映画「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」 平成31年3月15日公開 ★★★★★

(英語 フランス語 字幕翻訳 牧野琴子)
 

 

8歳で夫のフランス王を亡くしたメアリー・スチュアート(シアーシャ・ローナン)は、

スコットランドに帰国して王位に就くが、

故郷はイングランド女王エリザベスI世(マーゴット・ロビー)の支配下にあった。

やがて、メアリーが自身のイングランド王位継承権を主張したことで両者の間に緊張が走る。

さらにそれぞれの宮廷で生じた内部抗争などにより、ふたりの女王の地位が揺らぐ。(シネマ・トゥデイ)

 

エリザベス一世と同時代に生きた、スコットランド女王メアリー・スチュアートのドラマです。

最初にいっておきますが、「メアリ」という名前の「クイーン」は同時代に何人もいるので

私たち日本人には非常にまぎわらしいです。

 

まず、エリザベス一世の宿敵ともいえる「メアリー一世」は腹違いの姉で、別名ブラッディ・メアリ。

エリザベスの前に王位についていましたが、

ドラマではたいてい残忍で醜いヒール役で登場します。

 

本作にでてくるメアリーはスコットランドの女王で、10代の時にはフランス王妃でもあった

メアリー・スチュアートのことです。

 

多分この二人が一番有名ですが、彼女の母親もメアリで、

メアリ・オブ・ギースと呼ばれますが、ジェームズ5世の王妃で、娘の幼少期には摂政もしていました。

 

それからヘンリー8世の妹もメアリーで、彼女はルイ12世と結婚したので、「クイーンメアリ」と呼ばれます。

 

王位とは関係ないですが、エリザベスの母アン・ブーリンの姉もメアリー。

彼女は「ブーリン家の姉妹」では実質のヒロインで、アンよりも先にヘンリー8世の寵愛を受けていたから、

もしかしたら、彼女のほうが王妃になってたかもしれません。

 

映画を観る前に、分かりやすい系図で関係を押さえておいた方が良いと思うのですが、

なかなかいいのが見つからず。

自分で書こうとおもったんですが、Excelで系図書くのって難しいんですね。

やむを得ず、昔書いた汚い手書きのを貼っておきます。汚くてすみません・・・

オレンジ色の下線が5人のメアリで、

本作のヒロインのメアリー・スチュアートは中央右のスコットランド女王です。

 

 

 

エリザベスの母アン・ブーリンは国王の正式な二番目の妻でしたが、

姦通罪とか近親相姦の罪で処刑されたため、エリザベスを「庶子」扱いする人も多く、

一方のメアリーの母は有力者で、兄ふたりが生まれてすぐに死んだため、

父のジェームズ5世の亡きあと、生後6日でスコットランド女王になり、その後フランス王妃にもなります。

 

ジェームズ5世の母はエリザベスの父のヘンリー8世の姉、

つまりメアリーはエリザベスの従兄弟の子どもということになります(年齢は9歳違い)

メアリーはスコットランド女王でありながら、イングランドの王位継承権ももつ、かなり由緒正しい家柄で、

カトリック教徒でもあったため、ローマ教皇の後ろ盾もあって

エリザベスにとっては、ほんとに要警戒の人物だったわけです。

あと、天然痘の後遺症で髪が抜け、あばたを隠すために白塗りという、残念なご面相のエリザベスに比べ

メアリーはかなりの美女だったというのも関係ありますかね?

 

私は世界史の勉強を全くしてこなかったため、スコットランド女王メアリーのことは

「エリザベス・ゴールデンエイジ」でサマンサ・モートン演じる「美人なほうのメアリー」で知ってる程度。

今回はじめてメアリー側からのドラマを見て、なんというか・・・

心が震えました。

 

この時代の歴史ものって、豪華な宮廷絵巻の眼福映像に加え、

下世話なスキャンダラスな愛憎劇で終わってしまうものが多いですが、

本作は、シアーシャ・ローナンがあまりにメアリーその人に思えてしまい、ドラマを忘れて

ドキュメンタリーを観ているかのような緊張感がありました。

 

 

冒頭からいきなり、メアリーの処刑シーン。

「エリザベスの命で斬首されたのは知ってて当然」ですけど、びっくり。

そして、次のシーンは26年遡って、

1561年、フランスから帰国した18歳のメアリーがホリールードハウス宮殿に着き

スコットランド女王として迎え入れられるところ。

メアリーには腹違いのマリ伯ジェームズ・スチュアートという兄がいて、留守を守っていたのですが、

彼は母親が正式な王妃でなかったので庶子扱い。位としてはメアリーより低かったようです。

 

メアリーにとっての問題は、兄をはじめ、政治顧問のメイトランドとか、ほぼほぼプロテスタントなこと。

なかでもプロテスタント長老派教会の創始者のジョン・ノックスは、なにかとメアリーに反目するのですが、

メアリー自身は、宗教で対立するつもりはなく、

「宗教の選択は個人の自由」と寛容なスタンスを貫くのですが、

それに対して「愚かな判断だ」と失礼なことしかいわないノックスを城から追放したことで、

さらに反感をかってしまいます。

 

若く美しいこのスコットランド女王には世界中から縁談話が殺到し、

エリザベスからも、(多分ホントは自分が結婚したい)幼馴染のロバート・ダドリーを提案してきますが、

そのすべてを断り、

メアリーが選んだのは、同じスチュアート家の血をひく、ヘンリー・スチュアート(ダーンリー卿)。

彼はなかなかのいい男で、詩を読んだり、女子の好きそうなモーションをかけてくるんですね。

                             (↑のタイトル画像みたいに、ちょっといい感じ)

しかも、傍系ではありますが、彼はヘンリー7世のひ孫で、イングランドの皇位継承権ももち、

なにより、数少ないカトリック教徒というのも、メアリーにとってはポイント高いです。

 

で、結婚して、めでたく妊娠するも、

そのとたんに王位を欲しがりはじめ、この男がどうにもならないクズだということがわかってきます。

見栄っ張りで権力に執着し、自分の価値のなさの自覚もなく威張りちらし、行政能力は皆無。

しかも、彼は男色家で、メアリーお気に入りのイタリア人音楽士リッチオと裸でいるところを

メアリーに見られてしまいます。

 

ダーンリー卿がゲイだというのはどこにも書いてないから、映画オリジナルだとは思いますが、

メアリーは自分を裏切ったリッチオにも寛大で、

「人の性は変えられない。彼に惹かれる気持ちわかるけど慎重にね」と優しいこと・・・

 

逆に反メアリー勢力は、リッチオを反撃の道具につかおうとしており、

「女王はイタリア人と不倫していて、お腹の子どもの父親はリッチオじゃないか」とデマを流し

夫のダーンリー卿もそれに乗っかって

臨月のメアリーの目の前でリッチオが惨殺されるという事件が起きます。

 

ジョン・ノックスは相変わらず、「女王は悪魔の化身」だと、

あることないこと 国民たちにフェイクニュースを流してるし

血のつながってる兄もメイトランドも自分を陥れようとしているし、

エリザベスは虎視眈々とこの国の情勢を監視しているし、

周りは敵だらけ。

唯一の慰みは、フランスから連れてきた次女たちとフランス語でおしゃべりすることくらいです。

 

やがて、メアリーはジェームズを無事出産。

出産後も夫との関係はあいかわずでしたが、

ある日、彼のいる屋敷が爆破され、夫は死んでしまいます。

メアリー自身も殺害に加担しているかのような説もありますが、

映画のなかでは彼女は無実。(むしろ本当は自分が狙われたじゃないかと思ってる)

 

メアリーは古くからの寵臣ボスウェル伯に保護され、

唯一、彼女を守ってくれる彼と、なんと3度目の結婚をしてしまうのです。

実は彼こそが事件の首謀者という説が有力なんですが、もうメアリーにとって、

誰を信じていいのかわからなくなってるのかな?

しかも、ボスウェル伯は新教徒だから、今まで味方だったカトリック教会からも見放され、

民衆も見限り、メアリーは絶体絶命です。

 

行き場のなくなったメアリーは永遠のライバル、エリザベスに助けを求め、

結局20年近く保護というか幽閉されるのですが、このあたりのことは語られず、

最初の処刑シーンへとなるわけです。

 

結局、最後にはエリザベスにも見捨てられて処刑されてしまうのですが

わが子ジェームズの「代母になってほしい」

「(エリザベスに子どもが生まれなければ)後継者にしてほしい」

という願いは結果的に聞き入れられ、

愛する息子はイングランド王とスコットランド王を兼ねることになり、

この血筋はいまの王室まで続いているのです・・・・・

 

 

 

一度目の結婚では相手が幼過ぎて子作りのレベルじゃなかったり、

良かれと思って選んだ再婚相手が究極のクズだったり、

ついに自暴自棄みたいな意味不明の三度目の結婚とか、

結婚運というか男運のなくて可愛そう・・・

文武両道で、美人で、高貴な生まれで、ああそれなのに、

近づいてくる男がみんな地位欲しさなんですよね。

そしてそれを一番わかっているのが彼女自身。

 

過去に観たエリザベスの映画にでてくるメアリーの人物像は

「運命に翻弄された悲劇の女王」というイメージだったんですが、

実は彼女は思ったことをすぐ実行できる行動力があって、

エリザベスよりもはるかに「手数が多い」というのは意外でした。

宗教でも性癖でも「他人に寛容」というのが、結局、命取りだったのかもしれません。

 

 

シアーシャ・ローナンもマーゴット・ロビーも、

女優が演じていることを忘れるほど、歴史上の人物になりきっていて、見ごたえありました。

シアーシャは、この年齢で、すでにもうケイト・ブランシェットを超えたのでは?

それなのに、本作は賞レースでは

「衣装デザイン賞」とか「メイクアップ賞」とかの評価しかないのはちょっと悲しいです。

 

そういえば、一つ気になったことが・・・

 

 

エリザベスを支える女官のトップの役職で、明らかに中国系の女性(ジェンマ・チャン)がいるんですけど

これってホント?

しかも役名は「ベス・オブ・ハードウィック」で、エリザベスより6歳年上の

1527年生まれの実在する女性で、もちろん中国人ではありません。

これって中国市場へのサービスだったら嫌だな。

彼女はメアリーの長年の幽閉生活を取り仕切っていたそうなので、

この映画では語られないときにも活躍したのですね。

 

彼女のことを調べていたら、ちょうどいい感じの系図を見つけたので貼っておきます。

 

 

 

実は◎をつけていた「女王陛下のお気に入り」がなかなか見られず、

TOHOシャンテでどちらを観ようか迷ったのですが、こちらを初日に観られて満足しています。