映画「クリード 炎の宿敵」  平成31年1月11日公開 ★★★★☆

(英語 字幕翻訳 アンゼたかし)

 

 

ロッキー(シルヴェスター・スタローン)の指導を受け、

ついに世界チャンピオンになったアドニス(マイケル・B・ジョーダン)に、

リングで父アポロの命を奪ったイワン・ドラゴの息子ヴィクターが挑戦状をたたきつける。

ロッキーの反対を押し切り、父のリベンジを誓い試合に臨んだアドニスは、

ヴィクターの反則行為によって勝利する。

しかしアドニスは、ボクサーとしてその結果に納得できなかった。  (シネマ・トゥデイ)

 

 

前作「クリード チャンプを継ぐ男」から3年たちました。

回を重ねるごとにレベルが落ちてきてた「ロッキーシリーズ」の次世代バージョンでしたが、

かなりの高評価で、すぐにも続編が出来ると思ってたんですけどね。

 

クリードというのは、ロッキーのライバルだったアポロの名字で、

彼はソ連のボクサー イワン・ドラゴに試合で殺されてしまうんでした。(ロッキー4)

アポロは妻との間には子どもはいませんでしたが、愛人が試合後に彼の子どもを産んでおり、

それがこのシリーズの主人公のアドニス(ドニー)で、彼は母の死後施設で育つんですが、

問題児だった彼をアポロの正妻メアリーアンが引き取り、

きちんと育ててちゃんとした仕事につかせますが、

どうしてもボクサーになりたくて、ロッキー・バルボアにコーチしてもらい、

一人前のボクサーになっていく・・・・というところまでが前作。

 

冒頭の世界タイトルマッチ戦では、盛りの過ぎたウィーラーをマットに沈め

いきなりヘビー級のチャンプになってしまいます。

プライベートでも恋人のビアンカがプロボーズにOKしてくれて、

人生の絶頂期を迎えていました。

 

一方、ウクライナのキエフ。

肉体労働をしながら、父ときびしいトレーニングに明け暮れる丸刈りのマッチョ男、ヴィクター。

彼の父こそがアポロの命を奪ったイワン・ドラゴだったのです!

彼はアポロ戦のあとのロッキーとの試合で、KOを食らってしまったのですが、

冷戦時代にアメリカ人に負けたものだから、ロシア(というか当時のソ連)では国賊扱いで、

妻にも逃げられ、ずっと不遇な生活を送っており、

ロッキーの愛弟子のドニーを息子のヴィクターに倒させることだけを考えていたんですね。

 

ドニーにとってもイワンは父を殺した憎き仇にあたるんですが、この時ドニーはまだ生まれていなかったし

義母に引き取られるまで父の存在も知らなかったから、そこまでの憎しみがあるかは疑問ですが。

 

ドラゴ父子はフィラデルフィアにやってきて、ドニーへの挑戦を表明します。

同じヘビー級でも二回りくらい体格差もあるし、粗削りで何をするかわからない、

「相手は失うもののない危険な野獣だ」

と、ロッキーは挑戦を受けるのには反対します。

とりあえずは、33年前にアポロの仇はうってるので、

ロッキーはこんな危険な親子には、これ以上かかわるな!と思っているようです。

 

プロモーターは、

「ヘビー級の王者は77人もいるけど、ほとんど名前を覚えてもらえていない」

「記憶に残る試合をしないと忘れ去られる」

とドニーを説得。

まあ、お金になりそうな因縁試合ですからね。

 

夫を殺されたメアリーアンには

(ビアンカに私みたいな思いをさせないで!と反対されると思っていたら)

「あなたが自分で決めなさい、私の承諾はいらない」と意外とあっさり。

 

ビアンカ本人も、チャンプであるドニーの力を信じているようで、

あんまり反対はせず、むしろ、結婚生活を送るには住環境がよくないといって、

(ロッキーのいる)フィラデルフィアを離れたいような感じ。

 

そして彼らはあっさりロッキーを見限って、

メアリーアンも住むロスに引っ越しをして、

昔の父のトレーナーの息子であるデュークにセコンドを頼むのです。

 

 

この二人、イワンとヴィクターのドラゴ親子は、ストーリー上では悪役なんですけど、

ちゃらちゃらしてろくにトレーニングもしないドニーに比べたら、めちゃくちゃひたむきで

なんか応援したくなってしまいました。

粗末な部屋に住んでいたり、セメント袋運ばされたりするシーンがチラッと映っただけでしたが

それでも、彼らの長年の辛い生活が伝わってきました。

 

ヴィクターがロシアの要人たちとやってきた白髪の偉そうなオバサンに反感をもっていたのが、

観てた時は意味わからなかったんですが、あとで良く考えたら、

彼女はイワンのマネージャーもやってた元妻のルミドラでしたね。

離婚した後、政府高官のセレブ妻になったのでしょう。

 

 

多分同じ女優さんが演じてたので、説明なしで登場させてたんですね。

(クリードの前作より、「ロッキー4」で予習していたほうが楽しめたかもしれません)

 

そして、ふたりのタイトルマッチが始まりますが、

予想通り、ヴィクターの一方的な試合運び。

ドニーはなんどもダウンして、肋骨も折れてしまいます。

 

それでもなんとか試合を続行させるのですが、ついに力尽きてしまいます。

ヴィクターは、膝をついたドニーの顔面をパンチするのですが、これは明らかに反則行為。

完全に勝っていたのに、レフリーは反則負けを表明し、WBCもこの判定に従います。

つまり、実質負けてたのに、ドニーは初防衛に成功したという、もやもやする幕切れ。

 

ドラゴ親子は、反則負けながら、実質はボロ勝ちだったので、

ロシアでは英雄扱いされ、星条旗パンツに負けない

ド派手な試合用のパンツをプレゼントされたりしています。

 

一方、ドニーのケガは良くなってくるのですが、なかなか心の傷は癒えず、

周囲からは次の試合を入れなければ、王座が空位になってしまうと焦らされます。

 

メアリーアンの仲裁でロッキーとドニーが再会し、ふたりは和解、

今度は一緒にヴィクターとの再防衛戦に望むことになります。

今度の開催地はモスクワで完璧アウエイ。

KOしなければ、判定では勝てそうもなく、かなりドニーには不利で、

調整もなしにいきなり戦うのは、なんかずいぶん無謀なやり方みたいですが、

ロッキーには秘策があるようです。

 

それは、街の近代的なジムでのトレーニングじゃなくて、

ニューメキシコの砂漠みたいなこころの「虎の穴」で

砂まみれになって「自分を鍛えなおせ」ということのようで、

タトゥだらけのいかつい男たちとヘッドギアなしの接近戦を繰りかえして

「痛みと戦う」訓練や、車と一緒に全力疾走したり、とにかく荒療治。

ただ、これを耐えているうちに、あきらかにドニーの身体が大きくなった気がします。

 

そして試合当日。

さすがにアウエイだけあって、ゴングのあとにパンチが入っても反則にならないし、

ドニーが明らかに不利ですが、

いくら攻撃されても前みたいに後ろに引かない、互角の勝負が続きます。

それでも、途中でロッキーのテーマがかかると、

高揚感がいきなりアップして、楽しく見られました。

 

それまでは肋骨折られたり、折れたところをさらに攻撃されたり、

観てる方も痛みに耐えてばかりだったので、最後にやっと楽しくなったかな。

 

前の試合では「相手の反則負け」という意外な結果でしたが、

二度目も、「ヴィクターは、前半誰の目にも明らかに優勢に試合を進めてきたものの、

彼は長い試合をしたことないからペース配分できず、力尽きてしまい、最後はやられっぱなし。

命の危険を感じたセコンドの父がタオルを投げる」

・・・という、やっぱりちょっと意外な結末でした。

 

実話ではないから「シンデレラマン」や「ビニー信じる男」のような説得力はなく

とってつけたような展開で、試合運びもなんか納得いかなかったんですが、

軽いエンタメというわけでもない。

「リングへの階段は3段しかない」とか

「お前はリングで何を証明したいのか、だれのためなのか」とか

ロッキーがしばしば名言ぽいことをいうところが大事なのかな?

ただ、あまり私の心には届かず、どれもイマイチだったような・・・・

 

シルベスター・スタローンは、前作で助演賞にノミネートされましたが、

今回は、完全にドルフ・ラングレンにお株を奪われてしまった感じでした。

ロッキーみたいないいセリフはひとつも与えられず、

「叩きのめせ!」みたいなワンパターンしか言わないのですが、

彼の思いの方が強く伝わりました。

 

30年間苦しみぬいて、あれだけ勝つことだけに執着してきた男が

最後に突然、息子に対する思いが一転するのです。

あの血まみれのタオルが大写しになったときに、ちょっと泣きそうになりました。

 

「悪役がひどい目にあって、めでたし、めでたし」というほうが気分はすっきりしますが

悪役(の立ち位置の人物)の心に寄り添える映画、っていうのは、やっぱりいい作品なんだと思います。

 

ロッキーが疎遠だった息子や孫に会いにいくことがなかなかできず、次回まで引っ張るのかと思ったら、

こちらは最後にあっさり解決。

ドニーとビアンカの生まれたばかりの娘が(ビアンカの遺伝なのか)

どうやら難聴らしい、と診断されるのですが、

こちらはそのあとの展開が何もなかったので、また続編があるのでしょうか?

 

これだけのことで続編を引っ張るのはちょっと厳しいですが、

ビアンカは一流ファイターの夫を陰で支えるより、自分たちの人生ファーストで、

ちょっと進化系の妻なので、彼女を主役にするのもありかもしれませんね。