映画「バジュランギおじさんと小さな迷子」 平成31年1月18日公開 ★★★☆☆

(ヒンドゥー語 字幕翻訳 福永詩乃)

 

 

 

声が出ないパキスタンの少女シャヒーダー(ハルシャーリー・マルホートラ)は、

母親とインドのイスラム寺院に願掛けに行った帰り道ではぐれてしまう。

ヒンドゥー教徒のパワン(サルマーン・カーン)は迷子の彼女を預かるが、後に少女がイスラム教徒だと知る。

対立する両国の現実を背負いつつも、

パワンは国境を越え少女を親元に送り届けようとする。               (シネマ・トゥデイ)

 

クリケットの対インド戦で、スター選手シャヒードの活躍で勝った時に産気づいて生まれた女子は

両親にシャヒーダーと名付けられました。

パキスタンの小さな村で元気に育つのですが、ある日、崖から落ちたショックで声を失ってしまいます。

デリーのイスラム聖者廟に連れて行けば話せるようになる、と村人がカンパしてくれて

ビザとパスポートを獲り、母と列車で向かい、無事お祈りを終えて帰宅する母子。

 

ところが、帰りの列車が夜中立ち往生したときに、線路わきの羊の子どもが気になって

シャヒーダーは列車から降り、乗り込む前に列車は動き出してしまいます。

母が目覚めてシャヒーダーがいないのに気づきますが、

列車はすでにパキスタンに入っていて、どうにもなりません。

 

一方、猿神ハヌマーンのお祭りでキレッキレのダンスを踊っているパワンは、

10年も落第つづきのお勉強はできないけど、みんなに愛されキャラのおじさん。

お祭りで出会ったお腹をすかせた可愛い迷子にパラータや飲み物をおごるが

言っていることは通じてるけどその子はしゃべれず、

警察に行っても断られて、家まで連れ帰ることに。

 

パワンには ラスィカーという美人の恋人がいるのですが、

パワンのあまりの出来の悪さに、「家の頭金を稼ぐまでは結婚ゆるさん」と言われているのです。

その期限まであと2か月。

 

その迷子は自分の家はもちろん、名前さえ言えないので、

とりあえずムンニーと名付けます。

ムンニーは色白だから、位の高いバラモンの子どもだと思っていたら、

ベジタリアンのパワンの家の食事に満足できず、よその家で肉をがつがつ食べているし、

なんと、ムスリムだということもわかります。

 

「まずい!異教徒だ!」

パワンはあせりますが、やさしいラスィカーは

「結婚より、ムンニーを家に届けるのが先」といってくれます。

パキスタン大使館に連れて行くも、暴動が起きて閉鎖し、

結婚用に貯めていたなけなしの15万ルピーを払って国境越えを業者に頼みますが、

なんとそこは女の子を売春宿に売ってしまう人身売買の悪徳業者だったのです。

 

すんでのところでムンニーを助け出しますが、

こうなったら、自力でムンニーをパキスタンに連れていくしかない、と

ビザなしの国境越えを敢行するのですが・・・・・

 

という、ここからは,けっこう無茶なロードムービーです。

 

インドが舞台で、ことばの通じない幼い子が列車に乗って迷子になるところも、

最後はネットの力をかりるところも、

2年前の「ライオン25年目のただいま」とかなり設定は似ているのですが、

話の流れはけっこう違いますね。

ライオン・・・では、サルーはヒンディー語しか話せないのに、

迷子になったのがカルカッタで、ベンガル語なので、同じインド国内なのに、全く言葉が通じず、

本作のムンニー(ほんとはシャヒーダー)は、耳は聴こえるけど声がだせないから、話が伝えられません。

ムンニーはパキスタン人なんですが、なぜかパワンたちの言っていることはわかる・・・

というのは、パキスタンの公用語のウルドゥー語は、ヒンディー語と

(文字は違うけど)音はほとんど同じなんですって!

なので、パワンは、ムンニーのことと、ずっとインド人だと思っていたんですね。

 

ライオン・・・では、親が探していたにもかかわらず、サルーは施設に入れられて、

オーストラリアの里親の元で25年間くらすことになるのですが、

ムンニーは、大使館が機能してない状態で、どういう扱いになるのが「本来の形」なのかはわかりませんが、

とにかく、パワンは、パスポートもビザもなしで、なんとしても国境を越えて、ムンニーを送り届けると・・・

 

当然国境でストップかけられますが、あんまり一生懸命だから

「10分間見逃すから(その間に国境をこえろ)」と言われるも

「ハヌマーン信者はこそこそしないから、正式な許可が欲しい」とごねてしまいます。

ホントに、正直者なのかバカなのか・・・?

「アチャー!」と思っておでこをたたくムンニーがめちゃくちゃ可愛いです。

 

国境越えには成功するものの、パキスタンに入ってからもスパイ扱いされて指名手配されてしまうのですが、

特ダネを求めてついてくるテレビ局の記者、ナワーブが仲間に入ります。

「ひたすらハヌマーンを念想していれば、奇跡が起こる」

とパワンは信じているのですが、さすがにそれでは現実的ではありませんからね。

YouTubeでの拡散力は、この国でもかなり有効で、

さすがにムンニーの家族は見てはいないけれど、ナワーブの撮影したビデオの中に

ムンニーが母親の姿を見つけ、乗ってきたバスをつきとめ、

ついにはムンニー(シャヒーダー)の家が見つかるのです。

 

もちろん想定内のラストシーンですから、

「ムンニーがどこで声を出せるようになるのか」ばかり気になっていたのですが、

けっこう最後のほうまで引っ張りましたね。

 

ムンニーの可愛さと、ほのぼのとしたいい話なので、ディスりづらく、上映館も増えているもよう。

個人的にはエンタメ要素多すぎで、ちょっとイマイチでしたけど、

これがインドでヒットしたということは、パキスタンやムスリムに対する感情は

そんなに悪くないことがわかって、ちょっとホッとしました。

 

 

出会ったイスラム教のモスクの導師は

「モスクは異教徒でも歓迎する」と柔軟な対応で、ふたりをかくまってくれたり、

最初は菜食オンリーのガチガチのヒンドゥー教徒で、ほかの宗教がゆるせなかったパワンでさえ

それほど宗教の違いが気にならなくなってくるんですが、

ことばを発さないかわいい女の子の存在が、宗教の壁を乗り越えさせた、といえるかも。

 

 

ところで、ボリウッド映画の誇る三大カーンといえば、

アーミル・カーン

シャルク・カーン

そしてこのサルマン・カーン

 

 

「ライフ・オブ・パイ」や「めぐり逢わせのお弁当」や「スラムドッグ・ミリオネア」にも出ている

イルファーン・カーンのほうが、私にはよく知ってるし、国際俳優!って感じなんですが、

4人とも50代前半でほぼ同年代。

イルファンは年相応の渋めの役が多いですが、

三大カーンに共通するのは、いい年をして、20代とか学生の役をしれっとやってしまうこと。

本作も、邦題は「おじさん」ですが、原題は「兄貴」だそうで、

20代後半の設定なんですよね。

 

「実年齢より若い役でもオッケー!」というのが、インドで人気がでる要素なのかな?