映画「運命は踊る」 平成30年9月29日公開 ★★★★☆
(ヘブライ語 字幕翻訳 大西公子)
ミハエル(リオル・アシュケナージ)とダフナ(サラ・アドラー)の夫婦は、家を訪ねてきた軍の役人から、
息子のヨナタンが戦死したと知らされる。
ダフナは悲しみと衝撃で気を失い、ミハエルはショックを隠しつつも役人の対応に不満を募らせる。
やがて戦死が間違いだったことが判明しダフナは胸をなで下ろすが、
ミハエルは憤慨して役人に息子を帰すように迫る。
一方のヨナタンは、戦場の検問所で仲間の兵士と怠惰な時間を過ごしていた。 (シネマ・トゥデイ)
人生の皮肉な運命を描いた3幕の不条理劇。
徴兵制のあるイスラエルの話なので私たち日本人からすると「日常」とは言えないですが。
室内の不自然な幾何学模様とか、不自然なカメラアングルとか、気になるポイントはたくさんあって
いちいち「意味ありげ」で、すべてが何かの暗喩になっているようではあるのですが
私なんかには難しいことだらけ。
まずは、おおよその流れを書いておきます。
(第一幕)
ヨナタンの両親の住むテルアビブのアパート。
その部屋を兵士が訪れ、息子が戦死したことが告げられます、
その場で失神した母ダフナは注射を打たれ、運ばれていきますが、
父ミハエルは茫然自失となり、たちすくむだけ、
軍の担当者は淡々と葬儀の段取りを説明し、
ラビが遺族としての心の持ち方を説明し、
医者は1時間ごとに必ず水を飲むようにいい、タイマーが与えられます。
どのような状況で戦死したのかの説明は全くなく、
息子の遺体にはいつ会えるのか?早く会わせろ!とミハエルは軍に迫ります。
しばらくすると、
「戦死したのは同姓同名の別人で、息子さんは無事です」と訂正され、
ダフナは大喜びしますが、ミハエルはさらに激怒。
「すぐ息子を連れ戻せ」といいはり、埒が明かないと知ると
ヨナタンをとりもどすよう軍の有力者に働きかけます。
(第二幕)
仲間の兵士数名と、国境地警備にあたるヨナタン。
たまに人が通ると、IDを確認して、通行許可をだすものの
戦闘地帯ではなく、らくだがゆっくりと横切るような場所です。
コンテナが日増しに傾いてきてはいるものの、あまり気にする様子もなく
ダンスを踊ったり、絵を描いたり、のんびりとしたもの。
ヨナタンは、仲間たちに父親の「ベッドタイムストーリー」を聞かせます。
ホロコーストを生き延びた祖父(ヨナタンの曽祖父)の残した聖書を
母(ヨナタンの祖母)は家宝にして大事に飾っていたのに
プレイボーイのピンナップガールに恋したミハエル(ヨナタンの父)は、
それがどうしても欲しくて、大事な聖書を売ってしまった。
その雑誌は友だちの間で回覧されたが、戻ってきたときには
ベタベタになってページがくっついてしまった・・・
なんて、ホントともウソともとれるような話をしているのですが、
ある日、事件が起こります。
いつものように検問をしていると、楽し気な男女の車がやってきます。
IDには何の問題もなかったのですが、車のドアを閉める時に、
飲んでいたドリンクの空き缶が転がってきます。
それをみた仲間が「手榴弾だ」とさけび、それを聞いたヨナタンが機関銃で銃殺してしまったのです。
罪のない一般人を殺してしまっても、上官は問題にせず、
大きな穴を掘って、車ごと埋めてしまいます。
(第三幕)
ミハエルが別居(離婚?)しているダフナのところにやってきます。
ふたりの会話から、ヨナタンが死んだことがわかります。
「あなたはいつも頼れる男を演出していたけれど、それは弱さを隠すため。
あなたは弱くて秘密を隠している。
みんなそれに気づいていたのよ」
ミハエルは何も言い返すことができません。
「昔戦場で、あとからきた車に道を譲ったら、その車が地雷を踏んで爆破されてしまった。
譲らなければ自分が死ぬ運命だった。
叫び声が響き、自分は早く死んでほしいと願った。」と告白します。
ヨナタンの遺品のマリファナを紙で巻いて吸うふたりには笑顔が・・・
息子が最後に書いた絵は、ブルドーザーが車を持ち上げる絵で、
(この絵の意味も知らぬまま)ブルドーザーはミハエルのことか、ダフナのことか・・・
なんて、話しています。
そしてラスト。
急にヨナタンに帰還命令が出て、意味もわからぬまま、車に乗り込み帰路につきます。
途中、道の真ん中にいたラクダをよけきれずに、車は崖から落ちてしまいます。
ヨナタンの死の真相が明らかにされたところでTHE END なんですが、
ああ、ラクダだったんですね。
事故には必ず「原因」がありますが、
それを引き起こすのは、なにか理由があるのか?
たんなる偶然なのか?運命なのか?
ものすごく気にはなるけれど、考えてもしかたのないこと。
「神の思し召し」と逃げるしかないです。
ミハエルの「罪」はここに出てきただけでもけっこうな量で、
そういうことなら、愛する息子を失ったのは当然のことなのか?
息子の代わりに別人が死んでいるのにそれを悼むこともなく、
息子が生きているのを感謝することもなく、軍の間違いを責めて
無理を言って帰還させようと欲張ったから罰が当たった。
ポルノ雑誌のためにホロコーストを生き延びた聖書を売ってしまったから
罰が当たった。
懐いている犬をいつも蹴飛ばして傷つけているから罰が当たった。
地雷を踏んで死ぬ運命だったのに、同僚を身代わりにしてしまったから
いつかはこの見返りがくるはず、とか・・・・
上質で難解でアートな作品。
いかにも大衆受けはしなさそうですが、
ヨナタンの書くイラスト、というかグラフィックのクオリティの高さ、
兵士の踊るマンボの見事さ
砂漠の給水塔とかデブの女性とか「バグダッドカフェ」を思わせる検問所のビジュアルとか
ちゃんと目でも楽しませてくれます。
あ、それから「運命は踊る」という邦題。
これ、まれにみるヒットな邦題だと思いました。