映画「喜望峰の風にのせて」 平成31年1月11日公開 ★★★☆☆

(英語 字幕翻訳 稲田嵯裕里)

 

 

 

1968年のイギリス。

ヨットでの単独無寄港世界一周を競うゴールデン・グローブ・レースが行われ、

経験豊富なセーラーたちに交じってビジネスマンのドナルド・クローハースト(コリン・ファース)も参戦する。

レース用のヨットを所有していないドナルドの挑戦に、スポンサーが名乗りを上げ、

ドナルドはスタートするが、海上では自然の猛威と孤独に苦しめられる。  (シネマ・トゥデイ)

 

1967年5月

プリマス港からヨットで単独世界一周を成し遂げた

サ・フランシス・チチェスターの祝勝会のパーティー会場。

ドナルド・クローハーストは、船に乗せて位置確認のできるナビゲーターを売るセールスマンで

会場に来ている人たちに(息子たちも巻き込んで)自社の製品の売り込みをかけますが、

なかなか売れなくてすごすご引き返します。

 

翌年、ヨットによる単独「無寄港」世界一周を競うゴールデン・グローブ・レースが開催され、

経営難の航海計器会社をなんとかするため、5000ポンドの優勝賞金目当てに

素人のドナルドも参戦することにします。

勇気あるアマチュアの果敢な挑戦にスポンサーも現れ、出航を目指します。

 

妻と子供たちは純粋に応援してくれますが、自前のヨットすらもっていないドナルド。

思ったようには資金は集まらず、それ以前にヨットマンとしてのレベルや経験値不足が心配ですが、

周りの期待の大きさに引き返すこともできずに、見切り発車してしまうんですね。

 

「何の実績もないビジネスマンが今まで誰も成しえなかった偉業に挑戦する」

なんともすごい野心にメディアは食いつきます。

数々の困難と闘いながら、見事世界一周を達成し、美しい妻や子どもたちと抱き合って・・・・

みたいなラストを想像してしまいますが、

本作はそんなサクセスストーリーではありません。

 

ドナルド・クローハーストは実際の人物で、けっこう有名な話らしいのですが

これは知らないで見た方がいいでしょうね。(私も知りませんでした)

 

海洋冒険ものとしては「コンティキ」とかが頭に浮かびますし、

海で遭難して、結果的に一人で長期間漂流する話も、いろいろ映画でみたことがあります。

(「白鯨との闘い」「ライフ・オブ・パイ」とかいろいろ・・・)

 

でも本作は嵐や飢えを戦う「サバイバル」ではなく、ゲームみたいなものなので、

ヤバい!と思ったら棄権すればいい話なんですね。

 

ドナルドは出航してすぐに、とうていゴールは望めないことを実感し、

勢いで出発してしまったことを深く悔やみます。

ただ自分を心から信じて応援してくれる息子たちや、

出資してくれたスポンサーの圧を考えたら、とても棄権なんてできず、

嘘の航海記録をでっちあげることを決意します。

喜望峰までも到達できない状態で、ブラジル沖をふらふらしながら時間をつぶして

ビリでゴールすれば記録は調べられないし、とりあえずなんとかなるだろうと・・・・

 

ところが、ほかの出場者たちは次々に棄権して戦列を離れてしまい、

消去法で、順調に航海を継続している「はず」の素人セイラーの存在が注目されます。

無事にゴールしたのはロビン・ノックス・ジョンストン一人だけ。

ただ、出発は別々なので、ドナルドの送っていた捏造した記録のほうが速さでは上回っており、

連日家族のもとに取材が押しかけます。

 

もはや、ドナルドは帰還することも、棄権することもできなくなってしまい、

自殺することで結末を迎える・・・・・そういう救いどころのない結末でした。

 

 

ゲームでズルするひとはどこにもいるものですが、

ここでの「航海記録の捏造」は絶対にやってはいけないこと。

もっと早くにバレてくれればここまで引っ張らなかったのに、

当時はGPSとか、まだなかったんでしょうかね?

ドナルドは一度密輸を疑われてどこかの警察に連れていかれて

完璧に岸に上がってるんですが、それもバレないのがよくわからない。

 

そもそもドナルドは人をだますような詐欺師体質ではないし、

家族やスポンサーの期待に応えようとするまじめな男なんですね。

本当に気持ちがよくわかるし、

だから、どんなに苦しかったかと思うと、やりきれないです。

誰も相談する相手もなく、海の上でひとりきりで思い詰めていたら、精神を病んでしまうはずです。

 

彼は(捏造じゃなくて本当の心情をつづった)日記もつけていて、

これも海に投げ捨ててしまえばいいものを、船に残したから、記録捏造の証拠となり、

一方で、彼が何を考え何におびえ何に苦しんでいたかも、すべて残されたわけです。

 

英雄の帰りを待つはずの家族は一転「嘘つきの負け犬の家族」となってしまいました。

今までさんざん持ち上げていたマスコミは大挙してドナルドの妻を取り囲みます。

「夫は自ら命を絶ったかもしれないけど、背中を押したのはあなたたちよ」と言い放つ妻。

 

その後の家族のたどる道を考えると胸が痛みますが、

ただひとりゴールしたジョンストンが賞金を遺族に差し出したことを聞いて、少しはほっとしました。

 

この話自体は一般的な話じゃないですが、

これに近いことは日常よく起こるような気がします。

 

「よく考えたら嘘だとわかりそうなことを見破れずに、周囲が盛り上がって

本人が嘘を撤回することもできない状態に追い詰めてしまう」

それに近いこと(具体的には書かないけれど)私にも経験あります。

 

そもそもはドナルドが身の程知らずの挑戦をしたこと、

そして記録を捏造したのは一線をこえてしまっているけれど、

命まで失わなければならないほどの重罪だったのだろうか?と悩みます。

 

「そもそもは最初に嘘をついたのが悪い」

ということばを、聞いたことあると思ったら、あの吉本闇営業問題でしたね。

(ここから、激しく脱線します)

 

反社会的組織のイベントに出演している写真が週刊誌に抜かれ、

ただ「ギャラはもらっていない」といった本人のことばを信じて、吉本興業はスルーしたものの、

あとから「実はもらっていた」といわれ、契約を解除した、という、アレです。

 

「吉本が責められてるけど、そもそもは最初に嘘ついたのが悪い」とみんな口をそろえますけど、

進行台本もあるちゃんとしたイベントで、チャリティでもないのに、大物芸人がお金もらってなかったら

(よっぽどの親密な関係なわけで)そっちのほうが問題だと、素人の私でも思うのに

吉本興業がこんな嘘を見抜けないわけがないじゃないですか!

 

たとえば、古物商は偽物つかまされても被害者になれないですよね。

プロは「嘘を見抜く」ことが求められているのです。

 

ほんとは嘘っぽいと思いながらも、吉本はその確認を怠たって責任逃れし、

メディアは情報を垂れ流し

「最初についた嘘が悪い」とどこまでも追い込まれていくのは、正直納得いかないです。

 

このヨットレースもですが、不確実な情報を(おかしいなと思いつつ)垂れ流しして盛り上がり、

あとで嘘だとわかって、「夢を与えられたと思ったら、とんだ嘘つきだった」と突き落とすのは

今も昔もマスコミのやり口ですね。

 

嘘だとわかっても「やさしい心で受け流す」のではなく

「最初にきっちり訂正させる」のが真のやさしさで、

「人の嘘や間違った情報は、小さいうちに摘み取ることが絶対に大事」だと・・・

なんか映画からそれてしまいましたが、

これからの私の人生はそれでいこうと思いました。