-1で負けるも、応援団は 初得点にお祭り騒ぎです。

 

打ち上げではブリット=マリーも表彰されて、子どもたちから拍手を受けます。

 

この日夫のケントが迎えにきていました。

「君がいないと家のなかはめちゃくちゃだ。帰ってきて欲しい」といわれるも

「せめて洗濯かごに脱いだものをいれてほしかった」

「あんな生活はもういやなの」

 

結局、まだやることがあるというブリット=マリーに

「明日の朝までホテルにいる。君が来なければひとりで帰る」とケント。

翌日、ブリット=マリーは、入り口に

「Britt-Marie var här(ブリット=マリーはここにいた)」とサインを残し、バスに乗ります。

夫のところへは戻らず、スヴェンのところでもなく

彼女が向かったのは 花のパリ、でした。

サングラスをおでこにかけ、前よりちょっと若々しくみえる服装のブリット=マリーの姿・・・・

                                          (あらすじ おしまい)

 

 

ブリット=マリーは、なぜ突然家出をしたのか?

「夫の浮気発覚」が理由なんでしょうが、

直接相手の顔をみることはなくても、浮気してることは、ずーっと前から気づいていました。

病院で看護婦さんたちが浮気相手を妻だと思い込んでいた・・・というのは、

さすがにちょっとプライド傷つきますけどね。

 

原作では(映画にもちょっとでてきましたが)

孤独死して異臭を放つまでほっておかれるのがイヤで

「社会とつながりたい」という気持ちが非常に強かったようですが、

とりあえず夫がいるうちは大丈夫そうな気もしますけど・・・・

私も、孤独死は受け入れるとしても、異臭を放つまえに発見してほしいから

(友達少ないけれど)最低限の人脈は確保しておきたいとは思っています(笑)

 

ストーリーとしては

40年間家の近所からでなかった人付き合いのできないおばちゃんが

一念発起して遠い村で仕事を得て、そこの人たちと交流していく話、なんですが、

ボリ村の人たちにとっては、ほんの短い間だったけれど

ふらりとやってきてこの村を変えたブリット=マリーは

これからも語り継がれる伝説の人物になることでしょう。

「バグダッド・カフェ」のジャスミンに似てるな~とずっと思っていました。

バグダッド・カフェ

 

 

 

 

この村にしっかり爪痕を残した彼女は、まさに

Britt-Marie var här(ブリット=マリーはここにいた)

 

このタイトルは、原題でもあり、原作本のタイトルでもあります。

これを邦題するのがベストと誰もが思いますが

なんで「幸せなひとりだち」なんて ふんわりしたタイトルにしたのか?

 

それはおそらく、同じ著者による、「幸せなひとりぼっち」にあわせたんでしょうね。

幸せなひとりぼっち

 

 

 

★5つの良作だったけど、上映館も少なかったし、

日本での知名度そこまで高くないような気もしますけど・・・・・

 

シネマ・カリテで初日に見たから、おしゃれな入浴剤をもらった記憶がありますが、

ブリット=マリーは(こんな非常時でなければ)、きっと初日プレゼントはあのメモ帳だったでしょうね。

 

 

彼女のメモ帳はなんども登場するんですけど、

どれも素敵なデザインでしたよ。

 

きれいに整ったインテリアも見どころだし、

散らかっててもそれなりに小物の色がきれいで、

「スウェーデン映画はグッズを見てるだけでも楽しい」といって間違いないと思います。

 

そしたら、女性ウケしそうなこの邦題で正解だったのかもしれません。