映画「記憶にございません!」 令和元年9月13日公開 ★★★☆☆
病院のベッドで目覚めた男(中井貴一)は一切の記憶がなく、病院を抜け出して見たテレビで、
自分が国民から石を投げられるほど嫌われている総理大臣の黒田啓介だと知る。
国政の混乱を避けるため、記憶喪失になったことを国民や家族には知らせず、
真実を知る3人の秘書官に支えられながら日々の公務をこなす中、アメリカの大統領が来日する。
(シネマ・トゥディ)
病院のベッドで目をさました男は、自分がなぜここにいるかわからず、頭に包帯を巻いたまま夜の街へ・・・
彼は史上最悪の総理大臣、黒田啓介で、演説中の投石で、記憶を失っていたのです。
「総理が記憶喪失になった」というのは3人の秘書官だけが知る「国家機密扱い」で
身内の政治家にも家族にも知らされることなく、このままいこう、何とかなる!・・・・
と、ここまでは、予告編でもさんざんやってたから周知の事実。
この、バカみたいなあり得ない設定から、三谷さんの力でどこまで挽回するか?!って話です。
自分が誰かも、家族や政治家の名前も、なにひとつ忘れてしまった男が、
記者の取材を受けたり、野党とやりあったり、アメリカ大統領を迎えたりしなきゃいけないなんて
どう脚本をいじったって、無理無理なんですけどね。
それ以前に、冒頭で、パジャマ姿で意味不明の行動をとるクロダは、彼を総理と認識する
たくさんの市民に目撃されていたのを、首席秘書官のイサカが「国家機密費をつかって抑えた」
ということなんだけど、
今だったら、みんなにスマホ向けられて、1分後にはSNSで拡散されちゃいますよね。
それを恐れてか、みんなの持ってるのはガラケーばかりで、「ちょっと昔の設定」にしていたみたい。
記憶のないクロダがはじめて知る事実は、驚くことばかり・・・・
★ 野党第二党の女性党首ヤマニシ(吉田羊)は、表向きは政敵でも、
実はクロダとはガチガチの愛人関係
★ 妻(石田ゆり子)のビジュアルは「好きなタイプ」でテンションがあがるも、
妻はどうも自分には興味がないようで、 反抗期のひとり息子の素行にも問題あり。
★身内のゼネコンに利益誘導するためにK2プラン(スーパー銭湯つきの第二国会議事堂)
という無駄な巨大プロジェクトを首相の権限でごり押ししようとしている
★政治ゴロのフルゴオリ(佐藤浩市)からは多額の口止め料を要求されている
★政治の実権は官房長官のツルマル(草刈)がにぎっているようで、自分は彼の駒にしか過ぎない
★妻はどうやら秘書官のイサカと不倫をしているらしい(これは後から知ることに)
総理が記憶喪失、という事実を知っているのはこの3人の秘書官たち↑
首相筆頭秘書官の イサカ (ディーン・フジオカ)
事務秘書官の バンバ (小池栄子)
秘書官補の ノノムラ (迫田孝也)
イサカとバンバは黒づくめの衣装で「いかにも有能」な感じで登場しますが、
総理を支えてなんとしてもこの難局を乗り切ろうとしているのは、小池栄子演じるバンバ事務官のみ。
前半ストーリーを回していくのはほぼ彼女ひとりで、彼女のキレのいい演技でストレスなく進みます。
イサカは「腹にイチモツあるちょい悪役」で、ディーン・フジオカはビジュアルはぴったりでしたが
三谷コメディとは相性悪いかも??
そして、三人目の秘書官のノノムラは、ほぼ何にも活躍しないんですけど、
すべて顔に出るタイプなので(秘書官としてはどうなんだろ?笑)
私はずっと彼の表情を見ていて楽しめました。さすがに三谷組ですよね。
今までの反省点を国民に向かって素直に詫びたり、
官邸でのおもてなし外交がまさかの吉とでたり、話はいい方に転がっていくものの、
実権を持っているツルマルを失脚させなければと、彼のスキャンダルをフルゴオリに調査させます。
「大物ヤクザとの癒着の証拠写真」にも動じなかった彼でしたが、
ゴルフ場でズルをやってる写真を突き付けられて、あっけなく官房長官を辞任します。
ところが、こんどは「妻と秘書官イサカとの不倫写真」を抑えられ、逆に反撃を受けることに。
官邸から逃亡する妻でしたが、党首討論の場で、テレビに向かって
妻に「愛してる」と訴え、それに答えて妻も戻ってきて・・・・・・
ネタバレにご注意ください!
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あらすじを書くのが悲しくなるほど、ベタベタな話なんですけど、
ひとつだけ「隠し玉」があって、それは、対抗勢力に記憶喪失がバレるころには
「実は記憶が戻っていた」ということです。
(多分キッチンをごそごそやっていて、料理人のスガさんにフライパンで殴られたとき)
すべてを思い出した時、もとの「悪い総理」に戻ろうと思えばできたのに
敢えて「新しい自分」で再出発しようとした・・・・・
つまり、
(別に総理でなくても)人はいくつになっても、自分のイメージに縛られることなく
その気さえあれば「新しい自分」になることができるんだよ!
というのが、監督からのメッセージなのでしょう。
不愉快になるようなシーンも少なく、毒にも薬にもならない大衆映画・・・というのが素直な感想です。
「総理と呼ばないで」のときもそうでしたが、
今の政権批判とかを決してやらず、リアリティにめちゃくちゃ欠けるのが三谷コメディなので
辛口の政治コメディを期待するとがっかりですね。
(あえて風刺しているとすれば、ロッキードの時代まで遡りそうです)
それっぽい政治用語もほとんど使われず、偏差値ひくめのゆる~い娯楽映画です。
個人的にはこれでいいと思うんですけど、
人気俳優にへんな格好をさせたり、一発ギャグで笑わせようとか、
そのへんは「ギャラクシー街道」で懲りたはずなのに、
またけっこうやってたのはちょっと納得いかなかったけど・・・・
逆に好きだったのは、まずこのふたり↓ (アメリカ大統領の木村佳乃と通訳の宮澤エマ)
全然リアリティないのに、英語に関しては息もぴったりで、もう大好き!
次も絶対に三谷映画に呼ばれる予感がします。
「隠れキャラ」的扱いだったのがこの三人。
左からROLLY 、有働由美子、 山口崇
ほとんどの人が最後までわからなかったかも、です。
まあ、大物スターからお笑いの人、安定の三谷組メンバーまで
たくさんのキャストが登場しますが、なんといっても、主役の中井貴一ありき!です。
(今回は佐藤浩市のキャラがイマイチ面白みに欠けたので、一番光っていたかも)
最近コメディづいてるのはちょっと気の毒ですが、とにかくうまいです。
彼のファンなら見逃せないですが、
過去の三谷作品のなかでは「ギャラクシー街道の一つ上」という程度なので、
ハードルをあげずに軽く笑うつもりで見に行くことをおススメします。