映画「運び屋」 平成31年3月8日公開 ★★★☆☆

(英語 字幕翻訳 松浦美奈)

 

 

90歳のアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は、家族を二の次にして仕事一筋に生きてきたが、

商売に失敗した果てに自宅を差し押さえられそうになる。

そのとき彼は、車で荷物を運ぶだけの仕事を持ち掛けられる。

それを引き受け、何の疑いも抱かずに積み荷を受け取っては運搬するアールだったが、

荷物の中身は麻薬だった。                                                      (シネマ・トゥデイ)

 

クリント・イーストウッドがスクリーンに戻ってきました。

主演は「人生の特等席」以来。

自身の監督作品に主演するのは「グラントリノ」以来、10年ぶりです。

 

最初のシーンは2005年イリノイ州ピオリア。

百合農家のアール・ストーンの作るデイリー・リリーは品評会では大人気。

娘アイリスの結婚式にも出席できず、

「父さんは仕事より家族ね」と、娘は呆れています。

 

12年後の2017年、アールの仕事はネット販売に潰され、農園は差し押さえられてしまいます。

妻も娘もアールには冷たいものの、孫娘のジニーはアールを慕ってくれ、

フィアンセのマイクにも紹介してくれたりするのですが、

そこであった若者が、アールの車に貼ってあるたくさんのエンブレムを見て

「走るだけで大金がもらえる仕事がある」

「慎重なベテランドライバーを探している」

と声をかけてきます。

 

「41州走って一度も違反はない。運転には自信がある」とアール。

いわれた場所に行くと、トランクをあけて荷物を詰め込み

「トランクの中身は見るな」

「携帯が鳴ったら指示に従え」

「この店を垂れ込むな」

と怪しげな臭いはしましたが、指示されたモーテルに車を止めて離れていると

荷物は回収され、グローブボックスに驚くほどの大金が入っていました。

(商品代金ではなく、アールへの報酬らしい)

 

アールがメールもできない年寄りで、

歌を歌ったりおやつを食べたり、緊張感のない運転にあきれるものの、

だからこそ怪しまれない「プロの運び屋」だと高評価で、なんども仕事をもちかけられ、

アールはどんどん金持ちになっていきます。

 

①新車購入

②滞納金を払って、農場の差し押さえを解く

③退役軍人クラブを25000ドルで買い戻す

 

一方、麻薬捜査ではNYでもワシントンでも手柄をあげている

凄腕のベイツ捜査官(ブラッドリー・クーパー)がシカゴにやってきます。

DEAの協力者に依頼しておとり捜査で情報収集するのですが、なかなか現場を押さえられず。

 

実はふたりはダイナーでニアミスしてるんですが、

仕事優先で家族がおそろかになってるベイツ捜査官に対し、

「記念日は女には大事だぞ」

なんてお説教するアール。

実はこのときすでにアールは、

自分が運んでるのがヤバい薬の現物だというのに気づいているんですが

まったくそれが顔にでないのは年の功ですね。

 

警察犬に気づかれそうになっても、とっさに痛み止めクリームの臭いでごまかしたり、

こういうのも若造にはなかなか出来ない機転です。

 

終焉は突然にやってきます。

一度に300kgものコカインを運んでいる最中に妻メアリーが重病で余命の短いことを知らされ、

昔のアールなら「仕事優先」でしたが、家族のところに戻ることを決断し

大量のコカインを乗せたまま、メアリーの家へ。

 

「(今までの自分は)家の中では役立たずだったから、

                        外で認められたかった」

「間違いだらけの人生だったけれど、

                   やっと家族が一番大切なのに気づいた」

というアールに、メアリーは

「あなたは最愛の人で最大の苦痛の元」

「あなたが来てくれて何より嬉しいの」

といって、笑顔でメアリーは亡くなり、葬儀が行われます。

 

そしてその葬儀後、麻薬捜査官と組織の両方から追われることになったアールですが

めでたく(?)逮捕され、収監。

刑務所のなかでも百合を育てるアールの姿がありました。

 

 

この映画の見どころは2つあって、

ひとつは、このありえない設定が「実話」だということ。

レオ・シャープという人物がアール・ストーンのモデルなんですが、

おどろくほどそのままの設定です →  WIKI

 

退役軍人の園芸家で、デジタル社会についていけずに廃業したり、

けっこう頑固なくせに気前が良かったり、

タコス野郎とかニグロとか、ことばの選択に問題あったり、

「コカインの運び屋」以外のプロフィールは

まさに「90歳のジイサンあるある」で、

来年90歳になる同年代のクリント・イーストウッドが楽し気に演じています。
 

 

もうひとつは、年齢だけでなく、クリント・イーストウッド本人といろいろ被っていて、

もしかして、家族への懺悔の映画では?と思わせること。

直近の主演作「人生の特等席」でも、彼はやっぱり家族を顧みない頑固ジイサンで

壊れてしまった娘ミッキー(エイミー・アダムズ)との関係を修復する話でしたが、

今回の娘アイリス役は実の娘のアリソン・イーストウッドが演じています。

彼女が3歳のときに両親は離婚したそうで、きっといい父親ではなかったんでしょうが、

なにもその「お詫び」を主演作でやらなくてもいいような気が、個人的にはしますけどね。

 

国民性として、(アメリカ人よりも)

「仕事優先で家族を疎かにする」夫に対して、日本人の妻たちはけっこう寛容なのかも。

今の若い人たちは違うかもしれないけれど、

多分昭和の初めごろの生まれのメアリーの世代だったら、

「あなたはしっかり仕事をしてね!

        家のことは私にまかせてください」

のスタンスの人がほとんどだと思いますよ。

「仕事だと嘘ついて、よその女に金を貢ぎ続けてた」というのならともかく、

女好きでもそこまで羽目をはずしてはいなさそうだし、

仕事で結婚式に遅れたくらいで

何十年も根にもつ、とか、ありえないんですけど・・・

 

私がメアリ―だったら、会いに来てくれたことよりも

夫の持ってくる大金の出所が心配で心配で

死ぬに死ねない感じだけどなあ~

 

ともかく、

「大きな代償を払って、やっと家族が大事だと気づいた」

というありきたりな着地点なのに、家族の側に全く共感できなかったというか、

脚本が悪いのか、(妻子の)演技がダメなのか、あまりに単純で、家族映画の体をなしてません。

それに

イーストウッドがワンパターンの頑固ジイサンなのは織り込み済として、

脇役もたいして面白くなかったから、★ふたつに限りなく近い★★★です。

 

「(今頃きづくなんて)遅咲きなのね」とか

「(収監されても)居場所がはっきりわかるだけ、マシ」というせりふも「うっすら笑い」程度です。

 

前出のレオ・シャープのWIKIのなかで、

運び屋を務めた理由についての

「デイリー・リリーと同じように

    コカインは人々を幸せにする植物だからである」

というレオの言葉に笑ってしまったんですけど、

これはさすがに映画のオチには使えませんね。