映画「ブラック・クランズマン」 平成31年3月22日公開 ★★★☆☆

原作本「ブラック・クランズマン」 ロン・ストールワース パルコ出版

(英語 字幕翻訳 風間綾平)

 

 

アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署に、

初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、

捜査のために電話で白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)のメンバー募集に応募する。

黒人であることを隠して差別発言をまくし立てた彼は、入会のための面接に進み、

彼の代わりに白人の同僚刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライヴァー)が面接に向かう。(シネマ・トゥデイ)

 

アフロヘアのバリバリの黒人のロンは、

「警察官募集 マイノリティ歓迎」の張り紙をみて、コロラドスプリングス警察を訪れます。

面接官からは、

「ここには黒人警官がひとりもいないから、君は嫌な思いをするかも」

「ニガーと呼ばれても平気か?」

「私たちは君を支援するが、重荷は君ひとりで負え」といわれ、

ともかく、この警察初の黒人警官として採用されたロン。

最初は内勤で、資料室に配属され、いわれたファイルを渡す作業をしていたんですが、

窓口にやってくる同僚警官たちがいちいち失礼なやつばっかりで、

黒人のことを「カエル」と言ってくるのにはうんざり。(トードっていってたから、ヒキガエルのことですね)

それに、(こんな図書館司書みたいな仕事じゃなくて)捜査をしたい!

と上司にいうと、「カーマイケルの演説会の潜入捜査」の命令がでます。

 

「彼の影響力は大きくて、国の治安の一大脅威になっている」

「街の善良な黒人たちを刺激しやしないか、

演説会の聴衆の反応をモニターせよ」というのがミッションで、

ロンは、服の下にモニター用のピンマイクを付けて演説会に向かいます。

 

「黒人であることから逃げるな」

「黒い肌も厚い唇も幅広い鼻も縮れた髪も、すべて美しいのだ」

「黒人は能力が低いといわれつづけてきたために、

我々は自分たちを卑下する習慣がついてしまっている」

 

カーマイケルこと、クワメ・トゥーレの話は静かに始まりますが、

どんどん観衆たちの心をつかんでいきます。

 

「レイシストの警官に道端で撃たれる黒人たちを見過ごせない」

「シスターとブラザーたち! 自分がやらなくて誰がやる?!」

「すべての人々にパワーを!!」

最後には全員で唱和して、まあ、会場は大変な盛り上がりです。

 

ロンは警官の身分を隠して、コロラド大学の学生自治会のトップの女子学生、パトリスと仲良くなります。

単にナンパしただけなのか、潜入捜査員としての仕事の一環なのか不明ですが、

後者なら、けっこう有能な捜査員ですね。

 

彼の仕事は署内でも評価され、晴れて情報部に転属が決まります。

やる気満々のロンは、あのKKKのコロラドスプリング支部の広告を新聞でみつけ、

「興味があるから、資料を読みたい」と電話をかけます。

 

「オレはラテンもユダヤも中国も・・・アーリア人の血が流れてない奴は嫌い、

特にクーン(アライグマ→黒人)はだいっきらいだ!」

 

電話の向こうの支部長のウォルターは大喜びで

「君のような人を待っていた、ぜひ会いたい!」と。

ロンは「ロン・ストールワース」と本名を名乗り、会う約束までしてしまいます。

「白人英語と黒人英語のバイリンガル」を自称するロンは電話でしゃべるのには自信があって

たしかに、ウォルターもロンのことを白人と信じ切っているようですし、

ロン・ストールワースという名前も、どうやら白人っぽい響きがあるみたいです。

 

驚いたのは署員たちのほう。

黒人がKKKなんかに行ったら大変なことになるので、大慌てです。

「オレは電話担当で、実際には白人のロン・ストールワース」が行けば問題ないと。

で、その役を仰せつかったのは、同僚のフリップ。

ロンの声をまねたり、個人情報を覚えこんだり、大変です。

 

潜入捜査だということを隠すだけでなく、

ロンという実在の他人(しかも黒人)になりすまし、

しかも、フリップは見た目は白人だけれど、ユダヤ系なので、それがバレても大変なことになります。

 

そしてフリップはロンになりきって、KKKにでかけて、入会の意思を伝えるのですが、

完全に信じ切っているウォルターに対し、

みるからにガチガチのレイシストのフェリックスは、フィリップがユダヤ人じゃないかと疑っており、

ホロコーストはでっちあげだとか、ユダヤ人には聞くに堪えない話をしたうえで、

割礼してないか見せろとか、うそ発見器にかける、とか、ねちねちフリップをいたぶります。

 

電話帳でロンの自宅をつきとめられたり、

昔フリップにつかまった男に「なりすまし」がバレて、

「ロンは偽名で、こいつは刑事だ」と言われてしまったり・・・・

 

この時点でもう完全にアウトの感じですが、このあともずっと無理無理な展開がつづきます。

犯行現場を押さえ、取り押さえられそうになったところに、パトカーがやってきて

「よかった!応援が来た!」と思ったとたん、白人警官たちは ロンのほうを迷わず逮捕しちゃったり、

ホントに笑えない展開です。

 

実話だと聞いていたので、けっこうキツイですが、コメディと思えば見られるかな?

ともかく、KKKの犯罪行為の証拠を集め、テロ行為を未然に防ぐべく、奮闘するロンと白い方のロン・・・・

という話です。

 

 

 

原作は、ロン・ストールワース本人の回顧録で、この本からして、けっこうなコメディモードです。

ただ、フリップのモデルと思われるチャックという刑事はユダヤ人ではないから

潜入捜査に映画ほどは支障がなかったと思われますが、

後半「KKKの代表のボディガードをするようにとロンが上司から命じられる」

という部分はさすがに嘘でしょ??と思っていたら、これ、実話のようでした。

 

ほかにも、設定年代とか、いくつか原作と違う箇所もありましたが、

そんなことはあんまり重要ではありません。

 

特筆すべきは、

この「白人と黒人の刑事、ふたりでひとりのドタバタ潜入捜査の巻」のコメディ映画の前後に

しっかり挿入された、「監督がいちばん伝えたかったこと」です。

 

冒頭は、あの「風と共に去りぬ」の一場面で、

メラニーが産気づいたので、スカーレットが駅までミード先生を呼びに行くと

南北戦争で負傷したたくさんの兵隊の治療で、先生はそれどころじゃない・・・というところ。

スワニー川♪の曲の流れる中、

おびただしい数の南軍の負傷兵が俯瞰で映しだされる有名なシーンです。

 

 

「風と共に去りぬ」は不朽の名作映画ですが、

黒人目線でみると、たしかに、ずいぶんと差別的な描写がいくつもありましたね。

 

次にモノクロの古い映画(私は未見ですが「国民の創生」という映画だそうです)をバックに

ボーリガード博士という人物が、人種隔離を違憲としたブラウン判決に猛抗議しています。

 

「人種混淆はなげかわしい状態で、

    アメリカは雑種国に成り下がろうとしている」

「うそつきの猿と白人プロテスタントが平等なんてありえない」

「陰で糸をひいているのはユダヤ人だ」

とか、もう、言いたい放題で、白人至上主義団体KKKの言い草とも共通しています。

 

このあと、本編が始まるのですが、

本編のなかでも、その「国民の創生」の映画を見ながら、

差別用語連呼で好き勝手に盛り上がるKKKのメンバーたちの姿がありました。

 

これに対して黒人側では

クワメ・トゥーレの見事な説得力のある演説とか

「ジェシー・ワシントンリンチ事件」という黒人迫害の凄惨な事件の生き証人の老人の話を

静かに聞く黒人の若者たちの姿が、好意的に描かれます。

 

そしてラストでは、人種問題に関連した最近の事件のニュース映像が、けっこう長い時間映し出され、

ロンの時代から40年経っても、ちっともこの国は成長していない旨の主張が示され

それは今のトランプ政権への批判と受け取りました。

 

本編のなかで、KKKの最高幹部のデュークが、なんども「アメリカファースト!」と叫ぶところで

充分トランプをおちょくってるのは伝わるのだから

なんか最後の実写のところは、「ダメ押し」みたいに思えましたけどね。

 

結局、見せたかったのは最初と最後のブブンで、

あとのコメディドラマのところは客寄せのためにサービスで入れときました・・・・

って感じかな?って思えてしまいましたよ。

 

あからさまな政治批判は劇場の外でやってもらって、

映画は作品として完成度の高いのを作って欲しいです。

一応ちゃんとお金を払って映画館に行って観てるんですからね!

こういう人に「グリーンブック」の批判をされたくないな。

 

ロン役のジョン・デヴィッド・ワシントン(デンゼル・ワシントンの息子)と

白い方のロン役のアダム・ドライバーの「二人でひとり」のドラマ部分は

とっても面白いので、(映画は最後までみるのが鉄則ではありますが)

私のように不愉快な気持ちになりたくなかったら、

最後のニュース映像(エンドロールではなかったと思います)が流れたら

とっとと席を立って帰ってしまうのが良いかも、ですよ。