映画「天才作家の妻 40年目の真実」  平成31年1月26日公開 ★★★★★

原作本 「天才作家の妻 40年目の真実」 メグ・ウォリッツァー ハーパーブックス

(英語 字幕翻訳 牧野琴子)

 

 

 

現代文学の重鎮ジョゼフ(ジョナサン・プライス)と妻のジョーン(グレン・クローズ)は

ノーベル文学賞受賞の知らせを受ける。

息子を連れて授賞式が開かれるストックホルムに行くが、そこで記者のナサニエルから

ジョセフの経歴に関わる夫婦の秘密について聞かれる。

類いまれな文才に恵まれたジョーンは、ある出来事を契機に作家の夢を断念し、

夫の影となって彼を支え続けていた。                                     (シネマ・トゥデイ)

 

ノーベル文学賞を獲るほどの評価を得ている大作家ジョセフ・キャッスルマン。

予告編でほぼネタバレしているので、普通に書いちゃいますが、

実は妻が書いてたんじゃないの?という疑惑が授賞式の当日もちあがり・・・

という、「ゴーストライターもの」で、映画の題材としてはめずらしくないですが、

今まで見たものとは一線を画していました。

 

最近だと「JTリロイ」とか、ちょっと前だと「ビッグアイズ」とか、

両方とも実話がもとになっており、

①なんで長いことバレなかったか

②バレたあと、どうやって収拾していったか

なんていう顛末を楽しむ感じに仕上がっているんですが、

本作はかなり違っています。

 

少なくとも②の手前で話は終わっていて、①の説明もなし。

なんで妻が書くことになってしまったのか、その事実は夫婦の間でどう受け入れられていたのか、

その辺はありますが、基本ストーリーはあまり動かず、

妻の内面、心の変化だけで最後まで引っ張って

それで少しも物足りなさを感じさせない、という、なかなかにスゴイ作品です。

 

最初に余計なことを書いてしまいましたが、ざっとストーリーを・・・・

 

1992年 アメリカ コネチカット州

ノーベル文学賞決定の電話を受け、妻のジョーンと喜びを分かち合うジョセフ。

ストックホルムでは、専属の世話人や女性カメラマンたちに囲まれ常に特別扱い。

行く先々で人に囲まれてコメントを求められたり、

夜中にサプライズで部屋にコーラス隊がきてベッドのふたりを撮影したり、

ジョーンはちょっとうんざりしてくるのですが、ジョセフはどこへいっても上機嫌。

スピーチでは必ず「妻なくして今の私はない」「妻は人生の宝」とか褒めるのも気に食わず

「糟糠の妻扱いはやめて」というジョーン。

 

確かにジョーンがいないと、ジョセフは服も選べず、持病があっても薬も飲めず、

彼女なしでは生活できないのですが、それにしても、ネタバレしていた

ゴーストライター疑惑の件は、夫婦間の会話でも全然登場しません。

 

この夫婦の若い時のシーンが何度も小刻みに挿入され、

少しずつ観客にも真実があきらかになっていくようになっています。

 

 

1958年、

キャッスル大学で、ジョセフとジョーンは文学部の教授と学生として出会います。

ジョセフにはすでに妻のキャロルとの間に子供もいましたが、幸せな結婚生活とはいえず。

彼はたぐいまれなるジョーンの文才を褒め、自宅に呼んで外出する間の子守を頼んだり、

急速にふたりは親密な関係になっていきます。

 

ジョーンはバイト先?の出版社で「若いユダヤ人の作家」を探していることを知ってジョセフを紹介。

ただ、仕上がりはイマイチだったので、ジョーンが手をいれることにします。

その後この小説は高い評価を受け、だんだんと売れっ子作家となっていくのです。

 

キャロルと離婚して、ふたりは結婚しますが、ジョーンの浮気癖は治らず。

それでも、二人の子どもを育てながら

「ジョーンが書き、ジョセフの名前で世にだす」ということを続けてきたふたり。

それは、当時は、いくら優れた小説でも、女性が書いたというだけで出版してもらえなかったという

現実によるものでした。

 

 

さて、ストックホルムでのある日、ジョーンはひとりで観光がしたいと、街中にでかけます。

飛行機内からやたらと接触してくる記者のナサニエルに声をかけられ、

ずっと我慢してきたお酒やタバコを楽しみます。

ナサニエルは、当初からジョセフの小説の「真の作者」を疑っていて、

ジョセフの処女作はひどい駄作なのに、ジョーンと結婚後、作風は全く変わり、大化けし、

むしろジョーンの学生時代の非公開の小説に近いことを突き止めていました。

 

ゴーストライター説は否定したものの

「ジョセフのたくさんの艶聞は伝記作家には格好のネタで、

性欲過剰の作家は、しばしば伝記のなかで美化されてかかれるけれど、

私は人間として最低だと思う」

というナサニエルには同感し、少しずつ心を開いていきます。

 

「ジョセフの浮気癖は劣等感に根ざした不安の表れです」

「もう影の存在でいるのはやめて、これからはあなたの名前で書けるように

公表しましょう!」

と、いうナサニエルのゆさぶりには最後まで抵抗しましたが・・・・

 

ホテルの部屋に帰ると、案の定、ジョセフが女性カメラマンを口説いていた証拠を発見し、

ケンカになりますが、娘のスザンナに男の子が生まれたと電話がはいり,その場は収まります。

 

その頃、ナサニエルは、ストックホルムに帯同していた作家志望の息子デビッドに近づき

自分の確信を彼に投げかけます。

デビッドは、母からはいつも「才能がある」と褒められているのに

父はいつまでたっても自分のことを「まだ(小説家として)発展途上」と人前で言い放ち、

「早く偉大な父に認めてもらいたい」とずっと思っていたのに、

その父がなんの才能もないお飾りだったと聞かされ、大きなショックを受けます。

そういえば、母に甘えたい盛りに、いつも母は書斎にこもって仕事をしていたことなどを思い出して・・・

 

授賞式のスピーチで、

「妻は私の理性で良心で想像力の源、ミューズで愛で魂」

「この名誉を君に送ります」

とか言って喝采をあびる夫にほとほとうんざりのジョーン。

 

会場をあとにしてホテルに帰ると言い出した彼女をジョセフも追いかけますが、

この後、ホテルの部屋で大喧嘩。

もともと心臓に持病があったジョセフは、急に倒れ、救急車を呼びますが、

そのまま帰らぬ人となってしまいます。

 

帰りの飛行機の中、ナサニエルに対しては

「おかしなことを書いたら名誉棄損で訴える」とくぎを刺し、

デビッドには

「帰ったら、スザンナとあなたには、ちゃんと全部話してあげるから」

そして、ノートの白紙の部分を手でなぞって、

(これからは自分の意思で)「書く」意思を固めるジョーンなのでした。

 

 

ストーリーを書いていくと、突っ込みどころだらけで、

妻がゴーストライターだったことに子どもも気づかなかったわけないじゃん!とか

毎日8時間も書いていたら、家事もできないから、当然家政婦もやとったでしょうし、

伝記作家が調べるまでもなく、その辺から絶対バレるはずじゃん!

とか思いましたけど。

 

代表作のヒロイン、シルビア・フライの名前をジョセフが覚えてない、というのも

ちょっとやりすぎなエピソードですよね。

 

それでも、見どころは、ジョーンを演じたグレン・クローズ。

もうほとんど彼女の一人芝居ですよ!

(映画より舞台劇の方がこの話には向いているかもしれません)

 

女性というだけでボツにされていた時代、

自分の作品をともかく世の中に生み出せる幸せ。

夫が悪びれもせずに上手にマスコミ対応してくれ、

浮気してネタも提供してくれるから、その怒りを収めるために自分は書き続けることができた。

その関係で文学界のトップの位置を勝ち得たのですね。

 

これは夫婦の共同作業なんだけど、役割分担でいえば、マネージャーみたいな役割の夫だけが

脚光をあび、そのたびに「妻への感謝のことば」をいうのだけれど、

逆に下にみられている気がする、と言う気持ちはよくわかります。

 

私自身は夫に浮気されたり、夫の脱ぎ散らかした服を拾って歩いたり、夫の薬の管理をさせられたり、

そういう経験はないので、彼女の気持ちが全くわかるかといえば、自信ないですが・・・・

 

ともかく、ラストで、白紙のページに手を置いたジョーンの

「書く」という意思は間違いないわけで、

あの、ちょっと考え込んだ彼女の表情からは、すべてのプロットが頭の中に浮かんでいて

もう紙の上に吐き出す準備が完了しているかに思えました。

 

最初は「夫の七光り」とかいわれて、(書いてたのは本人なんですけどね)

そのうちに実力が認められていくのでしょう。

 

ところで、この邦題の副題は「40年目の真実」ですが、

ノーベル賞を受けたのが1992年で、1958年に教師と学生で出会った・・・

ということなので、最大でも34年の関係だと思うんですけどね。

どういう計算で40年目??

ちなみに原題は「The Wife」です。

 

で、ついついやってしまう年齢計算ですが、

出会ったときジョーンが20歳だとすると、現代シーンでは彼女は54歳。

ジョセフはそれより10歳くらい上というところでしょうか。

 

映画の中では見た目70歳くらいの夫婦に見えましたが、実はけっこう若かったんですね。

54歳だったら、これから作家デビューしたって、問題なくやっていけそうですね。

 

原作も出ているようなので、(ハーパーブックスはあんまり書店においてませんが)

できたら読んで、そのへんの設定も確認しておきたいです。

 

女性にはぞくぞくするような心理劇、男性にはホラーにちかいサスペンス、と

ジェンダーで差がありそうですが、

今年見た中ではダントツで一番好きな映画です。

グレン・クローズの主演女優賞は間違いないでしょ!

と思いましたが、観てない作品が大部分なので、

「レディ・ガガが落ちた」というのだけ確定!ということで・・・