映画 「影に抱かれて眠れ」令和元年9月6日公開 ★★☆☆☆

原作本 「抱影」 北方謙三 講談社文庫

横浜の歓楽街、野毛。

抽象画家として活動し、2軒の酒場の経営者でもある硲冬樹(加藤雅也)は、

絵を描いては野毛の街で酒を飲む生活を送っていた。

ある日、彼を父親のように慕っているバーテンダーの岩井信治(カトウシンスケ)が傷を負った姿で現れ、

冬樹は抗争に巻き込まれてしまう。

そして、10年以上思い続けていた永井響子(中村ゆり)の余命を知る。     (シネマ・トゥデイ)

 

創元社文庫の拳銃マーク「警察小説 ハードボイルド」のジャンルは中学生くらいから読んでいたので、

「ハードボイルド」のお話は基本的に好き!

日本が舞台というのはあんまり読まないけど、「孤狼の血」なんかはかなり好物だったので、

オッサンたちにまじって鑑賞。

ストーリーに整合性なくても、主人公に共感できなくても、

とにかく、「あ、これ、かっこいいかも」と思った時点で「アリ」ということで

ハードルをめちゃめちゃ下げて見に行きました。

 

主人公のフユキを演じるのは加藤雅也。(この時点で、ほぼアリな予感です)

髪をひとつに結んで、横浜の街を自転車でふらつくオッサンなんですが、

本職は画家。

気持ちが乗らないとなかなか書かない寡作の画家ですが、常に個展のオファーを受けていて

たまに描くと海外の画商からも注目されているという・・・・

よれよれのかっこうをしていても、実はお金持ちで、複数の酒場を経営している実業家でもあります。

 

家庭も持たず未だ独身なんですが、女性関係に疎いというわけではない。

自身の経営するバーのママ(熊切あさ美)が愛人で、男女の関係もあります。

ふらりと飲みにいって、コップをテーブルに伏せるのが合図で、

「いつもの部屋でシャワーを浴びて待ってるよ」ということらしい。

 

そのほかに、10年来プラトニックラブを貫いている外科医のキョウコという女性も登場します。

彼女はフユキの絵のファンで、最初の作品を

「ここには私がいる」といって買ってくれた女性。

フユキのことが大好きなのに、思いが通じず、ほかの男と結婚しますが

人妻になってからも、いたって健全なデートをしている間柄です。

 

要するに、(存在が格好いいという以前に)

世の男性たちが夢見るような「いいご身分」なんですよね。

 

また、フユキは人情にも篤くて、昔自分の店で働いていたシンジという若い男がヤクザとトラブルになり

それに手を貸したことから、フユキも巻き込まれていく・・・・という話です。

 

シンジはヤクザに売られて風俗で働かされている女性を救う活動をしていて、

女性たちは「野毛山ロドリコ教会」でかくまってもらっていたんですが、

ドラッグ漬け?で頭がおかしくなってしまったヒロミという女性を好きになってしまったことから

ヒロミの元カレとか、ヒロミを金で買ったヤクザたちから追われて

年がら年中襲われてズタボロになっているのです。

それでも懲りずにこんどは自分の母親に200万で風俗に売られたアカネを

無事に教会に連れていきたいといい、

ヤクザに面のわれてないフユキが車で送り届けるのですが、

しっかりナンバープレートをチェックされて、身元が割れてしまいます。

 

一方、フユキにとって一番大切な女性であるキョウコから、

悪性リンパ腫で余命わずかだと告白されます。

「そうか、もうすぐいなくなるんだな・・・・」

フユキは取り乱すこともなく、馴染みの安食堂で一緒に楽しく食事します。

「私のことを描いてほしい。もう私にはあんまり時間がないんだけど・・・」

 

「描く」と約束したフユキですが、それは作品として残すのではなく、

何を思ったか、彼は刺青の彫師に弟子入りし、

キョウコの背中に自分の作品を彫ろうというのです。

ホテルの部屋を何日も抑えて、キョウコに残された時間を共有するふたり。

「君の体力がつきるまではオレの時間だ」

そして見事な彫り物が完成します。

 

「この絵、私といっしょに消えちゃうね」

そして、キョウコはフユキの前から姿を消します。

 

そして、しばらくして、大きな絵をもった男がフユキを訪ねてきます。

「先生、キョウコが亡くなりました」

「妻の持ってきた感情を知りたくて、会いにきました」

「妻の最後の命の灯りをともしてくださったことに感謝しています」

「ただ、夫の私には残酷な話です」

「妻の持っているこの絵は燃やそうとも思いましたが、お返しします」

「お会いできてよかった」

そういって、夫は、コップの水をフユキにかけると、出ていきます。

深々と頭を下げて見送るフユキなのでした・・・・・    

 

バーテンダーの辻村を交渉にいかせて、女性たちを助けるために

多額の金銭を用意するフユキでしたが、ヤクザの組織は2つあって

片方に金を払っても、もう一つの組の風俗店で働かされてしまい、

金銭だけではなかなか足ぬけできないことがわかります。

シンジの惨殺遺体が見つかり、怒りに燃えるフユキは(カタギのくせに)

2つの組織を直接ぶつけて、両方を壊滅させようと、車を走らせますが・・・・  

                                  (以上 あらすじ おしまい)

 

 

ヤクザ組織については、「孤狼の血」みたいなちゃんとした説明はないんですが、

この2人がそれぞれの組織のカシラのようです。

 

 

湘南乃風の若旦那演じる中井は、

いつも豚足を素手でつかんできったない音を立てながら貪り食ってる下品キャラ。

クスリをやってるのか、表情もまともじゃありません。

女性をえじきにして人身売買をシノギにしてる、レベルの低いヤクザ。

 

 

 

ヒップホップ界のAK-69が演じる三田村は、いわゆるインテリヤクザで、

フユキの描く絵の良さもわかっているし、言葉遣いも丁寧。

面構えもなかなか決まってるんですが、肝心のせりふがねえ・・・

滑舌はいいのに、なんでこんなに下手に聞こえるんだろう?

 

実は三田村は、誰よりもかっこいいせりふを用意してもらってるんですよ!

ラストも、瀕死のフユキを自分のクルーザー乗せて

「先生は誰にも知らずに消えてゆく」

「ある日ふっと消えて、絵だけが残る、そんなのもいいんじゃないですか?」・・・みたいな。

 

フユキはすでにカンフル剤でぎりぎり意識がある状態なので、

ほぼ、三田村の一人語りなんですよ!

そして一発の銃声でこの映画が終わるというのに、

演技がイマイチで、笑っちゃうほど締まらないの!

アフレコでもいいから、なんとかならなかったのかな???

 

 

三田村とちょっと似ていますが、彼はヤクザのボスじゃなくて、

松本利夫(MATSUから名前変わったんですね)演じる、フユキの店のバーテンダー辻村で

安っぽいチンピラ感ただよわせてます。

辻村のせりふは、(三田村とは逆で)なんか説明的な長いせりふをダラダラしゃべらされています(笑)

脚本、けっこうひどいですが、芸達者なMATSUは器用にこなしていたような・・・・

 

 

ヤクザパートはなんか適当で、原作を読めば、原作が手抜きなのか脚本の問題かわかるんですが

そこまでして確かめたいほどの熱意はありません。

 

横浜港の赤レンガ倉庫や開港記念会館もでてきたけれど、

舞台は野毛山のハモニカ横丁周辺のようで、

このあたりの土地勘があればもっと楽しめたとは思います。

 

汽笛の音、工事音、車の騒音、人のしゃべる声、携帯の呼び出し音・・・・

周辺音がセリフにかぶるくらいうるさいのは、臨場感アップのためかもしれないけれど、

あんまり素敵な演出とも思えず・・・・・

 

ただ、キョウコとの純愛パートでは、何度か「かっこよさ」を感じたので、

いちおう「アリ」ということで・・・・・