映画「ガラスの城の約束」 令和元年6月14日公開 ★★★★★

原作本 「ガラスの城の子どもたち」 ジャネット・ウォールズ 河出書房新社

(英語 字幕翻訳 稲田嵯裕里)

 

 

 

ニューヨーク・マガジンの人気コラムニスト、ジャネット(ブリー・ラーソン)はある日

ホームレス同然の父レックス(ウディ・ハレルソン)と再会する。

両親は彼女が幼いころ、定職につかず夢を追い求めて気の向くままに生活していて、

仕事がうまくいかない父は酒に溺れ、家で暴れた。

成長したジャネットは大学進学を機にニューヨークへ旅立ち、両親と関わらないようにしようと考えていた。

                                                        (シネマ・トゥデイ)

 

人気コラムニストのジャネットは、ハンサムな金融アナリストのフィアンセたちと会食中。

「ご出身は?」と聞かれた彼女は

「ヴァージニアの森で育ちました」

「母は画家で、父は石炭を効率よく燃やす技術を開発したエンジニア」と答えます。

 

帰り道、彼女の乗ったタクシーの窓をたたく薄汚れたホームレスの男、

それがジャネットの父レックスで、そばにはゴミ漁りをする母ローズマリーの姿もありました。

 

今はニューヨークでハイソな生活をおくるジャネットですが、

実は彼女はホームレスの両親のもとで悲惨な子ども時代をおくっていたのでした。

 

父のレックスは定職につかず、その日暮らしの生活で、妻のローズマリーと

4人の子どもたち、(上からローリー、ジャネット、ブライアン、モーリーン)と暮らしていました。

「汚染された世界に住む金持ちよりも、きれいな星をながめられる生活のほうが幸せ」

といわれるともっともらしく聞こえますが、とにかく食べるものにも事欠く赤貧の生活。

 

ある日、母にいわれて料理をしていた8歳のジャネットの服に火が燃え移り、

大やけどをした彼女は、病院に運ばれ、皮膚移植の手術を受けます。

「ちゃんとご飯が食べられて入院は楽しい」とジャネットはゴキゲン。

お見舞いにきた弟は頭が血まみれで、すぐ治療を受けるようにいっても

「石頭だから大丈夫、床が血まみれになって、そっちのほうが大損害だ」

「家にふたりも病院患者はいらない」

と平気な家族に医者たちはドン引きです。

 

退院が近づいても、治療費の払えない彼らは、当然のように「作戦」を実行することに、

まず弟のブライアンが痛い痛いと大騒ぎして看護婦たちの注意をひきつけ、

その間にジャネットを迎えに行きます。

「ずらかるぞ!」

子どもたちもはじめてではないようで、手慣れたもので、

まんまと入院費を踏み倒して逃げおおせることができました。

 

「病院でちゃんと学校に行くようにいわれた」とジャネットがいうと

「経験から学べ、それ以外は嘘っぱちだ」と父。

「この傷がおまえを強くする」

「皮膚を呼吸させろ」と、清潔にまかれた包帯も取り去ってしまいます。

 

家をもたない彼らは、空き家を不法占拠して生活し、

つかまりそうになると借金を踏み倒して夜逃げ・・・

というのを繰り返していたのですが、それも限界となり、

レックスの生まれ故郷のバージニア州ウェルチで暮らすことになります。

ここにはレックスの両親とスタンリーおじさんが住んでいるのですが、

祖母のアーマは父に輪をかけた独善的な人間で、子供たちは「魔女」と呼びます。

 

父の夢は「どこからでも星のみられるガラスの家をつくること」ですが、

常にアル中状態なので、仕事も長続きせず、結局ボロ家から抜け出せません。

母も、特に絵の才能があるわけでもなく、売れるわけでもなく、

ただ毎日、家事もせずに書き続けています。

 

子どもたちも幼いころは、わけもわからず楽し気にすごしていて、

むしろ母の方が、子どもたちのためにはこの父親は有害だと

子どもたちを連れて家を出ていこうとしたりもするんですが、

結局、夫に依存しているから、なかなかその決断ができないんですね。

 

ある日、両親がケンカして父が母を窓から落そうとしているのを

子どもたちが見つけて、全力で止めにかかるんですが、

当の両親はキャッキャッいって、いちゃついているのを見て、全員あきれてしまい、

このあたりから、自分たちの親はイカレてる、なんとかしなくては、と

子どもたちで話し合うようになるのです。

 

賢いジャネットは「チビヤギ」といわれて一番父に気に入られていて

説得できるのは自分しかいない、と覚悟を決め、

「パパはお酒を飲むのを忘れられる?」

「お金を食費にまわしてほしいの」

「パパは誰よりも強いからやめられるでしょ?」

といって、酒断ちをさせたりもしますが、結局は元に戻ってしまい、

ついには、アルバイトで必死にためた子どもたちの貯金まで盗まれ

すべて父の酒代に消えてしまいます。

ガラスの城を立てるためにみんなで掘った穴も、ごみの集積所になってしまいました。

 

そんなひどい親に育てられても、子どもたちはそれぞれに自立してちゃんとした社会人になるのですが、

そのうち、父がもうすぐ死ぬと知らせがはいります。

ジャネットもさんざん迷った挙句、大事な会食を中座して、父のもとに向かいます。

 

「私はパパ似でよかった」

「ガラスの城は建たなかったけど夢をみられた」

「俺の人生は後悔だらけだが、お前は強くて賢くて美しい」

 

父を送ったあと、4人の子どもたちは、

「お金がなかったからクリスマスプレゼントは星だったよね」

「ローリーはペテルギウスで、ブライアンはリゲルだった」

「おもちゃはこわれるが、星は永遠だといわれた」

なんて話をしながら

「パパとの生活は退屈しなかったわ」

 

そしてエンドロールに 実在するこの一家の写真が映し出されます。

本編中には、年代がまったく出てこなかったのですが、

レックスは1934年生まれで、1994年に60歳で亡くなった、とありました。

 

たびたび時間軸が動くので、あらすじを書きづらいのですが、だいたいこんな話です。

(観るまえに原作をよんでしまったので、本編になかったことを書いてしまったかも?ですが)

 

 

今は有名人となった俳優やタレントが実は子どものころは貧しくて、

雑草食べてたとか、公園で寝てたとかの「貧乏ネタ」を最近よく耳にします。

ジャネットの家族は、それをはるかに超越していているんですが、

それでも家族の深い絆と。ちょっと風変わりな愛情表現だけど、とりあえず愛は存在し

「これもアリかな?」と思わせてしまうのは、

去年の映画

「万引き家族」に近いかも。

 

物質社会や学校教育を否定して、自然のなかに生きることや経験を重視するのは

「はじまりの旅」のようで、最初のほうでは、

レックス(ウディ・ハレルソン)がヴィゴ・モーテンセンに見えたのですが

レックスは都合のいい時に「オレ流」を押し付け、口先だけなんですよね。

30歳くらいから60歳までをウディが一人で演じ、時間軸もたびたび変わるので、

子どもたちが幼いころはそれが気にならなかったのか、

(最初はまともだったけど)次第にそうなったのか??わかりづらかったですが・・・

 

ジャネット役も

①子役A ②子役B ③すっぴんのブリー・ラーソン(少女時代)④フルメイクのブリー・ラーソン(大人)

と、3人が演じるのですが、

④からいろんな時代にフラッシュバックするので、ちょっと混乱します。

 

ラストで父が1934年生まれということから、子どもたちの年齢とかだいたい推測できましたが、

実は、私も同じような時期に子ども時代を送ったので

今みたいに他人の視線を気にしつつの子育てではなく、

「その家のルール」がわりと尊重されていたりとか、

家の中での父親の立ち位置とか、理解できる部分はありました。

 

ただ、レックスのやり方を認めるわけではなく、

夫に依存して行動が起こせないローズマリーも含めて、時代を考慮してもやっぱり

これはDVだし、ネグレクトですよね。

 

成功者した娘のところに暴力的なホームレスの親がやってくるなんて、

松本清張ミステリーだったら殺人事件に発展しそうですが、

ジャネットはちゃんと婚約者には両親のことを正直に話していて、

「恥じていない」時点で、尊敬ですよ。


 

エンドクレジットでは

「傷ついても愛し方をさぐるすべての家族におくる」

とありました。

個人的には、私も独善的で強引な父親を嫌っていたのに、

自分の中にもしっかりその性格は引き継がれていて、父の亡くなった今、嫌いだけど愛おしくもあります。

アルマ→レックス→ジャネットと伝わる性格も、宿命的なもので、

これとどう向き合い、どう受け入れていくか・・・・

こういうのって、多かれ少なかれ、だれにもあるものじゃないかな?

 

 

主演のブリー・ラーソンは、今やアベンジャーズ女優になっちゃってますが、

彼女が注目されたのは養護施設で働く女性を演じた「ショート・ターム」

それから監禁状態のなかで子供を産んで育てる母親を演じた「ルーム」でオスカー女優になりました。

ところが「フリーファイアー」でアクションやったあたりから、なんか、そっち系の人になっちゃってますが、

やっぱり本作みたいなヒロイン役が彼女にぴったりだと思うのは、私だけではないと思います。

(ただ、これ、2017年の作品なので、アクションを封印して戻ったわけじゃないんですけどね)

 

ウディ・ハレルソンはまさに適役。

ナオミ・ワッツは美人過ぎて、ホームレス女には見えなかったんですが、

 

 

実はジャネットの両親はかなりの美男美女のカップル。

これは原作本のただ1枚の写真ですが、エンドロールには

もっとたくさんの画像が紹介されて、そこそこ幸せそうに生きてる

今の母親のインタビューもあったりで、なんかいい話にまとまってましたけど

これってどうなんだろう?

 

兄弟が集まって

「チーターを触らされた時は焦った」とか

「ハンガーとゴムバンドで歯列矯正器を手作りしたよね」とか

思い出話に花を咲かせるのはいいけれど、

彼らの体験した子ども時代は、ぜったい次の世代に継承してはいけないと思います。

 

父は社会の規範やルールに捉われず「自分らしく生きる幸せ」を教えてくれた・・・

というのは、あくまでもひとつの面であって、レックスのやり方はけっして許されることではありません。

映画の感想は人それぞれでいいとは思いますが、

彼に共感して「いい話」「感動作」とか・・・・そういうのはダメです。

 

「ガラスの城 The Glass Castle」という単語は、原作の原題にもなっており

父の「いつでも星をながめていたい」という思い付きだけで、

よしんばガラスの城が完成したとしても、そんな家で幸せにはなれそうもありません。

「ガラスの城」ということばにはそれ以上の深い意味がありそうですが、

もう一度、じっくり考えてみよう・・・

 

 (シネマカリテのディスプレイ)