映画 「母との約束、250通の手紙」 令和2年1月31日公開 ★★★☆☆

原作本 「夜明けの約束」 ロマン・ガリ 共和国

 

 

ユダヤ系ポーランド人移民である母のニーナと2人で暮らしてきたロマンは、ニーナから

フランス軍に入って勲章を授与された後に大使になり、作家としても活躍することを期待され続ける。

重圧に苦しみながらも、ロマンは母の願いをかなえようと奮闘する。

やがて軍に入った彼は母からの電話や手紙を支えにパイロットとして活躍し、

さらに作家デビューも果たす。

だがニーナの手紙には、その成功を喜ぶ様子はなかった。                 (シネマ・トゥデイ)

 

 

骸骨の扮装で盛り上がるメキシコの「死者の日」
そのお祭りの列をくぐって、一人の女性がホテルの部屋にたどりつき、激しくノックします。
部屋のなかには書きかけの原稿が散らかり、一人の男がぐったりしています。
男の名はロマン、女はその妻のレスリー。

「こんなところでは死ねないからメキシコシティーまで行く」とロマンは言い張り、
タクシーで350km離れたメキシコシティーの病院に向かいます。
ロマンが書いていたのは「夜明けの約束」。亡き母との思い出をつづっていたのでした。

(ここから回顧シーンがはじまり、たびたび現代に戻りますが、それは省略します)

ロシアからポーランドにやってきた、ユダヤ人のニナとロマンのカッツェ親子。
母は婦人帽子の訪問販売で稼ぎますが、誰かの密告で警察に部屋を捜索されます。
テーブルの下でおびえる幼いロマン。
「密告した卑怯者は誰?うちの息子はフランス大使になって作家になって将軍になる大物だ」
と大声で叫ぶ母に嘲笑する群衆。ロマンは恥ずかしくてたまりません。

その後母は、パリの人気デザイナー、ポール・ポワレに扮した偽物の役者を連れてきて
ポワレの代理店を装って、金持ちマダム相手に高級婦人服の店をオープンし、そこそこ成功します。


モジューヒンの映画の好きな母は、ロマンに彼のようなヒーローで女性を泣かせる女になって欲しいと思い
男が戦うのは ①女 ②名誉 ③フランス のためにだけだと教え込みます。
ロマンは好きになったバレンティーナという女の子に「私を好きならやりなさい」といわれ
殻付きの生きたザリガニ(?)とか靴とかを食べた結果、病気になり、
バレンティーナの兄にも脅され、母のことも「ユダヤの売春婦」といわれます。

「今度母さんが侮辱されたら、体の骨が全部折れるまで戦え」と言われたロマンは、
この教えをこの後も守っていきます。

最初は上手くいっていた商売でしたが、

母がユダヤ人だと足元を見られたか、金持ちマダムたちが金を払わなくなって資金繰りに困り
結局は破産し、店をたたむことに。

それでもめげずに、母の憧れの地、フランス、ニース駅に親子で降り立ちます。

ロマンも初めてみる地中海に魅せられます。

なんとか持ち出した銀食器を高く売って当座の生活費に充てようとする母。

「貴族だった母の遺品です」「革命を生きぬいた本物よ」とか言ってもプロの目はごまかせず

「お気持ちはわかりますが・・・・粗悪品です」とぴしゃり。

ところが店主から

「あなたはロシア貴族の末裔ということで・・・・・私と手を組みませんか?」

と、思いがけない提案が。

ちゃっかり前金も受け取って、その後、ホテル内の高級品販売や、不動産業にも乗り出し、

そこそこの実業家として成功するのです。

 

ロマンもまたいい暮らしができるようになり、母はマリエットという世話係もつけてくれます。

「マダムは坊ちゃんのこと、いつも王子さまみたいに言ってますね」

ロマンはこの色っぽいフランス女にぞっこんになってしまいますが、

いっしょにベッドにいるところを母に見つかると、

「このメス猫!」といって、即追い出されてしまいます。

「ぼくのすることにいちいち口出しするな!」 

さすがのロマンも、母への反抗心が芽生えてきます。

 

この後、母はホテルの経営もはじめ、サランバというポーランド人画家の客が1年も滞在するのですが、

彼は母を気に入っていて、結婚も考えているよう。

このころ母の病気(糖尿病)を知り、彼なら母を守ってあげられそうだし、

母が結婚すれば、自分への干渉も少なくなると思ったロマンは

母にしきりに結婚をすすめるのですが、全く聞く耳持たず、結局サランバは去ってしまいます。

 

(ここからロマン役がピエール・ニネになります)

1934年9月、ロマンはパリの大学に入ります。

ニースからの列車で知り合ったスウェーデン人のブリジットと懇ろになりますが、

彼女に恋人がいることを知って撃沈。

やけになったロマンは、いろんな女とヤリまくるようになります。

母の家からは出られたものの、年がら年じゅう母から電話がかかり、

ここでもクラスメートたちから、マザコンだとからかわれます。

 

病気の母が死ぬ前に小説家にならなくては・・・・

授業をさぼって、ひたすら小説に没頭する日々。

ようやく新聞にロマンの小説が掲載されると、母は大喜び。

ただ、その後全く掲載されなくなると、

「どうしたの?」と母からは電話がガンガンかかってくるから、

「ペンネームで書いてる」とか

「文学的すぎてレベルを落とさないと乗せてもらえない」とかいってごまかします。

 

1938年8月になると、突然母は小説のことをいわなくなり

「ベルリンに行ってヒトラーを暗殺しなさい!」

「お前の腕なら一発で仕留められる」

「もし失敗しても必ずフランスが救ってくれる」

と、自信満々に背中を押されて、ロマンもその気になりますが、

直後に

「英雄になる計画は中止して」といわれて、

切符まで買ったのに、ベルリン行きはなくなりました。

 

次の「指令」は、士官して地位を得ること。

ロマンは空軍に入り、まずは少尉の階級章を目指しますが、300人中ひとりだけ不合格。

軍曹や伍長にすらなれませんでした。これでは母に合わせる顔がありません。

(理由は、彼がユダヤ人であることと、フランスに帰化して日が浅いこと、のようですが)

こういう理由では母は納得しないので

「校長の奥さんといい仲になって密告されたから」というと、

「え、その人は美人なのね」と母は目を輝かせ、

「300人中一人だけ不合格」という特別な感じにも、大喜びでした。

 

 

その後も母は何度も駐屯地を訪れ、上官に賄賂を持ってきたり、

みんなの見てる前でロマンとハグしたり、女王様のようにふるまったり・・・・

もうロマンは周囲からの嘲笑にも慣れっこになってしまい、

「君のお母さんはバカみたいに君の自慢ばっかり」と

母を侮辱した兵士を、母の教え通りにぶん殴ります。

そして、母の喜びそうなことをしようと、イギリスにわたって自由軍に合流することにし、

「白い嘘」という小説も、従軍しながら書き始めます。

アフリカにわたって蚊にたかられて発砲して投獄されたり、腸チフスになったり、

行き倒れの黒人の老婆を助けたり、空中戦で戦果をあげたり、いろいろなことがありますが、

ロマンの意識のなかには常に母がいました。

 

そしてついに「白い嘘」がイギリスで英語版が出版され、評価されるようになります。

軍人としても十字勲章を得て、母はさぞ喜んでくれるだろうと、張り切って手紙を書きます。

母からもたくさんの手紙が届きますが、なぜか、小説の出版のことには全く触れず。どうしちゃったのか??

                                         (あらすじ とりあえずここまで)

 

2017年制作のフランス映画。

3年遅れの公開で、プロモーションもほとんどなかったから、すぐに打ち切りと思ったら

公開から2か月ちかくたつのに、まだやっていて間に合いました。

 

母ニナの一人息子ロマンへの思いは、それはもう大変なもので、

「母の愛は海より深い」なんてもんじゃありません。

異様なくらいの過干渉に加え、子どもの将来を勝手に決めつけるのは虐待レベルだし、

「うちの息子は大作家になる」とか「フランス大使になる」とか言いふらすのも

息子からしたら、かなりキツイですよね。

今だったら教育評論家たちに袋叩きにされそうな「毒親」です。

 

母にちょっとは逆らうものの、結局はいいなりになってしまい、

病気をかくしてまで自分に注いでくれる愛に応えようとするのですね。

「あの日、ぼくは誓った

母の途方もない夢を叶えると」

 

そしてそれを現実にしてしまって、すごいね!!って話です。

めちゃくちゃ単調。

一応私も娘ふたりを育てた「母」ですけど、この気持ちはまったく理解できず。

原作はあくまでもロマンの視点なので気にならなかったのですが、

母の心の内は描かれない、というか、こちらには伝わらないから、

映像にして客観的にみると、母の異常性ばかりが気になりました。

女手ひとつで、ロマンの学費やもろもろの費用を稼ぎ出す強い女性でもあったわけですが

商売は「詐欺まがい」というか、まあ、バリバリの詐欺ですけど・・・

 

私は「母」ではあるけれど、「母ひとり子ひとり」の濃密な関係とは無縁だったからわからないんですけど、

息子は母に反発しながらも結局は同一化していくというか、「一卵性親子」なんですね。

 

客観的にみたら、けっして良い関係とは言えないと思うんですが、

結果的にロマンにはいい結果をもたらします。

母からのしつこい電話に呼び出されたことで命拾いしたこともあったし、

子どものときにいやいややらされた「習い事」が ちょいちょい彼の命を救ったりもしました。

そして、

①大作家になる

②軍人として功績を残し、勲章をもらう

 

そして、映画の中にはでてきませんでしたが、この後

③(何か国語も使いこなして)フランス大使として世界で活躍する

という母の望みをかなえ、レスリーと離婚後結婚したのが 

あの(セシルカットで有名な美人女優)ジーン・セバーグ。

④絶世の美女と激しく愛し合う

というのも母の望みでした。

⑤(セバーグを主演に)映画監督を務めた

というのも、女優だった母が聞いたら喜んだことでしょうね。

 

 

映画では、現代シーンはメキシコでこの作品の原作を執筆中に倒れ、妻レスリーに介抱されて

病院へいくところなんですが、

ロマンは最後には自殺するから、最晩年のころと勘違いしがちですが、

これはジーン・セバーグの前の妻の時の話なんですよね。

しかも、強烈な頭痛の原因は、

ロマンが自分の耳にパンとワカモーレを突っ込んだため、というバカみたいな理由。

なんでメキシコ?

なんでワカモーレつっこんだの? これはわかりません。

 

それから、副題にもなっている250通の手紙について。

これはさっきのあらすじの続きを書かなければなりません。(ネタバレです)

 

あれだけ息子が成功をおさめるのにこだわっていた母が

それを実現したのにそれをスルーするのはなぜ?

不思議におもいながら、母の住んでいたホテルにいくと、そこには見ず知らずの夫婦が住んでおり

病院にも母の姿はなく・・・・・

ようやく主治医を問い詰めると、なんと、母は3年も前に亡くなっていたのでした。

つまり、死期をさとった母が数日の間に250通の手紙を書き、

すこしずつ送るよう、スイスの友人に頼んでいたのでした。

死んでなお、あの世から息子が生き延びられるように声援を送っていた母。

なんと深い母の愛・・・・・っていうことなんでしょうか?

 

うーん、このちょっとミステリアスなオチがこの映画の売りみたいになってるのですが、

これはかなり貧弱で、ほぼ予想通りでした。

ユダヤ系ポーランド移民の母がなぜそこまでフランスに固執するのか?とか、そっちのほうが

私には謎めいていたけれど、それは結局分からずじまいでした。

現地の人が見れば、映画の中にちゃんと語られているのかもしれないけれど、

日本人にはわからないな。

 

前半→ めりはりなく同じようなシーンの繰り返しで退屈

ラスト→ 拍子抜けするほどあっさりな結末

・・・という感じで、思ったほど自分好みの作品ではありませんでしたが

ロマン・ガリ(カッツェ)という作家を知ることができたのは収穫でした。

シャルロット・ゲンズブールやピエール・ニネは好演していたので、

彼らのファンの人にはオススメです。

 

恵比寿ガーデンシネマに置いてあったリーフレットにこんな4コマ漫画がありましたが・・・

まとめるの上手! たしかにこういう話です。
でも最後のオチだけを目当てに見に行ったら肩透かしをくらってしまうと思いますがね。