映画 「カツベン!」 令和元年12月13日公開 ★★☆☆☆

 

 

偽の活動弁士として泥棒一味の片棒を担ぐ生活にウンザリしていた染谷俊太郎(成田凌)は

一味から逃亡し、とある町の映画館にたどり着く。

そこで働くことになった染谷は、今度こそ本当の活動弁士になることができるとワクワクするが、

そこは館主夫妻(竹中直人、渡辺えり)をはじめ、

スターを気取る弁士の茂木貴之(高良健吾)や酒好き弁士の山岡秋聲(永瀬正敏)など

くせ者ばかりだった。                                   (シネマ・トゥデイ)

 

大正4年、幼いシュンタロウは、「種取り」(活動写真の撮影)を見たり、映画を見にいくのが大好き。

シュンタロウは七色の声を持つ山岡秋聲という活動弁士に憧れ、

幼馴染みのウメコは、スクリーンに登場する美しい女優に憧れていました。

ふたりはトイレの掃き出し口から劇場にしのびこんだり、

駄菓子屋でシュンタロウが万引きしたキャラメルをわけあったりして(コンプライアンス的にいいのか?)

淡い恋が芽生えますが、ウメコの引っ越しでバラバラに・・・・

 

10年後、シュンタロウは活動弁士にはなったものの、それは有名弁士を騙る偽物で

しかも盗賊団の一味(映画館に人を集めている間に仲間が盗みを働く)でした。

ある時、大金の入ったスーツケースとともに車から転がり落ちたシュンタロウは

今度こそ本物の弁士になろうと、青木館に住み込みの雑用係となります。

ここは歴史ある老舗の映画館なんですが、

ヤクザの経営するタチバナ館にどんどん人が引き抜かれ、

青木館の経営はかなり厳しい状態。

気障で流し目の主任弁士、茂木の人気のお陰でなんとかやっている状態です。

 

シュンタロウは青木館で憧れの山岡に再会しますが、

酒浸りになっていた彼にかつての輝きはなく、ただの酔っぱらい扱いでした。

そのほかには、師範出を鼻にかけ、すぐに横文字を使い、ひどい汗っかきの弁士、内藤、

最後まで残ったクラリネット、三味線、鳴り物の3人の楽士たち、

映像技師の浜本、青木夫婦にシュンタロウ、というのが青木館のスタッフのすべてです。

 

一方のタチバナ館では、モーセの「十戒」をフルオーケストラで見せるような豪勢さ。

ただ、肝心の弁士の「説明」が情けなく

父から経営を任された娘のコトエは、ちょくちょく青木館を訪れては

主任弁士の茂木を引き抜こうとしていたのでした。

「そろそろ色よい返事を聞かせてくれませんか♡~?」

 

また、タチバナが雇い入れていた安田トラオという用心棒なんですが、

実は彼はシュンタロウの入っていた盗賊団のカシラで、

「シュンタロウが大金の入ったトランクを持ち逃げした」と思っているから(実際そうですが)

万一、安田に見つかったら大変なことになってしまうのです。

 

それから、幼馴染みのウメコも女優の卵になっていて

「人気弁士茂木の女」として登場します。

当時女性が女優として一人前になるには、男たちに媚びを売るのはしかたないとしても

ウメコはそんな生活が嫌で、シュンタロウと会ってからは

「このままあたしとどっかに逃げへんか?」と誘うのですが

すでに代理の弁士として青木館を支えるようになっていたシュンタロウは

「国定は人情に篤いから、今は逃げられない」と断るのでした。

 

そのうち安田にバレて、シュンタロウが住んでいたフィルム部屋は安田に家捜しされ

すべてのフィルムがめちゃくちゃにされてしまいますが、

肝心の大金はその直前に楽士のひとりに持ち逃げされ、見つけることができませんでした。

ただ、翌日に上演するフィルムがなくては小屋を閉めなくてはいけない。

困った映写技師の浜本は、自分のコレクションだったフィルムの切れ端をつなげて1本にします。

それに即興でシュンタロウが説明をつけると、観客には大受けで、ほっとするのもつかの間、

安田が引き下がるわけもなく、シュンタロウをどこまでも追いかけます、

それに窃盗団を追っていた木村刑事も加わり、ドタバタ追跡劇がしばらく続きます。

 

 

駅で待っていたウメコは、二川監督(実在の人物)に声をかけられ、

次回作「雄呂血」のヒロインに抜擢されます。

騒動のさ中、青木館は焼けてしまいますが、焼け跡から大金が見つかり、

どうも新しい映画館の再建費用にまわされたようで、めでたし、めでたし。

 

シュンタロウは逮捕され収監されますが、刑務所のなかでもカツベンをやってみせて、

囚人たちは、やんややんやの大喝采。

そこへ、一人前の女優となったウメコがやってきますが、シュンタロウに会うことはせず

「木戸銭代わりに」といって、キャラメルを置いていきます。            (あらすじ ここまで)

 

 

 

寡作の周防監督の5年ぶりの新作のテーマはサイレント映画の活動弁士。

ドキュメンタリーも含めて、ほとんど扱いのなかったレアなテーマで、今回もさすが、です。

 

私は事前にノベライズを読んでしまったので、あらすじは知っていてみたのですが、

観た感想は次の2点。

 

ストーリーは「しょうもない話」なんですが、そこに監督の尋常じゃないこだわりが詰め込まれ

それぞれのクオリティーも高くて、とにかくめちゃくちゃ贅沢な作品になっています。

 

ちょいちょい実在の有名人が実名ででてくるので、映画史を見ているようにも思えるんですが、

それに(モデルは想像がつくけど)映画オリジナルの人物と

どう考えてもコメディにしか登場しない人物とがごちゃまぜに出てくるというユニークな構成。

 

好意的な表現で書いてみましたが、★2つでわかるように、

①②ともに、私の好きなタイプではありません。

 

弁士の名調子のクオリティの高さはこの作品の見どころで、

主演の成田凌は、よほど練習したんでしょうし、天性の声の張りもいいですね。

ほかの弁士たちもそれぞれに個性があって素晴らしい。

それから、劇中映画もこの作品のためにオリジナルでつくり、人気俳優が演じているというのもスゴイです。

 

 

それに反して話自体はベタなコメディなので、人間ドラマとしては全く鑑賞に堪えません。

ニセ弁士になるいきさつも、女優になる苦労も語られず、伏線もキャラメルくらいしかないし。

まあ、予告編でドタバタ映画なのは想像つくから、詐欺映画じゃないですけどね。

 

これはもう好みの問題なんですが、

「目玉の松ちゃんが見栄を切ってる撮影シーンやそれを見て観客が喜んでいるシーン」

を見るのは楽しいですが

本編で見栄をきったり追いかけごっこするところを延々見せられても

私は個人的には全く面白いとは思えません。

本作はそういう「もう早送りしたい~!」というシーンが1時間くらいあったように思います。

床板を踏み抜いたり、看板が落ちてきて頭に直撃、とか、もうしつこいし、

箪笥のところはちょっと面白かったけど、これも半分の時間でよかったな。

「ギャグ漫画の充実な実写化」ともいえる本作は、

きっと俳優さんたちは苦労したんでしょうけど、クスリとも笑えなくてごめんなさい。

 

明らかに実在の人物は、

子ども時代にお寺の境内で「種取り」をしている山本耕史演じる牧野省三。

それから、彼の教え子で「雄呂血」の監督として有名な二川文一郎も実在の映画監督で

池松壮亮が演じています。

画面に登場する弁士たちは実在しませんが、シュンタロウが物まねをしていた駒田好洋とか林天風とか

何人か実在の弁士の名前がありました。

 

次にモデルがいると思われるのは

山岡秋聲 →徳川夢声 (多分)

澤田松子 →環歌子(多分)

大正キャラメル → 森永キャラメル (パッケージに滋養豊富 風味絶佳と書いてある)

 

実名登場のなかでは、二川監督が温厚なイメージで、

牧野監督が破天荒、みたいに描かれてるのが気になるんですけど、

これは私だけかなあ。

確かに松ちゃん人気のころは、大衆演劇みたいな娯楽ものを量産していて

あんなロケ風景だったかもしれないけれど、

「日本映画の父」に対するリスペクトはいいんでしょうか?

「1スジ 2ヌケ 3ドウサ」と言っていた彼が、ろくに脚本も書かずに

適当に面白おかしく動いてりゃいい、なんて映画ばかりなはずないと思うんだけどな。

 

牧野省三の銅像は、昔撮影所があった京都の等持院の境内にあるんですが

 

 

実は等持院の、この後ろに映っている墓地にうちのお墓があるので

私は死んだらここに収められる可能性がけっこう高いのです。

死後、長いご近所づきあいになりそうな人物の描かれ方には非常に関心があるわけです。

 

 

どうでもいいことを書いてしまいましたが、

楽しいシーンもいくつかはありました。

 

安田の子分にのどをつぶされ声がでなくなったシュンタロウに駆け寄って

女性のセリフを代弁するウメコ。

ふたりの即興の掛け合いもよかったし、

つぎはぎのフィルムにシュンタロウが説明をつけるシーンも良かった!

それから、三味線とクラリネットと鳴り物の最後まで残った3人の楽士たちは

設定では「タチバナ館にも無視される出来そこないの3人」ということなんだけど、

この3つの楽器だけでどんなシーンにも音を当てられて、完璧なんですよ!

ここは(あんまり目立たないけど)マジ感動しました。

 

「怪盗ジゴマ」「名探偵ポーリン」「ルイーズ嬢」とか、耳にするだけで懐古的になってしまう単語や

「春や春、春南方のローマンス」

「はかなき椿のここに散る」

なんて名調子も耳に心地よかったです。

 

ところで、

レビューを見ていると、「映画愛に満ちている」という感想が多いんですが、

そもそもサイレント映画に弁士をつけることは、いかがなものか?って思ってしまうのですよ。

作品中にも、飲んだくれの山岡が愚痴る場面があって

「映画はもう完成している。勝手に説明をつけて喜んでいるなんて情けない」

「説明なしでも映画は存在するが、映画なしで説明はない。

オレたちの仕事はその程度。情けないものよ」

 

まさにその通り!と思いました。

名作といわれる同時代の洋画のサイレント映画

「イントレラント」(1916年)

「ガリガリ博士」(1919年)

戦艦ポチョムキン」(1925年)

「メトロポリス」(1927年)

なんかは私もみましたが、字幕だけで問題なかったし、

むしろ余計な説明はいらないと思いました。

邦画のサイレント作品は部分的にしかみたことないんですが

「弁士がいること前提」の映画なんて、まともな人だった撮りたくないと思うけどな。

 

そもそも弁士で色をつけるのは日本独自の文化のようで、

アフレコ好きは日本人の国民性かな?

 

そういえば、昔、「珍プレイ好プレイ」でつけたみのもんたのナレーションとか

私は嫌いだったんだけど、すごい人気だったのも日本人独特の文化なのかもしれません。

個人的には、即興で一度かぎりでやる分には面白くても、

なんか「名人芸」になるのはいかがなものかと思うんですけど・・・・

 

で、「映画愛」ですが、山岡を主人公にするならともかく、

「活動弁士の語りが人々を楽しませた」ということを強く伝えたいのなら、

真の映画愛とは真逆な気がしますけどね。

 

ただ、映画愛に満ちた登場人物は何人かいましたよ。

 

一番のお気に入りは映写技師の浜本。

ハサミと薬品だけでフィルムを手繋ぎするシーンとか

茂木の気障な「マノン・レスコー」の語りにあわせて映写のスピードを調整したり

脚で回しながら食事をする名人芸(?)

役得でもらったお気に入りのフィルムの切れ端を、缶に大事にため込んでるオタク気質。

誰よりも映画に詳しく、映画を愛してるのは彼だと思いました。

 

それからもうひとり。

いつもシュンタロウを追いかけている木村刑事(竹野内豊)もかなりの映画好きみたい。

最後の

「人生にも(映画みたいに)続編があってもいい」というセリフは

ベタだけど、キュンとしてしまいました。

 

サイレント時代の日本映画史の本は何冊かもっているはずなので

また別の機会にこのことは蒸し返したいと思います。