映画「ハンターキラー 潜航せよ」 平成31年4月12日公開 ★★★★☆

原作本「ハンターキラー 潜航せよ」 ジョージ・ウォーレス ドン・キース  早川書房

(英語・ロシア語 字幕翻訳 林完治)

 

 

ジョー・グラス(ジェラルド・バトラー)が艦長を務めるアメリカ海軍の攻撃型原子力潜水艦ハンターキラーに、

ロシア近海で行方不明になった同海軍原潜の捜索命令が下る。

やがてハンターキラーは、沈没したロシア海軍の原潜を発見し、生存していた艦長を捕虜として拘束する。

さらに、ロシアで極秘偵察任務にあたるネイビーシールズが、世界の命運を左右する巨大な陰謀をつかむ。

それを受けてハンターキラーは、敵だらけのロシア海域に潜航する。           (シネマ・トゥデイ)

 

まっくらな闇を航行する潜水艦・・・鋼鉄の密閉空間で音だけを頼りに敵と戦う・・・

ってイメージの予告編だったので、極度の閉所恐怖症の私にはしんどい作品かと思ったら

とんでもない!

潜水艦パートは半分以下で、ひんぱんに場面が切り替わり、

米軍の上層部がすったもんだで口論してたり、ネイビーシールズの特殊部隊がヒーロー的に活躍したり

アメリカ人とロシア人が敵味方を超えて理解しあったり、なんかとにかく、大判振る舞いのてんこ盛り。

それを、林完治さんのテンポのいい字幕でつないで、それはもう、大満足!でした。

 

で、その場でブログを書けばよかったんですが、原作で補完しようと思って読み始めたら、

これが映画よりもはるかに込み入っていて、登場人物も違うし、

同一人物とおもわれるのも名前が違っていたりして、混乱し、ブログ更新が1か月も遅れてしまいました。

 

 

とにかく、登場人物の一覧表だけでも6ページもあって、

「カラマーゾフの兄弟かっ!!」って感じですよ。

軍や政府関係者だけじゃなくて、ロシアマフィアとか、証券取引委員会とか、情報処理会社とか

さらにパートが増えて、むしろこっちの目線で描かれるパートが多いのです。

もしかして(私が気づかなかっただけで)そういう人たちも出てたっけ??

と思い始めたら、もう、わけがわからなくなってしまいました。

 

1か月たってもまだ混乱してますが、ざっくりとストーリーを書いておきます。(もちろん映画の方です)

 

 

ロシアのコラ半島沖 バレンツ海。

110名の乗員を乗せてアメリカの原子力潜水艦タンパベイが消息を絶ちます。

その捜索のために休暇中だったジョー・グラスが呼び寄せられ、極秘任務が告げられます。

 

彼の率いる攻撃型原潜(ハンターキラー)アーカンソーは、

冷たい海の底で爆破されたタンパベイの残骸と多くの遺体を発見、

そして氷山の下に隠れていたロシア原潜から攻撃を受け、それに応戦し、撃沈させます。

それとは別にもう1隻のロシアの潜水艦が沈んでおり、生存者が助けを求めていることに気づきますが、

それは外から攻撃を受けて沈んだのではなく、内側から爆破されていたのです。

 

「唯一の手掛かりは奴らだ、何かを知っているにちがいない」

副長たちの反対を押し切って、グラス艦長は、かれらを救出することを決めます。

 

一方、ロシアの動きを警戒していたペンタゴンのフィスクやNSAの分析官ジェインたちは

極秘に動ける特殊部隊をポヤルヌイ海軍基地に送り込んでいました。

 

ビル・ビーマン率いるシールズたちは、身元を示すものはすべて残し

「自分たちはいなかったもの」としてパラシュートで降下して基地を目指します。

ドローンを飛ばしてそのライブ映像を本土に送ることに成功するのですが

そこには信じられないものが映っていました。

基地を訪れていたロシアのザカリン大統領が拘束され、

側近や護衛たちが次々に狙撃され海に落とされていたのです。

 

これはデュロフ防衛大臣のしくんだクーデターで、

タンパベイが沈められたのもこれに関連していることが疑われるのですが、

すぐにも戦争準備をはじめようという、統合参謀本部議長のドネガン。

それに対し、

ロシア内部の問題なのだから、ザカリン大統領を救出してクーデターを収めればよいとする

戦争回避派のフィスクの意見を大統領も支持して、

シールズと基地の近海にいるグラス率いるアーカンソーに大統領救出の任務が任されることになります。

 

とはいっても、わずか4名のシールズたちが、警備の固い基地に潜入して

よその国の大統領を救い出すことができるのか?

そして、アメリカの原潜が、センサーや地雷原をかいくぐって基地に近づき、

大統領を拾い上げて逃げおおせることが出来るのか??

・・・・・っていう話です。

 

①軍の上層部がドローンから配信されるライブ映像を見ながら

「戦争だ」「いやちょっと待て」ともめるペンタゴンのパート

②基地の司令部に生身の身体で乗り込んで、大統領を救おうとするシールズのパート

③ロシアの領海に潜入して、大統領とシールズを回収しようとするハンターキラーのパート

 

この3つが同時進行し、頻繁に切り替わるスリリングな展開です。

 

①は、「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」のような、

   お偉いさんたちがライブ配信見て口論するやつですね。

②は、現実的にはかなり無茶な感じで、まさに「ミッション・インポッシブル」です。

③は、あえていえば「空母いぶき」かな?

 

そんな感じで、3本分の映画をみたような気にさせられます。

 

①では、すぐにも戦争をしたがるドネガン大将(ゲイリー・オールドマン)が

戦争回避派のフィスクたちに最後には説得されるところ

②では、最初足手まといだった新人のマルティネリが、最後には目覚ましく活躍してくれるところ

③では、敵国の潜水艦の艦長との信頼感とか、

誰もが胸熱くなれるシーンが入れられていて、エンタメ映画としては上出来です。

 

③のところをもう少し詳しくいうと、

アメリカの船に命を助けてもらったアンドロポフ艦長(ミカエル・ニクヴィスト)でしたが

一応「捕虜扱い」だし、最初は英語もできないふりしてたんですが、

グラスと心通わせる中で、大統領救出への協力を承諾し、

地雷や音響センサーの位置を教え、海図には載っていない海溝壁の抜け穴を教えてくれたおかげで

基地に近づくことができました。

 

また、アーカンソーに照準を合わせていたロシア軍艦のデストロイヤーの乗組員は

すべてアンドロポフの教え子たちで、彼らは優秀だからけっして撃ちそこなうことはないと。

そして、通信機で船員ひとりひとりの名前を呼んで攻撃中止を命じると、

デストロイヤーの船員たちは(デュロフの手下の)艦長の攻撃命令をだれ一人として聞かず、

逆に、アーカンソーに向かって放たれたトマホークミサイルをひとつ残らず迎撃してくれた・・・

という胸熱な展開が最後に待っています。

 

 

2年前に病死が伝えられたミカエル・ニクヴィスト。

本作のアンドロポフ艦長が彼の最期の配役となりました。

このことだけでも、うるうるしてしまいます。

 

当初「ハンターキラー」というのは潜水艦の名前かと思っていたのですが、

これはハンター(探知)とキラー(目標破壊)の両方を1台でできる攻撃型原子力潜水艦のことです。

だから最初に沈められてしまったタンパベイもハンターキラーということでいいんですよね?

 

タイトルにするくらいだから、この原潜の最新鋭の機能がウリなのかと思ったらそうでもなく、

敵味方関係なしに交わされる男の友情、というか、侠気みたいなのが前面に出ています。

軍人は本来上官からの命令に絶対服従、というのが鉄則だと思うのですが、

それ以上のものが存在するんだ!ということです。

 

この話のなかで、「戦争をやりたくてたまんないエライ人」というのは、

アメリカとロシアにとりあえず一人ずつしか出てこないのに、

それでも「戦争回避」を貫くのはなかなかに大変なことなんですね。

 

あと、知りえた情報も「とりあえず極秘」にするのも鉄則なんですかね?

あのロシアのクーデター映像も(もし流出したら大スクープですが)

ペンタゴン内で納めず、公開してしまったほうがいい気がしたんだけど・・・

そんな単純な問題ではないのでしょうか。

 

日本は平成の時代には一度も戦争に巻き込まれずに済みましたが、

私たちの知らないところで、本当は間一髪で助かったこととかあったのかな?

なんて気になりました。

 

その辺のことは「空母いぶき」でまた考えたいと思います。