映画「黒い司法 0%からの奇跡」 令和2年2月公開 ★★★★★

原作本 「黒い司法 黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う」 ブライアン・スティーヴン 亜紀書房

 

 

黒人に対する差別が横行している1980年代のアラバマ州。

黒人の被告人ウォルター(ジェイミー・フォックス)は、身に覚えのない罪で死刑を宣告されてしまう。

新人弁護士のブライアン(マイケル・B・ジョーダン)は、彼の無実を証明するために奔走するが、

陪審員は白人で、証言は仕組まれ、証人や弁護士たちは脅迫されていた。        (シネマ・トゥデイ)

 

1987年 アラバマ州 モンローヴィル。

山での伐採の仕事帰りにウォルター(ジョニーD)は、突然検問を受けます。

「高い改造車に乗ってるな」

ピストルをむけてにやついている警官たち。

「殺人罪でお前を逮捕する」

人違いだといっても聞き入れられず、ウォルターは拘束されてしまいます。

 

事件は18歳の白人女性ロンダがクリーニング店で惨殺されたもので、

目撃証言だけで、動機も状況証拠すらなく、

ウォルターは死刑囚の独房にいれられてしまいます。

 

一方、ハーバードのロースクールを卒業した若き弁護士ブライアン。

彼は夏のインターン期間に同い年の死刑囚と面会をしたことをきっかけに

ろくな裁判もなく死刑が確定してしまう弱い立場の人間の味方になろうと決意します。

彼は受刑者の人権擁護活用をする白人女性エバと知り合い、

「EJI(Equal Justice Initiative)」を立ち上げ、国の補助金を使って

依頼金なしで相談や支援をすることにしますが、

事務所を借りるはずだったのが

「そんな目的では貸せない」と直前で断られ、

しかたなく、エバの自宅で仕事をすることに。

 

アラバマ州刑務所に収監されている死刑囚たちに面会にいくと、

まず、刑務官に「服を脱げ」といわれ、全裸にされて、

弁護士なのに、まるで犯罪者のような扱い。

ともかくここでの黒人の囚人の扱いはひどく

判事は笑って「犯罪者は死刑でいい」といい

「白人殺しの黒人なんかを助けたら、ここでの昇進はない」

と、公選弁護人もまったくやる気なし。

ウォルターに面会するも、

彼の弁護士も「心配するな」といいながら

依頼金だけ取って姿をくらませてしまったため

彼は全く弁護士を信用していないようでした。

 

「このアラバマじゃ、規則なんてない。

一旦しょっぴかれたら、指紋も証言も証拠もなく犯人にされてしまう」

「スーツ着たハーバード出のおぼっちゃんにはわからない」

「この監房から釈放された人はひとりもいない、お前に何ができる?」

と、ウォルターは再審請求に後ろ向きで、まず彼の説得からはじめなくては・・・

 

ウォルター逮捕の決め手は、

「現場でウォルターを見た」というマイヤーズという男の証言だけ。

事件の日、ウォルターにはアリバイがあるのにそっちの目撃情報は無視。

しかもそのマイヤーズという男はこの証言で司法取引をして、自らの刑を免除されているのです。

 

担当検事は配置換えで、あとを引き継いだチャップマンという元公選弁護士の男に会いにいくも

「みんな君に興味をもっているが、殺人犯を釈放するのは間違っている」

「住民(白人)の怒りは抑えきれず、真相はもう決まっている」

と、再審請求は困難を極めそうです。

しかも見せてもらえたのはマイヤーズの証言の抜粋だけで、すべては見せてもらえず。

 

 

ウォルターの家族を訪れると、一族が全員集合しており

事件の日は朝から晩まで彼は家でバザーをやっていたことをみんなが知っていました。

妻のミリーによれば

ウォルターは白人女と浮気をしたことがあり、

それを知った亭主が仕返しのために、悪い噂を広めたため、

警察に目をつけられたことが原因ではないかと・・・・

 

帰り際、長男の友人のダーネルが、

「マイヤーズの目撃証言は嘘だ」

「だって、その時間、彼はボクと一緒に自動車整備工場でにカマロを整備していたから」

 

ダーネルは悩んだ末、証言をしてくれることになったのですが、

「爆弾をしかけた」とエバの家に脅迫電話がかかったり

ダーネルの職場にも警官が訪れ、ボスの目の前でダーネルは偽証罪で逮捕されてしまいます。

チャップマンのところに抗議しにいくと

ダーネルは不起訴にしてくれたものの、再審請求は却下となってしまいます。

 

帰り道、ブライアンの車は警察車両に止められ、車から引きずり出されて銃を向けられます。

理由はなにも示されず、散々恐ろしい思いをさせられたあげく

「釈放だ、よろこべ」といって警官は去っていきました。

 

もはやダーネルに証言してもらうことは無理で、

望みはマイヤーズが証言を翻してくれることだけ。

 

すべての調書や録音を手に入れて調べると

最初の供述書では「ジョニーDなんて知らない」と言っていたのがわかります。

保安官にウソの証言を拒否したマイヤーズは、いきなり移送され、

死刑執行の部屋に一番近い監房に入れられてしまいます。

火傷恐怖症の彼は、皮膚の焦げる臭いにおびえるあまり

言われるままに証言をしてしまったのです。

 

ようやく再審請求が認められ、証言台にはマイヤーズが立ってくれました。

「オレの証言はデタラメだった。早く彼を子どもたちのところに帰してやれ」

また、当日自宅でのバザーのチラシとか、

その日ウォルターは家にいたという巡回の警官の証言、

また、事件現場に一番最初にいった警官が

「遺体の位置をマイヤーズの証言にあわせろ」と保安官にいわれ

拒否すると警察をクビになった・・・などなど、反対証言が続々とでてきます。

 

1か月後、判決がおります

「マイヤーズの最初の証言は撤回され、2つのうちのどちらかが偽証である」

「彼の出廷は教唆による可能性もあり、再審請求は棄却する」

ウォルターは監獄に逆戻り。

裁判官の制止を聞かずに立ち上がった息子が法廷侮辱罪で逮捕されます。

                                        (あらすじ とりあえず ここまで)

 

 

けっしてメジャーな作品ではないのでツイート数は少ないのですが

公開以来、ずっとCOCOのサイトで満足度1位の100%を継続していて

とても気になっていました。

 

ただ、気づいた時には、近くのシネコンでは深夜枠の1回だけになってしまって

さすがに24時終了は無理だろうとあきらめていたのですが

コロナ対策で深夜枠がなくなったことで、逆に、観に行くことができました。

 

実話に基づいた話ではありますが、それにしてもこのタイトル(副題)

ネタバレにもほどがある! 

「0%からの奇跡」って、あんまりです。

 

ついでにいうと、公式サイトが最悪で、動画やキャンペーンや有名人コメントしかなく

作品に関する情報がほぼない、なんというか、「うるさい画面」ばっかりなんですよね。

タイトルセンスも含め、プロモーションは難ありだけれど、

作品自体は、(ワーナーブラザーズですけど)

「倍返しだ!」みたいなエンタメモードではなく、わりと地味目。

ただ、マイケルBジョーダン、ジェイミー・フォックス、ブリー・ラーソンと主要キャストは大物で

アカデミー賞も狙ってたみたいですね。(黒人枠?)

 

 

(あらすじ 続き)

一応ネタバレになります

 

完璧な証拠を用意したにも関わらず死刑判決が覆らず、

それでもあきらめないブライアンは方針をかえることにします。

CBSのテレビ番組「60ミニッツ」に出演して、世論に訴え、これにより

チャップマン検事たちにも非難の声が上がるようになります。

「外部の裁判所なら証拠を無視できないはず」と、モンロー郡のとなりの

ボールドウィン郡裁判所で、93年3月に起訴取り下げ請求の審理が開始します。

ブライアン側の陳述の後、チャップマンに発言が求められると

なんと彼は、あっさり「起訴の棄却」を宣言し、あっけなくウォルターは無罪放免となりました。

                                                   

エンドロールで、ブライアンたちEJIは140人の死刑囚を救い、

ウォルターが認知症で亡くなるまで、ブライアントの友情が続いたことが伝えられます。

                                                  (あらすじ おしまい)

 

 

とにかく、ウォルターの案件に関しては

「冤罪にもほどがある!」と怒りを通り越して、あきれてしまいます。

 

「不幸な偶然が重なって、犯人だと勘違いされた」わけでも

「たしかに殺したけど死刑という量刑は重すぎるのでは?」というのでもなく

たくさんの人と一緒に一日中自宅でバザーをしていて完璧なアリバイのあるウォルターが

遠く離れた行ったことないクリーニング店で見ず知らずの白人女性をなんの動機もなく殺したといわれ

それを証言するのが、見ず知らずの犯罪者が司法取引で行った目撃証言のみ・・・・

という、とんでもないもの。

そして、その唯一の目撃証言が翻り、逆に無罪を証明するたくさんの証言がでてきているのに

それでも陪審員が「死刑」と判断したわけですよね?

クズな取調官から密室で違法な取り調べを受けたわけでもなく(それもダメですけど)

形式的には裁判をして民主的な手続きが行われているのに、誰が見ても間違った判断が出る・・・

 

地元の人のなかには、白人でも、違和感を感じている人もいるでしょうに

そこで生きていくには多数勢力に迎合しなければならないのか?と思うと

裁判をいくつかひっくり返したくらいでは、まだまだ意識は変わらないかもしれません。

エンドロールで、最初にウォルターを逮捕した(おそらくこの捏造を仕組んだと思われる)テイト保安官が

この事件のあとも7回も再選されたということが伝えられましたが

この事実だけでもいかに問題の根が深いかがわかりますね。

彼にとって最も大切なことは

「白人コミュニティが安全に暮らせること」

犯人を早く検挙して電気椅子に送って一刻も早く一件落着することが求められます。

これはこれで一理ありますが、かといって冤罪事件をプロデュースしてしまったら

真犯人が野放しになってたら危ないじゃん!

馬鹿か!

って普通に思ってしまいますが・・・・(笑)

 

原作本では、ウォルターの事件以外にもたくさんの案件が紹介されていましたが、

映画では(あらすじでは省略してしまいましたが)

隣の独房のハーブの死刑執行までが描かれていました。

 

彼はベトナム戦争で表彰を受けたものの、その時の壮絶な体験からPTSDになり

自分の身を守るために爆弾を作っていたのですが、

誤ってそれを姪の少女がいじって爆破させ、死んでしまいました。

これに事実誤認はなく、冤罪ではないのですが、そもそも故意ではなく過失。

しかも精神的障害をもっていたのだから、死刑は量刑としてありえないのですが、

ブライアンの努力もむなしく死刑執行されてしまいます。

 

アメリカでは死刑執行される人の9人にひとりは冤罪・・・

という衝撃的なことがエンドロールで流れましたが、

これは、この時代にアラバマ州でブライアンが扱った事件のなかで?

現代でもこんなことがまかり通っていたらそれは大変なことなので、一応調べておこうと思いました。

 

 

ブライアン役のマイケルBジョーダンは「フルートベール駅で」主役デビューしましたが

有名になったのは「クリード」の若きボクサー役。

今回はスーツを着たエリート弁護士役で、愛されて育ったいいとこの青年役も、全然オッケーでしたけど

スーツを脱いでジョギングするシーンとか、眼福!

美しい体で 運動能力あって 知的な役もOKって無敵ですよ。

間違ってもマーベル映画でヒーローとかやらないで、

いろんな映画で主役を張って欲しいものです。

 

ジェイミー・フォックスが何かの賞にノミネートしたらしいですが、

個人的にはウソの証言をしたマイヤーズ役のティム・ブレイク・ネルソンが一番良かったと思ったけど・・・

 

オー・ブラザー!」でデルマーをやってた人です。

マイヤーズの役が彼じゃなかったら、きっとこんなに楽しめなかったと思いますよ。

出番少ないのに、ものすごい存在感!

 

週末は映画館もやってないので、

今日はこれから、ネットフリックスで彼の出演する「バスターのバラード」を見たいと思います。